94、カルチャーショックシュガーバ
うーん、いい朝だな。昨日は夕食も食べずに寝てしまったか……まさかそのまま朝まで眠り続けるとは。私もアレクもかなり熟睡してしまったね。疲れが溜まってたんだろうなぁ。まあハードに動いたせいもあるけど。
でも、かなりすっきりした気がする。
「ピュイピュイ」
あはは、ごめんごめん。お腹すいたよね。ちょっと待ってね。アレクを起こすから。
普段なら起きるまで待つんだけどさ。さすがに寝過ぎた気がするからね。みんなで朝食といこうじゃないの。
「ご、ごめんなさいカース、お腹すいたわよね! す、すぐ用意するわ!」
アレクったらかわいいんだから。普通に起こしただけなのに、なぜか慌ててる。他の野郎どもに全身を触らせたのは少しも悪いと思ってないくせに、私より遅く起きたことには焦ってる。普段ならそんなことないんだろうけど、さすがに今回は二人ともめちゃくちゃ寝てしまったからね。私にひもじい思いをさせて悪かったとか思ってそう。寝てたから関係ないのに。
「寝過ごしたのはお互い様だよね。アレクは全然悪くないって。でも朝食を作ってくれるのは嬉しいよ。」
「待ってて! すぐ作るから!」
「やっと起きたか。お前本当にカラバまで行ったんだな……驚いたぞ……」
シュガーバの家族は命拾いしたのかねぇ。
「おう。ちゃんと渡してきたぞ。それよりそこの犬だよ。お前が使ってた鳥みたいなもんか? カラバから街道を南に歩いてみたんだけど、生意気に追いかけてきたみたいでな。」
「ああ……知ってる奴の犬だ。よく捕まえられたな……」
射程距離に入れば楽勝に決まってんだろ。確かに生け捕りはやや難しいけどさ。
「それよりお前、この犬を鳥の代わりにすることはできるか?」
そもそも調教した動物と視覚や聴覚を同調するのって半分魔法だよな。こいつらはほとんど魔力を持ってないようだが、個人魔法に近い何かで解決してやがるんだろ。当人も分かってはいないようだが。だからちょっと試してみようと思ったんだよね。
「あー……前例はあるな。不可能じゃあないとは思うが……」
「ならやれ。お前にはまだ働いてもらうからな。ちなみにアッシリはどうだ?」
「できない……おれができるのは村の近くで生まれた一角鼠だけだから……」
なるほど。ここで下っ端と幹部にまでなる奴の差が出るわけか。
「そうか。それならそれでいい。じゃあシュガーバは任せたぞ。この犬を使えるようにしておけ。足りないものや困ったことがあれば言えよ。」
「分かった。くっそ……面倒な命令しやがって……」
素直な奴だなぁ。私の命令が効いてるからか。まあ無理なら無理でいいんだけどね。
「カースお待たせ! はいこれ!」
「ありがとね。いただくね。」
朝から暑いコナクライだけど、それでも熱いスープを作ってくれたアレク。どれどれ……
「美味しい……何これ? めちゃくちゃ美味しいんだけど……」
魚介のスープ? やけに濃厚だ……でもこの味は覚えがある。えーっと何だっけ……濃厚な旨みとまろやかな口当たり。朝からでもするりと飲めてしまう。旨いなぁ……
「鮑のクリームスープよ。疲れにも効きそうね。カースの口に合って嬉しいわ。さ、お前達も食べなさい。」
「は、はい、いただきます……」
「いただきますお嬢様……」
おっ、アレクったらきっちり教育したのね。ぬかりがないね。
「カース、お代わりもあるわよ。」
「おっ、いいね。じゃあ半分もらえるかな?」
かなり美味しいけど濃厚だからもう一杯はいらないんだよね。
はぁ……うまかったぁ……二十時間ぶりの食事だけあって五臓六腑に沁みわたったね。
このまま昼ぐらいまでのんびりして、それから出発しようかな。第一の目的地はアッシリの村。コーヒー豆をゲットだぜ。
「な、なあ魔王……お前そんだけ飛べるのに、なぜ歩いてるんだ? 飛べば早いだろ?」
シュガーバには分からないかねぇ? 旅ってのはゴールも大事だけどそれ以上に道中も大事なんだぜ? ロマンであり青春だよなぁ。
「飛んだらすぐ着いてしまうだろ? 俺らは物見遊山に来てるんだからさ。すぐ終わったらつまらんじゃないか。」
「ものみ、ゆさん? よく分からないが……遊びにきてるってことだよな? でも、お前ら、い、いやお嬢様達はかなり上の人間なんだろ? それこそ頭領サールーキ様のような……」
「そうだぞ。アレクはローランド王国建国以来の名門貴族に連なるお嬢様だぞ。つまりお前らで言えばセティアニア商国の王族の血を引くやんごとなきご令嬢ってことだ。で、それがどうした?」
少し大袈裟だが嘘ではないね。
「そんなお嬢様がわざわざ料理をするのが不思議でな……オレらにまで食わせてくれるし……」
「お前らのところでは誰が料理するんだ?」
「そりゃあもちろん女衆だが」
同じじゃん。
「だったら別に不思議じゃないだろ。」
「違う。料理をするのは端女や奴隷どもだ。オレの母親や正妻連中は料理などしない」
あー、文化が違ぁーうってやつだね。
「アッシリのところは?」
「母親も妻も料理をする」
「やっぱするんじゃん。」
「貧しい農村だから……シュガーバ様のところとは違う」
ふーん。こいつらって結構身分違うよね。
「ローランド王国ではな身分の高い女性ほど料理の腕が高くないといけないんだよ。というのがさ……」
軽く説明。まあ、いけないわけじゃないけどね。普通にステータスってだけだよな。私よりアレクが説明した方が正確とは思うが。
「……ってわけだ。だからお前らアレクに無礼な真似したら毒入り料理を食わせるからな?」
いや、食わされると言うべきか? もっともこいつらならわざわざ毒で殺さなくてもいいんだけどね。
「よく分かった。ローランドという所は女の方が強いんだな……」
あー、一言でまとめるとそうかも。
さて、腹も落ち着いたことだしのんびり錬魔循環しようかな。魔力は二割ちょいぐらいしかないけど、こんな時だからこそ修練を欠かしてはいけないのだ。ふぅー。




