506、ずたぼろ魔王
それから一般の道場生の稽古が始まった。ベルベッタさんはレイモンド先生と同じく稽古をつける側。これは道場生にとってはいい刺激なんじゃないだろうか。なんせ王都にその名を轟かせる『魔槍』ベルベッタの直稽古なんだからさ。
私はというと、ひたすらレイモンド先生とベルベッタさんの動きを目で追っていた。二人の動きってどこか対照的なんだよね。
レイモンド先生は動きそのものはそこまで速くない。いや、そりゃあ私なんかに比べるとめちゃくちゃ速いんだけど。で、速くないのに速く見える理由は動きの先読みだろうな。相手がどこに打つか先刻承知って感じの動きなんだもん。どこを打たれるか理解しつつ、どうやって褒めるかまで先読みしてそうなんだよね。
ベルベッタさんは単純に速い。目の前で動かれたら避けもできないだろうね。フェルナンド先生に手傷を負わせたというのも納得だね。あ、終わった。休憩かな?
「さて魔王。そろそろいいだろう? 来い。」
ベルベッタさんたら元気だなぁ。休憩すればいいのに。
「押忍。お願いします。」
どうにか腕は上がる。行けるとこまで行ってやるぜ。
「ベルベッタさん、くれぐれも床をぶち破らないでくださいよ?」
「分かっている!」
「破ったらベルベッタさんが弁償してくださいよ?」
「分かっている!」
「ならいいです。では二人とも、構えて! 始め!」
やってやるぜ!
うぅ……疲れた……もーだめ。動けない。そして全身が痛い。ちくしょおベルベッタさんめ……全身くまなくほどよく痛めつけてくれやがって……今日は村長がいないってのに。ポーション飲もうか……いや、我慢だ。昨日も飲んだからな。
「ふぅ、いい動きだったぞ。だがどうやらお前は剣より槍の方が向いているようだな。昨日より動きが固いではないか。」
動きが固いのは木刀のせいじゃなくて単純に昨日の今日だからだよ……でも剣より槍に向いてるってのは自分でも少し自覚してんだよな。正確には槍より棍だけど。あの手の長物の方がどうも向いてる気がするんだよね。手に馴染むというか動きがスマートというか。
「押忍。ありがとうございます。」
「さて、飲みに行くにはちと早いな。そうなると……白い狼、相手をするか? フェンリル狼なのだろう?」
「ガウガウ」
あらまぁ。カムイをご指名かよ。そしてカムイも乗り気なのね。
「カムイはやってもいいって言ってますけど、外に出た方がいいですよ。ここでやると床が壊れます。」
木の床じゃあカムイの脚力についてこれないだろ。穴だらけになってしまうぞ。
「ほう? それは面白いな。いいだろう。庭へ来い。」
これは面白い対戦だな。私も行こう。あ、レイモンド先生達も来た。
「フェンリル狼ならこれぐらいでちょうどいいだろう?」
あらまぁ。ベルベッタさんたら一文字槍を取り出しちゃって。本気かよ。
「ガウガウ」
ふふっ、カムイったら余裕の顔しちゃって。そりゃあまあカムイはベルベッタさんと比べても速いからなぁ。でも大丈夫かぁ? ここの庭は滑りやすいぞ? いきなり最高速の動きは難しいと思うが。
「来い!」
と言いつつ自分から仕掛けるベルベッタさん。いきなり乱れ突きかよ。私なら即死なんじゃないか?
「ガウ」
マジかよ……無数に見える槍に横から噛みつきやがった。そしてそのまま後ろ脚でベルベッタさんに蹴りを入れて、槍を奪いやがった。あの動きって昨日の私じゃん。私は槍を奪うことはできなかったけど。
「ごふっ……あれを見切っただけでなく私から槍を奪うとは……これが魔王の牙、フェンリル狼か……」
「アウアウ」
槍は離さないのね。そのままやる気か。魔力刃より使い勝手が悪いだろうに。
「軽く手合わせをする程度の気持ちでいた私が間違っていたようだ。どうやら……剣鬼を相手にするつもりでやらねばならぬようだな!」
うおっ!? 何だそれ!? 薙刀? いや、長巻?
柄の部分が二メイル、刃渡りは一メイルぐらいか。やけに禍々しいが……
「ベルベッタさん、それ……」
「愛槍クルグラス、見て通りの魔槍だ。私の二つ名の由来となったものよ。もっとも、これでも剣鬼にはかすり傷が精一杯だったがな……」
マジかよ……




