聖 女 無 双?⑥
聖女ちゃんは表示された戦士の状態情報を指しながら、説明を始める。
「まずは変化した戦士さんのスキルについてご説明します。これは恐らくですが、【神】が戦士さんに与えた『罰』の一つだと思われます」
「はぁあああッ!? そんな馬鹿なあっ?! あり得ねぇーだろうッ!! 第一、俺様は───」
「私がいま説明していますよね? 少しは黙ってくれませんか? それとも、このまま説明を止めますか?」
「う…ッ! チッ…!」
聖女ちゃんの静かな圧に、説明を聞いて声を荒げた戦士が舌打ちをして、不服そうに黙り込む。
「……続けますね。これまた恐らくですが、この【☠雑兵の中の雑兵☠】ってスキルは徐々に戦士さんの力が弱まり、やがてその内『殆どの相手に負けるようになる』──そう言うスキルだと私は考えます。あくまでも推測ですが…」
「なっ、なっ、何ぃいいいッ!? 冗談だろうッ?!」
「いえ、本当です。なんなら証拠をお見せしましょう。──剣聖さん、聖騎士さん!」
聖女ちゃんに突然呼ばれ、身体をビクッ!とさせる二人。
子供が母親に怒られているみたいに、恐る恐る聞き返す。
「なっ、何よぉ…。また私達に何かさせる気…?」
「今度は一体なんだ…。もう私達の気力はゼロだぞっ…」
「お二人とも。今なら戦士さんの腕の中から、簡単に抜け出せると思いますよ!」
「「えっ…?」」
聖女ちゃんにそう言われ、暫くお互いに見つめあったあと半信半疑の様子で、戦士の腕の中から抜け出そうとする剣聖と聖騎士さん。
すると───。
「うそ…。本当に簡単に抜け出せた…。さっきまで全然ビクともしなかったのに…」
「ああ…。赤子の手を捻る感覚で、極めて容易く出来てしまったぞっ…。一体これは…」
鳩が豆鉄砲を食らったかの様に、驚愕する二人。
予想外の出来事に一番驚いたのは、当の本人だった。
「そんな馬鹿なあッ!? ありえねぇー…。俺様は一ミリも力を緩めたつもりなんてねぇーってぇーのにッ!!」
「ホラ、やっぱり…。まあ、お二人は腐っても『力』を主体とする【剣士】と【騎士】のスキルですからね。因みに弓聖さんと聖魔道士さんも、もう暫くしたら同様に簡単に抜け出せると思いますよっ!」
「えっ…私達も…? ホントに!? やったー! 早くこんな臭いオジサンから離れたいっ!」
「この中で誰よりも非力なボクも…? 良かった…。でも一体どうして…?」
聖魔道士ちゃんの疑問に、聖女ちゃんが答えてくれる。
「戦士さんの変化したスキルのお陰ですよ。──戦士さん。貴方はいずれ『“五才児の子供にすら負ける”』ようになるでしょう! それがそのスキルの恐ろしい能力…。いえ、この場合【呪い】と言うべきでしょうか…」
「のっ、呪い…? 聖女ちゃん、どう言う事か説明してくれるかな?」
「はい。戦士さんのスキルの左右に付いている、不吉な髑髏印…。これは何人であろうと、どんな事をしようと『絶対に解呪が出来ない』 【神】からの戒めの『刻印』…。いえ、それ以上に最悪な見せしめの『“烙印”』なんです!」
聖女ちゃんはビシッ!と戦士を指しながら、少しキメ顔でそう言った。
そして、いつの間に頼んで運ばれてきたのだろう…。
喉を潤す為にキメ顔のまま、美味しそうにアイス付きのジャンボクリームソーダを、ストローで飲み始めた。
(カワイイけど行儀悪いし、締まらないなぁ…)
「あっ、ありえねぇーだろう…。ホントの子供にも負けるようになる【呪い】なんて…。そんなデタラメな話、俺様は認めねぇー…。信じねぇーぞっ!!」
「ゴクゴク……ぷはっ! ──往生際が悪いですねっ! まあ、気持ちは分かりますが…。ですが現実です。でも安心して下さい。肉体労働などの場合は発動しません。あくまでも『“喧嘩や暴力。争い事などの類いのみ”』に発動するみたいなので! 尚、【聖女】の私ですらこの【呪い】は解呪出来ませんので悪しからず。更に言うと、神話級の秘薬───【超究極万能薬】でさえも不可能です。もし解呪出来るとしたら、この【呪い】をかけた人物…。つまり【神】だけなんですッ!!」
「なっ、なっ、何ぃいいいいいいッッ!?!?」
今度はドヤ顔混じりのキメ顔で、アイスを掬いながら戦士を見下す聖女ちゃん。
(だから行儀悪いよ。でもカワイイから許しちゃう…)
「…モグモグ。〜〜♪ ──追い討ちを掛けるようで少々忍びない気もしますが、貴方みたいな卑劣漢には情けなんて無用でしょう。どうやら貴方は【神】が“因果律”を捻じ曲げてまで懲らしめたい相手のようですしっ! その『“証”』が戦士さんの名前の横にもある髑髏印です。これは【神】が『“絶対に赦さない、必ず断罪すべき悪”』と判定した者にしか付けない、忌むべき聖呪痕…。【咎人の絶印】と呼ばれものですっ!」
「なっ、何だよそりゃあ…。いんがりつ? かーすどぺいん? 一体なにを言ってやがる…。俺様にも分かるように説明しろよおおッ!!」
突然自分が理解出来ない単語を使って糾弾してくる聖女ちゃんに、焦燥感いっぱいに声を荒げる戦士。
戦士を助ける訳じゃないが、俺も疑問に思ったので聖女ちゃんに問い掛ける。
「聖女ちゃん。『因果律を捻じ曲げる』ってどう言う意味かな? 申し訳ないけど、俺にも詳しく教えて欲しい…」
「はい。本来【神】は滅多な事では人類に…この世界に干渉しません。余程の事──例えば『“この世界を滅ぼす絶対的な悪の存在が現れた”』とか『世界の未曾有の危機』とかですかね。だから一人の人間に…一個人に干渉したりは絶対にありえません。しかし、戦士さんみたいな例外も存在します。それが【神】によって付けられた『救えぬ愚者』の“証”…。それがその髑髏印ですっ!」
「つまり要約すると基本は不干渉…。悪い言い方をすると、人一人に対しては殆ど無関心の【神】をも戦士は怒らしたって事かな…?」
「はい、その通りですっ! 流石は勇者さんですね♪ どっかの誰かさんと違って、理解力があって助かります…♡」
語尾を猫なで声にしながら、うっとりとした表情で俺を見詰める聖女ちゃん。
そのどこか妖艶な様子に、思わずドキッとしてしまう。
一気に喋って喉がやられたのか、聖女ちゃんは残りを飲み干すと再び戦士を見やり、話を続ける。
「いま勇者さんが言ったように、本来【神】は人一人に対しては深く干渉しない…。何故ならそれが【神】自身が決めた『規律』だからです。【神】は何よりも規則や秩序などを重んじます…。──戦士さんっ! つまり貴方は、そんな神が『規律』を破ってまでも懲らしめたいチンピラ…んんっ! 輩と言うことですっ!」
「そっ、そんな…馬鹿な……。うっ、嘘だろう…」
「でもある意味良かったんじゃあないですか? 【神】に目を付けられる…『目の敵』にされる者なんて、滅多にいませんから。──貴方はこれから神が【因果律】を捻じ曲げて『不幸な事しか起きない』ようにすると思いますが、まあ頑張ってください!」
聖女ちゃんの容赦ない言葉に、表情を絶望のいろ一色に染める戦士。
しかし直ぐさま納得出来ない様子で、俺と聖女ちゃんを睨みつける。
「チクショウッ!! 何でだよ…。高が勇者の女共を寝取っただけで、そこまでの仕打ちをされねぇーといけねぇーんだよお…ッ!! やっぱりおかしいだろーがあ…ッ!!」
「はぁ〜……やれやれ…。全く…貴方って人は…。本当に往生際が悪い上に、どうしようもない頭の悪さですねっ! ──良いでしょう。そんな頭の悪い…脳が足りない貴方にも凄く分かりやすいように、今から『例え話』をしてあげますねっ!」
普段の聖女ちゃんなら絶対にしない、相手を小馬鹿にした言葉使いや動作…。
超挑発的で、もの凄く煽る様な感じで、自分の頭を指で数回叩いて戦士を見やる聖女ちゃん。
(聖女ちゃん。余程戦士にブチ切れているんだろうなぁ〜…)
「例えば戦士さんに息子さんがいたとします。目に入れても痛くないくらい、とっても溺愛している大変よく出来た、非常に良い子です。その子は本来戦士さんがやらなくちゃいけない仕事を、戦士さんの諸事情で代わりにお手伝い……いいえ。『尻拭い』や『肩代わり』に近い感じで引き受けてくれる、本当に自慢の息子さんです。それも殆ど文句や愚痴や我儘を言わない上に、見返りも求めない正に『息子の鑑』みたいな子ですっ!」
そう熱弁して、俺を尊敬の眼差しで微笑む聖女ちゃん。
顔から湯気が出そうになる程、かなり恥ずかしい…。
(聖女ちゃん、買い被り過ぎだよぉ〜。俺はそんな出来た人間じゃあないよぉ〜。てゆーか、神様は俺の事を本当にそんな風に思ってくれているのかな…? もしそうなら、ちょっと意外だな…)
俺の心情など構わずに、聖女ちゃんは話を続ける。
「そんな『愛息』にせめてもの褒美…報酬として、女性を充てがうように周りに根回しや、仕向ける配慮をしたのに、横から訳の分からん“輩”が…。それも反社崩れの犯罪者擬きの下郎がしゃしゃり出てきて、その女性たちを掻っ攫った挙句に、愛しの息子さんに向かって暴言を吐きながらドヤ顔を晒し、偉そうに勝ち誇って説教を垂れていますっ!」
またいつの間に注文して、運ばれてきたのだろう…。
今度はテラ盛りトロピカルフルーツジュースを、活きよい良く飲み始める聖女ちゃん。
(ホントに胃袋どうなっているの…?)
「チューチュー……ぷはっ! ──そのクセ自分は言い訳や御託を並べて、開き直りや逆ギレをする何の役にも立たない度し難い無能っぷり。その上、息子さんの仕事の邪魔ばかりしかしない…。──戦士さん、貴方ならそんなどうしようもない『“屑”』が現れたら、一体どうしますか?」
「はぁ? そんな奴、俺様がブッ殺して────あっ!!」
自分で言ってて何かに気付き、暫く固まる戦士。
顔面を蒼白させて、滝のように冷や汗を掻き始める。
「でも…いや…けど…しかし…」と譫言を繰り返す。
そんな戦士を聖女ちゃんは見下し、鼻で嘲嗤う。
「漸くお気づきになりましたか? つまりそう言う事です。良かったですねっ! 『ブッ殺』されなくて! 神はとても慈悲深く極めて寛大ですから、貴方のような屑でも、【呪い】程度で済ましてくれるんですよっ! ──まあ、これから先『ブッ殺された方がマシ』だった人生が、恐らく待っているでしょうがねっ!!」
「まっ、まっ、マジかよ…。高が女を寝取っただけで…」
「大体さっきから何です? 『高が女』をって! どうやら貴方は女性を軽視・蔑視…見下す傾向があるみたいですけど、【傾国の美女】って言葉をご存知ないんですか? 一人の女性のせいで一つの国が滅んだ事例だってあるんですよっ! 逆に『内助の功』って言葉があって、『夫を活かすも殺すも妻次第』って意味も含まれます。現に北大陸にある、とある王国の王は『愚王』で有名でしたが、妃の為に一念発起して、妃もまた王の為に尽力を尽くして支え、国を繁栄させた実例もあります。それにあの大昔の【神々】ですら、男神達がたった一人の女神を取り合って、争った神話も聖書に記されているぐらいですよっ! いかに女性が世界に必要不可欠で、価値ある存在か理解しましたか!!」
「うぐッ…!! うぐぅうううう…ッッ!!」
「貴方こそ『男』のクセに、意気地も度胸もない。ご自身の非を認める度量も責任感もない。おまけに、地位も名誉も権利も財力も人脈も秀でた能力や容姿さえもない…。ないないない尽くしの糞野郎…。更に今ではご自慢だった『力』さえ失って、貴方に一体なにが残っているんです? 『無価値』で『無能』な方は一体どちらの方でしょうか? ──このっ……負け犬の底辺男ッ!!」
聖女ちゃんの怒涛の言葉責めにトドメを刺されて、完全に意気消沈して肩を落とす戦士。
項垂れて呻く戦士を余所に、『勝利の美酒』を味わうが如く、とっても美味しそうに再び飲み始める聖女ちゃん。
(聖女ちゃん…。戦士の女性を馬鹿にする態度や、軽んじる発言に本気でムカついたんだろうなぁ…)
暫くの間、俺達の周りに重苦しい空気が流れる。
聖女ちゃんの鼻歌と嚥下音が、やけに響いた…。
ふと剣聖達を見やると、気が付いたら弓聖ちゃんと聖魔道士ちゃんも戦士の腕から抜け出し、嫌悪感たっぷりに四人で戦士を睨んでいた。
『こんな屑に抱かれてたなんて…。私ってホント馬鹿…』
『只々、己が情けなくて恥ずかしい…。切腹ものだな…』
『私…この歳で母親とかムリだよぉ…。それも相手が……』
『刻を戻す魔法ってあったか調べなきゃ…。探さなきゃ…』
そんな心中が読み取れるぐらい彼女達の表情は暗く、居た堪れない感じの負の雰囲気を纏っていた…。
俺が何て声を掛けたら良いか迷っていると───、
「ア…タ……せい…。せき……とり…さいよ…」
剣聖がボソボソと何かを呟いているのが聞こえてきた。
俺は聞き耳を立てながら、剣聖に問い掛ける。
弓聖ちゃん達も一緒になって、剣聖の様子を窺う。
(勿論。戦士と、とある一人を除いて…)
「剣聖…?」
「お姉ちゃん…?」
「剣聖殿…?」
「剣聖ちゃん…?」
「どうしましょう…。甘い物を飲んだら、今度はしょっぱい物が欲しくなってきました…」
暫く無言だった剣聖は顔を活きよい良く上げ、こちらを…俺の事を憎悪と怒りが込められた瞳で睨む。
そして大粒の涙を流しながら、嗚咽混じりの悲痛な叫び声を俺に向かって、罵倒気味に発してきた─────。
「アンタのっ…アンタのせいよッ!! アンタが早く私達に手を出さないから、こんな屑にッ!! どうしてくれるのよぉおおっ!! 責任…取りなさいよぉおおおおッ!!」




