50話
手がかりを掴んだと思った矢先の騒動。
こちらの動きに便乗して仕掛けてきたと思ったが、目の前にいるのは時間魔法で見た黒仮面の男1人。
周りを見たが、彼の他に誰もいない。
「ルイス。アイツ、さっきの」
「あぁ。だが、どうして、姿を現しているんだ」
隣のアルヴァンに頷き返して、疑問を口にした。
「ルイスが、時間魔法の書き換えに気付いたからじゃねーの?」
「そうですね。それで急いでイゴの死亡確認しに来たとか?」
アルヴァンの言葉にマティリスが答えるように言った。
(それだけか?秘密裏に動いていたなら、最後までそうするべきじゃないのか?)
脳裏に、後ろを見る男の姿が浮かんだ。
(これも、想定内の動き?)
疑問は浮かぶばかりで答えは出ない。
「副隊長、ヤツの足元。遺体を収容した荷台です。荷台は、他にもありますが」
マティリスの言葉通り、遺体が折り重なるように散らばり、無残な有り様になっている。
「あの中にイゴが、いるということだろうな」
「でしょうね」
「ルイス副隊長」
救助部隊長が走り寄ってきた。
「荷台から、あの者が降りてきたのを見つけ、声をかけたのですが、逃げようとしたので捕らえようとしたのですが、思いのほか手ごわく、兵士数名が負傷しました」
部隊長は、悔しそうな顔をしながら、早口で報告した。
「なんだ、あの仮面は?」
「かなりの腕だったぞ」
「あっという間に切られた」
「たった1人だぞ。やってしまえ」
「指示を待て。むやみに出るな」
周りからは、突然現れた相手にザワつく兵士達の声が飛ぶ。
「ヤツを捕獲する。魔法騎士は前へ出ろ、他の者は後ろに下がり包囲するんだ」
手を上げて指示をしながら叫ぶと、すぐに黒仮面を中心に包囲網ができあがった。
当の本人は、仮面で分からないが、臆する様子もなく、そこに佇んでいる。
逆に、思惑があるのでは、と否応でも疑念が湧いてくる。
(例え、どんな手を使ってきたとしても、時間が止まってしまえば、どうにも出来ない)
男の手に握られた短剣の鍔元に怪しく光る魔石を見ながら、そう結論づけた。
〈 時間魔法で時間を止めるぞ 〉
伝達魔法で2人に伝えた。
〈 なら、悟られないようにルイスの魔法陣を消すよ。でもって、俺も消えてアイツを捕獲する 〉
〈 そうなると、俺は囮役ですかね 〉
〈 悪いねー、マティリス。美味しいとこ、もらっちゃって 〉
〈 でも、時間が止まれば、消える必要はないのでは? 〉
〈 かぁー、水さすなぁ~ 〉
〈 魔法陣は最小にしか展開できない。円内にいてくれよ 〉
アルヴァンとマティリスの2人の会話に割り込んで伝えた。
魔法は、魔法陣の中にいなければ同調できない。
けれど、周りには人がい過ぎて大きく展開できない。
「手加減はするな。全力でやれ、必ず捕らえろっ」
声を張り上げると、一斉に魔法騎士達が各々魔法を繰り出し、兵士達は剣を引き抜いて構えた。
こちらも最小で見えない魔法陣を展開すると、アルヴァンとマティリスが黒仮面めがけて飛びかかった。
マティリスは払うように剣を引き抜き、アルヴァンはすぐに姿を消して拘束魔法を繰り出した。
一瞬の静寂、全てが動きを止めた。
が、急に霧のような薄いモヤが広がり、一瞬で周りが見えなくなった。
「うわっっ!」
バギギギッ
アルヴァンの叫びと擬音と共に、白い霧の中で赤い光が膨れ上がった。
止めたはずの時間が動き出し、四方八方から魔法騎士達が繰り出した魔法が迫って来て、空中で霧散した。
(アイツも、無効魔法が使えるのかっ)
剣を片手に、こちらもすぐ霧の中で光る赤い光に向かって動いた。
ギギッと鳴り響いていた嫌な音が、バシッと弾ける音と共に消えて、視界を遮っていた白い霧も消えた。
「マティリス!」
アルヴァンが、地面に倒れるマティリスに駆け寄るのが目に入った。
その先に、黒仮面の男も地面に倒れていて、起き上がろうとしている。
足早に近寄りながら、すぐに時間魔法で時間を止めようとしたが、顔を上げた奴の顔から黒仮面が割れ落ちたのを見て、動きを止めてしまった。
露わになったのは、黒髪に黒い瞳の少し幼さが残る面差しの男性。
「らいほうしゃ?」
珍妙な片言が、口から出た。
(七海の他にも、確認されていない者がいたのか?来訪者は、保護されるべき存在のはずじゃないのか?それよりも、来訪者は魔法を使えないはずだ。ヤツは本当に、来訪者なのか?姿を変えている?)
色んな考えが思い浮かび、凝視してしまった。
次の瞬間、ヤツと目が合い、すぐに魔法陣を展開したが剥がり取られるようにスーッと消えた。
目に見えない何かに、急速に力を吸い取られるような感覚になり、ガクッと片膝をついた。
「うぅっ」
倒れているマティリスが苦しみ出した。
「お、まえ!」
アルヴァンが顔を歪めながら剣を抜き、男に飛び掛かった。
男は、立ち上がりながらアルヴァンの剣を鍔元で受け止め、いなした。
すぐに体勢を立て直し、鋭く畳みかけるアルヴァンの剣先を短剣で弾き返しながら、転がるように横へ逃げた。
「っ!」
だが、アルヴァンも胸を押え、ゼィ、ゼィ、と肩で息をして片膝をついた。
(魔力吸収!)
時間魔法の中で見たジークと同じ、それ以上かもしれない、と思って男を見ると、男の左手首の腕輪に魔石が赤い輝きを放っている。
男は懐から別の魔石を取り出すと、今度は右手首の腕輪に新たな魔石をパチリとはめ込んだ。
俺は、その瞬間、残りの力を振り絞って、手に持っていた剣を男めがけて投げつけた。
が、容易く叩き落されてしまった。
「無理をすると、命を落としてしまうよ。ルイスさん」
「来訪、者・・・なのか?」
「ええ、そうです。この国では、すごく優遇されるんですよね、来訪者って。もっと早く知ってれば、僕も、」
立ち上がって、地面に割れて落ちていた魔石を拾い上げ、倒れるマティリスを見た。
「今からでも・・・、遅くは、ないさ。王宮に、行けば、・・・何不自由なく、暮らせるぞ」
「んー、遠慮しときます。あっちの世界にいたら、一生かかっても味わえないような、こーんな楽しい毎日を過ごしてるんでね」
本当に楽しいという感じで、男は笑顔になった。
七海と同じ来訪者とはいえ、印象がずいぶん違う、と思った。
七海は、黒髪に黒い瞳という自分の見た目に、強い嫌悪感を持っていたが、男は自分の正体をさらけ出しても、さほど気にしている様子がない。
「あの人、凄いですねー。すっげー魔力。あんな大きな魔力を持っている人、初めて見た。まさか、弾き返されるなんて、魔石が割れちゃった。あっ、あの人、もしかして、王族なの?」
「知らない・・・相手に、教える、ことは・・・できない。それに・・・、現状、俺から見て、君は、敵だ」
「あー、ハハハッ、確かに、そうだよね」
納得と言った感じで、男は楽しそうに頷いた。
魔力が削り取られていく速度が速く、こうしているのもムリな状態になってきた。
「ごめん、辛いよね。魔力吸収、やめたいけど、ルイスさんのこと甘く見ちゃダメだって、レッドに言われてるから。もうそろそろ、行くね。ちなみに、僕の名前は、小林悠真。ユウって呼ばれてるんだ」
七海のことを知っているか、と口から出かかったが、つぐんでしまった。
ユウが空中に右手をかざすと、魔法陣が現れた。
ニコリと笑みを浮かべて、自ら陣に手を突っ込むと、吸い込まれるように姿が消えた。
全てが、須臾の間の出来事だった。
(俺を知っている?いや、調べられている、ということか?)
グラリと体が傾き、そのまま意識が飛んでしまった。




