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史上最強の4匹  作者: カイワレ大根
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59/59

59話 夏に山

「夏休みじゃッ!」


オルカ先生が最後のホームルームを取り仕切る。


「皆、土産話、期待しておるぞ!宿題と共に!」


宿題の内容は至ってシンプル。日記と自由研究。以上。


「解散!」


その号令と共に、宗司たちは夏休みに入った。いつも通り、豪傑である。


「・・・」


宗司のこれまでの夏休みは、基本的に夏季講習か稽古事。親の理想のために動かされる日々であった。それで疲労は感じず、つぶれる事も無かったが、過酷な日々ではあった。

それが一変、自由。何をするかを自分で選べる。しかしだからとて、何ができるか、何をしてよいか、よくわからない。

しかし、忌避すべきものは、宗司の中で明確に決まっている。―――日々を無為に過ごす事。

幸いにも、やりたいこと、試したいことはごまんとある。

故に、この空前絶後の暇な時間で―――


「そうじ~」


世界を楽しむかのような声音。どうやら暇な時間はそれほど多くないかもしれない。


「ああ」


宗司が振り返れば、短い金髪を揺らしながらコバンが駆け寄ってきていた。


「夏休みだね!」


目を煌めかせながらわかり切った事実を声を大にして宣う。宗司は嫌な予感がした。


「宗司は何か予定あるの?」


この先は読めている。そして、宗司はそれを避ける方法は、未だ見いだせてはいない。


「体、魔、魂トレをやって、山走って、筋トレ。あと―――」

「トレーニングだけ?遊ばないの?」


トレーニングのやり方は至ってシンプル。とにかく限界まで使う事。意図的に浪費させることで、自分の中の力の総量、出力、回復力を高めていく。その鍛練の合間に、効率を高めるための、技の幅を広めるための知識、技術を修めていく。

一日中、休み中延々とこれのみを行うわけではないことは分かっているが、宗司の回答に、コバンはつまらなそうな、どこか憐れむような顔をした。


「じゃあ、暇だね。旅行行こう」


そら来た。


「いつも通りよろしく!」

「いつも通りって、、、」

「クハチと同じだよ」


ゲーム内ではこういうことがよくある。時間が出来たら、何かしらのイベントに参加する。そしてその参加するイベントの厳選と予定の作成は宗司が行う。コバンはお金を出すだけ。

一度やる気が起きず、拒否したところ、コバンがキツめのイベント、ふた山にわたって行う銃撃戦や、四チームに分かれて戦う宇宙戦争、上級相当のNPCに十勝しないと出れない塔などに参加させられた。別に嫌では無かったが、かなり疲れた。


「そんなこと言ったって予算は」

「私資産1000万通あるから」

「・・・そっか」


今まで旅行はゲーム内だけ。ゲーム内では湯水のごとくお金を使っても、それ以上に帰ってくることはままあり、それなりにため込んでいるが、今回は現実。いろんな憂いを抱えた宗司がそれ等をコバンに問おうとした瞬間に、コバンの口から明かされる事実。その一言だけで、ゲームと同程度の感覚でいいだろうということが分かった。


「どうするか」


宗司は冷静につぶやくが、その口端は少しだけ上を向く。正直、こういう自分で計画を立ててそれを実行するのは宗司にとって楽しい事ではあった。特に、旅行の計画は。

今まで宗司は周囲の期待通りに生きてきたため、自分で方針を決めるということがほとんどなかった。やってみたいことがあっても、周囲の気体と違うからと、諦める事もしばしば。その内、挑戦心が薄くなっていった。

が、こっちでは基本的に自由。


「ここで考えても仕方ないか」


宗司は自分でも気付かないほど小さく、しかし確かに、胸を躍らせながら帰路についた。


「なんだ?あいつ、今日かなり機嫌イイな」


そんな宗司を見かけたクラスメイト、カジキが少し驚きながら報告する。


「彼女と話してたからだろ?」


宗司の心理を推察してカジキの疑問に答えたのは、一緒にいるカジカだった。彼らは小学生以来の幼馴染であるため、比較的一緒にいることが多い。


「へ~、彼女ってそういうもんか。俺できた事ねえからわかんねぇ」

「俺もよ」


そうして二人して大笑いする。


「相変わらず毎日が楽しそうに羨ましいね~」

「なんでもいいからさっさと行こうぜ」


そんな二人を見て薄ら笑いを浮かべながら、どこか含みのある言い方で二人の行動をほめるヒラマサと、それら一切にそこまで興味なく、目的の物に早くたどり着きたいと、皆を促す、釣り目の女性、宗司と真司のクラスメイトのチカは、みんなでアミキリの家に向かっていた。


「おお、ワリいワリい」


軽薄な謝罪とともに、彼らは再び進み始める。アミキリの家はそこそこの距離だ。

彼らは場所も知っているし、瞬間移動の術も備えている。しかし彼らは歩いていく。瞬間移動をしてしまったら、こうやって駄弁れないから。


「ピンぽーん」


アミキリの家に着くなり、インターホンを押すと同時にカジカが口でもベルを鳴らす。


「はいよ」


インターフォン越しにアミキリが彼らの存在を確認し、部屋の中へ上げる。


「やっぱ、ひれーなー!」

「な、流石勇者の末裔」

「何百年前の話だよ」

「ハハッ」


カジキとカジカが囃し立てると、チカがツッコむ。アミキリはそれを聞いて笑った。


「よし!まずはゲームだ!荷物はその辺でいいよ」


アミキリは部屋に入るなり、コントローラーを掲げて宣言し、そのままコントローラーで部屋の隅を指す。アミキリが掲げているのは、その世界ではレトロの部類だが、宗司たちの世界では最新、いや、近未来のゲームだった。


「しっつれいしまーす!」


カジキたちは荷物を邪魔にならないところに置くと、コントローラーを受け取り、画面に向かう。


「何年ぶりかな。これを握るのは」

「負けたやつどうする?」

「おやつ何か御馳走で!」


カジカが罰ゲーム性を提案し、カジキがその内容を提案する。皆、それでいいと頷いた。


「キター!」


ゲーム内容はパーティーゲーム。カードを引いて出た目の数字分だけ進めるが、そのカードに書かれているミッションにチャレンジ、成功すると、倍進める。ただし、失敗するとペナルティーカードを引く事になる。

よく性格が現れるゲームだった。


「これは無理」


アミキリは出来る事と出来ないことを見極め、堅実に駒を進めていた。


「ああ!!しくったー!」


カジキはどんな課題でも挑戦し、駒を薦めつつ、あらゆるペナルティーを背負っていった。


「ここで一発逆転じゃー!」


このゲームはカードを引くだけでなく、止まったマスによってもイベントが発生する。

そのイベントによって、相手、又は自分の駒の位置を変更したり、ペナルティーの数を変更したり出来る。

カジカは少々ギャンブラーなところがあった。


「残念♪上手くいかなかったみたいだね♪」


ヒラマサはカジカの挑戦を華麗に受け流す。


「あ゙あ゙ぁぁぁあ」


勢い任せで立ち上がっていたカジカが膝から崩れ落ちた。


「バカかよ」


そんなカジカに、チカは呆れ果てた。


そんなこんなで時間は流れた。

学校から帰り、また集合し、アミキリの家に来て数時間。もう、晩御飯の時間である。


「じゃあ、よろしく」


食事内容はいたって普通。主菜副菜が大皿に乗せられ、、主食と汁物が個々に配られる。どれも宗司たちの世界には存在しない食糧から作られているが、味は折り紙付き。彼らは美味そうに食事を終えた。


「クッソ~」


そして食事を終えたら、次はデザートだ。渋々カジキが席を立ち、調理場へ向かう。

パーティーゲームの他、レース、謎解き、あらゆるレトロゲームを嗜んだ後、最終的な結果として、カジキが罰ゲームを受け、デザートを作る羽目になった。


「適当でいいよな!」

「ああ」

「なんでもいいわ」

「シェフのお任せで!」

「♪」


カジキの問いかけに、皆各々が肯定する。


「材料も適当に使っていいから」


アミキリのお墨付きも得たことで、カジキは早速作業に取り掛かる。混ぜ、焼き、冷やし、冷まし、振るい、飾り付ける。


「できたぞー」


物の数十分でケーキが登場する。といっても、皿に出されるホールタイプではなく、カップケーキを人数分出されたのだが。しかしそれでも、本来ならばこんな短時間で完成するものではない。当然、結界、属性などの術を使ったのだ。


「じゃ、あらためて、いただきまーす」


カジカは箸をケーキに突っ込む。持ち替えるのが面倒らしい。


「う、うめー!!」


そして大げさなほどの歓喜の声を上げた。

カジカだけではない。皆その味を高評価、若しくは黙々と食べる事に集中している。


「ご馳走様」


食事を終えた一同は読書をしたり、順番に入浴したり、アミキリ家の中を探検したりと、就寝までの暇を楽しく潰していた。家は当然として、風呂も書斎も広く、飽きる事が無かった。

今日間皆泊りで、明日の朝から鍛練を行うのだ。


「じゃ、おやすみ~」


いの一番に就寝したのはヒラマサだった。


「あたしも寝るわ」


続いてチカも、その鋭い釣り目をこすりながら寝室へと入っていった。


「おやすみー!」


他3人はしばらく遊んでいたが、日をまたぐ前に布団にもぐる。


数時間後、朝の鋭い陽光がアミキリ家を照らし出した。


「かっあ~」

「おはよう」


大きな欠伸をしながら男部屋から出てきたカジキをアミキリが出迎える。


「早いな。んでストイックだな」


カジキたち男子たちが眠っていた部屋の目の前には荘厳な庭があり、そこには昨日までなかった分厚い壁と、それをきれいな姿勢で殴りつけているアミキリの姿があった。


「ふぅ、今日のノルマ終わり」


アミキリが日課のトレーニングを終えると、鉄壁は地面に沈む。土属性魔法だ。


「あと一時間したら朝飯。それまで自由にしてて」


アミキリが汗をぬぐいながら軒先に上がり、カジキの横を通り過ぎる。


「うい~っす」


アミキリから予定を聞いたカジキは、そんな力ない返答で応じた。

ただ、一時間など、あっという間である。5人は食事を終え、玄関前に集合していた。


「さて、じゃあこれから魂力のトレーニングをしていくわけだけど、準備良い?」

「ウっス!!」

「オナシャッス!!」

「声でか」


アミキリが皆に確認すると、カジキとカジカはとんでもない声量で応答する。そして、チカは真横でそれを聞いていたため、顔をしかめた。


「いや~、みんな遅くまで起きてたのにお目目パッチリでよかった~」

「もうちょい寝たかったけど」


チカがヒラマサの発言にそう返す。それは今眠い故の発言ではない。寧ろ目はさえている。

一番早く寝ていたはずのヒラマサがカジキたちの就寝時間を知っているかのような発言をするが、皆慣れているのでスルーする。


「ま、魂力のトレーニング言ってもみんなやる事やってるからね。僕らが持ってる土地に出る呪霊やら幽霊やらを退治するだけだけど」


ヒラマサが今日の予定を補足した。日々魂力の基礎的なトレーニング、簡易な結界術や式神術、身体強化などを行っているため、後は実践あるのみ、という事だ。


「といっても君らは特に覚えが早かったからね、みんなより一足先にって感じかな」


今日ここに参加していない人たちは、まだ結界術や式神術、魂力操作を使える段階であるが、カジキ、カジカ、チヌ、言わずもがなアミキリ、ヒラマサはある程度、使いこなせるレベルになっている。


「てなわけで、やってきました裏山!」


アミキリは瞬間移動で自分の家が所有する山の麓に皆を召喚する。

そして自分の山を大々的に紹介した。


「こないだ霊脈を整えてね、後は呪霊を討伐するだけなんだ」


霊脈を整地するのは生半可の事ではない。しっかりとした知識と道具、技術と人手を用いて行い一大事業だ。宗司たちの世界で例えるのであればダム造りが近いのではないか?


「へ~。、、、どっからどこまで?」


雄大な山麓を目の前に度肝を抜かれていたカジキが、ふとそんな疑問を口にする。


「そうだね、大体ここから」

「うんうん」

「あの山とあの山までだね」


そう言ってアミキリは目の前の山に隠れている山の山頂を指さした。


「・・・なるほどね~。広いわ!広すぎるわ!」

「いやいや、全部やるわけじゃないから、時間で区切ってるから」


カジカに胸ぐらをつかまれたアミキリは必死に弁明する。

そんな二人をヒラマサは面白そうに、チカはめんどくさそうに見ている。カジキは山しか見ていない。


「ま、そんなことしててもしょうがないでしょ。さっさとやってしまいましょ~」


そんなヒラマサの言葉で一同は山の中へ足を踏み入れる。

踏み入れた途端、異形の存在が、彼らに襲い掛かった。


「早速」


しかしその異形共は不可視の壁に阻まれ、あるいはいきなり発火し、あるいはひねりつぶされ、成す術無くこと切れた。


「ま、そんな感じでよろしく!5時間後にここに集合で!弁当は持ってるでしょ?」


アミキリの指示、確認を受けた一同は、それぞれ別々の道に分かれた。ここはアミキリの家の敷地内。学生が一人で入っても危険では無かった。


「しっかし広いな」


それゆえ、カジキはそんな暢気なことを言いながら山中を走ることが出来るのである。


「ッと、あぶね」


死角から飛んできた呪霊をカジカは難なく避ける。

樹々を薙ぎ倒し、その巨躯を持ち上げ、支えるのは十二対の脚。八つの目を持つ異形の、蜘蛛形の呪霊は、キチキチという不気味な音を鳴らしながらカジキと相対する。


「1、ってとこか。まあ、これくらいなら」


カジキは目測で相手の脅威度を測る。単独で十分対処可能な相手だった。


「キ?」


蜘蛛の呪霊は戸惑う。いや、いきなり目の前の相手の外観が変化すれば、呪霊でなくてもそうなるだろう。


「―――」

「てい」


尾の一振り。それだけで蜘蛛は散った。

竜の尾だ。それはカジキの腰から生えている。カジキの固有回路『獣人化』によるものだ。


「朝の閃竜のステーキ、美味かったな」


その名の通り瞬きにも満たない攻撃で獲物を仕留め、身を守る竜種。狩りの方法はじっと身をひそめ、獲物が来るのを待つスタイル。肉は適度な脂と赤身がうまく、かなり人気の食材だ。ただ、それを朝からステーキで食うのは、若者の特権なのだが。


「うし、次だ次」


呪霊の体が崩れ始め、唯のエネルギーに還り始める現象を確認すると、カジキは次の得物を探す、というほどでもないが、当てもなく山の中を散策した。

当然ながら、他のメンバーの心配など、微塵もしていない。


「ウオ―!すげぇぇ!滝だ!あいつらに教えてやらねえと」


ただ、それは気にしていない訳では無かった。


「温泉か。マークしといて終わったらあいつら呼ぶか」


そしてそれは、他のメンバーも同じだ。チカは足湯の中に手を突っ込んで温度を確認する。

適温だ。

そのことが分かれば、ここに居る意味はないと、チカはその場を後にする。


「ん?」


しばらくすると、音、いや、声が聞こえてきた。歌声だ。クオリティはそこそこ。


「こっちか」


独り言をつぶやきながら、チカは歌い手の方に進む。まあ、歌い手がどんな奴で、何故歌っているかは想像がついているが。


「やっぱりか」


そいつは切り株の上に腰かけていた。その妖艶な唇としなやかな手指を用いて、楽しそうに歌う、目の無い人型の、呪霊。

詩を楽しむこと以外をそぎ落としたその体は、立つことすらできないだろう。


「まあ、いいか」


呪霊は、魂力が固まり、自立して動く半生命、生物の亜種。一時は生物の成り損ないとも言われていた。その評価も、当たらずも遠からず。呪霊は魂と近い。

魂力は普遍に存在しているが、その濃度は低い。魔力、魔素と比較すれば、無いといってよい。大抵が生物の魂として存在している。感情の発露によって、空間中に微量に漏れ出たのがそれだ。

が、魂力には意思は無くとも、本能のようなものがある。似た性質の魂力は集まろうとするのだ。怖いという感情から漏れ出た魂力は似た感情から漏れ出た魂力同士で、楽しいという感情から生まれた魂力もしかり。

チカの目の前の呪霊は後者。放っておいても害はない。いずれ消える。


「ふう」


ただ、チカは近くの幹に体を預けた。別に聞き惚れているわけではない。


「せい!」


瞬間、陰から飛び出し、唄う呪霊に飛び掛からんとした別の呪霊を、チカは吹き飛ばす。


「海外産だな」


嫉妬の呪霊。呪霊は食事の必要が無い。只生まれて、適当に欲を満たして、消える。今のは、楽しんでいるやつを害したいという欲求から来たのだろう。

チカは、まるで何事も無かったかのように、世界的アーティストが作曲した曲をこれまた何事も無かったかの如く歌っている呪霊の近くに佇み続けた。

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