184、樹神結界
ぐえぇ……腹が……はち切れそうだ……
サイズ自動調整が付いてるトラウザーズにウエストコートが悲鳴を上げてないか? あうぅ、苦しい……
「カース……信じられないぐらい美味しかったけど……これは危険だわ……」
アレクも苦しそうだ。高位貴族の令嬢がここまで食べすぎることなんてまずあり得ないはずなのに。
「そうだね。美味しすぎるのもそうだけど、ここまで飽きることなく食べ続けてしまうところも危ないね……」
旨みが強烈な物はすぐ飽きるってのが定番だが、アースドラゴンの肉は全く飽きずに限界まで、いや限界を超えても食べ続けちゃったもんなぁ。酒すら飲んでないぞ。コーちゃんやクライフトさんにも渡してないぐらいだ。
「今後は食べる量を決めてからにするべきね。それも少なめに……」
私は容赦なく寝転がっているが、アレクは凛として座っている。痩せ我慢も貴族の技能だよなぁ。偉い。
「そ、そうだね。その日食べる分だけ魔力庫から出そうね……」
あるいは、ヒレだけでなく背ロースやバラ肉なども食べたからだろうか? 脂をしっかり引いたことも関係あるかも知れないな。あ"ー苦しい……
「ガウガウ……」
おおカムイ。さすがのお前も動けないのか。そもそもお前午前中はレバーめっちゃ食べてただろ。あ、コーちゃんもか。
「ガウガウ」
だから手洗いしろって? 話が繋がらねーよ……後でな。今は無理だ……風呂入りたいなら用意ぐらいしてやるが……
「ガウガウ」
今はいいんかい。ならなんで手洗いを欲しがるかなぁ。本当は甘えたかったんだろぉ? かわいい奴だぜ。うりうり、ここか? ここがええのんか? お前は今日ももふもふだのぅ。
ふぅ。カムイのもふもふ腹枕で休憩。だんだんいい気分になってきた。これは寝るな……今日中にフェアウェル村に帰りたいと思っていたが、無理かな? 今寝たら当分起きない気がする……カムイ、護衛頼むぞ……ぐぅ……
「おーい兄貴寝ちまったじゃねーか」
「俺らもちっとばかり食い過ぎたな。あれ美味すぎだろ。『消化促進』使っててよかったぜ」
「おお。まじで止まらなかったぜ。アースドラゴンすげえな」
「つーか兄貴やっぱとんでもねぇな。仲間に援護させてたけどよぉ、あれ別になくてもよかっただろ?」
「おー、まあ楽したかったんじゃね? それにしても凄すぎだぜ。ほぼ無傷のアースドラゴンが手に入ったじゃねーか」
「おお。こんなうめぇアースドラゴンなんて初めて食ったぜ。あの仕留め方のせいだろ?」
「有り得るな。乾燥っつったな。あれで味がぎゅっと締まったんじゃねーのか?」
「おー。一発目の乾燥でかなり弱らせてただろ? そのせいで暴れ方が控えめだったのもよかったんじゃねえ?」
「おお、そうだそうだ。あいつが暴れたら辺り一帯ぼろくそになんだろ? そんだけ暴れりゃあ肉質だって落ちるわなぁ?」
「今回はせいぜい百メイル程度だったなぁ、べっこりへこんだの。あっ、てことはもしかよぉ……」
「分かったぜ、言いたいことがよぉ。もし一撃で仕留めたら、死ぬほど美味えかもってことだろ?」
「おお、気になるぜぇ。兄貴だって今回で感触は掴んだだろうしよぉ。次ぁまじで一発で仕留めんじゃねぇ?」
「アースドラゴンを一発で仕留める人間かぁ……やばすぎだろ」
「今さらだろぉ? なんで俺らぁ人間なんかを自然に兄貴兄貴呼んでんだよ」
「まったくなぁ。うちらの村長もバケモンだけど兄貴もバケモンだよなぁ」
「おお、ここにいたか。今回は助かったぞ。君らのおかげだ。」
「ああソンブレアの村長。どういたしまして。村長こそお疲れ様っした」
「無事に『樹神結界』張れたようっすね。さすがっすわ」
「おかげで呑気にアースドラゴンなんて食えましたわ」
「どうにかな。だがさすがに『樹回神路同期』までは無理だった。エーデルトラウトヤンフェリックス様のようにはいかないな。」
「あれってハイエルフでないと難いんでしょー?」
「それともイグドラシルがまだ育ってないからとか?」
「ダークエルフ族も大変っすよねー」
「うむ。だがここから先は焦ることもないしな。地道にイグドラシルをお育てするだけのことよ。」
「がんばってください。ダークエルフ族は同胞っすから」
「そーそー。そのうち何とかなりますって」
「それにしてもいい時に来たもんですわ。アースドラゴンなんてそうそう現れる魔物じゃないし」
「カース殿にはそのような力でもあるのかも知れぬな。魔力なのか魅力なのか。それに比べると私など無力なものだ。」
「さすがにそれは違いますぜ。ちゃんと結界張ったじゃないっすか」
「村人に犠牲がなかったんすから最上っすよ」
「まっ、兄貴と比べても碌なことないですわな。あー、腹も膨れたし解体の続きでもやりますわ。これで当分安泰っすね?」
「ふっ、それもそうだな。君らにも感謝している。同胞よ。」
こうしてダークエルフの村長ギーゼルベルトヒルデブラントとエルフの若者三人はわずかな酒を酌み交わすのだった。




