211、先王vs村長
すっごくグッドアイデアだと思ったんだけど……ここ、どこだ?
ノワールフォレストの森を北から南へ縦断したのはいいけど、海に出てしまったぞ? 西側が海ってことは、ここってノルド海か? フランティアの北側の。王国の西側ヴェスチュア海ってことはないはずだ。
ノルド海ってことは……ここから海岸線に沿って南東に下れば、ノルドフロンテがあるはずだ。思ったよりめちゃくちゃ西に来てんじゃん。
何ならフェアウェル村って楽園の真北にあるぐらいのイメージだったのに。まさかこんなに西に寄ってるとは……もちろん私のミスではない。羅針盤を見ながら飛んだんだからな。そうかぁフェアウェル村は楽園から北西か。いや、たぶんだけど北北西ぐらいかな? 地図が欲しいぜ……
でもとりあえずここらに岩の目印を置いておこう。海岸近くは岩だらけで分からなくなりそうだから少しだけ内陸に入ったあたり。まあまあ小高い丘があるからそこにしようかな。
よーしオッケー。
「お待たせ。ちょっと予定と違うけど、先にノルドフロンテに寄ってみようか。たぶんこのまま海岸線に沿っていけば見つかると思うんだよね。」
もしなかったら笑ってごまかそう。
「私はこの海岸線見覚えあるわ。たぶんここノルド海で合ってると思うわよ。」
さすがアレク。見事な記憶力だよ。頼りになるねぇ。
「よかった。じゃあ間違いなくノルドフロンテに着けそうだね。」
少しゆっくりめに飛ぶけどね。
ゆっくり飛んで三十分。ノルドフロンテが見えた。やはり先程までの仮説は全て正しかったようだ。さあ、みんな元気にしてるかな?
「やあこんにちは。久しぶりだね。先王様は石切りかい?」
城壁の上、見張り役がいるので挨拶してみる。こんにちはと言うには早いがおはようと言うには遅い気がする。
ところで、二ヶ月ぶりは久しぶりなんだろうか。
「あっ、ま、魔王様! ようこそお越しくださいました! 実は先王様ですが先日から体調を崩されまして静養されているようです!」
「あらま。それはいけないね。じゃ、お見舞い行ってみるね。」
「はい! お喜びになるかと!」
珍しいこともあるもんだな。大襲撃で大怪我したってわけでもないだろうに。
それにしても、体調を崩したことを門番すら知っているとは……どんだけ情報公開してるんだよ。ローランド王家の得意なプロモーション活動とは真逆じゃない? まあ、狭い村だから隠し切れないってだけかも知れないけどね。
えーっと、先王の家は……ここだな。街の中心にある一番でかい家。でかいと言ってもそこら辺の金持ち程度でしかないけど。楽園の私んちの半分もない。
門もなく、いきなり玄関か。門番もいない。呼び鈴の魔道具もないから、ノックしてもしもし。
「お待たせしました」
誰何されることもなく、いきなり扉が開いた。ここではこれが普通なのか。王族らしくないねぇ。
「こんにちは。カース・マーティンです。先王様にご挨拶に来ました。」
「まっ、魔王様! ど、どうぞお入りください!」
「お邪魔します。」
大勢だけど全員入れるかな?
「すぐ先王様にお伝えいたしますのでこちらでお待ちください」
「無理はしないでくださいね。」
「は、はっ!」
ロビーってとこかな。ちゃんと全員座れそうだな。ふぅ、どかっとね。
「みんなも座ろうよ。なかなか座り心地のいい椅子だよ。」
竹みたいな素材で編んである。夏は涼しそうでいいね。
「ほう。パラゴムタケか。上手く加工しておるではないか。人間もやるものだのぅ。」
村長がゆるりと座った。へー、パラゴムタケって言うのか。
「ふむ、この編み方は興味深いな。木でもこのような弾力を出すことができるとは。おお、確かにいい座り心地だ」
ドワーフにも好評だね。やっぱこれってノルドフロンテ産なんだろうか。
アレクは私の隣に座ったがサンドラちゃん達は立ったままだ。まあ、今から先王が来ると思うと座ってはいられないよねぇ。でも寝込んでるんだろ?
おっ、お茶が来た。ほぅ、少し苦いな。ヘルシー志向か?
おお、階段を降りる足音だ。足取りは軽快だが……
「カース! アレックス! よくぞ来てくれた!」
おお。元気そうじゃん。顔色もいいぞ。
「お邪魔してます。先王様もお元気そうで何よりです。」
「先王様におかれましてはご壮健なご様子。何よりでございます。」
私もアレクも、さっと立って挨拶するぜ。村長とフレッグはゆっくりと立ち上がった。
「うむ。まあ座れ。ん? これはどうしたことか。面白い面々ではないか。老エルフに、ドワーフか?」
「いかにも。フェアウェル村で村長をやっておるエーデルトラウトヤンフェリックスと申す。正確にはエルフではなくハイエルフだがの。」
「フレッグヴィズルヨルゲンだ。魔王のところの楽園に世話になっている」
挨拶が済むと二人ともすっと座った。特に緊張した様子はない。さすがだね。
「なんと、ハイエルフか。初めて聞いたぞ。うーむ興味深い。エルフの村を出て、何か目的でもあるのか?」
「うむ。ちと人間の国の中心部にの。王都と言ったか。一言謝罪をと思うての。」
え、謝罪? 初耳なんだが……
「まさか……四年前の件を……今さら謝罪だと!?」
王都の動乱か。まだ四年とは……体感では五、六年前なんだが。
「こちらとしてはすでに謝罪は済んでいる。本来なら関係ないはずである母親の首を差し出したのだからな。それで足りぬならなぜ我らが村に攻めてこなかったのだ?」
うーん正論すぎる……すぎるぜ村長……
でもそれじゃあ先王ぶち切れるぞ……
「確かにな。確かに、その時に攻め込まぬ選択をしたのは余だ。とてもそのような余裕などなかったのだからな。だが、今後は違う。
今我が国は空前の大開拓時代となっている。国中が大動脈で繋がれようとしているのだ。完成したなら史上類を見ない強国へと生まれ変わるだろう。いつまでも人間を侮ると痛い目に遭うことになる。」
「ふっ、人間が侮れぬことなどカース殿を見れば分かるわえ。そもそもムラサキ殿からして儂は好ましく思っておる。フェルナンド殿もだな。確かに虫にすら値しない人間は多いだろう。だが、人間が侮れぬことなど四百年前から知っておるとも。だからこそ、今この時に儂が直々に謝罪に行こうというのだ。おっと、半分は忠告も兼ねての。」
「ほう。勇者ムラサキ公を知っておるか。ますます興味深い。で、忠告とは何だ?」
あら。いきなり機嫌が直った。
「ムラサキ殿は何か遺しておらぬか? 『蠢く闇』についてだ。」
「ああ、それか。魔王が魔王となった原因だそうだな。人間の手に負える問題ではないそうだが……」
「その通りだ。カース殿にも伝えたが今は少しばかり不安定なのでな。万が一があってはいかん。人間だエルフだなどとこだわっていては事態が収束できぬやも知れぬ。あくまで万が一だがの。必要ならば手助けぐらいしても良いと考えておる。」
不安定だと? それも初耳だが……一本減ったぐらいじゃ余裕って話じゃなかったっけ?
「ふっ、事情はよく分からぬが助けてくれると言うなら喜んで甘えようではないか。どのような目論見があるかは知らぬがな?」
「くくく、そのようなものある筈がなかろう? こちらとしては人間の国が滅ぼうがどうでもよいのだからの。ただカース殿やムラサキ殿に敬意を表して歩み寄っておるだけのことよ。おお、ついでだ。そなたも診てやろう。」
村長が飲みかけのお茶をトンと置く。
なっ……一瞬で先王の後ろに……
「む……やるな……」
「動くでないぞ? ふむふむ……」
先王の額に手を当てて魔力を流している。診断中か。
護衛は一人しかいないけど剣に手をかけている。今にも抜きそうだ……
うーむ、独壇場村長だな。無茶するなぁ……




