第二次モスクワ会戦⑧
【1942年8月26日 北方戦区 ヴェリキエ・ルーキ 第二装甲軍司令部】
「準備はどうだバイエルライン?」
「はっ。各軍団作戦開始位置への移動を完了させました。号令が下り次第いつでも動き出せます」
第二装甲軍の作戦は単純明快だった。
まず第12軍団(第48師団、第255師団)がルジェフ~ヴャジマ間に阻止線を張り、カリ―ニンを突破してきた敵の鼻っ面を抑える。
そして、三方に埋伏している装甲軍団が敵を押し包み袋叩きにする。
・第24装甲軍団(第3装甲師団、第4装甲師団、第10装甲擲弾兵師団)
・第48装甲軍団(第10装甲師団、第6装甲師団、第17装甲師団)
・第47装甲軍団(第16装甲師団、第29装甲擲弾兵師団)
「気付かれてはいないだろうな?」
「敵はまっしぐらにヴャジマへと殺到しています。偵察隊を周囲に出している様子もありません。我が軍が後退を偽装して配置についたので、埋伏に気付いていないようです」
「よし。フィーティングホフ(第46装甲軍団長)、レメルゼン(第47装甲軍団長)、シュヴェッぺンベルク(第24装甲軍団長)に伝えよ!この作戦に幕を下ろす時がきたと」
「はっ!」
グデーリアンの号令で各軍団は一斉に動きだした。装甲軍が防衛戦に加わらず、温存されたのはこの時のため。要塞陣地群を突破してきた敵を完膚なきまでに打ち砕く。
◇
『1942年8月26日付き作戦命令第2号』
作戦に関し第二装甲軍将兵に以下のごとく命令する。
①攻撃計画
・迅速かつ猛烈に、各軍団は作戦開始位置より出撃し、ヴャジマ地区へ殺到中の敵兵力を撃滅すべし。攻撃開始にあたり、最高度に機甲兵力を結集することで、敵を形成中の包囲網に追い込むべし。万が一、敵が後退せる場合は速やかに全戦線に渡り追撃するものとする。
・第12軍団はルジェフ~ヴャジマ間に阻止線を構築。陣地構築に全力をあげ、十分な数の対戦車部隊を配置し、各所に予備兵力を置き、敵攻撃兵力の進出を阻止すべし。
・第48装甲軍団は北方の線より出撃し、敵攻撃兵力の後背を速やかに遮断せよ。
・第47装甲軍団は東方の線より出撃、攻撃兵力を最大限集中させることで、敵攻撃兵力を分断。敵の組織的接合力を速やかに粉砕せよ。
・第24装甲軍団は東方の線よりヴャジマを迂回して西方に兵力を集中、第47装甲軍団と共同で敵兵力殲滅の主兵力となるべし。
②留意点
・奇襲効果を最大限追求すること。
・全ての攻撃兵力を持って局地的優勢を実現、速やかに包囲網を完成させること。
・攻撃部隊の先鋒には側面援護兵力を常に投入し、先鋒の攻撃衝力を維持すること。
・攻撃は迅速かつ果敢に行い、敵の脱出を許さず、他戦区より強力な増援兵力を招致させぬこと。
・敵殲滅後は早期に戦線を整理し、装甲兵力を他戦区に投入可能な状態にすること。
1942年8月20日 ハインツ・グデーリアン(署名)
◇
【1942年8月27日 北方戦区 カリ―ニン戦線軍第二梯団 第6「スターリン」機械化軍団司令部】
ドイツ軍はヴャジマへの街道を封鎖するように阻止線を張っている。その数、およそ2個師団。
多くの対戦車砲と火砲を揃えてはいるが、戦車の数は少ない。陣地も急造のものだ。
偵察大隊からの報告に第6「スターリン」機械化軍団司令官ポヴェートキン少将は思わず頬を緩めた。
無理をして進撃してきた甲斐があったというものだ。スピードを優先した結果、道中で多くの戦車が脱落したが、味方は3個機械化軍団。しかも、3軍団とも精鋭中の精鋭だ。これなら十分突破出来る。
恐らく敵はこちらの進撃スピードに対応出来ず、2個師団しか展開出来なかったのだろう。眼前の敵さえ潰せばヴャジマへ突入し、中央軍集団の退路を断てる。
ポヴェートキンは直ちに第3機械化軍団司令官カツコフ少将、第1機械化軍団司令官ソロマーチン少将を呼び出し、作戦会議を開いた。
「このまま正面の敵を撃破してヴャジマへ突入する。貴官らに異論はあるか?」
ポヴェートキンは幕僚達が作った作戦案を二人に説明した。作戦案は実に単純で進撃スピードを維持したまま正面突破を狙う。正面攻撃は犠牲が大きいが、ここで時間をかければ、敵は増援を送り突破はより困難になる。
ソロマーチンは賛同したが、カツコフは反対の意を示した。
「私は反対だ。後続の第5戦車軍(3個戦車軍団)が追いつくまで待つべきだと思う」
「馬鹿なっ!それでは戦機を逃すではないか。正面の敵が薄いうちに攻撃を開始すべきだ」
「急行軍の連続で補給が限界に近い。弾薬どころかウォッカの一滴すら前線に届いてないのだ。携帯物資もここまでの道程でほとんど消費した。この状態で突っ込めば敵中で身動きがとれないということもあり得る」
ホリト機動集団は撤退前に北のルジェフからヴャジマへと続く鉄道線、幹線道路を徹底的に破壊した。
工兵が全力で修復を進めてはいるものの、補給線は依然として不安定だ。
そのせいか、補給物資が全くとどかない日が続いている。
「それにだ。第5戦車軍が加われば物資を分けて貰えるだけでなく、戦力は倍増する。今、無理して突っ込む必要性はない」
「しかしだなあ…」
そこへ恐るべき知らせが届いた。
強気だったポヴェートキンも慎重論を唱えていたカツコフも思わず青ざめる。彼らは一瞬にして自分達の運命を悟ったのだ。
「後続の第5戦車軍との通信が途絶え、ファシストの通信量が増大してるだと?おまけにルジェフ守備隊との連絡もつかんとはどういうことだっ!なにがおこっている?」
「・・・可能性は一つだろう。我々は退路を断たれたのだ」
カツコフは震える声で答えた。




