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向き合うには、深刻すぎる  作者: 東東
【Ending】
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22/22

ED

 ・・・確信は、確信通りに訪れた。

 ・・・まぁ、当然と言えば当然で、『だから言ったじゃん!』と、自分で自分に突っ込みを入れたくなるほど、当然だったのだが。


「本当のところ・・・、一番悩ましいのって、俺自身の性質って言うか・・・、もしかして俺のこの、オタク性質なのかなって最近、ちょっとうっすら、脳裏を過ぎったりするんだよね」

「・・・っていうか、僕はまだキヨがその段階なんだってことに、脅威すら感じるけど」

「え?」

「僕としては、もう何年も前から全ての原因がキヨのオタクなところだって知っていたし、キヨもそれくらいは自覚しているんだって思っていたよ。自覚していて、でもどうにも出来ない、って感じなのかなって思っていたけど・・・」

「・・・微かにそんな予感は抱いていたけど、敢えて直視しないようにしていたっていうか、直視するにはまだ早いっていうか、枯れるにはまだ早いぜっ、みたいな感じがなきにしもあらず、みたいな気がしなくもなかったっていうか・・・、まぁ、そんな感じ?」

「・・・これも、少なくとも僕には分かっていたことなんだけどさ、原因の一端は、その問題を直視しようとしないその性格にもあると思うんだけど、これ、どう思う?」

「・・・あのね、シメさん、そういう、現実を直視せず、常に二次元の世界に思いを馳せ、三次元が嫌な時は極力、二次元世界から戻らない、っていうのもオタクの基本性質の一つだから、つまりはやっぱり、問題点は大まかに言うと一つってことになるんだよ」

「・・・なるほど、つまりその、大まかに言うと一つだけしかない問題点から、今日に至るまで激しく目を逸らし、ようやく目を向けたかと思ったら薄め開く程度の見方で、この後に及んで往生際悪く、もしかすると・・・、的な、全く断定する気がない言い方をしているってこと?」

「・・・シメさん、俺が三次元ではメンタル弱いって知っているでしょ? それに俺達、親友じゃん。・・・だから、頼むからそんなに俺の弱いメンタルを砕くような攻撃、しないでようぅ・・・」

「そんな攻撃を親友だと表している人間にさせている自分を、どう思っているわけ?」

「・・・色んな意味で、本当に申し訳ありませんでした」


 ・・・まぁ、当然と言えば当然の結果が訪れたことに対して、これまた当然といえば当然・・・、少なくとも、俺にとっては当然なことに、その当然の結果が訪れてしまった三次元の問題を訴える相手は一人しかいなかった。

 しかし俺の哀しげな訴えは、相談相手であるシメさんの疲れ切った声によって最終的に静かに叩き潰され、俺の謝罪で一旦の区切りを見せる羽目になる。

 勿論、色んな問題点から目を背けていた自覚は一応、あるので、本当に謝罪の言葉しか存在しない状態ではあるのだが。


 ただ結局、どの問題も解決というほど決定的な終わりは見せず、かといって、取り返しがつかないほど決定的な何かが起きたわけでもない。


 この大騒動のそもそもの発端でもある不倫騒動は、曖昧にぼんやりとした状態で、ふわふわとしているのに結構黒い感じもする終わりを見せているような、見せていないような感じで一旦、落ち着いている。

 ・・・いや、落ち着いているのかどうかも実情は分からないが、しかしとりあえず、俺の日常生活が破綻する様子はまだなさそうだ。俺には、感じられない状態で何かが起きている可能性はあるが、俺に感じられない状態なら、たぶん、そこまでの状況は起きてないだろう。

 何故なら、あの感情の波が結構な荒さを誇る母さんがいるのだから、本当に何かが起きている時は絶対、俺にも感じられるはずなのだ。

 でも、いまだに不機嫌で、攻撃的にイライラした空気が垂れ流されてはいるものの、やっぱり問題発覚当初よりは大分その空気も落ち着いた感じで・・・、いや落ち着いてはいない気もするが、とりあえず当初ほどの暴力的な気配・・・、というか、完全無欠な暴力的な行動は発生しなくなった。

 つまり、破壊音が一階から鳴り響き、俺が恐怖のあまりシメさんにヘルプ電話をする事態はなくなったのだ。

 具体的に両親の間でどんな話し合いが行われ、どういう形に現状が収まっているのかは分からない。確かめた方がいいのかも、と思わないでもないが、下手に刺激すると少しは落ち着いたかもしれない現状をまた拙い方向に加熱させる可能性もありそうな気がするので、そっとしておいた方がいいのかも、とも思うのだ。

 これは本気で、いつものような逃げの思考ではなく、一応、真面目に考えた末に思うことではあるし、シメさんも難しいところだね、と言っているので、間違いではない・・・、はず。

 不倫相手、つまり白水洸の母親の方はどう思っているのか、我が家のこの状況に対して、どう対応しようと思っているのか、もしくはもう、関わらないつもりなのか・・・、その辺りの事情も、俺の耳には一切入ってはいない。入って、いない・・・、のだが・・・、何故か、その息子である白水洸とは、未だに関わりがあったりする。


 ・・・関わりがある、というか、あの時、俺の理性が叫んでいた通りの危惧が具現化した、というか。


 あの時、具体的ではないが何かの予感を感じ取って危惧していた通りに、彼は微妙な道に進み始めてしまったらしい。二人の強烈な女に取り囲まれ、弱っている心に色んなモノを吹き込まれた挙げ句に、悪魔の囁きに近いその言葉が指し示す方向にふらふらと歩き出してしまったのだ。

 白水洸は、新たな形の愛を模索し始めてしまった。あまり自分に関心を持ってくれない母親、会いにも来ない、離婚して離れて暮らしているという・・・、まぁ、たぶん、間違いなく実父であろう人。

 そして実のところ、殆ど友達もいないらしく、その限りなく淋しい現実を打破すべく、女達が唆した通り、新しい愛を探す道を歩き出してしまった、ということらしい。

 ちなみに、友達がいない、というのは凄い事情があるわけではなく、本人が人付き合いが苦手な上に、あの、三次元にいるにはちょっと異様すぎる美しい容姿の所為で、アイドル並みに騒がれることはあっても、心を開けるような親しい間柄になれない状況に彼を追い込むらしい。

 つまり、アイドルのように自分とは立場の違う人、みたいに扱われ、対等の関係になれないようだ。

 美少年は美少年なりに、色々と大変なのだ。俺達が二次元的な萌えで悶えたくなるような問題以外にも、現実的でつまらない、でも本人にしてみれば辛い問題も沢山発生してしまうものなのだろう。

 俺にはそういう、現実的な問題に対して働かせられる想像の翼はあまりないので、思い描くことすら難しい問題ではあるけれど。

 ただ、そういった問題の所為で、彼はこうなってしまったわけで・・・、彼を孤高の存在にしてしまった周りの人達に、どうしてくれるんだ、と言いたいような気持ちが湧き上がってこないでもない。湧き上がってきたとしても、どうしようもないのだろうが。


「・・・どうしよう?」

「なにが?」

「あの子・・・、白水君・・・、なんか、最近三日に一回は待ち伏せてるんだよ・・・。おまけに少しずつ、待ち伏せ場所がウチに近づいているんだけど・・・、これ、どうしたらいいのかなぁ・・・?」

「だからあの時、ヌマさんと萌黄さんの洗脳行為を止めればよかったんだよ。いつも通り悶えてないで」

「だってシメさん、そんなに強く俺のこと、止めなかったじゃん!」

「人の所為にしないでくれる? っていうか、僕はきっちり止めたよ。声を荒げなかったってだけで。それなのにその場の感情に流されて、最終的にいつも通り悶えてたのはキヨでしょ。僕の忠告に従わなかった結果なんだから、僕はもう、知らないよ」

「うぅ・・・、シメさんが冷たい」

「冷たくない。本当に冷たいなら、もう帰っている。っていうか、そもそもここに来てないし。・・・来ない方がよかった? 本当に冷たくなってさ」

「厚い友情を恵んで頂いているのに、失礼なことを申し上げてすいませんでした」

「・・・なんで突然、胡散臭い政治家みたいになるんだか」


 あれ以来、三日に一度は俺の帰宅を待ち伏せし、『僕は新たな形の愛を探すことにしました!』という、そんな宣言を俺にしてどうするの? ・・・等々、突っ込みどころ満載の発言をし、何かを期待するかのようなキラキラした眼差しを向けてくる白水洸は、本人が意識的にしているのかどうか謎だが、徐々にその待ち伏せ場所をウチの近くに移しつつ、その謎の行動を改める気配を一切見せない。

 少しずつ近づいてくる存在・・・、それだけ聞くとまるでちょっとしたホラーのような展開だが、そんな展開に俺はどう対応すればいいのか、皆目見当がつかない。

 そもそも、相手が何を望んでいるのかがいまいち分からないのだ。・・・まぁ、あの宣言や、そんな宣言をするに至った経緯を振り返れば、俺がその愛を与えてくる存在なのだと信じている・・・、ということなのだと察しなくもないが、しかしそんな存在になった覚えは俺には皆無なく。

 おまけに、与えてほしがっている新たな形の愛とやらが、白水洸にとって一体どんな形を想定したものなのかも分からず・・・、分かりそうな気もしてしまうが、分からないことにしつつ・・・、とりあえずは遭遇する度に、曖昧な笑みを浮かべてから大抵、隣にいる・・・、というか、こういう事態が頻発するようになってから、自宅まで強引について来てもらうようにしているので、必然的に隣にいる羽目になるシメさんに、どうにかしてもらう日々が繰り返されている。

 なんて言うか・・・、そう、本当になんて言うか・・・、どうにもならない状況というか、どうしたらいいのか分からない状況というか・・・、でも、実はそれらの問題は、問題ではあるけれど本当のところ、一番の問題というわけではなかったりして・・・、まぁ、つまり一番の問題を覆い隠す為に、ちょっとした問題を持ち出しているというか・・・、いや、別にこれらもちょっとした問題というわけではなく、ちゃんとした問題ではあって・・・、でも、見ない振りをすれば出来てしまう問題かもしれなくて・・・、見ない、振りが出来ない問題もあるような気がして・・・。


「・・・どうしたら、勇気って沸いてくるんだろう?」

「・・・なんの勇気?」

「・・・問題と向き合う勇気」

「・・・沸いてはこないかもしれないから、どっかから絞り出すしかないんじゃない?」

「・・・絞っても絞っても足りない感じなんけど・・・、足りない・・・、っていうか・・・、」


 一滴もなくて、深刻過ぎるくらいって言うか、


「・・・これ、どうしたらいいのかなって・・・、本当は、そっちの方が心配っていうか、気がかりって言うか・・・、どうしよう?」

「・・・何となく、何を問題としているのか分かるけど・・・、それはさっきの問題以上に、僕にはどうしようもないでしょ。だってそれ、正真正銘、個人的な問題じゃん。キヨの気持ちの問題なんだから、僕に出来ることは何もないよ」

「シメさぁん! 俺を見捨てないでよぅ!」

「・・・あのさ、前からちょいちょい思っていたんだけど・・・、見捨てるって単語を不用意に乱発するの、止めてくれる? 人聞きが悪いよ。僕、結構理不尽な状況でも、見捨てないであげてるでしょ」

「分かっているけど、もっと丁寧に拾って下さい!」

「・・・無理。もうこれ以上は丁寧に拾えないよ。僕にだって、僕の人生があるんだからね」

「シメさぁん!」


 俺の絶叫は、俺達の他に誰もいない部屋、そして家の中にまで響き渡ったことだろう。父さんは勿論仕事だし、母さんもいつもの生活パターンを取り戻したので、習い事だかお茶会だか、お喋り会だかに行っているので、安心して叫んでしまった。

 でも、叫びたくもなる。・・・まぁ、シメさんにとってみれば確かに理不尽な叫びなのかもしれないが・・・、どうしようもない問題を抱えた俺からしてみたら、叫ぶくらいはさせて下さい、という心境なのだ。叫ばずにはやってられない、という心境でもあるが。


 理由は・・・、白水洸の言動に大いにはしゃいでいる萌黄さんに対する諸々の感情的問題が、解決していないことにある。


 萌える! とはしゃいでいる、その気持ちは分からなくもない。いや、はっきりと分かってしまう。そしてだからこそ、問題はいっそう、その複雑さを深めているのだ。深めて、出てこられないほどになっている。出てこられないほど深いのに・・・、どうしても、この問題を捨てきれない事実が、更なる深みを与えているわけだが。

 ・・・どれだけはしゃいでいても、そしてついつられて一緒にはしゃいでしまっても、心のどこかで『やっぱ、いいな』と思ってしまう自分がいて、だからどうしてもこの問題を捨てられないのだ。

 まだ同志と知らなかった時に抱いてしまった感情が、どうして同志とも言える関係になった今も尚、捨てきれないのかが、いまいち自分でも分からないし、理不尽だとも思えるけれど・・・、


 ただ、その理不尽こそが──、『恋』・・・、の正体なのかもしれない、とも思って。


「・・・どうしたらいいのか、分からない・・・、問題が深刻すぎて、俺にはもう・・・、無理なんだようぅ」

「まぁ、無理そうだなとは思うけど、だからって僕に訴えられても、僕にも無理だから」

「シメさぁん!」

「いや、無理だって」


 きっぱりと断言するシメさんは、もう何も見るまい、とでも言いたげに目を閉ざし、重々しく首を左右にゆっくりと振る。それはどうあっても覆しがたい拒絶の姿勢。俺の泣き言をもってしても、もうどうにもならないだろう拒絶。

 親友の・・・、まぁ、分からんでもない拒絶を前に、分からんでもないけどそれでも多少、打ちのめされながら・・・、俺は尚も、泣き言を洩らす。泣き声だって洩らす。もう、洩らさずにはいられない。

 たとえ洩らしても何も解決しないのだとしても、洩らしまくってしまう。でも、それも仕方がないことだろう。仕方がない、本当に、仕方がない。



 ──この問題は、俺が向き合うにはあまりにも、深刻過ぎたのだから。

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