513、ナーサリーの皮算用
ゼマティス家までの帰りは徒歩で。第三城壁内は普通みんな馬車だけど私達には関係ないね。歩きたいから歩くのさ。
到着。門番さんも快く出迎えてくれる。
お、村長帰ってたんだ。朝帰りならぬ夕帰り? しかも意外な来客まで。村長が連れてきたのかな?
「やあフェリクス、帰ってたんだね。ナーサリーさんもようこそ。」
「先程帰ったばかりでの。この際だからナーサリー殿も誘ってみたというわけよ。」
「お邪魔してるよぉ。ここにはイザベル姐さんがいた時に一回来たっきりだからねぇ……やっぱり緊張するわ……」
へー、そうなんだね。一回だけ。意外なのか当然なのか。なんてったって魔道貴族ゼマティス家だからなぁ。
「あらカース君にアレックスちゃん。お帰りなさい。楽しめたかしら?」
おっと伯母さんだ。なんと自らティーセットを運んできたじゃないか。村長はともかくナーサリーさんまで賓客扱いか?
「ただいま帰りました。ええ、いい買い物ができました。」
「ただいま帰りました。」
「それはよかったわ。夕食までもう少し時間があるから、飲むわよね?」
「ええ、いただきます。」
「ありがとうございます。」
これまた伯母さんが手ずからお茶を注いでくれるではないか。
「すまぬな。いただくぞえ。」
「ありがとうございます奥様。いただきます。」
あっ、いい香り。正統派の紅茶って感じかな。ふぅ……美味しい。
「おおそうだカース殿よ。ナーサリー殿があそこに興味を示しておるでの。」
「あそこ?」
「北の方に街を作ったそうじゃないかぁい。そんなの誰だって気になるに決まってるさぁ。しかも治癒魔法使いが欲しいんだってぇ?」
マジか。それは渡りに船、いや門出に辻馬車じゃん。
「それはありがたいけど、いいの? 行ったらなかなか帰ってこれないよ?」
「その時ぁ何とかするさぁ。で、ラグナからも聞いてんよぉ? かなぁりデカい金が動くんだろぉ? 一枚噛ませておくれよぉー。」
「欲しいのは正確には避妊魔法の使い手だけど、ナーサリーさんならどっちも使えるよね?」
治癒魔法使いもあっちじゃかなり優遇されるしね。
「当たり前さぁ。で、どうなんだぁい?」
「もちろんいいんだけど、いくつか条件があるよ。」
「ほぉう? いいともさぁ。言ってごらん。」
「大したことじゃないけどね。あっちには代官リリスってのがいるからさ。リリスの指示は絶対ってこと。それさえ守ってくれるならかなり稼げると思うよ。」
大金が動くかどうかは知らないが、王都より稼げるのはたぶん間違いないんじゃないかな。
「ふぅん? そいつぁラグナの後輩って話だったねぇ。まあいいさ。無茶なことぁ言われないんだろう?」
「たぶんね。でも大襲撃とかバカな冒険者とかそれなりに危険はあるからね? その時はリリスだって無茶な命令すると思うよ。先輩風は吹かせてもいいけど、仕事はきっちり頼むよ?」
「当たり前じゃないのさぁ。姐さんに恥ぃかかせるような真似はしないよ。じゃあ、いいんだね?」
「いいよ。詳しい条件とかはあっちに着いてリリスから聞いてね。それで納得すれば契約魔法をかけるからさ。一ヶ月ぐらいお試し期間を設けてもいいしね。」
「ようし決まりだ。で、いつ行くんだぁい?」
うーん、どうしよう……あ、そうだ。
「明日でどう? 明日は辺境伯を領都に連れて帰るからさ。そのついでに楽園にも行けばいい。急だけどどう?」
「いいねぇ。こぉんな美味い話は早いモン勝ちだからねぇ。そうなると私は帰るとするよ。明日の出発までに準備しとかないとねぇ。」
そこまで美味い話でもないぞ? 取らぬオーガの皮算用しまくってない? 私は全然構わないが。
「ここまで来なくてもどこかの東門で待っててくれたら拾うよ?」
「あぁ、そいつはいいねぇ。じゃ第二城壁東門の外で待つとするよ。何時ぐらいだぁい?」
「ここを朝イチに出るから八時か九時かな。」
「分かったよぅ。せいぜい遅れないようにするさぁ。では奥様、ご馳走になりました。これにて失礼させていただきます。」
「ええ。北に行っても元気でね?」
今の時間だと第三城門を通れるかギリギリかな。まぁ急げば間に合うよね。
それにしてもナーサリーさんたらどういう風の吹き回しだろうね。王都にいられないようなミスをするタイプではないだろうし。短期間でガツンと稼ぎたいとか? たぶんだけどラグナから景気のいい話でも聞いたんだろうなぁ。私としてはありがたいからいいんだけどさ。
後はリリスの判断次第だろうな。




