Lv∞. Fin・信・神・新・真・ラスボス・クエスト
「まったく、チートしてラスボスと戦う勇者がどこにいるのよ。今までの冒険で何を学んできたのかしら」
「あはは……」
他の世界からも仲間を呼び出して戦う卑怯な勇者と、他の世界からも恨みを呼び出して戦う哀れな魔王の戦いは終わった。いや、最初から戦う必要なんてなかったんだ。ラボちゃんにただいまって言って、皆にごめんねって言えばそれできっとよかったんだ。全てが終わり、俺達4人と、応援に来てくれた他のゲームのキャラ、それに他のゲームからやってきたラボちゃんのような存在はこのゲームの世界における故郷である最初の村で、細やかな祝勝会兼お別れ会を行っていた。
「俺のグラフィック、格好いいだろう? 作者は絵描きなんだけどな、その方面では結構有名らしいぜ。でもゲームを作る才能は無かったから途中で投げちゃったんだけどな。だからさあ、俺を使ってくれよ。今度ゲームを作る時にさ、俺を書いた絵描きにさ、使っていいかって頼んでくれよ。そしたらきっと、快く了承してくれるからさ」
「是非私をヒロインとして使ってください! そうして有名になって、いつか私を作ったのにほったらかした作者をびっくりさせてやるんです。『なんで俺の考えたキャラが!?』ってね」
自分を肯定してくれた、自分を認知してくれた俺に感謝の言葉を述べながら、一人、また一人消えていく別の世界のキャラクター達。神様じゃあないけれど、俺が、俺達が彼等を覚えている限り、例え世界が完成していなくたって彼等は存在するのだ。
「それじゃあ、俺も自分の世界に戻って、自分の世界を救うよ。どうやらこのゲーム、今度リメイクされるらしくてさ、楽しみだなあ」
「私も帰りますぞ兄者! 来月にベスト版と移植版が発売されるとのことですが、勿論兄者は買ってくれますな!?」
そして俺達を助けるために別の世界からやってきた、かつて自分がプレイした、自分が冒険した世界のキャラクター達も元の世界に帰っていく。
「おねえちゃん! こっちのせかいでもがんばってね!」
「おうともよ。お嬢ちゃんこそ、向こうの世界で頑張ってくれよな」
タラコクエストの世界に存在する少女としてのあーちゃんと、ラスボスクエストの世界に存在する、大人としてのあーちゃんが熱い抱擁をかわす。そして自分の世界に戻っていく小さなあーちゃんを、ずっと大きなあーちゃんは満面の笑みで見送るのだった。その後も一人、また一人と、この世界に本来存在しないキャラクター達が帰っていき、やがて世界はあるべき姿を取り戻す。バグで変なモンスターが出ることもない、ラスボスが想定外の変身をすることもない、王道RPGの世界へと。
「……皆行っちゃったわね」
「寂しい? だったらキャラ追加しようか。なんたって俺はこの世界の神だから」
「構わないけど、クソゲーにはしないでね」
「おいおいラボちゃん、俺がいるじゃないか」
「わたしもいるよ!」
そして皆がいなくなり、村にはもともといた住民と、俺と黄龍、ラボちゃんとあーちゃんが残るだけ。少し寂しそうな顔をするラボちゃんに笑いかける、完全にこの世界のキャラクターとなったあーちゃんと、それに呼応するように突然現れる小さなあーちゃん。一瞬驚いたが、この世界では小さなあーちゃんも大きなあーちゃんも存在するから、両方いてもおかしくはなかったのだ。
「そうだ! もう一度このゲームをやり直しましょうよ! さっきは急いでいたし、イレギュラーなことがあったからゲームをちゃんと楽しめなかったけど、もう一度ゆっくり時間をかけてやれば、この世界をもっと楽しめるはずよ!」
ポンと手を叩き、そんな提案をする黄龍。確かに彼女の言う通りだ、急いでいたから駆け足で攻略してしまったし、ストーリーをきちんと楽しむ余裕なんて無かったし、ちゃんとしたラスボス戦も行えなかった。けれど今なら、もう一度やり直せる。それはいい、是非そうしようとラボちゃん達に呼びかける俺であったが、ラボちゃんは嬉しそうな顔をした後、悲しそうに首を振る。
「……ごめんなさい。もう本当にお別れなの」
「……そっか」
ラボちゃんが言うには、俺のような現実の人間をゲームの世界に呼び込むことができたのは、彼女の願いの力だという。彼女が俺に気づいて欲しかったから、覚えて欲しかったから、俺を助けたかったから、あの日現実世界にやってきてゲームの恨みを買った俺を手伝ったし、俺がラスボスクエストを完成させた時も、ゲームの中から俺を呼び出すことができたのだ。でも、もう彼女の願いは達成された。それは同時に彼女の願いの力が無くなり、俺をこの世界に留めることができなくなるということである。
「私は今とても幸せよ。満ち足りているわ。私を生み出してくれた……お父様? 神様? とにかく貴方に一度は忘れ去られたけれど、こうして貴方は私を助けてくれた。キャラクターとしてこんなに幸せなことはないわ。……けれど、けれど、貴方達ともう一度冒険ができるのなら、また不幸になってもいい、こんな悲劇を繰り返してもいい、なんて思ってしまうのは、わがままかしらね」
「わがままなもんか。でも」
俺だって、ずっと彼女達と冒険がしたいという思いもあるけれど、やっぱり俺は現実世界の人間だから。ゲームを作る側の人間で、ゲームを遊ぶ側の人間だから。ゲームの世界でゲームを味わうなんて、正しい楽しみ方じゃないってわかっているから。本当は、普通にゲームをプレイして、普通にゲームを救うのが一番だだって気づいていた。けれど俺は馬鹿だったから、ガキだったから、それができなかったから、わざわざ直接ゲームの中に入り込んで、問題と直面して解決するしかなかったんだ。でも、今の俺はもう違う。その冒険の旅で色々な経験を積んで、レベルアップしたから、わざわざゲームの世界に行かなくたって、ゲームをきちんと遊べるし、不遇なゲームを救ってやれる。ラスボスクエストを現実世界で完成させたのは、きっとその一歩なんだ。だから、俺は現実世界で、ゲームを楽しんで、ゲームと向き合わないとダメなんだ。多分、成長するって、大人になるって、そういうことなんじゃないかな、なんて、ボロボロと涙を流しながら、とてもじゃないけど成長しているとは思えないような情けない面で語って見せる。
「……そう。それを聞いて、安心したわ。安心して、貴方とお別れができる」
「親父は、成長したよ。親父なら、もっともっとこの世界を素晴らしいものにできる。いや、今も十分素晴らしいけどな! 母さんも親父を支えてくれよ? なんだかんだ言って頼りないし」
「がんばってね、ぱぱ、まま!」
俺の決意を聞いたラボちゃんはニコリと笑うと、トレードマークの大きな、武器としてはてんで役に立たない鎌をくるくると回す。その瞬間、俺の身体に違和感が生じる。きっと、もうすぐ現実世界に戻るのだろう。そして、二度とラボちゃん達には逢えなくなるんだろう。何か言わなくちゃ、と思っているのに、何も言葉が出て来ない。このままじゃ無言でお別れになってしまうと必死で言葉を考えていると、
「ねえ、あの時、私がなんて言ったかわかる?」
「あの時?」
「さらわれたときよ」
「『さよなら』じゃないの?」
不意にラボちゃんが俺にそんな質問をする。翼竜にラボちゃんがさらわれて、そのまま消えてしまったあの時。俺はあの時ラボちゃんが言った言葉は、『さよなら』だと思っていた。ラボちゃんは自分が消えることを知っていたから。けれど、真実はそうではなかったらしい。
「馬鹿ね。正解は『まってる』よ。私、信じてたから。きっと貴方は再び世界を作ってくれるって。私にハッピーエンドを用意してくれるって。そして、これからも信じてるわ。二度と貴方は私を忘れない。この世界を忘れない。そして、神様として、世界をよりよいものにし続けるって。二度とゲームの世界に来ないといけないようなヘマはしないって」
そんなネタ晴らしを彼女がした後、『さよなら』と笑っているのか泣いているのかよくわからない顔と声で彼女が呟く。その瞬間、俺の意識は途絶えてしまった。勇者の冒険は、終わったのだ。




