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メンタル崩壊

彼は彼女に憧れしまっていた。何が大切なのか優位も決めれず、結局大切なものを失ってしまった彼にとって、彼女は尊敬の対象になっていた。もはや彼女を自分と言うのも申し訳ない程に、彼女と彼は違っていた。


彼は、「俺が生きていた時に彼女のように振る舞うことができれば」と思わずにいられない。



2010年2月


「バレンタインチョコが欲しい」


彼が言う。彼はどうやら、生涯に一度たりともバレンタインチョコをもらった事が無いようなのだ。それでさっきからチョコが欲しいチョコが欲しいとわめいていた。


「できることなら学校で貰いたい! 放課後の下駄箱のあたりとか! そしたら成仏してもいい!」


もとより彼女は感謝の意味も込めて作ってあげようとは思っていたが、シチュエーションから望んでいたと思ってもいなかった。



そういった事もあって、今日の休日は女子だけで色々相談したいと考えていた。


「もう、中谷さんとガールズトークするから、今日のお出かけはついて来ないでよ?」


「は? 何で?」初恋の中谷と遊ぶのを誰よりも楽しみにしていた彼にとっては、凄く不満らしい。何より声がこわい。


「いやいやいや、色々聞かれたくないと思うじゃん。例のイベントも近づいているわけだし、察してよ」


「うむむむ」




2010年2月の14日の事。彼はもの悲しそうに日をまたごうとする時計を眺めていた。そして15日になったのを認めて、あからさまな雰囲気で彼女の部屋から出ていくのだった。


14日は日曜日であるのだ。彼女は悩んだのだが、学校で渡すと決めていた以上、今日は渡さなかった。だがしかし、あんな様子であるならば、渡してしまえば良かったなと反省した。



「一日遅れのバレンタインデー。はい、友達チョコってことで」


彼女は学校でチョコを配っていた。学校では、今日がバレンタインデーといった感じの雰囲気となっていた。


彼女は今、女子同士でチョコを渡し合っているのだ。


「あ、私、こっちの包装のチョコがいい。凄く綺麗にできてるし」とクラスの女子が言う。


「こっちは駄目なの。中身は一緒だし、こっちで」


「えええ! 本命チョコは用意しないって言ったじゃん! 嘘つき!」


「本命じゃないから。これはちゃんとした義理チョコで、特別な友達に渡すから」


「じゃあ私が貰っても良いじゃない!」


なんとも面倒な女子生徒だが、彼女はどうにか断った。そして放課後の事である。紙袋のそこに入れた筈のチョコが無くなっていたのである。探しても探しても見つからない。無くしてしまったのだ。


「長田さんチョコ見つかったの?」


彼女の友達が声を掛けるも、「先に帰ってて、今は凄く一人にして欲しいの」と答えるだけだった。他にも、何人かに声を掛けられたが、「一人にして」の一言でつっぱねた。


机に伏して、何時間が過ぎたのだろうか。既に真っ暗である。勿論教室にあかりもつけていない。とにかく、彼女は彼に合わす顔がないのだ。彼はこの世の人ではない。そんな彼が満たせずに終わった出来事を、真似事でさえも叶えることできないのだ。


「おい。まさかとは思うけど、今の今までここにいたんじゃねえだろうな」


彼女が顔を会わしたくない奴がそこに居た。彼である。


「んーと。失恋なんてよくあるさ」と声をかける。どうやら彼は勘違いしているらしかった。


「失恋なんかしてないけど。あなたに渡すチョコを無くしたの」


「は? それだけで?」


「本当にそれだけ」


彼女は、彼に何も返せていない、それだけに、こんな事もできずに申し訳ない、といった事を説明する。


「なんじゃそれ。所詮、俺だぞ? 俺なんだぞ? 気にしすぎ」と彼は笑った。





彼と彼女二人の帰り道。今は完全に夜である。彼はニヤニヤ笑いながら、彼女からのチョコレートを眺めていた。


「やめてよ。友チョコの残りなんだし」


「いいじゃんいいじゃん。嬉しいんだし。ずっとこのまま歩いて帰ろう、この余韻に浸りたい」


「やでーす。寒いじゃない」


しかし彼は聞いていない。


「ぬふふふ、俺がこのバレンタインの情景をつくる一部になれるとは思ってなかったよ」


「一日過ぎてるけど」


街中は不思議なことに、バレンタインデーの雰囲気を残していた。周りでも、幸せそうな男女を見かけるのだ。同じ学生服を着ている者もいた。


そんな時、学生服姿の男子生徒にすれ違った。瞬間、凄まじい血飛沫が舞った。


「え?」


彼は理解できずにいた。走り去る学生。その場に残される包丁。倒れる彼女。




彼女は病院に搬送されたが、どうにかなった。ただ、現場をみた者ならば、死んでもおかしくないと思える量の血が残されている。どうやら動脈をやられたらしく、最悪死んでいたと医者から脅された。


親も駆けつけるという事になったが、彼女は笑っていた。


監視カメラを解析しても、画像が荒く、犯人の手がかりは無かった。おそらく同じ学校の人。ただそれだけであった。




そんな事件も忘れ去られた3月過ぎ。テストなど、色々大変だったのだ。


彼が言った。


「前から言ってた通り、五日くらい出かける」


彼の生前、ある日ある場所で大きな事があったらしく、それを確認して安心したいのだと言っていた。彼女は問題ないと見送ったのだ。


彼が町に帰ってきたのは、15日後であった。まさか13日も掛けてフリークと戦うとは思ってもみなかったのだ。


彼はそのまま、下校時間になるまで彼女を待っていた。しかし、いくら待ったところで姿を全く見かけない。どういうわけかわからず、適当に生徒に聞くことにした。


「ちょっとすみません。あなた二組ですよね。長田を見かけませんでした?」


彼女はどうやら、学校を休んでいるらしかった。


彼は後で、馬鹿でも風邪を引くんだなとからかってやるつもりだった。しかし、自宅に入って、彼女の部屋で違和感を抱いた。今までのものが全て無くなっているのだ。


「あ、おかえり」


彼に気付いた彼女が声をかけた。


「おう、ただいま。で、どったん?」そういって、部屋の事について聞いた。


「ごめんなさい。あなたが私に編んでくれてたやつやあなたに買った服、全部捨てられちゃった」


どうやら、全て父親に捨てられたとのこと。


「父さんが? 母さんじゃなくて?」


彼と彼女の世界では、父親と母親の存在が違うようであった。ヒステリックになるのはいつも母さんだったと彼は語った。


「というか、何で学校やすんでんの? 内申とかこだわってるわけじゃねえけど」


「あのさ、実はね」


そんな時、父親がノックもせずに部屋に入ってきた。


「誰と話している?」


「友達とお話しています」彼女は遠慮がちに携帯電話を見せた。


「例の友達か?」


「はい」


「馬鹿な事は止めろ。その携帯電話は解約されて使えないんだ」



彼には話が見えない。


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