第198話 俺、ゲームマスターとお話する。
駄弁りながらあれよあれよと王城に着いた俺達は、城門の前に立ち止まり門番君に近寄る。
「よぉ門番くん。急で悪いんだけど王女様に会いたいからさぁ、取り次いで貰える?」
「ゲイン様ですね? 既に王女様がお待ちです。どうぞ、お通りください」
「あっそう、んじゃ入らせてもらいまーす」
巨大な鉄城門が開かれ、俺達は城の庭先へと入っていく。
「なんだ、ゲイン君あらかじめアポ取っていたんだね」
「んな訳ねぇだろ。アポ無し上等だわ。そもそも一介の浮浪者同然の俺が王女様との連絡手段なんか持てっる訳ねぇっつーの」
「え? でもさっき兵士さんがお待ちですって……」
「良いじゃねぇか。あちらさんが来てくれって言ってんだから」
庭を抜け巨大な扉が口を開けている。中へ入ると背の低い兵士が走ってこちらへやってきた。
「王立騎士団、副隊長のファースです! 王女様の自室へご案内する様仰せつかりました! こちらです!」
エルといい勝負してるレベルの背の低い兵士だ。ちらちらと尻尾の様な物が確認できる。コボルトか。
「んじゃよろしく頼む」
「ハイ!」
ちっこいコボルト兵士の後をついていき、とある扉の前で立ち止まった。
インジケーターにドアノブの素材がデータとして映し出される。このドアノブ豪勢なことに混じりっけなしの純金で出来ているようだ。
「では、失礼致します!」
「はい、ご苦労さん」
コボルト兵士は俺達に敬礼すると足早に去っていった。
ドアノブに手をかけ開くと中には王女様がドレスを着たまま立って待っていた。
「えっとあの──」
「ゲイン様! 私の自室へようこそおいで下さいました! さぁ、お座りください! お茶は如何ですか? コーヒーの方がよろしいでしょうか?」
「じゃ、じゃあコーヒーを……お前どうする?」
「えっじゃあ僕も同じものを」
俺達が席に座ると同時に王女様が手を叩くと、いつからスタンバってたのかコーヒーポットやらカップやらクッキーやらを持ったメイド達が入ってきて、あっという間にセッティングし音もないまま出ていった。
「さぁ、冷めないうちにお召し上がり下さい」
俺は首元に手をやると、自動的にロックが外れ、左右にあるエアーキャンバーから圧縮された空気が白い蒸気となって排出。両手でマスクを膝の上に置く。そしてそのままコーヒーを呷った。
「美味いですねこのブラックコーヒー」
「お口に合って何よりです」
「あのですね、今日はちょっと聞きたいことがあって来たんですよ。王女様がこの世界のゲームマスターですか?」
「はい、私がこの世界のゲームマスターをやらせて頂いております」
「なっ!? バカな!!」
声を張り上げたのはアルジャ・岩本だった。
彼は充血させた目を彼女に向けたまま固まっている。
「君はこの世界の人間だろう!? 幾らマルバツ形式の常識テストと言ったって僕が作ったテストに合格したっていうのか!? 中世に毛が生えた程度の文化レベルしか持たない君が!?」
「ハイ、私は確かに合格しました」
「そんなことがあり得るのか!? 下手したら知能指数120前後あるって事に……」
「おい、失礼だろうが。人を見た目で判断すんなよ」
「君にだけは言われたくないよ!」
「知能指数がなんだ。ビーディなんて確か160以上あるって言ってたぞ。んな事よりもだ。今日は貴女にお願いがあって参上しました」
「お願い? 私にですか?」
俺は立ち上がり、王女の隣まで歩いていき、腰を屈め耳打ちする。
「あの~バンだけはどうかご勘弁を」
「え? 私がですか? 貴方様を?」
「はい」
イケるか……?
「そんな困りますぅ!」
やっぱりダメか……。
好き放題やり過ぎたかな。
「未来の旦那様なんですからぁ!!」
「そうですよね、未来の旦那──ゑ?」
一瞬の静寂のあと、王女の顔が見る見る赤く染まっていく。
「えっあっ今のなし! なしでお願いします!」
予想の斜め上過ぎる回答に一瞬思考停止してしまった。どうしたもんかな。
「だって! だってですよ! エスカから貴方様の事は前々から聞き及んでおりましたし! 我が国の一大事に颯爽と現れて、一気に全部解決して、お父様に対して啖呵きったんですよ!? もうかっこよすぎて! 私をこんな風にした責任を取って頂かないと!」
そうか、今理解した。この人にとって俺はピンチを救ったスーパーヒーローと同じなのか。参ったなぁこりゃ。えっじゃあバンされなくて済むっぽい感じか?
「あのーバンに関してなんですけどぉ」
「しません! ぜーったいにしません! その代わり」
彼女が俺の手を取った。
「全てが終わったら私と結婚してくださいますね?」
えーどうしよう〜。バチクソ悩む〜。俺この人の事殆ど何も知らないし〜。でも、断る理由がない〜。断ったらどうなるのこれ〜。
俺は脳をフル回転させ、速攻でフローチャートを完成させ、答えを導き出す。
「わかりました、全てが終わったらその時は迎えに行かせて頂きます」
「ハイ、エスカとあの魔術師のおチビちゃんと私4人で幸せな家庭を築きましょうね」
「え、あっはい」
まさかの一夫多妻制前提だった。この世界の女性アグレッシブだな。骨肉の争い起きない事確定ルート突入で良かったぁって思うわけ。
「王国って一夫多妻制なんすね」
「いいえ? 違いますわ」
どういう事ー? 一気にホラーなんだけどー。
「旦那様、私が声を上げれば法律なんてチョチョイのちょいです」
俺に向かって耳を真っ赤にしながらウインクしてきた。
大丈夫この人ー。エレナチャウシェスクの生まれ変わりだったりしない? ていうかもう旦那様って呼ばれてるんだけど。彼女の中で既成事実積み上がっちゃってる感じなんだけど。
「そうですわ、実はですね。旦那様に見て頂きたい物があるんです」
「な、なんでしょうか?」
「我が眼前に顕現せよ神よ」
彼女がそう言った瞬間、机中心に白く光る球体が現れた。
「やぁケントくーん久々だねぇ、あぁ今は名前が違うんだったねぇ。実に語呂が悪い名前だなぁ」
俺は無意識にインベントリから愛銃を取り出し、光る球体に銃口を向け引き金を引き、ありったけの鉛玉を撃ち込む。
「うぎゃああああああああ!!」
球体の叫び超えと白い硝煙が消えるまで、銃口は外さない。
「やったか!?」
「うぐッたかが人間がこの僕を──んなこたぁない。当然の如く無傷でーす。正真正銘の神である僕に君みたいな人間の武器は通じませーん。はい、残念でした〜。お菓子が違いまーす」
「て、てんめえええええええ!!」
引き金を引くがパチンという軽い音だけが響く。
「君って本当に愚かだよね。だから効かないって。僕を殺したいんだったら、それ相応の準備がいるね。まぁ、君みたいな馬鹿には無理だろうねぇ! ましてや鍵と律を手に入れるなんて絶対に不可能だねぇ! 愉快痛快恐悦至極だねぇ! ニャーッハハハハハ!! 笑わせてくれてありがとう!! では、永久にさようならー!」
そう言って光るゴミは俺の前から消え去った。
「旦那様……申し訳あり──」
「何の音であるか!? 今のけたたましい音は!? 王女様大丈夫でありますか!?」
扉が乱暴に開かれ、黄金に輝く甲冑に身を包んだ兵士が入ってきた。アンドリューだ。
「王女様お怪我は!? ゲイン殿!! いかがした!?」
「いいえ、問題ありません。アンドリュー戻りなさい」
「し、しかし……」
「私が大丈夫だと言っているのです」
「はっ! では、某はこれにて!」
そうしてアンドリューは出ていった。
「王女様すいません、窓に穴空けちまって」
「いえ、私こそまさか神様と既にお知合いの仲だったとは──」
「知り合いというか、まぁ何というか……。コーヒーありがとうございました。急に押しかけてすんません。じゃあ、やる事ができたんで」
「ハイ……あの」
「はい?」
「私、本気ですから」
「アッハイ。そうだ、最後に1つ良いですか?」
「なんでしょう?」
「なんでアーサーに悪魔の討伐を命じたんですか?」
「それは……勇者が悪魔を全て討伐すると律が現れ、全ての災厄が祓われるとあの神が私に言ったのです」
全ての悪魔を討伐すると律が現れる?
「──そうですか。ありがとう御座いました。では。おい、アルジャ・岩本帰るぞ」
「えっう、うん」
元いた席に戻り、椅子の上に置いたヘッドを装着し、そのまま俺達は王城を後にする。
「『全ての悪魔を倒すと律が現れる』か」
嘘だ。悪魔は一定の条件を達成しない限り死ぬ事がない事は地獄で既に把握している。そもそも律とは何なのか。少なくとも何かしらの条件と2つのアイテムがあれば奴を殺せるらしいな。それだけわかれば十分だ。
「フフフ……なぁアルジャ・岩本」
「なんだい?」
「あいつのことは死ぬ程嫌いだが、この世界に転生させてくれた事だけは死ぬ程感謝してる。このお礼参りは死んでも遂行する」
「……」
「んじゃ、帰るか。皆もう起きてるだろうしな」
「あぁ、そうだね」
俺は彼と共にクルーザーまでワープするのだった。




