49話
49
「まだ、やってんの?ルイス」
顔を向けるとアルヴァンとマティリスがこちらに向かって歩いて来るのが目に入った。
木場の地面に手をつき、時間魔法で何度も辿っているが、ジークにもその周辺にも異変は見つけられない。
「違和感が、ぬぐえないんだ」
思いを吐露しながら、足元に広がっていた魔法陣を消して立ち上がった。
「と言っても、お前の魔法で見て異変はないんだろう。
だったら、単に魔法の使い過ぎなんじゃねーの?人形魔法にかけられて、好き勝手に動かされてたんだろう。なぁ、マティリス」
アルヴァンが少し後ろを歩くマティリスを振り返り言った。
「操られていても、腕力ばかりで魔法は使っていなかった。それなのに、魔力の枯渇というのは納得いかないな」
「なら、殿下の魔力で、コロッ、だったりして」
アルヴァンは少しおどけて自身の首に手をあてて、死んだふりをして見せた。
「それはないよ。殿下の魔力は強力だが、魔力を消し飛ばすことはない」
マティリスが真面目な顔で答えたので、アルヴァンは何とも言えない顔をした。
七海を送り出す前に、ジークだけ先に王都へ送った。
死因を含め詳しく調べる為だが、死因は十中八苦、魔力の枯渇だろう。
マティリスの話では、ジークは魔法をあまり使っていなかった。
人形魔法をかけられていたから自分で魔力を放出するはずもないし、アルドにしても都合よく使いたいだろうから、魔法は温存していただろう。
ならば、受動的に魔力を抜かれた、と考えるのが妥当だ。
だが、いくら探っても手がかりが見つからない。
(王都で詳しく調べれば、何かしらの糸口が見つかるかもしれない)
そう思った自分にイラッとした。
「魔石は?」
アルヴァンに聞いた。
「あちこち探したけど、なかったよ。森の奥にアイツらが乗ってきたらしい馬車を見つけたけど、例の武器も魔石も残ってなかった。アイツらが倒れていた場所からも見つけられなかった。今は、範囲を広げて捜索してるけど、マティリスの言ったように、魔風で全部消し飛んだんじゃないかな?」
彼らが使っていた魔石の武器は、かなりの数があった。
それなのに、肝心の魔石だけが消えるものだろうか。
殿下の強大な魔力にさらされたにしても、欠片1つ見つからないのは、どう考えてもおかしい。
「副隊長。男達全員、運び終わりましたが、残念ながら全員死亡していました」
「えっ、さっき、魔力を消し飛ばすことはないって言ってたじゃん」
驚いた俺の代わりに、アルヴァンが代弁するように声をあげた。
「それは、ジークだからって話だよ。ジークは無効魔法を使う強い魔力の持ち主だけど、彼らは腕力ばかりの一般人だろう。だから、殿下の魔力の塊である魔風と俺が放出した殿下と王子の魔力を一度に浴びて、無事でいられるわけがない」
「おい、おい、一般人って」
「それぐらい魔力が弱いという意味だよ。殿下と王子の強力な魔力にあてられて何人かは倒れると思っていたけど、流石に全員とは思わなかった」
「うわー。倒れるって、死んじゃってるじゃん」
アルヴァンは気の毒といった顔をしたが、マティリスは無視してこちらを見て続けた。
「それで、気になって調べたんですが、彼らの死因は魔力の枯渇によるものでした」
「えっ、マジで。じゃぁ、アイツらは使ってた魔石に自分の魔力も吸われたってこと?」
アルヴァンの疑問に、マティリスは考えるように少し首を傾げた。
「さぁ、どうだろ。ただ、対峙している時、魔石の武器は中途半端な感じがしたんだ。単に、使い慣れていないだけかと思ったけど、吸収する率も少ないし、性能も高くないように感じたんだ」
「全部が不良品、ってことはないだろうから、未完成だったとか?なのに、無理に使ったとか?それで、イレギュラー的に自分の魔力も持ってかれたって。ハハハ、バカじゃん、それ」
これはやはり偶発的なものではなく、明らかに人為的なものだと確信した。
〈 アルヴァン 〉
〈 マティリス 〉
魔力伝達で2人の名を呼ぶと、こっちを見た。
〈 あくまで俺の憶測だが、全てが策略だったとしたら、どう思う 〉
〈 男達は殺されたということですか? 〉
マティリスが俺を見て言った。
〈 あぁ、そうだ。全員を死亡させ、魔石を消し去る、それが目的だったとしたら? 〉
〈 死人に口なしってヤツ?悪趣味だなぁ 〉
アルヴァンは両手を腰にあて、肩をすくめた。
〈 吸収率が悪いのではなく、魔石は初めから無差別に吸収するように作られていたとしたら、どうだろう。男達の魔力を吸収する中でマティリスの魔力も吸収しようとしたから鈍くなり、中途半端に感じたんじゃないだろうか。魔石も魔風で消し飛んだのではなく、魔力が一杯になると消え去るように作られていたとしたら?当然、魔石は見つからない、ということになってくる 〉
3人とも押し黙ったまま互いを見やった。
〈 これを考えた奴って、なかなか、したたかだね 〉
アルヴァンがフッと息を吐いた。
〈 あくまで憶測だ 〉
そう答えながら、俺も溜息が零れた。
同じ死因、見つからない魔石、それらから考え出した答えだが、味方である者達を皆殺しとは、胸糞が悪すぎる。
〈 魔石は、殿下と王子の魔力に耐えられなくてキャパオーバーしたと思っていましたけど、そう考えると納得がいきますね。あまりにも綺麗になくなり過ぎておかしいと思っていたんです。普通、割れるか砕けるか、多少なりとも何かしらの痕跡があるはずですから 〉
マティリスの言葉に、アルヴァンが頷いた。
〈 だね。全員が同じ死因ってのも、誰かが干渉してるって、わざわざ暗示させてる感じがするし 〉
〈 全員死亡が目的ならアルド、ヤバくないですか? 〉
マティリスが俺を見て言ったが、それは俺も考えていた。
〈 幸か不幸か、治療部隊の台車の中だ。状態があまり良くないから、動かさずにいた 〉
治療部隊の台車は外からの魔力干渉を受けない作りになっている。
七海の馬車とまではいかないが、念の為にトラップ魔法も仕掛けておいたから、今となっては功を奏したといえる。
「そうそ、誰かさんが、力一杯、蹴っ飛ばしたからなぁ」
アルヴァンが茶化すように言った。
「七海に手を出したのだから当然の報いだ」
「なんで、エバるの?そこは反省じゃないのかよ」
「ついさっき殿下から、七海は無事に着いた、と連絡がありました。でも、珍しく笑っておいででした」
マティリスの言葉に、無事に着いたのか、と胸を撫でおろしていると、アルヴァンがケラケラと可笑しそうに笑い出した。
「アレだろ、馬車のトラップ。もはや、トラップでもないけど」
七海を助け出し、共に王都へ帰るつもりが、ジークの死亡で叶わなくなってしまった。
やっと、この手に戻って来たと安堵していたのに、また手放さなければならないと思うと怒り心頭で、大量の魔法を張りつけた。
あれをもし、発動させる奴がいたら間違いなく死ぬだろうが、それこそ自業自得、知ったことではない。
「もう少し、隠した方がよかったんじゃないのか?」
「いやいや、マティリス。あれでいいんだよ。あれ以上ないくらいの最高傑作なんだから、お披露目しとかないとさ。殿下にもお気に召して頂けたようで、よかったー」
「そうじゃないと、思うけど」
「なんでだよ。殿下が笑われるなんて、めちゃめちゃレアだろー。それぐらい感動されたってことなんだ。なんせ、あれだけ見えてるのに、手出しできないなんて、そうそうないぜ」
「まぁ、あれを見てちょっかい出そうなんて、絶対思わないな」
「だろー。一目見たら、分かるもんね。ヤバいヤツだって」
マティリスとアルヴァンの会話を聞きながら、半ばヤケクソに思いつく限りの魔法陣を張り付けた馬車を思い出した。
後でやり過ぎて、中の七海に影響がないか心配になり、出発した馬車を追いかけ見に行ったくらいだ。
(細かなところは、時間魔法で辿って確認したが、)
そう思って、ハッとした。
脳裏に浮かぶ、馬車に張り巡らせた丸見えの魔法陣。
瞬時に、グワッと足元に魔法陣を広げた。
「うわっ、なになに、いきなり、どーしたんだよ。ルイス」
アルヴァンが驚いて足をバタつかせた。
広がる魔法陣をより大きく広げ、そして、見つけた。
「そういうことか」
「ナニが?」
「魔法陣が一部、書き換えられている」
「はぁー?」
アルヴァンの驚きの声を背景に、魔法陣を書き直して、時間を辿った。
時間がギュルッと巻き戻る。
「うおっ。俺、これ苦手なんだよ。逆コマ送りみたいでさ。酔う~」
アルヴァンが手を胸に気持ち悪そうな顔をしてボソリと言うと、夜明け前の光景が目の前に広がった。
アルヴァンがジークを応急手当てしアルドを背負い、俺と七海の4人で立ち去るところだ。
少しして森の中から、フードを目深にかぶった長身の男がジークに近づいて来た。
ジークの傍まで来てしゃがみ、手にしていた物をジークの手に握らせた。
徐々にジークの手の中の物が赤く光り出し、それが魔石であることが分かった。
時間の経過と共に、魔石はどんどんと赤く輝きを増していき、そのうちジークが顔を歪めて苦しみ出し、目を開けた。
相手を見て声を上げて起き上がろうとしたが、すぐに手と口を押えられて拘束されてしまった。
ジークは暫く抗ってもがいていたが、直に動かなくなってしまった。
男はジークから手を放し、ジークの手の内から魔石を取り出して懐に仕舞った。
顔を上げ、周りを見回すように立ち上がり、また森に入っていった。
「気味悪いな。なんだよ、あれ」
すぐにアルヴァンが悪態をついた。
明るくなった木場で、周りを見回した男の顔には、黒い仮面がついていた。
目は半月、口はアルカイックに耳の傍まで切り込まれたスマイルの黒い仮面。
あれは、俺に対する対抗だと直感した。
(俺が時間魔法で見ると分かっていて、やっている)
「このまま、ヤツの行動を辿りましょう」
マティリスの言葉に、弾かれるようにして3人は走り出した。
後ろ姿を追うように移動する。
草木が生い茂る森の中なのに、移動する速度が速い。
無駄な動きが全くなく、足取りも揺るぎない。
時折、確認するように後ろを見るのが、何故かワザとやっているように感じる。
(追跡する俺達を、挑発している?)
仮面の下の表情は見えないのに、楽しんでいるように見えてくる。
途中、魔石捜索の者達に遭遇したが、そのままヤツの背中を追った。
俺達が集まっていた場所からは、大きく離れるように迂回して馬車の近くまで来た。
黒仮面の男は何かを探すように周りを見渡し、木の根にもたれるように座るイゴを見つけた。
腕には布が巻かれているが、血で真っ赤に染まっていた。
「だっ、誰?・・・アンタは、」
「シッ」
黒仮面の男は、指を仮面の口に当てて近づいた。
知っている相手なのか、イゴは警戒を解いて黙ったが、次の瞬間、黒仮面から鳩尾に一発打ち込まれ、イゴは気を失ってしまった。
黒仮面は、ジーク同様にまた石を取り出し、イゴの手に握らせた。
「どうだ?息のあるヤツはいるか?」
遠くから部隊の者達の声が聞こえ、黒仮面は馬車の影に隠れた。
「いや、今のところ生存者はいないな」
「はぁー、やっぱ、すげーなー。殿下の魔力は」
近づく人影が見え、人数も増えてきた。
黒仮面は赤く光る魔石を取り出し、述語を唱えるとイゴの姿が別の男に変わった。
そして、イゴの布を巻いた手から魔石の石が落ちないようにしっかり握らせるのを見て、
「アルヴァン、マティリス。すぐに男達の遺体を調べろ。この顔の男を保護だ。俺はこのまま、コイツを辿る」
俺は声を上げた。
「 「 了解 」 」
2人が走り出だそうとした、その時、
ドーンッ
ワァァァー
大音響と人の声や叫び声が聞こえてきた。
「なっ、んだ」
驚くアルヴァン。
「クソッ」
やっと手がかりを掴んだと思ったが、先手を打たれた、と思った。
両足に魔力を込めて、3人とも脱兎ごとく走り出した。
森を抜け、道まで出ると、兵士や魔法騎士達が各々剣を抜き、同じ方向に向かってひしめき合っていた。
彼らのその目線の先には、横倒しになった荷台の上に立つ、黒仮面の男がいた。




