青作戦⑧
参謀本部が再提出した作戦計画は前回に比べるとだいぶコンパクトになった。
イタリア、ハンガリー、ルーマニア等の同盟国兵力と足の遅い歩兵師団群がばっさり切り捨てられている。
作戦範囲も縮小し、カフカスへの進撃は油田奪取から牽制作戦に変更された。
最大の違いは中央軍集団が参加していることだ。
兵站上の負担をやわらげるため、北のオリョールからの攻撃は中央軍集団麾下の第二装甲軍が担当、最も充実したモスクワ方面の幹線を兵站にくみこめるようになった。
第二装甲軍はドン河東岸のヴォロネジを攻撃。ここを抑えることで赤軍の反撃に対する防衛線とする。
歩兵師団群がヴォロネジを攻略している間、装甲師団群はドン河沿いに南下。
ハリコフ地区から出撃する第四装甲軍と協力して、ドン河以西の赤軍兵力を包囲殲滅する。
第二装甲軍と第四装甲軍の最終合流地点はスターリングラードであり、同市の攻略もしくは包囲によってヴォルガ水運を断ち切ることを最終目標とする。
また陽動として、SS装甲軍団がロストフからカフカスへと進撃。マイコープやグローズヌイを脅かして、北コーカサス方面の赤軍を牽制する。
作戦参加兵力は以下の通り。
第二装甲軍
・第41装甲軍団(第2装甲、第4装甲)
・第46装甲軍団(第20装甲、第12装甲、第60装甲擲弾兵)
・第47装甲軍団(第6装甲、第18装甲擲弾兵、第10装甲擲弾兵)
・第20軍団
・第23軍団
・第212砲兵師団
6個装甲師団、2個装甲擲弾兵師団、6個歩兵師団、1個砲兵師団。
兵員22万7000人、戦車・自走砲1255両、火砲4800門。
第四装甲軍
・第48装甲軍団(グロスドイッチュラント装甲擲弾兵師団、第3装甲師団)
・第24装甲軍団(第9装甲師団、第11装甲師団、第3装甲擲弾兵師団)
・第13軍団
・第216砲兵師団
2個装甲師団、3個装甲擲弾兵師団、3個歩兵師団、1個砲兵師団。
兵員18万3000人、戦車・自走砲1450両、火砲2400門。
SS装甲軍団
・第1SS装甲師団「アドルフ・ヒトラー」
・第2SS装甲師団「ダス・ライヒ」
・第3SS装甲師団「トーテンコップ」
3個装甲師団
兵員7万6000人、戦車・突撃砲500両、火砲1500門。
さらに作戦予備兵力としてオリョールに第23装甲軍団が、ハリコフに第3装甲軍団が、ロストフに第5SS装甲師団「ヴァイキング」が待機する。
攻撃参加兵力の総計は兵員82万人、戦車・自走砲4250両、火砲9600門、支援航空機2300機。
投入される装甲兵力の規模と密度はモスクワ攻略作戦をはるかにしのぐ。
一方で突破用の歩兵師団は不足気味だった。兵站上の問題だけでなく、南方軍集団と中央軍集団は装甲師団群と軍直轄砲兵の大半を攻撃参加部隊に割り当てたため、戦線を保つのに多くの歩兵師団群を必要としたのだ。
これ以上、歩兵師団を割けば留守兵力が余りに脆弱となる。
また、ほとんどの軍砲兵を割いたにも関わらず、赤軍の縦深陣地群を突破するには攻撃砲兵力が弱冠足りないように思える。
「青作戦」はザイドリッツ作戦でこうむった大打撃から赤軍が回復する前に、さらなる一撃を加えるという企図でたてられた。
泥濘期が終了する直後に作戦を発動することで、赤軍は戦力回復未完のまま作戦兵力を大会戦に投じざるを得なくなる。
対するドイツ軍の戦力回復・更新は泥濘期終了よりずっと早く完了する予定なので、充足した兵力で敵を圧倒することができるはずだと。
兵力面での優勢を前提としているわけだが、ソ連が史実同様の生産能力を維持している場合、一か月に1500両の戦車、7000門の火砲を量産できる。
ザイドリッツ作戦が終わった9月下旬から作戦開始予定の5月下旬まで約八か月。その間に12000両の戦車、56000門の火砲が生産される。
ザイドリッツ作戦で負わせた戦車2900両、火砲2万門の損失など容易に補填されてしまう。
もちろん補填できないものもある。
兵器と違って部隊を支える熟練将校と古参兵は替えが効かないからだ。
人的資源面での打撃は容易に回復しないだろう。
ただし、この八か月の間にザイドリッツ作戦で生じた120万近い負傷兵のうち大半が前線に復帰する。
作戦開始までに赤軍が配置する兵力はドイツ軍の投入兵力をはるかに凌ぐと考えた方がいい。甘い見通しで作戦を決行するのは危険すぎる。
それに加えてもう一つ懸念がある。
西側連合国の動向だ。史実だと1942年11月に北アフリカへの攻撃作戦トーチ作戦が発動しているが、こちらの世界の米英軍は依然として沈黙を守っている。
史実と異なる展開になるとこの先の展開が読めない。
たんにトーチ作戦を延期しただけなのか。それとも別方面からの上陸を狙っているのか。
南フランス沿岸部、イタリア半島、バルカン半島、ノルウェー、北フランス沿岸部。連合軍の上陸候補地は余りに多い。
ディエップ上陸のように大作戦の前後でちょっかいをかけられると少なくない規模の作戦兵力が東部から引き抜かれてしまう。
二正面作戦に持ち込まれた時点で青作戦の作戦企図は瓦解する。
むろん、減点方式だけで作戦を評価するのはフェアではない。
青作戦が成功すれば赤軍の作戦予備兵力の大半を粉砕でき、東部戦線は格段に安定する。
石油供給ルートを断つことで経済的に締め上げることもできる。
兵站上の問題もある程度は解決され、史実に比べると現実的な攻勢範囲に留まっている。
新戦力の装甲部隊はいずれも強力で、指揮官達の技量的優勢は敵の数的優勢を圧倒している。
ティーガ―やフンメルなど新兵器も順調に配備されつつある。
軍事的には解決できない戦争を政治的に解決する好機にもなり得るかもしれない。
加点方式に評価していくと懸念要素など微々たるものにみえてくる。
なんにせよこの一戦が戦争の帰趨を決することに変わりはない。持てる全てを賭した側が勝つことだろう。
SS装甲師団は正式には装甲擲弾兵師団なのですが、編成内容は装甲師団なので装甲師団表記で統一しました。




