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ラスボス・クエスト  作者: 中高下零郎
Lv10.しゃにむに庭球追いかけろ!
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Lv10.しゃにむに庭球追いかけろ! 40-0

「テニスは分身して行うスポーツでなければ、ボールを相手のコートにばらまくスポーツでもない! ましてや、ボールを相手にぶつけて倒すスポーツであってたまるか!」

「ポケデビの世界のような、残留思念ね。彼一人だけだったから、怨恨が弱くて感じ取れなかったみたい」


 至極真っ当なテニ又とテニスの違いを述べながら憤る錦岡氏と、状況を分析するラボちゃん。確かにテレビで見る彼の姿より、何年か若々しい気がする。このゲームが作られた当時の彼なのだろう。


「ぶつけて倒すスポーツじゃなかったのね……」

「お前マジで言ってんのか? とにかく錦岡さん、貴方の無念は俺達が晴らします、ちゃんとしたテニスをするんで、どうか成仏してください」

「ありがとう、少年……できることなら、君達のテニスで彼等を打ち破ってくれないか。必殺技なんて無くたって、分身なんてしなくたって、テニスは素晴らしいスポーツだということを、このテニスのような何かにも勝るということを、証明して欲しいんだ」


 どうやら彼は、俺達にまともなテニスでこのゲームの住人を倒せと言っているらしい。幸いにもこのゲームのジャンルは育成系、身体能力や技術は彼のコーチを受ければ最大値付近までは向上するだろう。そこからは俺達の仕事、テニ又の住人を正々堂々撃破するのだ。『必殺技を使わずに勝つ』という縛りプレイと考えればそれほど難しくないかもしれないが、実際に戦うのは俺達なのだ、ゲームのようにはいかないだろう。


「プロに指導して貰えるなんて、この世界に来て正解ね! ついでに錦岡選手の心のもやもやも取り払って、全国1位になって貰いましょう!」


 こういう展開がお好きなようで、いつも以上にやる気を見せる黄龍。そんなわけで本来の目的は、プロに

 指導して貰えるという最高の展開で達成されることになった。



 ◆ ◆ ◆


「おら! そのくらいでへばってどうする! 後ダッシュ50本!」

「し、死ぬ……」

「そういえば錦岡選手は熱血鬼コーチとしても有名だったわね……」

「……」


 最高の展開と言っても、体格に恵まれているわけでもない一般人の俺達が、作中でも最高レベルの身体能力と技術を手に入れるためにはとんでもない地獄の特訓をしなければいけない。現実世界よりは遥かにすぐに力がつくしちょっと休めば体力も回復するが、精神的な疲れがどんどん溜まって今にも倒れそうだ。巻き込まれる形で特訓する羽目になったラボちゃんは既に屍と化しているし、こういう展開が好きそうな黄龍やあーちゃんもボロボロだ。


「この世界で1日くらい経ったんじゃないかしら……今、速さとか力の強さとかはどれくらいまで強くなってるの?」

「オールCだな、副部長と同じくらいの強さ。ちなみに最初はお前はオールEくらいで、俺はFとGの中間だ」


 スポーツ慣れしている黄龍でも、強豪のテニス部員達を基準にするとその程度で。一般人の俺に至っては悲惨なレベルだ。だが特訓の成果は確かにあったようで、必殺技なんて使わなくても速く動けるようになったし、うまくボールを返すことができるようになった。今の状態をそのまま現実世界に持っていければ、球技大会でもぶっちぎりだろう。


「1日で素人が副部長くらいになると考えたら、文句は言えないわね……」

「最低でもオールAくらいは欲しいところだな。当然能力が高い程上がりづらくなるから、当分地獄の特訓は続きそうだ」

「流石のアタシも弱音を吐かざるを得ないわ……それにしても意外とアンタ根性あるのね」

「俺はこう見えて一万階の塔を登ったり、宇宙のエースになったりしてるからな。それなりには忍耐力がついてるぜ」

「アタシの暴力にも耐え忍んでるものね」

「自覚してるならやめろよ……」


 その後も俺達は只管に鍛錬を行う。メンタル能力もあがったおかげか特訓後半になるとしんどさをあまり感じなくなり、コーチのお墨付きが出た時、『私はマネージャーだからパス』と逃げたラボちゃん以外は凛々しい顔つきになっていた。例えるならば、デフォルメから劇画調になった感じの。


「俺は戦わないけど、全力で応援するから親父も母さんも頑張ってくれよ!」

「オーケーあーちゃん。コーチ、俺達を鍛え上げてくれてありがとうございました」

「良い顔つきになったな、皆。さあ、君達のテニスを魅せてくれ!」


 錦岡コーチに深々とお礼をして、早速俺達は最初の対戦相手を決めることに。単純なステータスだけなら既に上位だが、元々が一般人の俺達には特殊能力やらアビリティなんてものはないし、ワープしたり分身したりと便利な技も使用禁止だ。野球ゲームでいうところの、全能力がカンストしているが弾道が2で特殊能力も持っていない相棒だろうか。それでも準レギュラークラスのキャラならあっさりと勝てるだろうけど、弱いキャラばかりに勝ってもしょうがない。強いキャラに堂々と勝って、コーチを満足させなければ。


「まずは菊地選手と戦おう」

「菊地選手ってあの分身やビームで有名な? 勝てるの?」

「勝つんだよ。……すいませーん! 菊地さん、俺達と勝負してくれませんか?」


 レギュラークラスだしそこそこ人気だし、最初の相手としてはふさわしいだろうと、童顔の(仮にも中学生なのだから別におかしくはないのだが)少年に勝負を申し込む。


「うん? いいよ。……シングルス?」

「ダブルスでお願いします」

「へえ……じゃあ、ダブルスでやらせてもらうよ」


 ニヤリと菊地選手が笑うと、瞬間彼の隣にもう一人の彼が現れる。原作では超スピードで動くことで残像を出していたという設定だったはずなのだが、今では実体を伴う立派な影分身の術だ。


「向こうはダブルスといいつつ一人だから、連携も完璧でしょうね。でも負けないわよ! アタシ達のコンビネーション、魅せてあげましょう!」

「へいへい。……うらぁ!」


 コートの中に4人? が入り、試合開始。俺は渾身の高速サーブを放つが、あっさりと返されてしまう。簡単にサービスエースが決まったらそれはそれで面白くない、俺達はしばし相手のボールを返すことに専念する。相手もこちらの出方を窺っているのか、攻めてこないようだ。


「しまった!」


 先にチャンスが来たのはこっちのようだ。菊地選手がショットをミスし、黄龍の方に絶好のチャンスボールがやってくる。


「必殺スマッシュ! ……なんてね」


 前衛としてネット際に陣取っていた黄龍が、待ってましたといわんばかりに強烈なスマッシュを叩きだす……と思いきや、彼女のとった行動はまさかのドロップボレーであった。菊地選手の反射神経なら速いスマッシュを空いている場所に打っても追いつかれてしまう、それならばと虚をついてみたのだろう。ただ力任せに打つだけがテニスではない、彼女も色々と学んだようだ。


「どんなもん……よよよ?」


 まずは1ポイント、とガッツポーズをしてみせる彼女だったが、自分の横にボールが転がっているのを見て唖然とする。その正面では、菊地選手の片割れが、仰向けに倒れながらもニヤリと笑みを浮かべていた。


「有り得ないスピードで反応して、無茶苦茶な態勢から返してきやがった。……彼の反射神経を、甘く見すぎていたようだな」

「……くっ、上等よ!」


 俺達には絶対的に足りていないものがある。『慣れ』だ。打った直後に勝利を確信してしまった黄龍の驕りもそうだし、俺だってフォローに入ろうともしなかった。ステータスでは上回っているから大丈夫、なんてゲームに脳を壊された馬鹿野郎の考え方だ。速く動けても、強烈なスマッシュが打てても華麗なボレーが打てても、根本的に俺達はテニスの素人なのだ。


「ちょっと、何でそっち側にいるのよ! 抜かされちゃったじゃない!」

「それはこっちのセリフだ! 手当り次第にボールに食らいつきやがって、後衛の俺が返した方がいいボールだってあるだろうが!」


 幼馴染とは言えど、恋人と言えど、連携もうまくとれていない。一方相手のコンビネーションはテレパシーでも使っているかのように最高だ、同一人物なのだから当たり前だが。そんな感じで徐々に押されはじめ、もうすぐ2セット目をとられるというところまで来ていた。


「まずいわね……ストレートで負けたらコーチもがっかりするわ」

「……作戦がある。とにかく粘れ。決めるなんて考えずに、ただボールを返すことだけに集中しろ」

「考えがあるのね。従ってあげるわ」


 しかしまだ希望の光は消えていない。点を取ることは考えず、とにかく俺達は相手のボールにくらいつく。それでも防戦一方で2セット目も取られてしまったが、ここで敵に変化が訪れた。


「う……うにゃあ……」


 見るからに息切れしている菊地選手。そこからの彼は自慢のアクロバティックな動きも鈍り、段々とこちらの勢いが勝るように。


「もともと菊地選手はアクロバティックだけどその分体力を消耗しやすいって設定だったからな、しかも分身して二人分動いてるんだ。ここからは俺達のターンだ、ガンガンいくぞ」

「任せなさいって」


 ここから一気に俺達は攻めに入る。ただでさえ体力が切れている相手に、スタイルを守りから攻めに変えることで対応まで変えさせるのは効果絶大だ。徐々に点差は縮まり、ようやく俺達はマッチポイントまでこぎつけた。


「最後はアタシが決めるわ! スマッシュ!」

「まだまだ!」


 黄龍が全力スマッシュで決着をつけようとするが、相手は押されていて動けないように見せかけて、少しずつ休んでいたようで最初の頃のような動きを見せ始める。コース的には完璧だった彼女のスマッシュだったが、ダイブして返されてしまう。


「この時を待ってたんだ!」


 しかし俺達だって学習している。こうなることを予想していた俺は、既にネット際まで詰め寄っていたのだ。返されたボールを即座に強打。ダイブして倒れ込んでいた彼の側を、ボールは突き抜けていった。俺達の勝利だ。



「なんとか勝ったけど、体力切れ狙うとかなんか卑怯じゃない? そもそも2対1だし……」

「そう思うなら、正々堂々勝てるよう頑張ることだな。次は誰にするか……」


 戦いの後握手をして、疲れからかベンチに横たわる。先程の戦いを見ていたコーチも随分と満足してくれたようだ。スポーツは別に好きじゃないが、テニスの楽しさに少しずつ目覚めてきたのか早く回復して次の戦いをしたいと思っている自分に苦笑いしながら、目を閉じて作戦を練るのだった。

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