華やかな結婚式
良く晴れた八月のある日。
王太子とミラ・カリアス男爵令嬢改め、ミラ・シェリダン侯爵令嬢との婚姻の儀が執り行われた。
二人の結婚は、国を挙げての盛大なものとなった。
久しぶりの慶事に国は湧き、花屋から花が消え、飲み屋からは酒が消え、この機会に結婚を決めるカップルが多数出るなど国民は浮かれた。
王城のベランダに現れた王太子ペドロは、めでたく成婚を果たしたふたりを見ようと王城広場に詰めかけた民衆に向かい、ミラを従えて得意げに手を振っていた。
高く結い上げたピンク色の髪にはきらめくティアラ。キラキラと輝くミラの赤い瞳には自分を歓迎する人々の姿が映っている。
この日。王太子妃となったミラは、幸せの絶頂を迎えたのだった。
◆◇◆
アリシアは、領地にあるダナン侯爵邸でいつも通りに過ごしていた。
大きな窓のある書斎は、今日も日当たりが良い。
「今日は王太子殿下の結婚式だね」
「そうね。でもわたしには関係のないことだわ」
短く答えたアリシアは、そのことには興味がなかった。
書斎の窓は大きく外がよく見える。
そこに広がる景色は、王城の庭とは全く違う自然豊かな景色。
王族の結婚話など、全く別の世界での話に思えるほど今は遠い。
アリシアのヒマワリのような愛はレアンに向いている。
王太子殿下やその妃に感じている想いなどグラジオラスの花言葉よろしく忘却の彼方へ流してしまった方が賢明だ。
貴族として必要最低限の役目は、前ダナン侯爵であるアリシアの父が務めた。
「義父上も義母上も、じきに戻ってくるよ」
庭ではピンクのグラジオラスが揺れている。花言葉は、「たゆまぬ努力」「ひたむきな愛」「満足」。
「それよりも今年の収穫の方が気になるわ」
「領地の収穫は例年通りだね。商会の方は……」
扉の横では白百合が揺れている。
(わたしはわたしの幸せに集中するわ。わたしの人生は、わたしの愛する人たちと守らなければならない領民たちに捧げるべきものよ)
無垢な純粋さは威厳を持って抱え続けていけばいい。
(国の平穏は大事だけれど、ペドロさまやミラさまのために命を賭して仕える気にはならないわよね。当然だけど)
「ねぇ、アリシア。涼しくなったら、どこかへ遠出しないか?」
「そうねぇ。それもいいけど、私欲しいものがあるの」
「ん? なんだい?」
アリシアは悪戯な笑みを浮かべてレアンの耳元でささやいた。
「わたし、子どもが欲しいわ」
純情な年上の夫がポンッと赤くなったのを見て、アリシアは満足そうな笑みを浮かべた。




