272、公爵夫人ジュスティーヌ
聖木の様子を見てからアレクサンドリアへ行く。
残念ながら聖木に変化はなかった。ただ、コーちゃんによると衰弱はしてないってことなので良しとしよう。全ての枝を失っても枯れる気配を見せない生命力に期待だね。
到着。今回はいきなり公爵邸の正門に着地した。前回は来なかったエリアだけど、大きいからすぐ分かるんだよな。
「き、貴様あ! 魔王か!?」
「何っ!? こやつがあの!?」
「騎士長に伝達を! 早く!」
「慌てるな。攻め込みに来たわけじゃない。だから中庭や玄関前じゃなく正門前に来てやったんだ。礼儀正しくな?」
「くっ……ぬけぬけと! 何用か!」
よかったな。剣の柄に手をかけたもののどうにか抜くのは堪えたようだ。前回でちゃんと学んだらしい。
「ベゼル男爵から手紙を預かっている。公爵夫人に渡して欲しいとのことだ。直接手渡すようには言われてないからお前に渡すのでいいか?」
「まっ、待て! それは困る! ちょ、ちょっと待ってろ!」
あらら。走って逃げちゃったよ。意外にまともなところもあるもんだな。受け取るだけ受け取って知らんぷりして捨てるなんて考えはないと見える。
「待つのは五分だけな。」
門番の入れ替わりが激しいから目の前の奴に言っても意味がないんだけどね。
「あらカース。せっかく来たんだしジュスティーヌ様にご挨拶しておきたいわ?」
ジュスティーヌって誰だい……話の流れからして公爵夫人なんだろうけどさ。
「それもそうだね。そうしよっか。おい、聞いてたな? 公爵夫人を呼ぶか案内してもらおうか。クタナツの分家、アレクサンドリーネお嬢様がお見えになったと伝えてきな。」
まあさっきの奴がある程度は伝えるんだろうけどさ。
「ま、待たれい……」
うん。素直でいいね。
分家の者が来てるんだし本家の当主夫人としては居留守を使うような真似もできまい。
それにしてもアレクにしては何か珍しい気がするんだよな。昔はともかく最近のアレクって本家と分家のつながりなんか特に気にしてなかった気がするんだが……
そろそろ五分。体感でだけど。
「そろそろ時間切れだな。返事は?」
「まっ、待たれよ……もう少しで返答が届くはずなのだ……」
「じゃ、あと一分な?」
一分経ったら前進しよう。正門をぶち壊してさ。
おっ、門が開いた。歓迎モードか。嫌々なんだろうけどさ。
「奥方様がお会いになる。こちらだ」
「おう。」
やれやれ。もったいぶりやがって。
へぇ。手入れの行き届いた見事な庭園だな。幾何学模様って感じ? 左右対称なところもいい感じじゃん。ほぉ、道が池の上を通ってるし。洒落てるね。
ふぅん。建物まで洒落てやがる。白亜の城に青い屋根か。いい趣味してんなぁ。
玄関の扉はすでに開いている。さぁて公爵夫人とはどんなおばさんなんだろうね。
屋敷に入っても先導は騎士のままだ。普通はメイドに交代するものだが。おまけに私達を取り囲む騎士の人数だって増えている。接近戦で人数ごり押しなら勝てるとか思ってんじゃないぞ?
「奥方様! 分家の方をお連れいたしました!」
ようやく着いたか。じいちゃんちに負けず劣らず広い家に住みやがって。家ってより城だけどさ。
先に騎士が入る。やはりここは応接室か。おっ、あいつが公爵夫人だな。
「お初にお目にかかります。フランティア領はクタナツ、アレクサンドル男爵家当主アドリアンが長女アレクサンドリーネですわ。ジュスティーヌ様におかれましてはご機嫌麗しゅう。」
昨日の今日でご機嫌が麗しいわけないと思うが……アレクったら容赦ないなぁ。
「ようこそアレクサンドリアへ。あなた方の噂はかねがね。当主アルメネストに代わって歓迎するわ」
普通の女性貴族って感じだなぁ。王宮のパーティーなんかによくいそう。
「カース・マーティンです。ベゼル男爵からの手紙をお渡しします。」
何の気なしに渡したけど、これってよく見ると手紙ってより親書だよな。よさげな紙に封蝋もばっちりしてあるし。
「せっかちね。噂の魔王がやって来たと屋敷は大騒ぎなのに。もう少し会話をしてみたいものだわ」
余裕かましてくれるじゃないの。護衛の騎士達とは違ってさ。
「祖父ポーレットよりの親書でございます。まずはご覧くださいませ。」
やっぱ親書なんじゃん。でもじいちゃんたら自分で書いたんだろうか? あんな体調のくせに。
なんだよ私には手紙としか言わなかったくせに。別にいいけど。
「あなたもせっかちね。読ませていただくわ」
風の魔法で封筒に切り込みを入れて、中身を取り出した。何が書いてあるんだろうね。アレクは普通に把握してそうだけど。
「そう。分かったわ。こちらの損害はかなりのものだけど、先に手を出したのもこちら。何の文句も言えないわ。委細承知と返事をしておいてくれるかしら?」
「いえ、その旨はジュスティーヌ様の名の下に知らせてやってください。私達はこのまま王都へ向かいますので。」
アレクったら。私達の手間的な問題もあるけど、口約束では済まさない的な意思を感じるね。まあ貴族同士の口約束って重いけどさ。そのぐらいアレクだって分かってて言ってるんだよね。
「同じアレクサンドル一門なのに随分と手厳しいわね? アドリアン様にそっくりだわ。」
「恐縮です。私としてはベゼル家とアレクサンドル本家が今まで通りの関係ならばそれでいいのです。あまり口出しをする気はありませんので。」
「そう。手紙を運んでおいてよく言うわ、と言いたいところだけど魔王には敵いそうもないし大人しく言いなりになるとするわ」
結局中身は何が書いてあるのやら。後でアレクに聞こうっと。
「では、これにて失礼いたしますわ。どうかジュスティーヌ様におかれましてお体に気を付けられてくださいませ。」
「ええ。よく来てくれたわ。またアレクサンドリアに立ち寄った時は顔を見せて欲しいものだわ。」
「ええ。その時は必ず。」
なーんか空気がピキピキしてる気がするんだよなぁ。アレクがプレッシャーかけてる気もするし。
「ベゼル家を頼みますね?」
私からも一言だけ言っておこう。いつか再びここに来た時にベゼル家が皆殺しなんかにされてたら許さないって気持ちを込めて。
思うに、じいちゃんが私に手紙を託した理由もこれだな。昨日の今日なのに念入りにプレッシャーかけようって魂胆だろう。私がいるうちにさ。そうすれば私達がいなくなってもベゼル領はそれなりに安全だろうよ。だよな?




