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史上最強の4匹  作者: カイワレ大根
22/52

22話 隠し事は通用しない

宗司、真司、凛花、正也、この4人に限らず、たいていの人間は何かしら、その人にしか分からない事情や悩みを抱えているものだ。それは、どの世界に生きていようと関係ない。

しかし、その解決方法は千差万別だ。異世界から来た4人は自分の悩みを外に出さず、自分自身の力で解決しようとする、もしくは時間が解決しようとするのを待つ、という解決方法を取った。

それに対しアミキリ、というか海の国の人々は、すぐに周りに相談する、できなかったとしても、時間に任せずに、さっさと解決しようと早急に行動するという解決方法を取る人が大半だ。


将来に不安を抱くというのは、将来に無限の可能性を持つものならばほぼすべての人に共通するだろう。海の国の若人はそんな悩みでもすぐに解決したがる。そのため、多くの若人の需要のある、国や大企業と強いつながりのある「高専」や「専門学校」が大学や高校よりも数を増やすのは当然の結果だった。


さて、話を戻すがアミキリは4人の行動に対して素直に称賛していた。


「君たちはみんなそうなの?」


真司、宗司、凛花の3人は質問の意図が分からず、少しの間、沈黙してアミキリのほうを見ていた。


「と、言うと?」


真司がおそるおそるアミキリに質問した。

年下相手にここまで緊張したのはいつぶりだっただろうか。確か、ひょんなことで学生起業で成功を収めた大学生と商談するときがあったが、そのとき以来だろうか。それとも、中学生相手に美人局されそうになった時以来だろうか。あの時はまだ自分も高校生で、とても怖かった記憶があるが、今考えるとよく中学生が美人局なんてしたもんだと感心する。

なんてことを真司が考えていると、アミキリはいきなり自分の固有回路について話しだした。


「俺の固有回路は『感覚鋭利』。俺と触れた相手の感覚を鋭くさせることができる」


いきなりそんなことを話されて3人は困惑した。

以前にナガツカ将軍から「固有回路はあまり人に話すな」といわれていたので、こんなにあっさり話すアミキリの意図が分からなかった。


「そして俺はさっき、宗司君に対してそれを使ったんだ。今の宗司はデコピンですら骨折するほどの痛みに感じられるはずだよ」


アミキリはそう言って宗司のほうを見た。宗司は相変わらずアミキリのほうをにらんでいたが、アミキリはそんな宗司に対してにこにこと笑顔を浮かべていた。


「だ、大丈夫?」

「もしかして、さっきも、下手に触らないほうがいい?」


アミキリから宗司の状態を聞き、凛花と真司は宗司を心配したが、不用意に当たらないよう距離を取った。


「ああ、心配な、い!」


そう言い終わる直前、アミキリは肘を引き、宗司に向かって拳を突き出した。

拳は宗司に当たる直前急停止したが、片膝立ちから立ち上がろうとしていた宗司は後ろに転んでしまい、腰と尻にとても強い痛みを感じた。


「い、一条さん!」

「なにすんだアミキリ!」


宗司は痛みを押し殺すために声を上げることすら我慢していた。

そんな宗司に代わり、真司がアミキリを責めた。


「さっき投げ飛ばすときに俺の体力を分けて耐久力と回復力をあげて、魔法で宗司君の防御力をあげたから傷やけがは一切負わないよ」

「そういう問題じゃ」

「しかし、やっぱりすごいね」


真司の話を聞かず、アミキリは再び宗司のことを称賛した。


「何が、ですか?」


今度は凛花がおそるおそる質問した。凛花にとって、アミキリは過去に数度あったことがある程度の人。かなりの警戒心をあらわにしていた。


「俺の固有回路にかかっているのに声一つ上げないところとかだよ」


そう言ってアミキリはその場にしゃがみ、いまだ尻もちをついている宗司と目線を合わせた。


「大した演技力だなって」


そう言ってアミキリは人差し指をあげた。すると宗司は急に全身の痛みが取れ、スッと立ち上がることができた。

宗司は手を握ったり開いたり、さっきまで痛みがあった個所を触ったりして自分の体の状態を確かめた。


「大丈夫なのか?」

「大丈夫、痛みが引いた」


それを聞いて真司はほっと息をついた。

宗司はアミキリに視線を戻し、「それで」といって質問した。


「演技力ってどういう意味?」


アミキリはさっき、”大した演技力”と言っていた。忍耐力や根性ではなく。

宗司はその言い回しに違和感を覚えた。


「そのままの意味だよ?」

「いや、痛みを我慢するんだったら忍耐力とかじゃないか」


宗司の代わりに真司がアミキリに指摘した。

しかしアミキリは間違っていないと、その指摘を否定した。


「だって宗司君、俺たちのこと見下しているよね」


そしてさらっと爆弾を投下してきた。

真司と凛花は「何言ってるんだ?この人」と、純粋な疑問を抱いた。

宗司は動じることなくアミキリを見ていた。


「それって、どういう意味?」


宗司の質問に、アミキリは顎に手を当て、天井を見上げて考えた。


「いや、違うか。俺たちじゃなくてそっちの3人かな。俺たちに対してはただ距離を取っているだけだね」


それを聞いた宗司は息が詰まった。心臓を鷲掴みされたような気分だった。しかし、表面上はあくまで冷静を装いまっすぐにアミキリを見つめ、次の言葉を考えた。


「何言ってるんですか。私たちはこの世界に来た時からみんなで協力してやってきたんですよ」

「そうだよ。いくらアミキリでもそれ以上侮辱するなら許さないよ」


宗司の代わりに凛花と真司がそう言ってアミキリに反論した。


「別に協力したからって、そこに絶対の信頼関係が結ばれるわけじゃないでしょうに、ビジネスライク的な関係やギブアンドテイクの関係でも協力はできるよ」


そういうアミキリに真司は我慢できずアミキリの元へ歩み寄り、その胸ぐらをつかんだ。

アミキリは一切抵抗せずになされるがままだった。


「いい加減にしろよ。だいたい、何の根拠があってそんなこと言ってんだ」

「魂力だよ」


凛花、真司、宗司は声のしたほうを振り向いた。アミキリの代わりに答えたのは、4人が話している間も動かずにそこにいたアジアキだった。


「授業でやっただろ、魂力、精神エネルギーは感情によって出力が変化する。だから、体から漏れ出る精神エネルギーの量や出力の波を見れば、その人がだいたいどういう感情なのかがわかるんだよ」


そう言ってアジアキは宗司を指さした。


「俺らが最初に鈴木とお前を選んだのは適当じゃねえ。お前らが4人の中で俺らのことを舐めてたからだ」


アジアキがそういうと気絶している正也の体が宙に浮かんだ。

どうやらアジアキが魔糸とやらを使って浮かせているようだった。残念ながらまだ3人に魔糸は見えないが、まるで見せるようにアジアキが指を動かしている。


「こいつは典型的だな。今まで知らねえ力を知ったから調子に乗ったタイプだ。でお前はハナから人を見下してるタイプだろ」


そう言ってアジアキは正也をゆっくり下ろし、3人のほうを見てハッと息を吐いた。


「お前が異世界で優秀だったのは知ってるよ。アミキリから聞いてたからな、要領がいいって。だが人を見下すのはいただけねえな、オイ」

「興奮しすぎだって」


段々口の悪くなっていったアジアキをアミキリが止めた。

アジアキはアミキリに指摘されると、ふう、と息を吐いて黙った。

アミキリは宗司のほうを見て話し始めた。


「別にそれが悪いって言いたいわけじゃないんだ。君は心の中で見下しても、距離をとっても表面上は俺たちと仲良くして、特に空気を悪くしているわけじゃないしね」


そう言ってアミキリは真司の肩をポンポンとたたいた。すると真司はゆっくりとアミキリの胸倉から手を離した。アジアキは「そうなのか?」といってアミキリのほうを見た。


「さっきも言ったろ?俺たちは距離を取られているだけ。それに見下して理由も距離を取る理由もストレスからくるものだろ?」

「・・・そうなのか?」


真司は宗司のほうを見て問いかけるが、宗司は認めなかった。


「さっきから、何を言っているのか分かんないよ。僕は別に距離を取ったつもりも、見下したつもりもないんだけど」

「でも図書館で本読んでた時はかなり穏やかだったよね?」


ふいにアミキリにそういわれ、宗司は少し動揺した。


「ま、まあ本好きだからね」

「そうだよね、スズキとも楽しそうに話していたし」

「・・・どこまで見てるの」


宗司は、ふーっと息を吐いてそう質問した。


「隣に座ったこともあるんだけど、気づかなかった?」


アミキリは首をかしげて、宗司の質問に質問で返した。

宗司がなんて言おうか迷っていると、アミキリは再び話し始めた。


「まあ、そこまで否定するなら大丈夫だよ。詮索するようで悪かったね」


そう言ってアミキリは宗司の目をまっすぐ見て「すまない」といった。

いきなり話を終わらせられて、謝られ、真司、宗司、凛花は何も言えず、アミキリの後頭部を見ることしかできなかった。


「もう十分たっているし、次に行こうか」


アミキリは頭をあげて、次の人に交代させようとしたが、アジアキがそれに待ったをかけた。


「俺もすまなかった。早とちりしちまって、怒鳴っちまって」


そういってアジアキもアミキリと同じように謝った。


「いや、俺も断片的にしか説明してなかったしね。ストレスとか、人間関係のトラブルがあるといざというとき二の足を踏むことになりかねないからさ。まあ、ここまで貫いているなら大丈夫でしょ」

「でも切羽詰まると怪しくなかった?」

「あのくらいなら問題ないよ」


アミキリとアジアキが何を言っているのか凛花と真司は分からず困惑した。

ただ、宗司が自分たちを見下していることは否定されていない。まるで宗司がいやな奴だが、俺たちがそれを許しているというほうに聞こえて、気分が悪くなった。


「お前なあ、それ謝っているのか?!宗司が俺たちを見下しているっていういわれもない―――」

「もういいよ」


興奮する真司を宗司が制した。

真司が宗司のほうを振り返ると、宗司は下を向いてため息をついた。


「もういいってなんだよ。こいつらはお前のことを」

「そういうのもういいから。気持ち悪い」


宗司のいきなりの態度の変化に真司と凛花は困惑した。


「正直、俺はお前らのことを見下してたよ。物覚えが悪い奴だなって。それ以前に、お前らのこと煩わしく思っていたよ。俺は一人でいるほうが断然好きだからね」

「・・・で、でも、アトキ国から逃げるときに協力し合ったじゃない。そのあとの、ことだって」


次々と宗司の口から出た本音に理解が追い付かず、上手く言葉が出せない凛花と真司。

そんな2人に宗司は冷たく言い放つ。


「あれはそうしたほうが逃走成功確率が上がると思ったからだよ。そのあと、具体的には寮に入ってからは正直話しかけられても鬱陶しいだけだったよ」

「俺、何か気に障ることでもした?」


真司が、少し寂しそうに宗司に質問すると、宗司に代わりにアミキリが答えた。


「人と関わるのが好きじゃないんでしょ。たまにやった勉強会みたいなやつにもあんまり乗り気じゃなかったし」

「そこまでわかるんだ。魂力はカマかけかと思ってしらを切りとおそうと思ってたんだけど。前やった授業もみんなうまくいったなかったみたいだし」

「あれはあの紙が特殊なんだ。あとで先生に聞いたら、もともと魂力を通しにくい性質だったのに加えてある一定範囲でしか光らないような回路が組み込んだんだって。しかもその範囲は毎分変わるおまけつき。ケルナー先生は性格が悪いね」


アミキリはそう言って笑っていたが、真司や凛花はそんな笑い声は聞こえていないようだった。

真司は宗司を見て質問した。


「一条、正直に答えてほしい」


宗司が真司のほうを見ると、真司は一呼吸おいて宗司の目をしっかりと見つめていた。


「迷惑だったか?・・・仲良くなろうと、いろいろ誘っていたけど、誘わないほうがよかったか?」


宗司の答えを、真司と凛花は固唾を飲んで待った。


「別に、迷惑だと思ったことはないかな」


その言葉を聞いて安心したのもつかの間、続く言葉に凛花と真司はかなりショックを受けた。


「つまらない、とはいつも思っている」


少しの間、沈黙が流れた。

真司も凛花も、アミキリもアジアキですら話そうとはしなかった。


「急に本音を話すようになったね」


アミキリが沈黙に耐えられなかったのか、それとも宗司を責めようと思ったのか、そう声をかけた。


「もともと人間関係を悪くしないようにするために愛想よくしてただけだからね。みんなに俺の感情とかがばれているんだったら、わざわざ疲れる演技するほうがバカみたいだからな」


宗司の答えに、微笑みながら「フーン」と答えた。アミキリはどこか嬉しそうだった。


「じゃあ、そろそろ再開しようか」


アミキリがそういうと正也の体が浮き上がり、そのままジムの壁際まで飛んでいった。


「さ、再開って」


真司と凛花がぽかんとしていると、「さっさとしろ」とアジアキが凛花を呼んだ。


「時間は有限。だけど君たちの力は発展途上。少しでもこの世界の人に追いつきたいといったのは君たちでしょ。悩むのはこれが終わったらだよ」


アミキリがそういうと凛花と真司の体が引っ張られアミキリとアジアキの正面まで連れてこられた。


「アミキリも魔糸、使えるんだ」

「これは初歩の技術だよ」


そうして実践訓練が再開した。

最初、気持ちの落ち込みとアミキリ、アジアキの予想外の強さに、真司、凛花ともに攻めようとしなかったが、すると今度はアミキリ、アジアキのほうから仕掛けた。

彼らはなんと、空を殴り、その衝撃波や空気圧で攻撃してきた。

遠距離では殴られる一方なので、距離を詰めた2人だったが、だからといって何かできるわけでもなく、真司は宗司と同じように止められ、投げられ、打たれと散々だった。結局3分も立っていることすらできなかった。

凛花のほうは、真司と同じように手も足も出なかったが、真司や宗司に比べ、戦いが長引いている様子だった。


「武術やっているのか?」


アジアキは唐突に凛花に尋ねた。


「ここに来るまでは」

「なるほど、やっぱりか」


凛花の答えを聞いて、アジアキはどこか納得した様子だった。

他の3人と比べ、戦い方が素人のそれではないという。

しかし、そんな凛花でも、次の一撃で終わってしまった。

アジアキは正確に凛花の鳩尾に一撃を入れたのだ。凛花、正也は結局、最初の一戦でまともに戦うことができなくなり、帰り際までジムの隅で休憩していた。


逆に真司と宗司は、派手に転ばされることはあっても体に重大なダメージはないため、10分交代でぶっ通しで最後まで戦わされた。つかれたといって10分以上休憩しようとしても、さっきの遠距離攻撃が飛んできて、休ませてはくれなかった。


真司は最初、相手がアジアキでなくてよかったと思っていたが、帰り際にはアジアキのほうがよかったとすら思っていた。


「じゃあ、今日はそろそろ帰ろうか。帰ったら体力、魂力、魔力を巡らせる練習しなよ」


アミキリのその合図で6人は帰宅した。

しかし、6人とも変える方向が同じだったため、少し気まずい空気が流れていた。


「なんでそんなに落ち込んでるんだ?」


沈黙に耐えられなかったのか、帰り始めて数分後、アミキリがそう切り出した。


「負けたのが悔しいってわけじゃないでしょ。悩みはさっさと解決したほうがいいぞ」

「別に、今までかなり仲良くなったと思ってたけど、実際はそうじゃないってことが分かったから落ち込んでるだけだよ」


アミキリの陽気な声とは対照的に、真司の声はかなり暗かった。

また、宗司は無言で歩いている。特に気まずそうにする様子もなかった。むしろ気楽そうですらあった。


「別に良くない?ビジネスライクな関係。普段はかかわらないけど仕事や任務のときにそつなく協力する。かっこいいね!」


そう言って真司に向かってグッドマークを作ったアミキリだが、真司はもはやあきれるしかなかった。


「そういうことを言っているんじゃないんですよ」


真司の代わりに凛花がため息交じりにそういった。


「もういいだろ。別に今すぐお前らを殺そうとも、見捨てようとも、いじめようとも思っていない。ただこれからは俺のやりたいようにやるだけだ。まさか子供みたいに会う人会う人みんなとお友達になりたいなんてこと言わないだろ」


宗司と凛花の態度と言葉に宗司はいらだち、あきれ果てたようにすらすらと言った。


「まあ、人の生き方はそれぞれだ。迷惑をかけていないならその生き方を尊重するというのが人として大事なことなんじゃないかな」


突き放すような言い方をした宗司の言葉を、アミキリはがフォローした。


情、思い、それらは一度さしだせば返ってくると、帰ってきてほしいと期待するのが人というもの。その期待が外れる、裏切られるというのはとてもつらいことだ。

しかし、アミキリの言葉も大人として人と関わるときには大切なことを示している。

真司はそう考え、深呼吸をして顔を上げた。


凛花も似たようなことを考えたのか両手を思いっきりたたき、祈るように手を握った。

パシーンという高い音が響き、驚いたアジアキ、アミキリ、宗司が凛花のほうを振り返った。


「どうした?」

「気持ちを切り替えたところです」


アミキリは、「そ、そうか」といって前を向いた。

もう寮まであと少しだった。そして


「・・・う、ここは、、、?」


ようやく真司の背で寝ていた正也が目を覚ましたのだった。

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