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ザイドリッツ作戦④

【1942年6月23日 カリ―ニン 第二装甲軍戦闘指揮所】



陸軍総司令部からの決定を伝えるとアリスは暗い顔でうつむいた。


「やはり、第二軍は東部へはこないのですね…」


フランスに駐留していた第二軍(16個歩兵師団、2個装甲師団)は本来、ザイドリッツ作戦までに東部へ移動し、中央軍集団に編入される予定だった。

それが、三日前のディエップ強襲で第二軍の移動は中止となった。イギリス軍上陸部隊は現地守備隊が1日で壊滅させたが、ヒトラーの強い意向もあり陸軍総司令部は配備体制の再検討を迫られることになる。


その結果、陸軍総司令部、国防軍総司令部、中央軍集団司令部(東部作戦軍所属)、西方総軍司令部による緊急四者会談が開かれた。

陸軍総司令部と中央軍集団司令部は、第二軍の編入を強硬に主張した。第四軍、第二軍、第九軍の三軍体制こそザイドリッツ作戦の根幹であり、そこから第二軍が抜ければ作戦の前提条件が崩れてしまう。


一方、ヒトラーの意思を尊重した国防軍総司令部と西欧を守る西方総軍司令部はディエップ強襲が米英の第二戦線先遣隊だと主張。

米英軍の本隊に手薄な西部を衝かれれば、帝国本土が脅かされると言い張り、第二軍の残留を求めた。


両者の主張は平行線をたどり、白熱した議論が続いたが、最終的にヒトラーの鶴の一声で第二軍のフランス残留が決まった。この会談自体、結論ありきの茶番だったのかもしれない。

一応、2個装甲師団だけを中央軍集団予備に編入することを認められはしたが、陸軍総司令部の政治的敗北は明らかだった。

東部で連戦連勝をおさめた陸軍総司令部に対する、国防軍総司令部とヒトラーによる政治的牽制とも受け取れなくもない。


なんにせよ、たった2個旅団規模の攻撃で16個師団を失うとは思ってもいなかった。実行を命じたチャーチルもこれほどの成果は期待してなかったんじゃないだろうか?

史実のディエップ強襲は1942年8月に実施されている。ソ連が史実より追い詰められたことで、予定が繰り上げられたのかもしれないが、悪い方向に作用してしまった。



「第二軍抜きでも防げるのでしょうか?」


「厳しいだろうな。赤軍はそれほど甘い相手じゃない」


本来のザイドリッツ作戦は北方要塞地帯を第九軍(9個歩兵師団)+第二装甲軍(6個装甲・装甲擲弾兵師団)の28万7000人が、中央要塞地帯を第二軍(16個歩兵師団、2個装甲師団)の25万4000人が、南方要塞地帯を第四軍(12個歩兵師団)+第三装甲軍(7個装甲・装甲擲弾兵師団)の38万8000人が守る予定だった。


コーネフの主力軍を相手にする南方要塞地帯からは兵力を割けず、第九軍から3個歩兵師団を割き、中央軍集団司令部予備の4個師団(うち2つは装甲擲弾兵師団)と合わせた7個師団で中央要塞地帯を守ることにしたが、第二軍の抜けた穴は余りに大きい。

中央部隊は赤軍の中央突破を塞ぐだけでなく、敵の攻撃が集中するであろう南北両要塞地帯を支援する役割も持っていた。たった7個師団では中央を守るのが精一杯で支援などとてもじゃないが出来ない。

各要塞地帯は独力で戦い抜くしかなくなった。


「・・・ですよね。中央に兵力を割かれた北方要塞地帯の戦力密度はお寒い限りです。赤軍がここを狙って突破してきたらと思うとゾッとします」


北の薄さは致命的な弱点になりかねない。新編成の砲兵師団も4師団中3師団が南に配置される。おまけに、他所から兵力を持ってくることもできない。

手薄な戦力でなんとか守りぬく工夫を考えなければならなかった。


「恐らく6個歩兵師団の固定防御では敵の第一梯団は防げない。第二梯団にむける予定だった第212砲兵師団を第一梯団の撃滅に当たらせるしかない。第二梯団の撃滅は第二装甲軍に一任することになる…」


「中佐は中央軍集団参謀部案には反対なんですね」


「装甲師団は第二梯団撃滅のため温存する。これは絶対条件だ」


中央軍集団参謀部案では第二装甲軍麾下の各師団も前線に配置し、全力を挙げて第一梯団を防ぐことになっていた。敵の第一撃を防げなければ意味がないと彼らは主張している。

しかし、それでは敵の第二梯団に対応出来ない。第二梯団を撃破出来る唯一の戦力が装甲師団だ。例え歩兵師団を見捨てることになっても第一梯団の迎撃で消耗させるわけにはいかなかった。


「・・・歩兵師団が壊滅してもですか?」


「そうだ」


気まずい沈黙が流れる。当然だ。仲間を見捨てて敵を撃破する作戦など気分がいいわけがない。

それに、俺の修正案自体も多くの問題を内包している。砲兵師団を第一梯団に向ければ、第二装甲軍は携帯火力だけで第二梯団と戦うことになる。はたして、火力支援に乏しい状況で敵の主力攻撃部隊である第二梯団を撃破できるのかどうか。


決戦の日は近く、時間的余裕もない。

焦りの気持ちだけが高まっていた。


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