大反攻①
【1943年7月20日 北アフリカ戦線 ドイツ・アフリカ装甲軍団】
アメリカ軍は散発的にカセリーヌ峠を襲ってくる。
本格的な攻勢ではなく威力偵察レベルだ。是が非でも奪還したいようではあるが、どこか腰がひけている。
イタリアに設置された南方軍司令部からは現ポイントを維持しろと度々命令がくる。
独断専行を好む自分にひどく不安を覚えているようだった。
むろんロンメルに命令を守る気はなかった。戦力バランスが逆転する前に木っ端みじんに連合軍を砕いておきたい。
カセリーヌ峠から20キロ程先にはアメリカ第2機甲師団が布陣している。頻繁に威力偵察を実施してくるのも、この部隊だった。ロンメルは秘かに第2機甲師団に狙いを定めた攻勢準備を進めていた。
攻勢を決意したロンメルは参謀長のバイエルラインを呼んだ。バイエルラインは常に冷静で用兵に隙がない。ロンメルの苦手な後方業務にも精通しているので、使い勝手がいい。
「またアメリカ軍の威力偵察ですか」
「そろそろ叩くぞバイエルライン。こちらからも偵察隊を出せ。敵本隊の動向に目を光らせるのだ」
「将軍がそうおっしゃると思ったので、すでに装甲偵察大隊を出撃させました。敵師団の配置は把握済みです」
「敵に誘いをかける。第10装甲師団、第15装甲師団が突破役。第21装甲師団が確保役だ」
「いつもの手ですね。早速、手配しましょう」
深夜、各師団が秘かに出発した。
ロンメル自身も第10装甲師団に同行している。先発の装甲擲弾兵大隊が闇夜の中、アメリカ軍の哨戒部隊を無力化し、予定していた突破地点を確保した。
銃声が鳴り響くと、アメリカ軍も巣をつつかれた用に騒ぎ始めた。
「ここからが本番だ。第15装甲師団は派手に暴れろ。その隙に第10装甲師団は埋伏地点に移動するのだ」
第15装甲師団が陽動を開始すると敵第2機甲師団主力も動いた。
突破された事に気付いたようだ。当然、開けられた穴を埋めにくるだろう。
そこがねらい目だった。
突破口を確保する第21装甲師団と第2機甲師団主力の間で戦闘が始まった。派手に動いた第15装甲師団にも戦闘団が差し向けられている。
秘かに埋伏地点に移動した第10装甲師団の存在は気付かれていないようだ。
夜が明けると、ロンメルは第10装甲師団を突破口に旋回させた。敵は突破口を確保する第21装甲師団との戦闘に夢中で背後ががら空きだ。
背後から第10装甲師団が突っ込むと第2機甲師団は大きく崩れた。同時に第21装甲師団もうってでる。
隊列を断ち割られたアメリカ軍戦車は集中砲火を浴びて次々と沈黙していく。
1時間ほどで戦闘は終わり、包囲の中で120輌近い戦車を撃破し、2000人を捕虜に捕えた。
装甲師団が夜間に敵戦線を突破。それから、森林地帯や山岳地帯に身を潜める。
突破口を埋めに来た敵機甲兵力を隠れていた師団が背後から叩き潰す。
ロンメルが編み出した戦術は今だに有効に機能していた。通常なら突破成功後は後方地域へ浸透するか、突破口拡大に着手する。どちらにせよ敵は迅速な対応を迫られる。
その心理を見透かした上での打撃だった。
やはり、ロシアや北アフリカで激戦を繰り返してきたドイツ軍と中立をきどって安穏としてきたアメリカ軍では経験が違う。
新兵器がもたらした新時代の戦争に精通しているのはドイツ軍の方だ。前時代の戦争しか知らないアメリカ軍に遅れをとることはない。
次も順当に勝つだろうとロンメルは思った。
【1943年7月25日 第三帝国 ベルリン ツォッセン市 陸軍総司令部 】
ロンメルがアメリカ軍を一蹴した。
アメリカ軍がカセリーヌ峠の奪還を狙った所、ロンメルに酷く叩かれたらしい。
参謀本部はロンメルから仕掛けたことを把握していたので、この勝利を素直に喜べないでいる。
それでも、北アフリカ戦線が安定したことは好ましいニュースだ。
ハリコフの敗戦以降、沈黙を守っていた赤軍が不穏な動きを見せていた。
東方外国軍課の報告によると赤軍はモスクワ方面に大兵力を集中させているらしい。
親衛の称号を持つ2つの戦車軍に加えて、3つの親衛狙撃軍が確認された。
一報を受け取った参謀本部は色めきたっていた。
第2次モスクワ会戦の後、モスクワの複合要塞群は重点的に強化され、東部戦線最強の要塞地帯へと変貌を遂げた。
ヴォロネジで赤軍が作り上げた要塞地帯群も参考にされ、中央軍集団工兵隊が総力を挙げて要塞強化を指揮、1943年7月10日に工事は完了した。
防御地帯の縦深は100キロ~150キロに及び、その区間に対戦車陣地、地雷原、トーチカ群、塹壕、地下壕陣地を組み合わせた防御拠点が数百ヶ所作られた。
赤軍の激しい砲撃に耐えるため、コンクリート製の地下陣地が無数に建設され、多くの出撃拠点が設けられた。
後方には強力な機動予備師団が待機し、いつでも反撃の主力となって強力な反撃を加えられるよう、各陣地帯は鉄道で連結されている。
不用意に突進してきた敵は火網に引っ掛けられ左右から押し包まれて殲滅される仕組みだ。各要塞の立地点を結ぶことで、一つの巨大な罠を形成していた。
この複雑にして巧緻な陣形はモスクワを囮に赤軍主力を捉え回復不能な損失を与えるために設計されている。
そこへ敵の方から突っ込んでくるのだがら、参謀本部の将校達はたのしくて仕方がないという様子で赤軍を殲滅するプランを語っていた。
赤軍の脅威など誰も感じてはいない。
一通り意見をきき終えたハルダ―は俺にも意見を求めてきた。
「貴官はどう思う中佐?」
「…千載一隅の好機かと。可能な限り出血を与えてこれを殲滅すべきです」
なにか変わったことを言おうとしたが思いつかなかった。
冷静に考えれば負ける要素は一つもない。
要塞地帯も配備兵力もザイドリッツ作戦時の比じゃないレベルで強化されている。ヴォロネジ戦のようにこちらから隙をさらすわけでもない。
無理矢理探そうとしても、隙は見当たらない。
順当に敵を迎え撃ち順当に勝つことだろう。
なにも不安はない。




