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深淵の王  作者: 伊里谷あすか
三、血の円舞曲
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3―9 討滅

 

 白い光が消え、夜闇が戻った世界の中。三人は再び一ヶ所に集まっていた。

 “歪み”が消え、安定した空間には似合わない黒き龍を見据えた綾は、硝子のように透明な剣をゆらりと構え、言い放つ。

「さて―――さっさと終わらせようか」

 伴われたのは仮面のごとき無表情。行われるのは冷酷無悲な攻撃。無言で加わる美咲と鳴海にさえ目を向けることなく、綾は刃を以て異形を蹂躪(じゅうりん)し始めた。

 綾が片腕を振るうごとに、氷の刃が投躑され黒龍を穿(うが)ちその行動を阻害する。また逆の腕が動けば、その度に風の刃が巻き起こり異形の手足を切り飛ばす。そして、その一部が黒い液体に変わる前に氷の剣が放たれ欠片を凍らせる。それを風が襲い、灰塵(かいじん)に還す。

「――はああぁっ!!」

 綾の攻撃の合間に鳴海が《椿》を用いて斬撃を繰りだし、黒龍を引き付ける。何度か切りつけるうちに、傷の回復には深さに関係なく一定の時間が必要らしい上に、回復するにはわずかに動きを止めなければならないということに気付き、鳴海は動きを速めた。

「――火行ニ式(かぎょうにしき)火舞羅(ほむら)!」

 美咲はなめらかに呪術を編み、異形の胴体の一部を爆砕させて抉り取る。火行の術ならば液体に変わる間もなく消し飛ばせるため、時に鮮やかな火の粉を辺りに散らしながら術を放ち続ける。

 幾度となく同じことを繰り返し、対する異形の反応や動きを注視していた綾はある一点を見て目を細め、口を開いた。

「――首の中間だ!僕が切り裂いたあと一瞬見える白い玉を壊せ!」

 咄嗟に反応したのは鳴海だった。攻撃する手を止め、身を(ひるがえ)し異形の正面へ駆ける。

 美咲は半瞬遅れで気付いたが、その時には既に鳴海が駆け出していた。異形の手が鳴海を追うように動くのが見え、美咲はすぐに術を放ちそれを邪魔する。

「爆!」

 黒い龍の爪が小規模の爆発によって弾かれ、一瞬怯んだ隙に鳴海は跳び、首筋に向けて太刀を構えた。直後、一陣の風が吹き付け、異形の首を大きく裂く。そして切り開かれた場所から―――白銀の球体が覗いた。

 だがそれが見えた瞬間、異形の龍が溶けた(・・・)

「なっ…………!」

 鳴海が動きを止めた。その一瞬に輪郭が崩れ、爪が、手が、牙が、頭が形を無くしどろりと姿を変えていく。やがてそれは完全に黒いジェル状の塊と化し、真下にいた鳴海へと落ちて――

「鳴海いぃっ!!」

 美咲が叫び、駆け寄ろうとしたが、その腕を綾が掴んだ。

「放してよ!鳴海、鳴海がっ!!」

「落ち着け」

「でも………!!」

 鳴海を飲み込んだ黒い塊を綾が睨むように見つめていると、それはゆっくりと溶け崩れ、端々から地面に吸い込まれるようにして消えていった。そして、全ての液体がなくなったそこには、呆然と立ち尽くす鳴海が。

「鳴海っ!………え?」

 鳴海の周りには、彼を取り囲むようにして薄い透明な膜らしきものが張られていた。美咲が走り寄り恐る恐るそれに触れると、ぱちりとシャボン玉が弾けるような音と共に消え失せる。

「今の…………綾、か?」

「違う。僕じゃない」

 鳴海の問いかけに返されたのは、否定。

「じゃあ誰が――」

 

「私ですよ」


 美咲と鳴海が勢いよく振り向く。その視線の先、工事現場の入り口から現れたのは一人の若い男性。

 ゆっくりと近寄る男性を警戒する二人を後目に、綾が問う。

「貴方は?」

「ああ、申し遅れました」

 男性は茶色がかった黒髪を揺らして三人に会釈をすると、顔を上げた。

「守護十二家が一つ、結界術師『空嶺(そらみね)』の術師にして現当主の息子、空嶺陽方(ひなた)と申します。初めまして、煉賀の皆さま」

 そう言うと、穏やかな笑みを浮かべた。


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