210、さらばフェアウェル村
というわけで各自で思い思いに過ごすことになった。
私は軽く体を動かそうとも思ったが、それをやりだすとスティード君が稽古しようと言ってきそうなのでやめておいた。痛いのは嫌だ。
というわけで水のベッドでごろ寝だ。枕はカムイで隣はアレク。なんと贅沢なひと時か。全然眠くないけど、こうして空を見ながらゴロゴロ。春の風が心地よいじゃんあふたぬーん。
セルジュ君も同じようにごろーんとしてるがサンドラちゃんの姿は見当たらない。エルフ達とお喋りしに行ったのかな。スティード君も一緒なんだろうねぇ。のんびりすればいいのに。
こうしてのんびりだらだら過ごすこと二日。いよいよエルフの村を離れる時がやって来た。のんびりしたせいか全員朝の目覚めがスッキリと早く、朝食が済んだら出発することになった。サンドラちゃんはかなり名残惜しいみたいだけど。
「ではクラウディウスクレメンスコージモリッツよ。少しの間だが頼んだぞ。」
「うむ。村長も楽しんでこられい」
見送りに来たエルフは長老衆っぽいのが数人と舎弟が三人、それとマリーママだ。他はいつも通り働いてるみたい。
「兄貴ぃ! 来年来てくれるんだよな!?」
「ぜってぇだよな!?」
「待ってるからな!?」
「ああ。蟠桃に用があるからな。」
お前らに用があるかは分からないぜ。意外と頼りになることは分かったけど。
「カースちゃんまたね。」
「うん、またね。マリーが降りてきたらよろしく。」
結局今回の滞在中に両親は降りてこなかったか……さっさと降りてきてくれないといつまで経ってもアレクと結婚できないじゃないか。まったくもう。
それにしてもあの両親がどんな望みを言うのか気になるなぁ。二人とも全てを手に入れてる感があるもん。気になるわー。
「長老衆の皆さん。お世話になりました。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
いつもなら村長にお礼を言うところだけど村長は同行するからなぁ。アレクもコーちゃんもカムイも長老衆のじいちゃんエルフに向かって喋った。
「ありがとうございました。とても勉強になりました!」
「いい刺激になりました! また来たいです!」
「落ち着くいい村ですね。皆さんお元気で。」
サンドラちゃん達も挨拶してる。三者三様だね。
「勉強させてもらった。エルフもドワーフも根は同じなのだな。きっと人間も。さらばだ」
フレッグの挨拶は固いなぁ。
「じゃ、みんなまたね。」
村長は忘れ物ないだろうな? まあその時はまた来ればいいんだけどさ。
『浮身』
来る時より人数は一人増え、荷物は一樽増えた。だが私のミスリルボードには何の問題もない。手を振りながらゆっくりと上昇する。
『風壁』
アレクの魔法だ。ちなみに魔力探査は村長任せ。楽でいいね。
『風操』
あとはぶっ飛ぶだけ。進路は真南。初の試みだ。次に来る時のために最短距離で帰るのさ。
「うはははははは! なんじゃあこの速さは! うははははは! 笑いが止まらんではないか!」
いきなり村長が壊れた。何事だ?
「村長どうしたんだい?」
「知らぬ! 速すぎて笑いが止まらんのだ! うはははははは!」
よく分からんが村長ほどの者でも未体験なスピードってことだな。自分では時速千キロルぐらい出てんじゃないかと思ってんだよね。空の魔物だって全然相手にならないし。スピードメーターの魔道具って作れないかなぁ。フレッグに頼んでみようか……
「ふぅー、ふぅー。いやぁ笑ったぞ。どうなっておるんだこれは。恐るべき速さではないか。これは確かに索敵をしっかりやっておかねば危険だな。これほどの速さで岩にでもぶつかろうものなら、全員即死ではないか。」
「間違いないね。だから村長、しっかり頼むね。」
だから岩やら山やらにぶつからないよう高度は高めに飛んでるんだよね。幸い進路上に私達より高い山はない。山岳地帯ってやたら高い山はあるけど、それってフェアウェル村より北とか東に多いみたいなんだよね。
「うむ。とはいえ、眼下のこの景色も素晴らしい。我らのヘキサグラがここまで美しいとはの。早くも来てよかったと実感しておるぞ。」
うんうん。山岳地帯って起伏がすっごい激しいからね。上からこうして見ると陰影とか色の変化とか、すっごくきれいだよね。エモいと言ってもいいぐらいだわ。うーんダイナミックだねぇ。
闇に覆われて欲しくはないな。
さて、体感で一時間半ぐらいかな。山岳地帯の終わりが見えた。
「ちょっと降りるね。」
「おやカース殿、催したか?」
違うよ……そういや村長には言ってなかったっけ?
「いや、ちょっとそこら辺に岩を置こうと思ってね。」
「岩だと? また妙なことをするものよ。だからこそ興味深いの。」
そこまで大した話じゃないよ……
次またフェアウェル村に行く時のためにね。
よし。ここら辺かな。山裾の平原って感じで広々としてるし。
まずは『風斬』
縦回転で地面を耕す。ヒイズルでも使ったトラクター魔法だ。
『水滴』
そこに水を撒いて、と。
最後に魔力庫どーん。
入ってる中で一番大きな岩を置く。
よーし。二メイルぐらい沈んだかな。これで動いたり倒れたりしないだろ。
「ほう。目印かの?」
「その通り。フェアウェル村から真南がここってわけ。この辺は初めて来たしね。次はここから北に進めば着けるってわけ。」
『水鋸』
岩の頭を水平にカット。だいたい直径一メイルぐらいの円に近いかな。
『水鋸』
十字に切れ目を入れる。深さは数ミリぐらい。
最後に……『水錐』をペンサイズで……右下に小さく……
『Kurse Martin』っと。
よーしオッケー。終ーわり。
「ほう、なるほどの。その傷が東西南北を示しているわけか。」
「そうそう。別になくてもいいんだけどさ。いかにも誰かが置いたって分かった方がいいじゃん?」
「そういうものか。ところでここらに人間は住んでおるのか?」
「いや、絶対いないと思うよ。比較的安全とは思うけどさ。」
「ふむ、そうか。確かに何もおらんようだの。」
「じゃ、みんなお待たせ。行こうか。」
『浮身』
『風操』
進路はまたもや真南。ノワールフォレストの森を越えたらまた同じことをするからね。そうすれば楽園から一直線でフェアウェル村まで行けるって寸法だ。なんというグッドアイデア。さすが私だね。




