その2
「あなたが睦月………?」
少女は首を傾げる。
不思議だな、睦月は思った。
不審感とかよりもその少女の雰囲気に不思議だと感じた。
それに『君が』とはどういうことなのだろう。僕のことを彼女は知っているのだろうか。だとしたら僕も彼女を知っていないとおかしい。
なのに初めて会った気がしない。
「君は、誰なんだい………?」
「私は、かんな。あなたは睦月? それとも似ている人?」
少女の表情は淡々として変わらない。
「どうだろう。確かに僕が君の言う睦月なのかもしれない。けれど僕は君を知らない。だからただのそっくりさんかもしれない」
「そう……」
少女は少しだけ俯いた。長い前髪で目元が隠れる。
睦月はその様子をよく観察した。
少女は冬の時季であるにもかかわらずその服装は白いワンピースに薄手の赤いカーディガンを羽織っているだけ。しかも裸足にサンダル。
服装に関してはますますもってよくわからない。
「それで、君はその睦月を探しているのかい?」
「………はるな」
「ああ、確かに君はさっき名乗った。ごめん。じゃあ、はるな。今の質問に答えてくれる?」
「探してる。ここに来たら最初に睦月に会えって言われた」
「それは、誰に?」
「覚えてない」
「そうか。わかったよ。とりあえず寒いし、中に入ろう。そこ、僕の暮らしてる寮なんだ」
「うん」
睦月ははるなをあおかぜ荘の玄関へ促した。
はるなを玄関の前に待たせ、睦月は自転車を停め、前のカゴから卵と冷めてしまったコロッケの袋を取り出した。
寮の中は外より幾分暖かい。睦月ははるなを急かすように迎え入れ、恐らくは台所にいるだろうトウさんの下へ卵を届けに向かった。
「やあ、遅かったね」
トウさんは待ちくたびれたと言うように右手を突き出す。卵の袋を渡すと睦月は、
「そうだ。今、あおかぜ荘の前に女の子がいて、寒そうだったから中にいれたけどいいよね」
「いいけど、事情は聴いておきたいな」
「じゃあ、呼んできます」
「睦月って、そこにいるじゃないか」
はるなの話を聴いたトウさんは目に涙を浮かべ笑った。
「やっぱり睦月だったんだ」
「え、まあそうだけど」
「私はかんな」
「さっきも名乗ってたね」
「あなたを探してた」
「う、うん」
はるなの様子についていけず、たじろぐ睦月をトウさんは口端を上げ、ニヤニヤと眺める。
「おっとそうだ、夕飯」
ひとしきり二人のやりとりを眺めトウは台所へ引き下がる。
食堂に二人になった睦月とかんなは微妙に気まずい空気を漂わせながら何を喋るともなく向かい合って座っていた。
そしてその空気を壊すように睦月は尋ねた。
「ところではるなは、どうして僕を探していたんだい?」
「会え、って言われたから」
「いや、そこから。会ってどうしろとか、なにかあるんじゃないの?」
はるなは首を傾げ、左上を見る。
「なにも。会えばわかるってだけ言われた」
「なるほど…」
顎に指の背を当て、睦月は考える。
「ごめん」
不意にはるなが謝った。
「え?」
「睦月が困ってるみたいだったから」
「別に困っては……」
「でも……」
確かに困ってはない。むしろこの状況をイマイチ掴みきれてないだけだ。
睦月はそう、はるなに伝えた。
とりあえず、はるなもそれで納得したようでほう、と安堵の息を漏らした。
「そういえば、今夜はどこで寝泊まりするの?」
「あ……」
考えてなかった、はるなは呟く。
「トウさんに頼んでみよう。一晩だけならここが男子寮でも泊めてくれると思う」
「ありがとう」
「さすがにこんな寒い中、知り合いを外で野宿させるわけにはいかないからね」
その後、睦月たちはなんてことない会話へと移ろっていった。
その後、夕飯を食べ、トウさんにはるなを一晩泊めてもらえるよう頼んだ。
彼は快くそれを許した。
はるなが街に来てから数日。彼女は睦月の学校に編入し、正式に別の女子寮に越してきた。
そのことは当然、小さな学校においては相当に大きな話題となった。
冬休み明けという中途半端な時期の編入からのほとぼりが冷めやらぬ中、小さな事件が起きた。




