270、ロックンロールオールナイト B グッド
大樽で用意された酒が空になり、ばあちゃんもピアノをやめて退室した。メイドさんや料理人もいなくなり、ベゼル家の面々も半分以上いなくなった。全員意地でもこの場で倒れることは避けたらしい。食堂は閑散としている。
それでもアレクはバイオリンを弾き続け、私は踊り続けている。だって楽しいんだもん。
「やるじゃねえか魔王お! そいつあ最近の若いもんに流行ってるステップかあ!?」
「よく分かりません。適当に動いてるだけですよ。」
「そおかあ! 適当かあ! よっしゃあそんならワシもやるぜえ!」
セブンティーンの私と六十すぎのジジイが一緒にツイスト。最高じゃん。これこそロカビリー、ロックだろ。あ、そうだ!
「ん? なんだあ? 踊らねえのかよお!」
「試しに弾かせてもらいますね!」
ピアノだ! 前世は小学校教師だったからな。こう見えてもピアノは弾けるんだぜ? しかも童謡だけじゃないんだからな? いくぜロックンロール!
「おっ? おお!?」
ふふふ。ノリノリだろ? ばあちゃんが弾いてたロカビリー風のメロディもいいけど私が弾いてる正統派ノリノリロックンロールもいいだろう?
読み書きはできないが鐘をならすようにギターを弾く少年の曲だぜ! 私だって本当ならギターで弾きたいところだが、ないものはない。だからピアノアレンジでいくぜゴーゴー!
「おおっ! こりゃええ! 体が勝手に動くじゃねえか! おーおー! おーおおおー!」
アレクも私に合わせて弾いてくれる。それどころか旋律をアレンジして新たなメロディを生み出している。最高だ。ノリが止まらん。どこまでもグルーブが弾けていくぜ。
「ピュッピューピューピュイピュー」
コーちゃんまで歌ってくれるじゃないか。こいつはご機嫌だね。カムイはさっさといなくなったけどさ……
「カース! 楽しいわね!」
「だよね! 最高だね!」
「おっしゃあ! ガンガン弾けやあ!」
この場にはもう十人もいない。でも関係ないね。弾き続けるぜ! ちょっと踊りたくもなってきたけど! 今生で初めてのピアノだし、このまま弾き続けたくもある。こりゃあもう王都に行ったらピアノ買うしかないな。金はまだまだあるし。いくぜロックンロールオールナイト!
「アレク! 踊ろうよ!」
「ええ! カースがリードして!」
「ピュイピュイ」
「げはっははははあ! もっとだあ! もっと踊れえ!」
「うおおおおお! お館様のステップがド鋭えええ!」
「こうか! こうなのか!」
「腰だ! 腰をこうっ!」
騎士だけあって動きが鋭いじゃん。身体能力は私より上なんだろうなぁ。音楽もないのによく踊れるもんだわ。私もアレクも、あいつらも。
「おおい魔王おお! 音楽あどうしたあ! ノリが足りねえぞおおおお!」
それにしてもこのじいちゃん元気だなぁ……かなり飲んでたよな? その上激しいツイスト。色黒だから顔色の変化はよく分からないけどさ。そこまで魔力が高くないんだからさぁ、酒ばっか飲んでると肝臓を悪くするんじゃないのか?
「そんじゃあご機嫌なナンバーいきますぜ! てめぇらあ! 気合い入れていけよおい!」
「おっしゃあ! いっけやぁ魔王おおお!」
いくぜ! さっきも弾いたギター少年の曲! それも別バージョンでやってやるぜ! これこそギターでないと難しいんだけどさ。だが、ノリの良さはこっちの方が上だ! いくぜゴーゴー! ギター少年の曲をギターの化け物が弾くバージョンをピアノでアレンジする私バージョンだ!
「おっ! おおお! こいつはあ! こりゃあええ! やるじゃねえか魔王おおお! ガンガンいけやあ!」
「ピューピュイピュー」
コーちゃんもノリノリでフィーバーしてるね。アレクはまたもやバイオリンで旋律っぽくメロディを弾いてくれる。最高すぎるぜ。よっしゃイントロ終わり歌うぜゴーゴー!
「うおおおお! お館様あ!」
「見ろよお前ら! お館様のあの顔おお!」
「おお! なんて楽しそうなんだ! 俺らも負けてらんないなあ!」
ここからではよく見えないがじいちゃんが楽しそうで何よりだ。よし! ここからギターソロ! はできないからピアノソロだ! 刻むぜロックンロール魂!
やべえ……楽しすぎる! 音は外しまくり、ミスタッチしまくり。でもノリは、グルーブだけは出しまくってると自負する私のピアノ。今生で初めて弾いたせいだろう、さっきから指がつりそう。心なしか手首も痛くなってきた。
『無痛狂心』
『身体強化』
これでいい。痛みだけを消して力強さアップ。まだまだ弾き続けるぜ! このままロックンロール朝までサタデーナイトフィーバー! ゴーゴージョニー!
ところで今日って何曜日なんだろうねぇ……?




