Lv∞. 神・新・真・ラスボス・クエスト
世界を完成させた。愛娘とも再会した。後はもう一人の子供を救い出すだけだ。自分で作ったゲームの世界を、自分で攻略していく俺達だったが、中盤から違和感を覚えるようになる。
「……おかしいな、ここのBGM、こんなキーだったか?」
「ちょっと待って、この人セリフがおかしいわ。テストプレイの時は、問題なかったはずなのに」
『ここの山にはドラゴゴゴゴ』
BGMがおかしい。台詞もおかしい。テストプレイの時に確認しただけだが、背景もおかしい気がする。しっかりとバグチェックはしたはずなのに、こんな世界じゃラボちゃんも浮かばれない。
「……気を付けろ親父、母さん。怨恨というか、負の感情というか、妙なものがこの世界になだれ込んでるみたいだぜ。ほら、あそこ」
ゲーム世界の住人であるあーちゃんは、その違和感の正体を感じ取る。彼女が指さす先には、作った覚えのないキャラクター達がうろうろと歩き回っていた。
『壮大なRPGを作ろう。プレイ時間60時間の大作にするんだ』
『自作スクリプトを使ってオリジナルの戦闘にしよう』
『RPG制作ソフトで、あえて音ゲーを作るのはどうだろう』
「ねえ、これって」
「ああ。内容から察するに、俺と一緒だな。きっとどいつもこいつも、大作を作ろうとして飽きてしまったんだろう。そんな連中に恨みを持ったのは、悲しみを持ったのは、ラボちゃんだけじゃないってことさ」
最近はゲームを作るためのソフトも豊富だし、プログラミング言語だって随分と初心者にわかりやすくなっている。特別な技術を持たない人だって、時間さえかければゲームは作れる。けれどそれは同時に、時間をかけることができずに、途中でゲーム作りを投げてしまった人がいるということだ。俺のような人間が、世界に巨万といるのだ。それを証明するかのように、俺達の目の前に見たこともないモンスターが現れる。
『グオオオオオオオオオ!』
「な、何よこいつ、滅茶苦茶強そうじゃない。グラフィックも気合入ってるし」
一目見ただけでわかる、かなり絵のうまい人が描いたモンスターだろう。複数のドロドロと溶けた手足にうねうねと動く触手がグロテスクながらも縦横比のバランスなど完成された造形美、ラスボスを務めたってなんらおかしくないモンスターだ。けれど、この世界にいるということはそれなりの理由があるはずだ。触手を伸ばして俺達に襲い掛かってきたそのモンスターであったが、あーちゃんが攻撃を弾き返すだけで消滅してしまう。
「……多分、ステータスが入ってなかったんだ。絵のうまい人がゲームを作ろうとして、強そうなモンスターだけ作って、それで終わったんじゃないかな。なんとなく、そんな気がするんだ」
「悲しい話ね」
名も知らないハリボテのモンスターに合掌し先を急ぐ。ストーリーが進むごとに、世界のバグは酷いものになっていた。3秒でループするBGM、何もしゃべらないNPC、存在するはずなのに素通りできてしまう壁。時間が経つごとにバグが酷くなっているのだろうか、だとしたらあまり俺達に時間は残されていない。説明を読まずに謎解きをするなんてあまり褒められたものではない行為を働きながらも一刻も早くラボちゃんの下へたどり着こうと急いでいた俺達だったが、大量のモンスターに取り囲まれてしまう。
「また知らないモンスターね」
「自分が作ったモンスターなら、弱点もわかるから戦いやすいのにな。ズルは駄目ってことか?」
先程みたいにステータスの入っていないハリボテのモンスターではないようだ、なんとなくオーラでわかる。厳しい戦いになりそうだなと剣を構えるが、
「天叢雲剣!」
俺達ではない何者かの斬撃により前方のモンスターが消滅する。どこかで聞いたような声にどこかで見たような技、俺の横に並ぶその姿は、過去の世界で俺と対峙した勇者のそれであった。
「最弱にして最強の勇者クレト、助太刀致す!」
助太刀に来てくれたのは彼だけではないらしい、敵だと思っていたモンスターの中に味方もいたようで、ハーピー娘やスライム娘といったモンスター娘達が俺達の援護をする。彼女達の指揮をとっている男もまた、昔の俺によく似た勇者であった。
「人と魔物娘の共存を目指す勇者クレト=アマミヤ、今度は僕が助ける番だ!」
上空から一人の男が剣を振りかざし、魔物の群れに突撃する。凄まじい爆発が起こったかと思うと、周囲のモンスターが消滅し、その中心には鬼神のような強さを誇る、最初に俺と戦ったあの勇者がいた。この世界からやってきたのは彼だけではないらしく、ちょっと気持ち悪くも可愛らしいぴょんぴょん跳ねる大きなタラコと、可愛らしい小さな少女も駆けつけてくる。
「我が名はくれと! 経験値の呪縛から解放された勇者くれとだ!」
「私もいますよ、雨宮さん。ここは私達に任せて、先を!」
「わたしもいるよ! お姉ちゃん、わたしのぶんもがんばってね!」
感動の再会ではあるが、四方山話をしている余裕は多分ないのだろう、それを伝えるかのように世界が揺れる。俺達は彼等にありがとうとだけ伝えると、先を急ぐ。きっと全てが終わったら、また感動を分かち合えるから。
「兄者! ギャルゲーの暴力ヒロインの強さをなめてはいけませんぞ! ここは私に任せてくだされ!」
「アイドルだって戦います! バットは敵を殴るものじゃありませんけどね」
その後も完成しなかったゲームの恨みがバグとして俺達に襲い掛かる度に、かつて冒険してきた世界のキャラクター達が助けにやってくる。ギャルゲーやシミュレーションゲームからやってきた、戦闘慣れしていないキャラクター達も、それぞれの持ち味を活かして俺達を支援してくれる。今まで色んな世界で罪を償ったり、世界を救ったりしてよかったなあなんて自分のやってきたことを肯定しながら、俺達は着実にラボちゃんの下へと向かうのだった。
「……いよいよ、この扉を開ければラボちゃんとご対面ね。今度は、扉を開けたら何もない世界でしたなんてないわよね?」
「あるわけあるかよ。もう昔の俺とは違うんだ」
「さあ親父! 扉を開けるんだ!」
そしてついに、俺達は最終決戦の場へとたどり着いた。魔王の部屋の一歩手前、ご丁寧にセーブと回復場所がある扉の前で、俺達は深呼吸する。かつての敵や仲間に戦いを任せた急ぎ旅となったけど、レベルだって十分に高くなっている。全てを終わらせるために、俺はその大きな扉を開けて中へと飛び出した。
「……ラボちゃん!」
広々とした魔王の部屋の中心、玉座に座る彼女に呼びかける。俺達を見て、すっと玉座から立ち上がった彼女であったが、再会を喜ぶことなく虚ろな目で手を振りかざすと、巨大な鎌を召喚する。
「……私の名前は、魔王宮ラボ。魔王の依代として選ばれ強大な力と、世界に蔓延る負の感情を手に入れた新たなる魔王。立ち去るのだ、人間よ。ずっと私をここで眠らせろ。でなければ、世界への恨みを、破壊として表現しなければならぬ」
「ラボちゃん、俺達の事覚えてないんだね……だったら、思い出させてあげるよ」
剣を引き抜き、ラボちゃんと対峙する俺達。勿論これは台本通りだ。魔王の生け贄となった彼女は依代として魔王の力と負の感情を手に入れて、負の感情から世界を恨んだけれど、それでも優しい彼女は世界を滅ぼさないように、感情を捨てるために記憶を殺し、自分を助けにくる馬鹿な勇者と戦わずにすむようにお城に結界を張り、救われないヒロインとしての道を歩もうとした。けれどそんな彼女の孤独な戦いも終わりを告げるのだ。勇者である俺達の手によって、呪縛から解放されるのだ。ゲームとしての話だけではない、『完成しなかったゲームの中の、さらわれたまま消えてしまったヒロイン』としての彼女も、そうして救われるのだ。
「あ……あああああああああああっ!」
戦いの鐘を鳴り響かせるようにラボちゃんが呻き、苦しみだし、自らの身体を変貌させる。巨大なスライムのような形の中心には苦しそうなラボちゃんの顔があり、その周りにもどんどんと人やモンスターの顔が追加されていく。その姿は、世界の全ての負の感情が詰まったような、見るに堪えないような代物であった。そして、俺達はこんなラスボスを作っていない。存在しない、別の作られなかったゲームのモンスターが俺達の前に立ちはだかったように、最終決戦でもまた、世界中にいるラボちゃんのような存在が、この世界に集結したのだ。
「上等だ、ラボちゃんも、他のゲームも、まとめて救ってやるよ! なんたって俺は、色んなゲームを救った勇者様だからな!」
こういう展開になることを、心のどこかで予想できていたからか不思議な程に俺達は冷静だった。別のゲームの世界の怨恨もその身に受け入れ、一際苦しそうに呻くラボちゃん。彼女を救済するため、世界を救済するため、俺達は各々の武器を手に歴然と立ち向かう。本当の最終決戦が、ここに始まったのだ。




