163、総力お引越し
「…………ース殿、カース殿。起きてくれぬか?」
「……ん、あぁ、村長、おはよ……」
「どうにか根を出すことはできた。思いのほか大仕事になってしまったが。」
んー? 思いっきり昼過ぎてない? なーんか太陽が午後三時って感じなんだけど。
「そうなの? じゃあ行くよ。」
うーん、それにしてもよく寝たなぁ。すっきりだよ。やっぱアレクの膝枕って最高だね。
うおっ!? 村中が掘り起こされてるじゃん!? どんだけ根が張ってんだよ……
うわぁ……ざっと半径二十メイルってところか? すっごい掘ったなぁ。おお、根ぇ太っと。
では、やるか。
『浮身』
イグドラシルの幹部分だけでなく太い根にも浮身をかける。根がちぎれたりしないように、ゆっくりと浮くように。
イグドラシルが浮きはじめるとダークエルフ達は水をかける。根が抜けやすいようにだな。うん、今のところスムーズに抜ける、けど……
くっ、やはりか……
めっちゃ魔力吸われるじゃないか。
「急ごう。これやばいわ。」
「そ、そうか。お前達、先に行って穴を広げておけ。よもやこれほど根が広がっていようとはな。」
あー、そりゃそうだろうな。これはさすがに予想外だろ。なんで高さが十メイルなのに根っこはその倍以上あるんだよ。
数人のダークエルフが文字通り飛んで行った。
よし。根が全て地面から抜けた。すげぇな……ヒゲ根がほとんどないじゃん。太っとい根が何十本と、まるでタコかよ。これがやがて山岳地帯中に根を這わせるってわけか……怖いな。
さて、私達も行こう。
『風操』
悪いがアレク達は自前の魔法で来てもらおう。コーちゃんは私の首に巻きついてるしカムイは走ればいいしね。
「スティード君、道中の護衛お願いね。」
「分かった! 任せてよ!」
「私も護衛するんだから。サンドラちゃんとセルジュ君も協力してくれるわ。」
「おっ、ありがとね。ならアレクは先導を頼める? スティード君は下でサンドラちゃんは上から全体を見てて。セルジュ君は後衛ね。」
地上はカムイがいるしね。飛べる魔物以外はそこまで警戒しなくていいだろ。
「分かったわ。」
「任せてよ。」
「下から覗かないでよ?」
「僕やることある……?」
サンドラちゃんはスカートだけどその長さじゃあ覗くも覗かないもないだろ……真下にいるわけでもあるまいに。
「セルジュ君と交代でもいいよ? 後ろの守りって重要だからね。」
だから戦力的にセルジュ君は後ろがいいと思ったんだよね。
逆にサンドラちゃんは目がいいからさ。上から全体を見るのに向いてるよね。
「冗談よ。むしろありがたく覗きなさいよ。カース君は分かってないわねぇ。」
無茶言うなぁ。
「じゃあアレクみたいなミニスカートを穿くってのはどうだい?」
「持ってるわけないじゃない……今度買ってよね。」
スティード君かセルジュ君に買ってもらえよ。サンドラちゃん面白いなぁ。
「じゃあ王都に帰ったらね。みんなで買い物行こうよ。」
どうせ最終日は王都に送ってくしね。どうせならアレクにも下品なミニスカート買っちゃおっかなー。グッドアイデアだな。
「約束よ? じゃ、上は任せて。」『浮身』
やれやれ。距離的にはほんの七、八キロルぐらいだっけ。そこまで大袈裟に警戒する必要もないとは思うけど、どうせならこうやってみんなで動いた方が面白いもんな。ダークエルフ達だって周囲を警戒してくれてるしさ。
無駄にリアルな冒険者ごっととでも言おうかね。でも急ごう。
よーし見えてきた。旧ソンブレア村跡地……だよな!? 最近全然来てなかったけど、ちょっとびっくり……草原になってるじゃん。マジで土壌に問題なくなってんのね……自然ってすごいな。あれだけ地獄絵図、毒の沼地だったのがなぁ……私もがんばったもんね。
草原の中心にはきっちりと大穴が空いているし、その周囲には大量の土砂が乱雑に積まれている。大急ぎで掘ったんだろうなぁ。村長もさっきの今だってのに無理言うから……
もう少しだ……いつも通り浮身と風操しか使ってないってのに、やけに疲れたよ……
やたら魔力を食うんだよなぁ。まったくイグドラシルってやつは……どことなくオリハルコンと似てる気もするね。あれも加工しようとすると『魔力を食う』かのような挙動をしやがるもんなぁ。
「すまんなカース殿。とても助かっている。ではあの穴の中心にゆっくりと降ろしてもらえるか? そして途中で止めて欲しいのだ。」
「大丈夫。分かってるよ。」
だって明らかに穴の方が深いんだもん。だから途中で浮かせたままにしておいて土を埋める必要があるんだよね。がんばれダークエルフ達。
では、ゆっくり降ろす。さあ村長、ストップと言ってくれよ?
「そこだ。カース殿、その高さを維持しておいてくれ。」
「分かった。でも早くしてね?」
浮身しか使ってないのにマジで何これ? どんだけ魔力吸いやがんだよ……
しかもやけに疲れるし。イグドラシルが体力まで吸うってのは初耳なんだが。




