370、飲みなおし
「カース殿、これだけの景色に素晴らしい酒。もちろん悪くないのですが、そろそろ摘みが欲しくないですかな?」
「ああ、ちょうど欲しいと思ってたところです。」
たっぷり動いた後だしね。男爵だって森から帰ってきた後だろうし腹がへってるだろう。
「ならば場所を変えて飲み直しといきませんか? 私、腕を振るいますので。」
「おお、男爵手ずから。では甘えさせていただきます。今降ろしますね。」
いきなり魔法を解除してフリーフォールどっきりをしてもいいのだがお互いほぼ全裸だしなぁ。それにアレクは寝てるし。ゆっくり降ろすとしよう。
よし、着地、と。
「では私は先に出ますね。後からゆっくりお越しください。」
「ええ。アレクを起こしてから行きますね。」
そう言って男爵は湯船から出ていった。背中もいい筋肉してんのね。細いのに。
アレクを揺り起こす。唇も奪う。眠っている姫を起こすのは口付けに限るよね。
「んっ……カース? あ、もう降りたのね……」
「起こしてごめんね。さっきまでスペチアーレ男爵と飲んでたんだけどさ。男爵が摘みを作ってくれるって言うから降りたの。アレクもお腹すいてるかなーと思って。」
「男爵が? ああ、飛んでいらしたのね。私ったらはしたないところを見せてしまったかしら?」
「全然そんなことないよ。闇雲で隠しておいたから。あまりにきれいだから見せびらかしたい気持ちはあったけどね?」
「もおっ、カースったら。手間をかけさせたわね。ありがとう。」
ぬふっ。アレクからキスのお返しがきた。ふふふ……
「ガウガウ」
さっさと乾かしてブラッシングしろって? お前腹がへったもんだから早く男爵の料理食べたいんだろ。でも摘みだからな? お前の苦手な香辛料たっぷりの料理でも文句言うなよ?
「ガウガウ」
文句は言わないけど肉を食わせろって? それは文句みたいなもんだろ。まあいいや。
『乾燥』
『換装』
私とアレクとカムイを同時に乾かし、そして服を着た。さて、ブラッシングしてやるか。ちなみにアレクはすでに自分で闇雲を使っている。
着替えとブラッシングを終えて男爵邸の中へ。
「お待ちしておりました。この度はようこそお越しくださいました。心より歓迎いたします」
執事だ。セリグロウさんだったっけな。
「こんにちは。いきなり来ちゃってごめんね。タンドリアに行ったら男爵にも会いたくなったもんでさ。」
「ありがとうございます。ではこちらへどうぞ」
食堂に案内されるのかと思えば……居間かな? さほど広くない部屋、暖炉があるな。その前には低いテーブルが。これは珍しいな。絨毯は敷いてあるが直接床に座って食べるスタイルか。大きな体を小さくして座ってる男もいる。
「やあお弟子さん、さっきぶり。」
「し、知らぬこととは言え、た、大変失礼を……」
知らなかったのは私が男爵の友人だってことか? それとも魔王だってことか?
「知らなかったんだから仕方ないよね。で、何か大事な物でも置いてたのかな?」
「あ、ありがとうございます……そ、その、師匠の酒が置いてあって……」
ん? 酒が金目の物? そりゃあスペチアーレ男爵の酒ってめちゃくちゃ高いけどさぁ。高い酒は酒蔵の方に置いてあるんじゃないの? どうでもいいけど。
「お待たせしました! さあカース殿! 飲み直しですぞ! アレックス嬢もぜひ!」
「ご挨拶が遅れて申し訳ございませんわ。先ほどは失礼いたしました。」
「いえいえ何の何の。あのような絶景を枕に夢を見るなんて最高のひと時でしょうな。いやぁ羨ましい。」
これって他の人間が言うと嫌味っぽく聞こえるけどスペチアーレ男爵の人柄かな。本心から言ってるのが分かるよな。それにしても絶景を枕に、か。洒落た言い回しだなぁ。よし、真似しよ。
「おいルファー、座ってないで料理を運びなさい。」
「お、おす師匠!」
この大男はルファーって言うのね。さすがに男爵の前では小さくなってるな。
「さあさあカース殿。大したものはありませんが再会を祝して乾杯ですぞ!」
「ええ、いただきます。乾杯。」
「乾杯ですわ。」
今日何回乾杯したっけな。何回してもいいものはいいよな。
「カムイ殿にはこれを、アレックス嬢には甘味も用意しております。おや? コーちゃん殿が見当たりませんぞ?」
「あっ、ごめんなさい。コーちゃんたら勝手に酒蔵に入り込んだみたいで……連れ戻してきますね。」
「ピュイピュイ」
かと思えばカムイの足元からぬるりと現れた。酒蔵見学ツアーしてたのか。さすがに飲んだりはしてないのね。信じていたとも。
「おおコーちゃん殿! こちらでしたか! コーちゃん殿も一緒に飲みましょう。さあさあ駆けつけ三杯ですぞ!」
それにしても男爵のおもてなしが半端ない。私とコーちゃんは同じものだが、カムイには肉の塊、アレクには甘そうなデザートとフルーツ。どんだけ歓迎してくれるんだよ。嬉しくなっちゃうね。昼間だってのに酒が進んでしまうな。男爵は五十過ぎって聞いたけど私もアレクもまだセブンティーンなのに。
くぅう……酒も料理も旨すぎるっ……隣には笑顔のアレクもいるし、ここは天国かよ?




