Lv12.絆を信じて踏み出せば こんぼう+1
・「やっぱり『男気』よね! 昨日の完投、感動的だったわ!」
ついこの前まではテニスに熱中していたと思ったら、最近は海外から日本に帰ってきた野球選手がお気に入りらしく、昨日は一緒に試合中継を見ようとゲームをするでもないのに家に来て無理やりテレビを見させられた。野球ゲームは好きだけど現実の野球は退屈だから正直好きではないのだが、相手を受け入れるとはこういうことなのだろう。
「男気ねえ……2年くらい前は『絆』に感動したとか言ってなかったっけか」
「女心と安芸の空って言うでしょ。女の子の心はそう、広島の不安定な天気のようなものなのよ」
「その安芸じゃなくて秋だろうが、大体広島の天気は安定してる方だろうが。はい、78点目」
「ぬぎゃー!」
この日も野球ゲームで対戦しながら漫才をしているところだ。現在試合は5回の表、俺のチームが新たに23点をとり彼女のチームとの点差を78にして怒りゲージを溜めているところだ。点差がカンストしてしまった時、超過した分は俺への暴力となって返ってくるのだろう。
「絆ねえ……私達の絆も、結構なモノになったかしら」
「だな、親父達と出会って、随分経つもんな」
後ろで俺の虐殺ショーを見物していたラボちゃんとあーちゃんがそんな事を言う。確かに一緒に旅? をしてきて随分経った、これがギャルゲーならセーブデータを3つに分けて簡単に全キャラ攻略できるレベルだろう。
「色んなゲームの世界にも行ったものね。どのくらい行ったかしら?」
「10くらいじゃなかったか?」
「え? ……そんなわけないでしょ、その数倍くらい行ってるわよ、こないだだってダブルヘッダーでシリーズを終わらせた扱いされているゲームと、その次に出たせいで評判がよくないゲームの世界に行ったじゃない」
「そうだったかなあ……? ラボちゃんが俺の記憶を軽く操作しているからか、どうにも物覚えが悪い」
「しっかりしてよね」
黄龍にしっかりしてよねと言われるのはどうにも腹が立つが、思い返してみれば確かに数十のゲームの世界に行っている。そんな風に昔を懐かしんでいると、ラボちゃんが一本のゲームを取り出した。
「というわけで、私達の絆、このゲームで試してみない?」
「お、次の世界か。絆を試す? 金太郎市電? ドランゴマネー? ドカタン? まさか黒金の絆とか言わないよね」
「いえいえ、そういう対戦要素のあるゲームじゃないわよ。これよこれ」
ラボちゃんが見せてきたゲームのパッケージには、作者が休載ばかりして下書きを載せることで有名な漫画のキャラクターが写っていた。
「『ウィンター×ギュンター 幻のグリーンカード』じゃないか。ローグライクで絆?」
「ローグライクって、ダンジョンを歩くゲームよね? 友情とか、そういうイメージ全然湧かないんだけど」
「行ってみればわかるわよ。早速行く?」
「アタシは構わないわよ。例え用事があったとしても付き従うのが良妻賢母ってやつよ」
意味不明な事をのたまっている黄龍はともかく、俺達ももう慣れたものでいつ招集がかかってもいいように準備はしている。今回も特に準備やらで無駄な時間を消費することなく、スムーズにゲームの世界に向かうことができた。
「……あ、服装が冒険者っぽくなってるわ。アタシは格闘家かしら?」
「俺は遠距離攻撃のできるボウガン使い、ラボちゃんはスキルに特化した魔術師、あーちゃんはバランスタイプの剣士かな。ゲームの中身は単純だ、ダンジョン歩いて敵を倒してアイテム拾ってボスを倒すんだ。敵の知識とかはある程度覚えているから、みんな俺についてきな」
中くらいの大きさの部屋に4人揃って馳せ参じた俺達。早速見えている通路へ向かおうと一歩を踏み出して1マス分移動するが、何故かかなしばりにでもあったかのように身体が硬直し、その先へと進むことができない。
「あ、あれ? 動けない……バグか?」
「本当? ……アタシは動けたわよ? ってあら、アタシも動けなくなった」
「俺も母さんが動いた後に動けたけどもう動けねえや」
「じゃ、最後はアタシね……はい、これで1ターンが終了よ」
俺、黄龍、あーちゃん、ラボちゃんの順に1マスずつ動く。同時に俺の身体が動くようになり、再び1マス移動することができた。同時にこのゲームの宣伝文句を思い出す。
「……思い出した。このゲーム、最大4人でプレイ可能なんだ」
「最大4人? ダンジョンゲームって1人でやるイメージがあったけど、面白そうね」
「面白そう? お前、この惨状を見てそう言えるのか? 部隊は4人、プレイヤーも4人。一人が一歩踏み出せば、操作が次の人になり、その人が行動すれば次の人……1ターンに一体どれだけの時間をかければ気が済むんだって話だ」
「そう。最初は『4人プレイ? 面白そうじゃん』と意気渦巻いていたゲーマー達も、実際にやってみるとすぐに投げてしまう。そんなわけでこのゲーム、4人でクリアされたことがないのよ。可哀想よね? 私達で供養してあげましょう」
部隊を組んで、全キャラ分操作するローグライクは、別に珍しいことではない。私怨3だってボス戦では全キャラ操作ができたし、最近発売された世界中の迷宮でも、ボス戦だけではなく必殺ゲージを消費することで一定ターン数全キャラ操作をすることができる。ただ、常に1行動ずつ操作が入れ替わるゲームともなれば、これくらいのものではないだろうか。2マス移動するだけでこれだけ面倒くさいというのに、これをゲームクリアまでやれというのは1万階の塔を登るくらいの苦行だろう。それを4人で協力しろというのだから、確かに相当な絆が必要だ。
「あ、あそこに敵がいるわ! よし、倒してくる」
「あっちにはアイテムがあるぜ、拾ってくる」
「私は暗闇を好むから、先に通路に行かせて貰うわ」
「おい、勝手な行動をするな! 俺についてこいって言ってんだろ!」
俺はリーダーとして皆を指示しようと考えていたが、見敵必殺精神の黄龍に、アイテム収集癖があるらしいあーちゃん、暗いところが好きだからと通路へと向かうラボちゃん。見事なまでに趣向がバラバラで、それでいて我が強い。これを無理やり押さえつけるよりは、一歩引いた立場で彼女たちを監視しつつ、適切なアドバイスをした方がいいのではないだろうか。ある程度は相手を信頼して任せる、これもリーダーには大事なことだ。
「やった! 倒したわ! うわ、自爆した!?」
「ああああ! 母さん何すんだよ! アイテムが自爆で消えたじゃねーか!」
「ちょっと、この壁を壊すモンスターなんとかしなさいよ。折角の狭くて暗くてじめじめしてひんやりした通路が台無しだわ」
「うるせえ! 黄龍、てめえそいつを自爆させるの何回目だよ、あーちゃんもアイテムが既にいっぱいなんだから手当たり次第拾いに行くのはやめなさい。ラボちゃんは通路にいたら部屋から見えなくて指示が出せないだろうが、大体魔法使いがソロで突っ込むな」
言うは易く行うは難し。自分を抑えて好き勝手に行動する彼女達を許容できる程、俺も大人ではない。そのうち自分が拾ったから自分で使おうと思っていたドーピングアイテムを黄龍に勝手に使われて憤慨したあーちゃんが母親と喧嘩し始め、うるさくて苛立ったのかラボちゃんも味方に魔法をぶっ放す始末。収集がつかなくなった女共の喧嘩に嫌気がさした俺は、独断で脱出アイテムを使い最初のダンジョンから逃げ帰る。何で勝手に帰るんだと詰め寄る女共に、ため息をつくしかなかった。
『ウィンター×ギュンター 幻のグリーンカード』……PS『ハンター×ハンター 幻のグリードアイランド』。キャラのほとんどが既に死んでいる。レベルアップの際の飛ばせない『テッテレー♪』という音が印象的。
『金太郎市電、ドランゴマネー、ドカタン』……桃太郎電鉄、ドラゴンマネー、ドカポン。友情破壊系双六ゲーム。
『黒金の絆』……Wii『黄金の絆』。魔王みたいな適役のやられ声だけが印象的。
『私怨3』……Wii『シレン3』。一人でもやられると全滅扱いという仕様も相まってクソゲー扱いされている。
『世界中の迷宮』……3DS『世界樹と不思議のダンジョン』。ちょっとヌルゲーかなあと感じた。
こんぼう……弱い




