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12. カイラスside.バルコニー

そもそも、精人族の宝物にある名剣を手に入れるため、この宴席には出席したのだ。

大臣や家臣たちの無駄口に付き合うくらいなら、魔物相手に剣を振るっていた方がマシだ。


剣に対する興味もつい失せて……まだ、しつこく話しかけてくる大臣を一蹴し、さっさと席を立ち自室に戻ってきた。


まだ、広間では宝物を肴に、酔っ払った、家臣たちで賑わっている事だろう。


そもそも、娘に近づいたところで、俺は何を話しかけるつもりだったのか……。


娘の挑むような横顔、僅かに垣間見えた安堵の表情を思い出すと……得体の知れない不快感が、腹の底から喉元まで湧き上がった。


グラスに並々と酒を注ぎ、喉に一気に流し込む。

ソファに腰掛け、気を落ち着かせようとするが……いつまでも気持ちは晴れない。

バルコニーに新鮮な空気を吸いに出た。


しばらく考え込んでいると、突然物音が聞こえた。

横を振り向き、その姿を目に捉えて……瞬間、息を止めた。


隣のバルコニーの扉がゆっくりと開かれて、そこから姿を表した人物こそ、先程から自分の思考を支配したまさにその人だった。


白く長い髪が、風に吹かれ……宙に舞っている。

細い肩紐から伸びる華奢な腕。

透き通るような肌は、夜の暗がりの中でも、月の光を集めたように輝いていた。

少し困ったような表情をして、顔にかかった髪を払い、耳にかける。


その姿は、変わらず辺りを気に掛けるそぶりもなく、ただ、月明かりの中で、照らされた娘は……先程とは別人のように、自身無さげな、暗い表情を浮かべていた。


突然のことに驚きはしたが、冷静さを取り戻し、そのまま静かに息を押し殺す。

もしこちらを見て、目が合えば……驚くのではないか。あの娘を無闇に驚かせたくはない。


気配を殺して、立ち去ろうとした、その時だった。


バルコニーの柵に近づき、大きく身を乗り出した彼女が身体を下に屈めた。


(落ちるっ!)

瞬間叫びそうになった!


上体を後ろに逸らし、柵から後ずさる彼女を見ても……破裂しそうなほどに高まった動悸が収まらない。


(なんだ今のは!? 身を投げようとしたのか?)


娘は、そのまま後退り、ベンチに腰掛けるとおそらく身を横たえたのだろう。

こちらからは、見えなくなった。


なぜ隣の部屋に?

主塔の3階、大廊下を進んだ最奥にある自室。

その自室と、控えの間を挟んですぐの『賓客のための部屋』が、彼女がいたバルコニーへと続く部屋だ。

そこは本来、信頼に厚い諸侯や、傍系の血筋の者に充てがわれる部屋だ。


理解できない現状に、次々と疑問が湧きあがる。

何よりも先ほどの娘の姿態が脳裏から離れない。

不快に背中を伝う冷や汗……。未だ激しく打つ鼓動を抑えようと、深く息を吐き、部屋に戻る。


そこに扉を叩く音がする。

返事をするや早いが……興奮した侍従が駆け込んできた。


「いつの間にお戻りになられたんですか?! いやはや! 宴は精人族の姫の舞でもちきりですね!

殿下もご覧になりましたよね?! 宝物もまぁ見事で! じっくり見ていたら……気づくと殿下がいらっしゃらなくて! 慌てましたよ~あはは」


軽口を叩く侍従は、よく気が利いて有能ではあるが……随分なおしゃべりだ。

これでも本人は自重しているつもりらしい……。

全くどうして、こいつを侍従に選んだのか……今ほど悔やんだことはない。


厳しい視線を向けるが……おしゃべりは止まらない。

ため息をつき、酒を準備するように伝える。


「そういえば。姫様は今宵、床入りされるそうで。側室として、順調に迎えられればお立場も安定しますし……一安心されていらっしゃることでしょうね」


振り返ると、侍従が腕にぶつかった。

こちらに差し出したグラスの酒がこぼれ……足を濡らす。


『今なんと言った?』


襟を掴み、見下ろすと……侍従は血の気を失い、何のことかわからないと言った様子で……肩をすくめ、押し黙った。


手を離し、その身体を押し退ける。……衝動のままに扉を開け放ち、真っ直ぐに王の居室へ向かった。

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