第8話 魔法少女カシュウのとある1日
──ギギギギィッ…!!
巨大なカマキリ悪魔が、オレの身長よりもデカい鎌を振り下ろす。
それを見切り火炎噴射で横回避。右肩すぐを切り裂く刃に、逆噴射と軸捻りを加えた肘鉄をぶち当てる。思っくそ炎を籠めた肘が、鎌を焼いて貫通、破壊。
これでこいつの鎌は両方とも無くなった。
──ギィイイ!!!!
カマキリの虫みてぇな瞳が真っ赤になり、全身から怒りの魔力が噴出する。
同時に、背中や胴体から生えてる気色悪い灰色のデカミミズが膨らんで伸びた。7本近い、ビームみてぇな肉塊?が迫る。
──シュビビッ!!
──ギィイイ!?
そこに本物のレーザービームが飛んできた。
いっそ禍々しいと感じるほどに圧縮された、ピンク色の魔力光を纏った太陽光線。それがデカミミズを全て切り裂き、巨大カマキリの足も何本か焼き落とす。
オレには絶対当たらない、味方からの攻撃、と知っていても恐怖を感じる威力だ。
振り返れば、空中に浮いて太陽光線を連射している先輩魔法少女の姿。
オレとは別の場所に居る別の虫悪魔と対戦中だ。
「自分が戦いながら、オレの援護したのかよ…!」
その視野の広さ?に歯噛みする。だが今は殲滅が先だ。このカマキリ悪魔はまだ消滅してねぇけど、一旦放置。先輩が相手してる奴を先に抑える。
「ナッツ!結界! 突っ込むぞ!」
「ジチュー!」了解ですわー!
オレは、太陽光線がいまいち効いていないっぽい巨大カタツムリ悪魔どもに向かって、火炎噴射で突撃していった。
──────────
「これで、全部、やったか…?」
「…、そうね。多分、大丈夫そう。」
先輩が疲れた様に呟く。けれど、その姿は警戒体勢のままだ。周囲を探知の魔法なのか光の球がたくさん飛んでいる。
オレより低い身長に、眠そうなのに鋭い目付き。変身すると髪がピンク色で、その上二つ結びな髪型だからマジで小学校低学年のガキに見える。
白と黄色のドレスみてぇな、でも理科の先生が着る白衣にも見える魔法少女服は一切汚れていない。
人間兵器みてぇなとんでもビームを乱射した奴とは思えない、チビっこい大人。あの銀闇悪魔を従える、リタ先輩だ。
「ありがとう、火野さん。助かったわ。」
リタ先輩が、魔界と繋がる「ゲート」の封印を弄りながら声を掛けてきた。
「別に…。オレが居なくてもリタ先輩だけで勝てただろ。」
「そんなことは無いわ。あの蝸牛の悪魔は光属性に耐性を持ってた。殻も固くて物理も効きにくい。私1人の魔法では押しきられていたもの。貴女が前衛で戦ってくれたから消費も少なく勝つことができたのよ?」
声のトーン的に、多分、嘘は言ってない、か…?
でも、バカデカい岩塩?をぶつけまくって怯んだところに油?と火炎放射してトドメを差したの、この人なんだけどな…。
「良いけどよ…。でもユミ先輩が居たらそれで十分だっただろ?」
「彼女も、私と同じ後衛タイプだからどうかしら? それに今日は居ないのだから『たられば』の話をしても仕方ないわ。」
「風邪なんだろ? しゃーないじゃん。」
「それについては本当に、ごめんなさい…。」しょぼーん…
あ、割りとガチへこみしてる。変なの。
なんか先週、先輩達2人はキャンプ?をしたらしい。慣れない昼寝?をしてユミ先輩が熱を出したんだとか。症状自体はリタ先輩の回復魔法で治したらしいが、大事を取って今週の悪魔退治は休ませた…、ってことなんだと。
「今日はスクルも統強の方に行ってて居ないし…。火野さんが居てくれて本当に良かった。」
「ん…、まあ良いけどよ。」
「お礼にお昼ご飯、ご馳走させて。」
「え、マジ?」
「ええ。好きな物を好きなだけ食べて。」
──────────
うめぇー!! この肉、超美味ぇー!!
「火傷が心配になるくらい、掻き込むわね…。」
「」はぐ!もぐ!うまうまっ!
「ジチチュー!♪」熱々うまうまですわー!♪
リタ先輩が連れてきてくれたのは、「エクスクラメーション・ハウス」って名前のハンバーグ店だった。「!」の名前の通り、驚く美味さの料理だ。
オレの目の前には、チーズが掛かったやつ、目玉焼きが乗ったやつ、ポテトサラダが中に入ったやつの3つが並んでいる。全部美味い。
「別に誰も盗ったりなんかしないから、ゆっくり食べていいのよ?」
「うん!」ガツガツ!モシャモシャ!!
(それで『ゆっくり』ってこと…??)速度一緒…
黒髪姿のリタ先輩は、まだ食前のコーンポタージュをちびちびと飲んでいる。あれも美味かった。温かいドロドロスープが腹に入って、肉を食う為の準備運動にちょうどいい。
ちゃんとした店って色々考えて飯を作ってんだなぁ。すごい。
「まあ、貴女は『食事』を文字通り熱エネルギーに変換する魔法を持ってる訳だし…。これが強さに直結するから、必要なことね…、きっと。」
小難しい話は知らね。美味しい物を腹いっぱい食えばたくさん炎を出せる。それが分かってればそれでいいや。
「ふぃ~…、マジうめぇ~…。」
「3人前を普通に平らげたわね…。」
「これくらい余裕。むしろまだまだいける。」
「なら、私の分も食べる…?」
「え、いいの!?」
「ええ。大根おろしが乗ってていいなら──」
「めっちゃ興味有る!!」
「そ、そう。なら、どうぞ。私はまた追加頼むから。」
「ありがとう!」これも美味っ…!
「チュ~♪」さっぱりしててどんどん入りますわ~…♪
「ナッツさんの食べ方も、凄いわね…。」巨大な魔法の手で空間固定…
──────────
「ごちそうさまでした。」
「ジチュ~!♪」ごちそうさまですわ~…!
「満足してくれたなら良かったわ。」
ぶっちゃけ言えばまだまだ入るけど、美味しくて気分が満たされたからいいや。リタ先輩にタカるの、なんか悪いし。
「それじゃ家まで送りましょうか。」
「あ~…、いや、別にいいや。ちょっとブラブラして帰る。」
「…、買い物?」
「ん~、飯屋探ししながら、適当に?」
家に帰っても母親が居るだけでつまんねぇし。
スクルのおかげで万間にも行くべき店が色々と有るって気づいたし。有意義な経験ってやつだ。
「良かったら、私も一緒に良いかしら。私がお勧めする店を教えてあげられるけど。」
「え、良いの?」
「ええ。ただ、この後は町のパトロールをするつもりだったから、そのついでで良いならだけど。」
「全然余裕!」
やっぱりこの先輩、すっごい良い女だよなぁ。こういうのにスクルも惚れたのかな?
──────────
「あそこの豚カツ屋さんは超人気店よ。関西全体でもトップ争い常連に入るわ。」
「なんかすげぇのが有ったんだ…。」小せぇ店なのに…
「ご飯時に入るのは至難でね、かなり早い時間に来るか予約をしつつ行列に並ぶ必要が有るの。」
「美味いもんは皆食いたいんだな~…。」
そんなに並んでまでは食いたくないかもな…。狭いとナッツを隠しながらで面倒臭いし。
オレが食う日は無いかもな。
「今度、皆で来ましょうか。悪魔退治の後にでも。」
「え、でも、めちゃくちゃ待つんだろ…?」
「そこはスクルの全体洗脳で優先的に割り込みすればいけるわ。」行列のお客さん全員を催眠で…
「そんなんしていいの…!?!?」正義の味方が…!?
「良いのよ。日々町を守ってるんだから、少しくらい優遇されないと。」
わ、割と雑だな、この先輩…。これが大人の余裕ってやつ…?
(違うと思いますわ~…。)チュ~…
──────────
「あそこには美味しいうどん屋さんが有ったのだけど、潰れちゃったわね。」
「そうなんだ。」
「店主さんが高齢でね。魔法でこっそり治療してもダメだったわ。
でも、お弟子さんが隣町で別のうどん屋さんを開いているから同じ味はまだ楽しめるの。」
「へぇ~!」
「この辺りも随分変わったわね。」
「そうなの?」
「駅前に大きなモールが出来たから、客足が伸びないのでしょうね。店が潰れて、駐車場やマンションになってるわ。」
「静かで悪くねぇけどな~。」
「そうね。こんな所だと悪魔も寄り付かないし。
あら、あの喫茶店、まだ営業してるのね。少し休憩する? あそこのクリームソーダが美味しいのよ。」
「行く!」
「チュ~!」うまうまなやつですわ~♪
「この先には…、そうね、駄菓子の問屋さんが有るわね。一般でも買えるけどこの時間は──あら?」
店の紹介の途中でリタ先輩が動きを止めた。なんか道から外れた向こうの方をジッと見ている。
「どうかしたの?」
「ジチュー。」魔法の気配ですわー…
「魔法? 悪魔でも湧いてんのか?」警戒…
次元孔以外からでも悪魔は出てくることが有るらしい。先輩達が言ってた。戦闘力の弱い奴が迷子みたい現れてそこらの人間に取り憑いたりするって。
ハムスター妖魔のナッツも、似た様な感じで人間界に来てるしな。パトロールの甲斐が有ったこと──
「…、これはあれね。知ってる悪魔と、知ってる人、ね…。」ユラァ…!
ん!? なんか、リタ先輩が怖い感じになってる…?? 悪魔と戦うとかじゃないっぽい?
とりあえず歩き始めた気持ち悪い笑顔を浮かべる先輩に、距離を取りながら着いていった。
──────────
「しッ!! はッ!!」
「くぅっ…! こ、の…!」
向かった先には神社?が有った。公園みたいな広場の中、人払いの結界魔法が展開されていて。そこで2人の女がボクシング的な殴り合いをしていた。手を魔力で固めたグローブで覆ってる。
そこに結界を抜けながら、リタ先輩が冷たい声色で声を掛けた。
「──こんにちは、2人とも。休日に、精が出るわね?」
「あ…!?」
「何の用ダ? ──相田理多。」
「たまたま見掛けたから、声を掛けただけよ? 貴音さん。それと──求・道・さん?」
そこに居たのはユミ先輩と、スクルの下僕とか言う鳥女だった。タカネ、とか言ってたっけ?
今日は髪が緑色なだけの普通の人間みたいな、パンツルックにTシャツって格好をしている。背ぇ高くて、なんか大人って感じだ。あと、めちゃくちゃ目線が鋭い。
「あ、あの、あのですね、先輩…、こ、これは、深い訳が、ですね、有りまして…。」
「ええ、大変な理由が有るんでしょうね? 何せ風邪の病み上がりだからしっかり休んでねってお願いしたのに、境内で貴音さんとスパーリングしてるんだもの。よっぽどの。理由が。ね? 有るのよ、ね?」にっっこり…!!
「っ…!」
うおおお…。リタ先輩、こえぇ…。マジギレしてるやつだこれ…。
「フン。理由も何も無い。不届き弓使いガ、己を鍛えてほしいと懇願してきたから揉んデやったダけダ。」悪魔力有りデな…
「ちょ、ちょっとタカネさん!?」
「そう。そうなの。」
「配下の面倒も見れズ、命令に背かれ、頼りにもされない。哀れダな、相田理多。」フッ…
「配下じゃないわ貴音さん。求道さんは後輩よ。私や、貴女の、ね。」
「──!」ビュオオオオオ…!
転びそうになるほどの突風が吹き荒れた。鳥女の風魔法だ。なんつー威力…!
「私は、スクル様の下僕悪魔ダ。」
「あら、風を操る魔法少女でしょ? 沈丘育ちの元高校生、斉場貴音さん?」
「傲慢規則、敷設…!! ──『天高気正』!!」ヒュゴオオオオオオ…ッ!!
地面が、巨大な爪痕みたいに抉れた。それがオレ達を避けて、何本も走っている。
うっお…!? こ、これマジでヤバいやつ!?
「天高気正。高く、速いものを、より強化する傲慢の力。羨ましい限りね。」
リタ先輩は涼しい顔で淡々と喋って──あ、いつの間にか魔法少女化してる!?
「ぎィッイッ!!」
翼になった両腕を広げて鳥女が飛び上がった。そして即座に両手を振り下ろすと、家すらぶった切りそうな風魔力の刃を放ってきた。瞬きの間に先輩の目の前に迫──
「──戦神の正拳。」
──ッドワァァアアアア…!!!!
細めた視線の向こうで、小さな拳の先に出来た真っ黄色の魔力の塊が、突風のギロチンと激突していた。とてつもない魔力衝撃が全身を叩く。
リタ先輩が右足を前に出し、拳の右腕を斜め前に突き出した。軽トラサイズの魔力塊の拳が押し出される様に、ギロチンを粉砕して──
バッッビュゥンッ──!!
遥か上空に飛んでいった…。
「…、」呆然…
「あら、流石ね。あのタイミングで避けきるなんて。」
「」ゼぇ、ひゅう…、ゼぇ…
鳥女の人が荒い息を吐いて広場の隅に這いつくばってた。すごく汗だくだ。怒った様に、でも怖がる様にリタ先輩を見上げてる。
「事後処理洗脳、お願いするわね。それじゃ。」
それだけ言って、リタ先輩は来た道を戻っていく。
ユミ先輩は腕を掴まれて一緒に連れられてる。鳥女以上に滝汗をかいてた。このあとどうなるんだろうな。知らねぇけど。
何の騒ぎだと空を見上げる一般人達の横を抜けながら、オレは思う。
(リタ先輩、接近戦もできるじゃん…。
今朝の戦い、やっぱりオレ要らなかったやつ…。)
(そんなことないですわ~。先輩さんは『消費が少なく勝てた。』って言ってましたわ? あの凄いパンチ、魔力いっぱい使ってましたわ~。)チュ~…
(それって意味有る…? いや、有るのは有るのか。)
(ですわ~。配分を考えて長く戦える方が、生き残れるのですわ~。)
そう言うもんか。確かにガス欠したら、終わりだもんな。
大先輩の名前は飾りじゃない。改めて、そう感じた。
オレももっと、強くなりてぇなぁ…。
次回っ! 強さを求めるカシュウはスクルの下を訪れる! 「もっと魔力が欲しいんだ。だから、その、オ、オレを『大人』にして──「誰がそんなこと言うかボケェッ!!?」特大火炎拳ドーンッ!!
「ジジチュ!」嘘予告はムシャムシャ砕きますわぁ~っ!




