第六話 アルベル・アンダーソン
補充兵が来るのは中隊長から皆なに伝わっていた。最低でも5人は来るらしいが、要請したのは慣れた兵士10人だ。
もうすぐ塹壕の配置された部隊と交代という所で各部隊の待機場所でウロウロとする少女がいた。まだ幼く灰色の髪を後ろで一つに縛り迷子のような感じた。妹と年齢は離れてなさそうだが、衛生兵なのか?
それを周りの兵士たちは微笑ましそうに眺めている。誰も助ける気がないのが分かるとため息一つ尽き少女に近寄った。
話しを聞く限り俺の部隊の新兵だった。こんな少女を前線に送るとは上はどうなってるのか疑問だ。
中隊長の元へ連れて行く後はカラフ伍長とクラサに捕まった。
「何、あの子が補充兵なのか? ほんの少女じゃないか」
「みたいだな。本人の口からも俺たち中隊の配属みたいだ」
「あぁいう子が死ぬのはキツいな。その心意気はいいんだが」
「お互い気に掛けるしかないだろう」
「まぁ、可愛い子だし守るよ」
良識ある大人たちであの子を守るしかないだろう。いや、良識ある大人が人を殺さないか。
塹壕に向かうがシュトラ……レーナは運ばれる死体を見て顔を青ざめるだけで、他の新兵みたいに吐く事はない。
防衛ヵ所と着いて土嚢ついた血痕を見ていたも堪えている。初めてのキツい事だらけなのに少しも泣き言を溢さない。
「クラサ、メシ取ってくるからレーナを見てくれ」
「新兵の仕事なのに、お優しこって」
茶化してくるがクラサなら大丈夫だろう。チャラそうに見えて面倒見がいい。
前線塹壕にしては豪勢な食事が用意されているのを見て、新兵以外と目を合わせた。明日にも敵攻勢があるのだと。お陰様で夜は軽い警戒だけで良かったんだが、新兵がこれでもかと警戒している。それはレーナも一緒であったが、夜中になれば眠たそうにしている。新兵がローテーションに入れないと伝えると、レーナは俺の隣で座り眠ってしまった。その状況に班の奴らニヤニヤするんじゃない。
日が出る前に目を覚ますとクラサが面白そうにしているのが目に入った。
「どうした?」
「横を見たら分かるじゃないか」
肩に重みがあるなと思い見るとレーナが頭を乗せ、袖を握り締めている。癖かと思っていたが震えていた。その姿に同情…いや罪悪感を感じた。こんな少女なら普通は平和な町で友達と遊んだり、ショッピングなどして謳歌している筈だ。それなのにこんな戦場へ来ている。
起こさないような抜け出して塹壕の向こうを見る。静かだが感じる敵の殺気が。
敵の砲弾が撃って来たら、即退避壕へ移動するが動かないレーナを引っ張り移動する。退避壕で砲弾を止むのを待っていると新兵がパニックを起こし出ていくが、砲弾により即死。近くにいたレーナは呼吸が早く死の恐怖が見えている。言おうとしたが言う前に砲弾止み配置命令が下る。
配置に着くと中隊長が様子を見にきて軽いジョークを言って去る。こんな時でもジョークを忘れない中隊長に笑える。
ディーグ兵の突撃を目の当たりにして、頭が冴えていく。射撃命令が下ると他の連中は当たらないが、長年の練習と狩りをした経験で当てる。
横でレーナも構えているが新兵は初実戦では銃を撃てないと思っていたが、躊躇なく引き金を引いた。二発目は政治将校に当てた。これなら平気だと思い、前の敵に集中する。やがて予備弾薬を撃ち尽くした。補給を呼ぼうとしたら後ろで聞こえた。
「あれ? なんで…なんで……なんで離さない」
レーナが青ざめた顔で必死に右手のライフルを離そうとやっているの見て、先ほどの罪悪感が浮かび出た。
「ほら、ゆっくりでいい力を抜け」
側により離そうとしている右手を掴みマッサージもどきでライフルが手から落ちる。そして崩れるように座り込むレーナ。こんなのは間違っている。
「これ以上は戦う必要はない。お前は休んでいろ」
レーナの小銃パウチから弾薬を取ると射撃に戻った。せめて今回この少女が殺す分は俺が殺す。そして、除隊させるか後方に送る。そう誓った。




