9話 唐突な、対勇者戦
神殿に入ったヤヅキとセムは、幾度めかの奇襲に対応していた。
「ちっ、まだいるぞ! セム右側の太い柱のとこだ! 吹き矢持ってる!」
「わかってるよ! けどこっちにも〚エム・ヒャガ〛 数人いるんだよ」
「いっぱい集まってきやがったな、セムでかいの打ち込んで黙らせるか?」
「できるけど、他のところにいる敵もよってくるかもしれない。」
「けど、このままじゃジリ貧だ。それに、他のとこに敵がいるなら探す必要がなくなっていいじゃないか」
「わかった、護衛を頼むよ〚メル・ヒャガ〛!!!」
セムの詠唱と共にセムの周りには青白く輝く氷の刃が並ぶ。そして──
「セム、護衛いらなかったな。敵がいなくなったじゃん」
「う、うん。僕も正直驚いてるよ。しかも、あんまり魔力を消費しなかったしね」
「そうか、なら今のうちにマリーナ探しに」
「行かせねぇよ! お前らが俺を殺したいって言ってる奴らか?」
「俺はお前に興味ない! どっか行ってくれ!」
ヤヅキは、声を荒げて叫ぶ、なんとなく嫌な予感がするからだ。それはセムも同じことで、魔力に精通している分、ヤヅキより強く感じている。──この相手は、只者ではないと。
「あぁそうかよ、けど、気づいてきてるんじゃないか? 実は俺が"勇者"だってこと」
予想が的中してしまった。
「あぁ、そうか、なら今からお前を殺させてもらうよ!」
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「はぁ、はぁ、なかなかやるじゃねえか」
「なんか知らねぇけど、この神殿だと疲れねぇんだよ」
「僕は、全く魔力を消費しないよ」
「まぁ、いいハンデじゃねえか。それに銃のほう。お前加護持ちだろ?」
「はぁ? 知らねぇよ、逆に教えてほしいね俺にどんなかごがあんのか」
ヤヅキの問に対する答えは思わぬところから聞こえてきた。
「ヤヅキ、お前の持ってる加護は"正義を憎むもの"だ」
「おっちゃん⁉ なんでここに、王国軍は魔王討伐に行ったんじゃ……」
「いや、道中、愛勇教団の奴らが、魔王と邪神は殺した。 なんて騒いでいてな、王国魔術師八人で真偽を確かめたがホントだったんだよ。で、急遽こっちに来たらいきなり神殿が崩れてな、見たらお前たちがいたというわけだ」
「えっ、勇者はここにいるのにどうやって魔王と邪神を愛勇教団は殺せたの?」
「ハッ、そんなの簡単だ、俺の仲間が殺したんだろ。ちなみに俺の仲間もそろそろここに来るぜ、そしたら形勢逆転だ」
「そりゃわかんねえぞ、勇者さんよ。俺がここにいる時点でわかんだろ? 王国側も全力つぎこんでこっち来るんだよ。それと、お前ちょっと疑問だろ? なんでこんなに俺の動きは鈍いのかってな。答えは簡単、お前の仲間の一人は裏切り者さ、禁句を実行する直前に王国側に寝返ってな、"自由をも封じし束縛"の対象変えさせてもらったよ、わかってるだろうが対象はお前だ。普通なら動けなくなるはずなんだけどな、それでも動けるってどういうことだよ、まぁ、もうすぐ死ぬんだけどな」
「ハッ、そりゃどうかな。裏切ったやつなんていなくても俺は強いぜ、それに王国軍はこっち来るのに時間かかる。この周りにはほぼ全域の愛勇教団を集めたからな」
「それはどうかな、王国軍本隊が来れなくても精鋭だけならこっち来れるしな……ほら、もう来たぜ」
「遅れてすまないボルガ。"幻蝶のクラウン"ただいま参上した。"狂犬ヴィル"も連れてきたよ」
「勇者は、どこだぁ、俺様がぶっ殺してやるよ」
「ハッ、雑魚共がワラワラと集まってきやがって、俺が全員殺してやるよ……スフィラこい!」
「はい、勇者様なんでしょう」
「あいつらを殺せ、早く!」
「やめろ! スフィラ、そいつはもう死ぬんだぜ、未遂のうちこっち側来いよ」
スフィラは、わかっている。今の状態が、今後の動きが、どちらについたほうが得か。なので、
「おい! 早くしろスフィラ、村がどうなってもいいのか!?」
「お前に、どうこうされたくはないでふね!〚エム・ヒャガ〛〚エム・ヒャガ〛」
「よし、敵は勇者一人になった。皆、全力で行くぞ!」
「「「おぉー!」」」
「ヤヅキ、僕達はマリーナのところに行こう」
「わかった。スフィラ!こい」
「なんでふ?」
「マリーナのとこまで案内しろ」
「了解」
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「大丈夫? マリーナ!」
「だ、大丈夫や、それよりこの縄とってくれへん?とれんくて」
「わかったよ……よし、とれた。」
「さっさと勇者んどこ行こうぜ」
「オット、イカセナイヨ。セイヤ、ナラヒトリデダイジョウブ、ケド、カゴモチノ、オマエジャマ。コロス」
「こいつが、勇者の仲間か、俺が、前衛を受け持つ、お前らは後ろから魔力攻撃とサポート頼むぜ。さぁ、戦おうぜ!」