表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深淵の王  作者: 伊里谷あすか
三、血の円舞曲
41/90

3―7 三人

「土は力を留めて水に克つ。よって五行は流転す」

 次に、火の符の位置にある指先を左上に動かす。すると先程と同じように白い線が跡を辿り、呪符同士を繋いだ。

「水は力を消し去り火に克つ。よって五行は流転す」

 続いては真横――右上の火の位置へ。やはり指の動きの通りに繋がった。

「火は力を溶かし金に克つ。よって五行は流転す」

 手は流れるように左下に移る。白い軌跡を残し、金の呪符へ。

「金は力を刈り取り木に克つ。よって五行は流転し―――」

 左下から上へ。金から木へ。指先が線を引き、五枚の呪符を頂点とする星が完成した。だが、術式はこれで終わりではない。五芒星(ごぼうせい)――セーマンは呪術、主に陰陽道の基礎ではあるが、巨大な“歪み”を封じるにはこれだけでは足りない。

 ならば必要とされるのは封印の術。それをセーマンに重ね、ようやく術は完成する。

「その力全てが渦巻く最果てに於いては何も意味をなさない。嘗ては神と崇められし、(おり)は死をも留めたまう!」

 声を呪力にのせ、術式に力を加える。効力が強いぶん編むのにも時間がかかる術だ。普段ならもっと小さい術でも十分に封印は行えるし、そもそも大きな術を使う時間がないのだが、未だに肥大化し続ける“歪み”を封じるため、隙を作るのは承知の上だった――――今ならそんな心配は杞憂だと笑い飛ばせる。何故なら……

「木火土金水、相克相生すること幾何(いくばく)か。力は檻に、知は鎖に。重ねられしは不動の束縛――」

 美咲は言葉を紡ぐ口と文字と線をセーマンに描き加える手とをそのままに、一瞬だけ視線を動かした。

 その先にいるのは美咲の幼なじみであり、従兄弟である二人。黒い龍を引き付けて大太刀の振るい闘う鳴海と、時折離れようとする異形をガラスのような剣で地に縫い止め或いは切り裂く綾。

 こうして三人が同じところで協力しているなんて夢みたいだ、と思った。呪術が苦手な鳴海とも違い、呪術そのものを使うことさえできなかった綾――絢文と、術師として共にいられることが嬉しかった。

『じゃあまたな!』

 小学校に入る前、羽斑の家に預けられるとき鳴海はそう言った。

 三人が二人になった。

 中学校に入学する前の年、絢文がいなくなった。

 二人が一人になった。

 けれど、今は三人。幼き日を共に過ごした彼らがここにいる。なら、大丈夫。異形の相手は向こうの二人の役目、なら自分の役目は……“歪み”を封じることだけ。

 美咲は指を振るい、術式を描き終えた。同時に最後の言葉が発される。

「――森羅万象、全ての(ことわり)をもって歪曲されし空間を封ずる!」

 凛と叫び、美咲は術を完成させた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ