第五十三話
そうしてまた目を覚ましたのは見慣れたテントの天井ではなく、前世での僕が住んでいたアパートの部屋だった。至ってシンプルな家具と生活感溢れる台所。パソコンとゲーム機。懐かしくもあり、寂しく感じる。ベットに掛けられた一丁のライフルがあった。それは僕が使っていたライフルだ。
それを取ろうと一歩前に踏み出すと突如浮遊感を感じて、今度こそ目を覚ました。見慣れたテントの天井だった。あぁ、あの固いベットに寝ていたのか。
「目を覚ましたか」
静かで落ち着いた声をする…それも聞き覚えがあるがいつもふざけた声ではないのが怖い。書類の処理してるホーバス中隊長がいる。
「さてさて、俺様は待機を命じたと思ったんだが?」
「え…えっと……その」
理由を話すと深いタメ息を吐いてる。怒りを押さえようとしているのかな?
「それでその若造はどこの誰か分かるか?」
「無理かと……敵塹壕にて火炎放射器で焼かれました」
「文句の一言言ってやり方かったが、ロクな死に方ではないか」
僕でも火炎放射器で焼かれて死ぬのは嫌だ。それは理由はある。種類によるが粘着性があると体につくと簡単に消えない。そして顔とかにつくと何かより呼吸が出来ない。それはそれで醜い殺し方だ。
「シュトラ一等兵、目覚めた早々に悪いが塹壕奪取した後何があった。生き残った兵士から事情を聞いたが、どうも要領が得なくてな」
僕は頷きながら見た事を話した。前世の知識を若干加えながら。
話し終えると難しそうな顔をしている。それはそうだろう……ライフル弾が効かないとは歩兵の天敵でしかない。まぁ、対戦車兵器があったら相互に天敵となるけど。
「それが塹壕へと迫られると野砲の砲撃しかないか」
それはそれで難しい。野砲は面砲撃が得意であって点砲撃は当たらない。前世ならGPSとかで当てられるけど。確か自衛隊なら百発百中だったけな?
「野砲の小型化と口径の小型化、水平射撃を提案します」
「ほぅ、面白い話してみろ」
まず野砲に使っている口径だと大き過ぎて塹壕で使うにはリロードが時間が掛かる。なら口径を小さくしてリロードを高める。大砲部隊はどんなの使っているのは知らないから銃弾みたいに一体化。また、歩兵用に榴弾も撃てたら、突撃してくる歩兵に対処できる。歩兵からの銃弾から守る防弾盾の設置。
指を折りながら提案してるとさっきまで座っていたホーバス中隊長が目の前にいた……それも表情がない。
僕の両肩に手を起き真剣に聞いてくる。
「シュトラ一等兵、本当に後方の転属するつもりはないのか……もしあるなら推薦状書くぞ」
ホーバス中隊長は本当は後方に下がって欲しいだろうけど、僕は首を横に振って意志を示した。これだけ言ってくれるのだから、この部隊の皆が僕に優しいのが分かった。だからそこ一緒に戦いたい……まるで家族みたい思っている。
「頑固なのは今さらか……なら一つだけ命令しておく、死ぬのは俺様たちが死んでから死ね…いいな」
「了解!」
敬礼して答える。これからは転属の話も来ないだろう。
同時に僕のお腹からグゥぅぅと鳴る……締まらない。
ホーバス中隊長は笑いながら教えてくれた……どうやら感染症引き起こしていたみたいで3日三晩眠っていたそうだ。なんでこっちのテントにいたのかは向こうのテントの空きがなかったみたいだ。小まめに衛生兵が僕の事を見に来て、その度にビタミンと抗生剤の点滴をしてくれたと。
向こうでも忙しいだろうし、貴重な医療物資を使ってくれたのは頭が上がらない。




