484、王妹エカテリーナ
とりあえず今夜のところは領主邸に泊まることになった。ドワーフ達は治療をしたこの部屋に寝かせることになったようだが私には客室を用意してくれるそうだ。ありがたいねぇ。
その代わりってわけではないだろうが明日は領主に会って事情を説明することになった。今してもいいんだが二度手間になるしね。
「ではすまぬが魔王殿、明日は何時になるか分からぬがよろしく頼む」
「ええ、こちらこそこんな時間にありがとうございました。じゃあ休ませてもらいますね。」
「カース君は相変わらずだね。まさかドワーフとはさ。じゃ、また明日ね。」
「うん、兄さんもありがとね。おやすみ。」
はぁ……疲れた……
真っ暗な空をぶっ飛ばして来たからな……めちゃくちゃ疲れたよ。いくら『暗視』を使ってても遠くが見えるわけじゃないからなぁ。正直かなり恐ろしいんだよね。高く飛ぶと下が見えなくなって海に出てしまうし、低く飛ぶと山にぶつかるかも知れないし。
そりゃあさ、夜の空って魔物がほぼいないけどさ。それでもゼロじゃないもんなぁ。さっきだって雲なのか埃なのかよく分からない魔物がいたし。こっちは風壁を張ってるし突っ込んでも大丈夫とは思ったけどギリギリで避けれたんだよね。念のためさ。なんせ初めて見るタイプの魔物だったし。ガス生命体とでも言うんだろうか? 妙な魔力を感じなかったら魔物とすら気付かなかっただろうなぁ。魔物は謎が多いね。
はぁ……ほんとに疲れたよ。少しお腹が空いた気もするし、風呂に入りたくもあるが……寝よ……ぐぅ……
「……くん……ースくん……」
ん……もう朝か……寝た気がしない……
「カース君、起きて。領主様がお呼びだよ」
んん……こんな朝っぱらから?
「兄さんおはよ……早起きだね……」
「いやいや、もうすぐお昼だよ? 領主様はカース君と昼食をご一緒しながら話を聞きたいそうだから。急ごう」
「あらら、それはごめんね。急ぐよ。」
『水球』で顔を洗いつつ寝癖を直して……
『温風』で乾かしながらセットする。普段は無造作ヘアなんだけど貴人に会うんだからオールバック気味でいこう。
『換装』でいつもの服装に着替えて準備完了。ここまでわずか五秒。ベッドから扉へと歩く間に終わった。ちょっと魔力の無駄遣いだけどさ。急いでるから仕方ないよね。
「やっぱり惚れ惚れするような魔法行使だね。一切の澱みも魔力のブレもない。息をするようにとはこのことだね」
「いやぁ照れるなぁ。やっば基礎は大事だよね。」
宮廷魔導士であり魔道貴族ゼマティス家の後継であるガスパール兄さんに向かって何を言ってんだか……言われるまでもないよね。
「カース君はすごいよ……魔力は膨大なのにそれに満足せず基礎からしっかり鍛えてるんだからさ」
「いやいや、朝から照れるって。兄さんったらどうしたのよ。」
魔力が多いとその分たくさん練習できるってアドバンテージがあるんだよね。だから余計に差がつくという……
「いや、何でもないよ。久々にカース君を見たらさ、また成長したみたいだからさ。いや、久々ってほどでもないよね。だから余計にすごいのさ」
「そう? 兄さんほどの魔法使いにそう言われるなんて光栄だよ。いやマジで。」
「だれだってそう思うさ。伝説の存在とされたエルフだけでなく、伝説の片隅で埋もれていたドワーフとも接触してくるなんてさ。しかも彼らの信頼をしっかりと得ているようだし。歩く伝説発掘屋だね」
ま、まあ、偶然だけどね。普通ドワーフが王城の地下深くで奴隷になってるだなんて思わないし。それにしても歩く伝説発掘屋……ダサいぞ……
「久しいのカース。壮健なようで何よりじゃ。」
「ご領主様、お久しぶりです。昨夜は深夜にもかかわらず宮廷魔導士の方々には快くご助力いただきまして感謝の念に堪えません。」
このおばさんは確かエカテリーナって言ったかな。今のローランド国王の妹だっけ。だから結構いい歳のはずなのに相変わらず若々しいな。
「ほう? 口も上手くなったと見える。やはり旅はするものよのう。さて、何があったか詳しく聞かせてもらいたいところだが、これだけの馳走を前にしてそれは野暮というもの。さあ、食べようではないか。」
まさか私が来たから豪華にしてくれたのか? やけに肉肉しいようだが……あっ、美味しい……何と言うか旨味が濃いな……まさに肉って感じの味わいだ。これ何の肉だろ?
「どうじゃカースよ、その肉は。」
「美味しいですね。何の肉ですか?」
ブラックブルやオーク系ではないんだよな。どっちかと言うと脂の少なさからコカトリス系だろうか? でもそれにしては美味すぎるしなぁ。
「当ててみよ、と言いたいところだが分かりやすいゆえな。ワイバーンよ。それもこちらの大陸のワイバーンだそうだ。チャルオットが任務の帰りについでとばかりに狩ってきおってな。」
チャルトオット……あ、確かチャラい宮廷魔導士だっけ? 私がどこかの街まで送り届けた覚えがあるなぁ。
「あぁ、こっちでは岩飛翼竜と呼ばれてるやつですね。確かにあれはワイバーンですよね。」
「なんじゃカースも知っておったのか。やはりワイバーンは美味いものよのお。」
間違いないね。おまけにこれに合わせたワインが美味いね。これアレクのじいちゃんとこの酒じゃない? ベゼル・ベイヤードだったか。贅沢してんねぇ。それとも私のために開けてくれたんだろうか。ありがたいことだ。
「たまたま通りかかった所がワイバーンの塒だったもので。その時は見逃してやりましたけど。」
「はははっ! たまたまでそのような所を通りかかるのか! そなたの日常が見えるようだわえ。いやぁ愉快愉快。ならば狩った魔物はどうじゃ? さぞかし強力な魔物を狩ったのではないか?」
いや……こっちの大陸ってそんな強い魔物はいないよな? 強いて言うなら……
「紅蓮獅子ですかね。うちのカムイが仕留めたんですよ。こっちではマザルフィザキオンと呼ばれてますけど。」
「ほう、紅蓮獅子か。噂には聞いたことがある。かなりの強さと凶暴さを兼ね備えておるとか。時にはドラゴンをも喰い殺すそうだの。それを仕留めたか。さすがは魔王の牙よの。」
「ありがとうございます。ちょうど今回のお礼にお納めしたいと思っていたところです。後ほど出しますので貰ってやってください。」
もちろんリキームさん達には別にお礼をするけどね。紅蓮獅子の毛皮でアレクにコートを仕立てようと思ってたけど……まあいいさ。紅蓮獅子はまた狩ればいいし。
「ほう、紅蓮獅子をか? まったくそもそもそなたが礼をする必要などなかろうにの。お人好しめ。」
まあね。でも連れて来たのは私なんだからそうもいかないさ。おまけにこんだけご馳走になってんだしさ。たぶん今ごろジャンも子供達も同じような物を食べてそうだし。そりゃあ気を使うさ。あーこの肉美味いなぁ……ワインと相性良すぎだろ。早くあっちに帰りたいのに、これはいかんなぁ……でも魔力が減ってるから酔いが回りやすくなってんだよね……




