青作戦⑨
【1943年1月15日 ソビエト連邦 クイビシェフ】
ハリコフの視察に赴いていたワシレフスキーは即座にスターリンの書斎にむかった。
赤い独裁者は正確で迅速な報告を好む。
「ファシストは泥濘期の終了と共にドン方面で攻勢を開始するものと思われます」
地上偵察、無線諜報、航空偵察、捕虜の尋問、潜入偵察と赤軍のあらゆる感覚器官がハリコフ、オリョールにおけるドイツ軍の異常な集中を察知していた。
ワシレフスキーは各種情報の解析データをスターリンに手渡すと、自らの見解を述べ始めた。
「ファシスト相手に先手を撃つのは火星作戦の二の舞になるでしょう。我が軍は投入可能な全ての兵士、火砲、装甲車によって守りを固め、ファシストを消耗させるべきです。攻勢はしかる後に行うべきかと」
注意深く話をきいていたスターリンは同席していたアントーノフ参謀次長に発言を促す。
「私も同志ワシレフスキーと同意見です。まずは守勢に徹する事でファシストの装甲予備兵力を削りとるのです。ファシストの装甲兵力が無傷なうちに戦うのは余りに危険です」
火星作戦の惨劇はスターリンの記憶にも新しい。スターリンも内心、守勢戦略に賛同していたが、簡単に結論をだすことはしなかった。
「どこで敵を止めるのです?」
「ヴォロネジに敵を誘引します。ここに我が軍の大兵力が集結すれば、ファシストは南下できません」
ワシレフスキーには明白な意図があった。
ドイツ軍の主力を誘引し、純粋な力勝負に持ち込む。
戦場を限定することでドイツ軍装甲師団の強みである機動性、柔軟性を打ち消す。
赤軍は多数の火砲を有してはいるが、電子戦能力の欠如から火力の機動的な運用という面でドイツ軍に劣る。広い戦場で機動戦を挑んでも勝ち目はない。火砲による飽和攻撃は静止目標にこそ効果があるのだ。
ヴォロネジは北ドン河東岸の要衝であり、ドン河沿いに南下するであろうドイツ軍の背後を突ける絶好の位置にある。ドイツ軍からすればまずヴォロネジの赤軍兵力を潰さなければ、スターリングラードへの進撃など実施できない。
赤軍がヴォロネジに重点を形成すれば、ドイツ軍も同地点に重点を置くしかなくなり、狭い地点での殴りあいになる。
鉄量の殴り合いでは赤軍に分がある。
「ヴォロネジに重点を置いた場合北のオリョールと南のハリコフから挟撃されるのでは?」
「ご心配なく。十分な戦力を手配します」
ワシレフスキーはヴォロネジに配置するであろう戦力の説明を始めた。
「ヴォロネジは東をドン河がカバーしているので敵は北と南に集中するものと思われます。北部戦域には最高総司令部予備から抽出した5個軍、1個戦車軍から成るヴォロネジ戦線軍を配置。南部戦域には6個軍、2個戦車軍から成るステップ戦線軍を配置します」
【ヴォロネジ戦線軍】
・5個軍(第6親衛軍、第7親衛軍、第38軍、第40軍、第69軍)
・1個戦車軍(第1戦車軍)
・2個戦車軍団(第9戦車軍団、第19戦車軍団)
・1個航空軍(第16航空軍)
・21個対戦車連隊
・7個多連装ロケット砲師団
兵員60万人、戦車・自走砲2800両、火砲1万2000門、航空機2150機
ヴォロネジ戦線軍は対戦車連隊とロケット砲師団を重点的に配備されている。
対戦車連隊は新型の57ミリ対戦車砲や76ミリ速射砲を20門ほど持ち、戦線軍直轄兵力として運用される。
21個連隊中10個は機械化され、SU152やSU76といった対戦車自走砲を20両~30両配備されている。
多連装ロケット砲師団はロケット砲連隊を統合したものであり、1個師団につき3400発のロケットを投射可能。
同軍は防御重視の拘束部隊であり北のオリョールからの攻撃に対応する。
【ステップ戦線軍】
・6個狙撃軍(第5親衛軍、第13軍、第60軍、第1親衛軍、第70軍、第65軍)
・2個戦車軍(第3親衛戦車軍、第5戦車軍)
・3個戦車軍団(第2親衛戦車軍団、第5親衛戦車軍団、第10戦車軍団)
・2個機械化軍団(第2機械化軍団、第35機械化軍団)
・2個航空軍(第2航空軍、第6航空軍)
・5個多連装ロケット砲師団
・8個突破砲兵師団
・5個機械化対戦車旅団
兵員85万人、戦車・自走砲3300両、火砲1万8000門、航空機2348機
ステップ戦線軍は火星作戦の生き残りや精鋭部隊で構成される親衛軍や親衛軍団を多数擁する、攻撃的な編成になっている。この軍はハリコフからの攻撃を防ぐだけでなく、南ドネツに配置される南西戦線軍、南部戦線軍と共同で反撃を実施する任務も受け持つ。
機械化対戦車旅団は対戦車連隊を3~4個束ねた統合部隊であり、防御だけでなく攻勢時にも用いられる。
「この二つの戦線軍が構成する強力な防御砲火地帯で、挟撃という誘惑にのったドイツ軍装甲兵力を叩き潰すのです」
これだけの兵力をみせられてもスターリンは安心しなかった。攻勢とはいえ火星作戦ではこれ以上の兵力を揃えたにも関わらず叩きのめされている。
「・・・もう1つ戦線軍を編成しなさい。さらなる兵士と火砲で増強するのです」
ワシレフスキーは反撃時の兵力が減ることを懸念したが独裁者の意思は固かった。
この日より、ヴォロネジとその周辺部に戦史上最も強固な防御体系を組みあげるべく、ソビエト連邦の全軍事機構が稼働し始めた。
こっちの世界の赤軍はスターリングラードを経験してないので親衛軍の中身は史実と異なります




