286、店主スヴィネル
それからもワインと相性のいい料理が出てきた。正確な名前はよく聞こえなかったが、要はフォアグラのテリーヌや鴨のコンフィだった。どうやらベルグラックではガチョウや鴨がよく獲れるらしい。いかんな、ワインが進んでしまう。
「ってことがあってよお? せっかく魔王さんが勘弁してやったのにあいつらバカ丸出しだったんだぜえ?」
「ぎゃははははあ! ベルグラックの七等星かあ? せっかくお前が仲裁してやったのになあ?」
「だめな奴ってなあそんなもんだぜなあ?」
「ピュイピュイ」
「へへっそうだろお? 蛇ちゃんさんもそう思うだろお?」
「すげえぜこの蛇ちゃんさん! めちゃくちゃ飲んでんぞお?」
「やべえって……ここ俺らの奢りなんだからよお……」
コーちゃんも楽しそうにしてるね。カムイもガンガン食べている。人の奢りで食う飯は旨いもんね!
「カースぅ……飲んでるぅ……?」
「飲んでるよ。美味しいね。」
ずっと隣にいるんだから分かってるくせに。アレクったらかわいいんだからもう。最初のメロンワインですっかりご機嫌になってるんだよな。やっぱり女の子には甘いものが効くってことだね。私の魔力庫って肉はたくさん入ってるけど甘味がほとんどないもんなぁ。蟠桃だって残り少ないし。
いや? ある! つい朝方ゲットしたばかりのものが! どこか腕のいい料理人に頼むかアレクに任せようと思っていたあれが! アレクもご機嫌なことだし少しぐらいここで放出したっていいよな?
「店主に頼みがあるんだが、話を通してもらえないか?」
「おお? どうした魔王さん! よっしゃ店主だなあ! ちっと呼んできてやんぜえ!」
「待て待て。俺が行く。どう見ても忙しいに決まってんだろ。」
だったら私も頼み事なんかするなって話だが、それはそれこれはこれなのだ。
「そうかあ? 魔王さんがそう言うならいいけどよお……こっちだあ」
店員でもないくせに偉そうに。でも行くけどね。
「おう! スヴィネルう! ちっといいかよお? 魔王さんが話してえんだとよお!」
「ああん!? 見て分かんねえか! 忙しいんだよ! まおうだかあほうだか知らねえがよ!」
そりゃそうだ。
「悪かった。何でもないんだ。邪魔したな。」
私は正論には口を噤むタイプだからな。
「ん? ちっと待てや! まおうって……魔王かあ!」
ほう。服装で気づいたのかな? こいつらがテーブルで散々魔王って呼んでたのに気づいてないのは接客業失格だが。
「ああ。魔王と呼ばれてる。クタナツの七等星カース・マーティンってもんだ。作って欲しい料理があってな?」
「マジで魔王なんかよ……知ってんぞ……昔王都でアレクサンドル家の上屋敷を更地にしたんだよな……? あれ本当なんか?」
よく知ってるのね。まあここがアレクサンドル領だからってこともあるんだろうな。
「本当だよ。で、頼みってのはこれを使って何か旨いもんを作って欲しくてな。もちろん報酬は別に出すから。」
魔力庫から取り出す。
「ほおう……復讐刺蜂か。巣まできれいに採ってるじゃねえか。さすがの復讐刺蜂も魔王にかかっちゃゴブリンの手をひねる程度ってことだな」
「報酬は現金でも今出した素材の半分でもどっちでもいい。やってくれるならな。」
「いいだろ。そんじゃ半分貰うわ。一時間ぐれえ待ってもらうぜ? さすがに今すぐは無理だからよ」
「構わんよ。悪いが頼む。」
「おう。ほおう? 蜜もたっぷりじゃねえか。こいつは堪んねえぜ。んじゃ、ちっと待っといてくれや」
よし。ならばのんびり飲みながら待つとしよう。これでアレクのご機嫌はさらにアップだな。ふふふ。
「……というわけで、もう少し待ったら甘いデザートが出てくるよ。」
「えへへぇー! カースだーい好き!」
ぬふふふ。横から抱きつかれて頬にキスまでされちゃったよ。まったく、アレクは天使だぜ。
「なーによ魔王さん。さっそくアレ食うんかい?」
「俺らも一口ぐれえいいよなあ?」
「どんだけ甘えんか興味ありまくりだからよお!」
「一口だけな?」
出来上がりがどのぐらいの量になるか分からないんだからさ。
「おう! 待たせたな!」
おっ、来た来た。
「まずはこいつ、ハニーコムだ。つっても切っただけで何もしてねえけどな」
ふむふむ。蜂の巣の蜜たっぷりの部分を一口サイズよりやや大きめに切ったものか。見た目はもろ蜂の巣って感じだが……味の方は……
「美味しいわ。復讐刺蜂たちの命の煌めきを彷彿とさせる強烈な甘美。この一瞬のために全てを注ぎ込み、役目を終えたら静かに消えていくかのような後味。蜂たちの一生を見るかのようだわ。本当に美味しいわね。」
すげぇ……酔っていたはずのアレクがいきなり饒舌かつ的確なコメントを……難しいことは分からないが確かに甘くて美味しい。歯応えだってザクッとして旨いんだよな。もっとしっとりしてるかと思ったのにさ。
「女神さんだったか。よく分かってんじゃないかよ。よっしゃ次はこれ、蜂の子塩炒めだ!」
ほう、蜂の子か。見た目は良くないな……大きな蛆虫にも見える。
「これはいいわね。カースに勧めたくなる味わいだわ。」
私に? ならば食べようではないか。
あっ、美味しい。カリッとしてるやつと適度に歯応えが残ってるやつ、どっちも美味しいじゃん。そしてこの塩味が酒のツマミにいいんだよな。へぇ……最初は塩味が効いてるんだけど噛んでると段々甘くなってきた。不思議な味わいだなぁ。旨いわぁこれ。
ワインもいいけどビールが欲しくなるよな。プレミアムなやつが飲みたくなるじゃないの。
「うめえ! うめえぞお!」
「くっそお! たった一口だけかよお!」
「どうする? 俺らも復讐刺蜂お狙ってみっかあ!?」
「バカ言ってんじゃねえよ! そんなやべえこと絶対やんねえぞ!」
「当たり前だぜえ! 俺あ絶対やだぞお!」
「俺も嫌に決まってんだろお! 言っただけだってんだあ!」
こいつらまでご機嫌になっちゃってまあ。
「おう! 待たせたな! これで最後だからな!」
おっ何かな? 見た感じはカボチャだが……




