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四話 振り返り(2)

 グリーンホエールはマーニシティを出てヘカテーシティへと月の空を飛ぶ。普段とは違い人を運ぶ仕事だが、やることは変わらない。


「ん?この地形は……」


 操縦室のヒスイは目先の風景に違和感を覚えた。3Dの地図を手元に表示させる。


「このクレーター、なんか気になるな……」


 今のグリーンホエールはマーニシティ行きの航路を逆に飛行しているのだが、この先にあるクレーターは一部が壁のように反り立っている。LFが隠れることもできるかもしれない。


「一応迂回するか」


 もしも敵が隠れていればグリーンホエールの直下から攻撃を受けることになる。

 ヒスイはグリーンホエールに命じて進路を変更させた。




「こちらヒスイ。これより進路を変更する。敵が襲撃してくるかもしれない、各員は待機してくれ」


 グリーンホエール内にヒスイからの放送が響きわたる。


《ジェフ、今の放送はどういうことでしょうか》


 LF格納庫内、ヒュテラムは近くにいたジェフに質問する。ジェフはあごひげを撫でながら口を開いた。


「社長の勘だな、多分。この先の地形にきな臭いものがあったんだろう」

《明確な理由も無いのに進路を変更したということでしょうか?》

「まあそうなるな」

《それでいいのでしょうか?航路は検討を重ねて決定したもののはずです。問題が起こる可能性が高まるのではないでしょうか》

「ん――……」


 ヒュテラムの疑問にジェフは眉根を寄せた。十秒ほど考えてまた口を開く。


「確かに合理的ではないかもしれん。だがこういう仕事は合理的が常に最善ってわけじゃない」

《合理的が常に最善ではない》

「もしも襲撃者が獲物を待ち構えるとしたら、獲物が合理的な道を通ることを想定するもんだからな」


 ヒュテラムはジェフの言葉に重要情報のタグをつけて自身の記憶領域に保管した。


《理解しました。返答ありがとうございます》

「おう。じゃ、準備しとけ」




 グリーンホエールはクレーターを避けて本来のルートを右に逸れる形で飛ぶ。それによるプラズマスラスターの唸りが機内に鳴り響く。

 ヒスイが怪しんだクレーターから二キロメートル離れた場所を通過した時――クレーターからLFが飛び出した。


「やっぱり来たか!総員出撃!」


 ヒスイが指示を出す。事前に準備をしていた故にスムーズに出撃出来た。

 グリーンホエールのモニターに襲撃者のLFが映し出される。テュールが二機と――。


「あれは……?」


 最後の一機は大柄で赤紫色の機体、ゲフィオンらしいのだが、背中からは特徴的な一本のプラズマカノンではなく複数の砲身らしきものが生えている。グリーンホエールのデータにはないLFだ。


「エメラルド2、ヒュテラム、このまま進んでホエールと敵の間に入るように戦え。敵をホエールに近づけるな」

「了解!!」

《了解》


 アルテの返事が妙に気合いが入っている事にジェフは疑問を抱いたが、重要ではないと判断して頭から締め出す。

 ヒスイ運送のLFと襲撃者のLFが近づき交戦距離に入る。ゲフィオンらしき機体が背中の複数の砲身をこちらに向けた。


「なに!?」


 砲身から放たれた八の光線は検討外れの方に向かったと思った瞬間、弧を描いてヒュテラムたちに襲いかかった。

 ヒュテラムが肩部に被弾し、バランスを崩す。そこを襲撃者のLFテュールがプラズマライフルの狙いを定め――ジェフがテュールにプラズマカノンを撃つことで妨害した。


「なにあれ、ホーミングビーム!?ヒュテラム、動ける?」

《はい、機動には問題ありません》


 アルテがヒュテラムに声をかける。戦闘続行可能なようだが――。


「ちぃ、近づけん。俺たちを先に倒す気か」


 ジェフがぼやく。ヒスイ運送側の機体の長射程の武器はジェフのクレマチスのプラズマカノンのみ、襲撃者の方はゲフィオンのホーミングビームとテュールの長射程プラズマライフル。

 戦いは距離をとっての撃ち合いの形になっており、ヒスイ運送側は圧倒的に不利な状況だ。

 ヒュテラムやアルテが距離を詰めようにも、無数のホーミングビームが襲いかかり近づけない。


「どうする……」


 ヒスイは考える。このまま戦えば味方が撃墜されかねない、しかし有効な手が思いつかない。

 せめて敵の詳細が分かれば――そう考えた所であることに思い当たった。

 今このグリーンホエールには元エッダ社の技術者が乗っている。

 ヒスイはボーマンがいるであろう待機室に通信を入れた。


「おやぁ、どうしましたか?何やら襲撃されているようですが」

「ああ、ホーミングビームを撃ってくるゲフィオンに手を焼いている。こいつの事を教えてくれませんか」


 ヒスイは通信越しに襲撃者のゲフィオンの画像を表示する。この技術者なら何か知っているかも知れないと踏んでの考えだった。


「おお、これはこれは。レアな物を見ましたねぇ」


 真剣なヒスイに対しボーマンは調子を崩さない。自身の身も危ないことを理解しているのだろうか。


「このゲフィオンは対LFを重視したものですね。火力重視のブラズマカノンを外してホーミングビームに換装したものです」

「何か弱点は?」

「と言われても。火力は通常のLFの四倍、ホーミングビームの発射間隔は八・二秒ほど。なにせ対LFに特化してるのでLFで倒すのだとクレマチス2を三機は持ってこないと」


 ヒスイは内心で頭を抱えた。ヒュテラムは別としてそんな最新兵器など運送業者が持っている訳が無い。

 いや、対LF特化?


「ホーミングビームは一発の火力はプラズマカノンに比べて低いのか?」

「ええ、LFを撃破するには充分な火力ですが」


 ならばLF以上の耐久力があれば。

 ヒスイは味方機へと通信を開いた。


「こちらホエール、作戦を考えた。

 これからホエールを反転させて突撃させる。各機はホエールの陰に隠れて接敵、ゲフィオンを撃破せよ」

「社長、ホエールが危険すぎませんか!?撃墜されるんじゃ……」


 ヒスイの作戦にアルテが声を荒げた。

 

「あのゲフィオンのビームは分割した分低いらしい。ホエールなら何処に当たっても撃墜されることは無い」


 ヒスイは自分の想定を語る。対LF用という性能を逆手に取るのだ。


《それが現時点での最善と言うことですか?》

「そうだ」


 ヒュテラムの質問にヒスイは肯定する。


「了解しました。エメラルド2、それでいいな」

「……了解」


 ジェフがアルテに声がけし、アルテも渋々と言った様子で返事をする。


「よし……。次の敵の攻撃で仕掛ける。回避に専念しろ」


 ヒスイの指示の数秒後、ゲフィオンがホーミングビームを放った。ヒスイ運送のLFたちを狙ったそれは回避された。

 同時にグリーンホエールが滑るように急速反転、ゲフィオン達に射撃しながら突撃し、その陰にヒュテラム達は隠れる。

 これまでゲフィオンはグリーンホエールを追跡していたが故に両者は急速に距離が縮まる。ゲフィオンから見て死角に入ったヒュテラム達を狙えずグリーンホエールにホーミングビームを命中させるが、勢いは止まらない。


「攻撃開始!」


 アルテが気合いを放ちながらクレマチスを飛び出させ、テュールの一体へ牽制のソリッドカノンを放つ。テュールはそれを躱すがジェフのクレマチスからのプラズマカノンが直撃し爆散した。

 アルテのクレマチスは残りのテュールに向かって高周波ブレードを抜き放つ。


「獲った!」


 襲いかかられたテュールはプラズマソードで迎撃しようとするが、アルテは機体を旋回させることで回避、すり抜けるようにテュールを斬り裂いた。

 ヒュテラムはゲフィオンに近づく為にリパルシブドライブを全開にし、二機のテュールの爆炎に隠れるように回り込む。


《ターゲットロックオン》


 ゲフィオンも気づいたようだがもう遅い。ヒュテラムの両腕から放たれた白い斥力光線がゲフィオンを貫き、動力部からプラズマを吹き上げさせながら墜落させた。


「ふう……何とかなったか」

「おお~、見事なものです」


 通信からボーマンの感嘆の声が聞こえる。どうやら待機室の通信を切り忘れたらしい。


「ああ、助言ありがとうございます。お陰で切り抜けられた」

「ああすればホーミングビームを突破可能なんですねぇ。参考になりましたぁ」


 ボーマンはヒスイの礼に応えず何かを思索しているようだ。その様子にヒスイはある事に思い至る。


「ところで……今のゲフィオン、開発者は……」

「あぁ~私です。なかなか手強かったでしょう」

 



 戦闘は終了した。ヒスイ運送側に死傷者は出なかったが──。


「まいったな……。ホエールのスラスターの一つがやられた」


 ゲフィオンのホーミングビームを受けた際、グリーンホエールの下部にあるプラズマスラスターの一つに被弾したのだ。

 

「そのままヘカテーシティまで行けそうですか?」

「行けなくはないが、遅くなるな、これは」


 ジェフからの通信越しの質問にヒスイは答える。飛行そのものはこのままでも出来るがスピードは落ちるだろう。


「一旦マーニシティに戻って修理するか……?」


 残りの航路は五分の四ほど。このまま進むべきか戻って万全を期すべきか。戻ったほうがリスクは少ない。ここは――。


《ヒスイ社長、一つ試したいことがあります》

「なんだ?」

《私が修理してみます。私の再生能力を応用すれば出来ると考えています》


 ヒュテラムの申し出にヒスイは少々困惑した。そんな事ができるのか?

 だが判断は速いほうが良い。


「時間はどれくらい掛かる?」

《十分以内には終わります》

「……良し、やってくれ」


 その程度の時間で終わるなら試す価値はある。駄目なら戻れば良いだけだ。

 ヒスイはグリーンホエールを着陸させた。ヒュテラムはLF格納庫から資材を運び出し破損した部位に向かった。

 ヒュテラムの横腹から触手状のアームが伸びて破損したスラスターに接触し、ヒュテラムの再生能力を持ったマイクロマシンと資材を注入していく。


「そんな事が出来るんですかね」

「……さあな。やってみるだけだ」


 周囲を警戒中のジェフからの通信にヒスイは相槌を入れる。前からよく分からないロボットだが、ますますそれが深まった気がする。

 それから八分ほど過ぎた。


《修理完了しました。動くでしょうか》

「ああ、確かめてみる」


 ヒュテラムの報告にヒスイはグリーンホエールの自己診断データを確認する。


「……マジか。直ってる」


 スラスターのパラメータはコンディショングリーン、正常になっている。試しに動作チェックを行うが問題なし、このまま航行できるだろう。


「……ヒュテラム、よくやった!」

《朝飯前です》


 どこでそんな言い回しを覚えたのだろうか、と考えて、ヒスイは自分がヒュテラムに映画を見せ始めたことに気づいた。




 その後は襲撃を受けることもなく月面都市ヘカテーシティへと到着し、ボーマンたち技術者や荷物を運び終えた。

 ボーマンはヒュテラムに興味を示しているようだったがヒスイはこちらも忙しいということであしらった。嘘ではない、嘘では。


「……うーん」


 ヘカテーシティにあるヒスイ運送の本社、社長室でヒスイは唸る。目の前のパソコンに表示された仕事の予定のことではない。


「どうしました」

「ジェフ。いや、なんというか前の仕事がきな臭いというか引っかかるというか……」

「というと?」

「マーニシティに近い所で襲撃されただろ?防衛部隊に遭遇しかねない所で待ち伏せされたし、ウチが通るところドンピシャってのがな」


 ヒスイが地形の隠れ場所に気づかなければ高い確率でホエールはやられていただろう。


「……そういう不運も年に一度や二度はありますよ」

「まあ……そうか?そうかも……」


 ヒスイは腑に落ちないものを感じながらも自分を納得させ、目の前の仕事に取り掛かることにした。

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