第五十一話
敵兵士を撃ったのはいいのだが、戦車から放たれる砲弾が僕たちの頭上を飛んで逃げている兵士を殺している。砲弾の音がする度に隣で伏せてるセムが両腕で頭をヘルメット越しに押さえている。
逃げようにも今しているが、僕が頭を抑えているから上げようともしない。カタカタ震えているのを見ると初戦の僕と同じだ……いや、僕とは別か。
「こうしてもにたくない死にたくない」
「今出ても死ぬだけ」
怯えるセムを宥めているが、戦車からの砲撃音が聞こえてくる。逃げている味方の兵士を狙っている。
砲撃穴から隠れている。タイミングが掴めず窪みからこれ以上頭を出さず砲弾穴の中で見ると割れた鏡の破片があった。その近く遺体手には磨かれた金属の板が握っている。上官かも知れないが僕と同じように見ようとしてたんだろう。板を掴み仰向けになり上斜めながら少し出した。
これで安全に敵の位置や戦車を確認出来る。敵兵士は塹壕に入り撃っている。戦車はキャタピラを細かく動かし、砲塔は上下に動かしては撃った。史実通り砲塔の旋回能力はない。これならライフル以外は脅威にならない。
「セム、チャンスが来たら逃げるよ」
「無茶だ、死んじゃうよ」
「ここにいても死ぬリスクが高い……僕の合図で行くよ」
走り出すタイミングを計っていると誤射なのか、近くで戦車の砲弾が着弾して巻き上がった土砂が僕たちに降り掛かる。
史実よりもしかしたら酷い戦車になってるかも。その場合、今出たら死ぬ確率が高そう。
「セムの言う事がわかったから夜になったら匍匐前進で塹壕に戻ろう」
「それは賛成」
隠れている穴で銃弾は避けれるが、味方の砲撃がない事を祈る。ここで砲撃が始まったら死んでしまう。
再び不愉快な金属を擦った音が離れていくので再び板で確認するとサンシャモン突撃戦車が下がっていく。必要がないのか補給なのかは分からないが助かる。
塹壕で敵兵士が警戒してるのみとなる。
「あの不愉快な音が遠くなってる」
「後退していくみたい。安心して暗くなるまで待機」
「ここまで生き残れるなんて幸運だ…今回で死んだと思った」
「塹壕戦の死傷者は攻勢側は高いけど防衛側も被害は覚悟しなければならないよ」
「レーナは本当に一等兵? 参謀職ではないの?」
前世からの知識があるからとは言えない。言ってもジョークや馬鹿になれるだけだ。
「ホーバス中隊長の指揮で戦ったらこうなるよ」
「ホーバス中隊長…? もしかして北部戦域第4師団第4歩兵中隊のウォー・ホーバス中隊長?」
「そうそのホーバス中隊長だけど」
「パーフェの恐怖の!?」
今さらと飛んでもない事を聞いたかも知れない。パーフェは確か今では言うモロッコ辺りだったかも。
恐る恐ると聞いていくとホーバス中隊長は帝国の士官学校では問題行動が多すぎて退学、外人部隊の指揮官として入隊、民兵が攻めてきた時に補給官に銃器を求めても拒否。笑顔で拳銃を補給官に突き付け「今死ぬか、武器を渡すかどちらがいい?」と聞いたみたい。それって前世ではユーティ・ライアンのそのモノじゃないか。だとしたらアルベルさんはシモ・ヘイヘだな。…あっちではフィンランドだったけど。もしかしたら、いずれ森での戦闘もあるのだろうか……敵兵士たちへの同情が浮かんでしまう。シモ・ヘイヘはライフルだけもなく短機関銃でも……大量の敵兵士を殺していたからだ。
前世からのとある言葉を思い出した。
戦争は地獄だぜ




