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魔闘少女ハーツ・ラバーズ!  作者: ハリエンジュ
第十話『乙女心がわからない!? 詩織と千雪のすれ違い!』
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その6 友達になりましょう

★魔闘少女ハーツ・ラバーズ! 

第十話『乙女心がわからない!? 詩織と千雪のすれ違い!』

その6 友達になりましょう



teller:河本(こうもと) 詩織(しおり)



「……あ」


 こずえと愛歌と帰路を共にしていたら、前方に見知った人影を発見した。

 艶やかな長い黒髪をハーフアップにした、スタイルが良くて整った顔立ちのお姉さん。


 ――秋風さんだ。


 何となく気まずくて視線を逸らす私の横を、金色の影が通り過ぎて行く。

 見れば愛歌が、猛スピードで秋風さんに駆け寄り抱きついていた。

 相変わらず、愛歌のコミュニケーション能力の高さには脱帽させられる。


「ちー姉だー! こんにちはー! ちー姉も学校終わったのー?」


「うん、まあ。これから秘密基地行こうとしてたとこ。愛歌ちゃんたちも学校お疲れ」


「お、お疲れ様です……」


 こずえもおずおずとしながらも会釈する。

 そんなこずえの姿を見て、秋風さんは優しげに笑う。


 おとなしいこずえですら、ある程度は秋風さんと打ち解けている様子なのに。

 私ばっかり何をやっているのだろうと自分に呆れてしまう。


 私も何か挨拶をした方がいいだろうかと、口をぎこちなく開けた所で。


 視界に黒い影が舞い降りた。

 いや、そんな生易しい物じゃない。

 吹っ飛んできた、と言った方が良かったかもしれない。


 公園の方から飛んできたそれは、クレープのような輪郭を持ったおぞましい形相の怪物。


 ――アニマだ。


 咄嗟に構えると、右手にラブセイバーが出現する。

 それは、私以外の三人も同じで。


「ハーツ・ラバー! アイ・ブレイク・ミー!」


 一斉に叫んで、私たちはラブセイバーを自分の心臓部に躊躇なく突き刺した。


 かっと胸が熱くなり、きらきらの空間の中、宙に浮かぶ感覚が訪れる。

 それに身を任せていたら、いつの間にか変身が完了していて。


「小さな体に満ちる勇気! 炎の戦士・ブレイブラバー!」


「はしゃいじゃえ! 楽しんじゃえ! 歌の戦士・カーニバルラバー!」


「恋する乙女の底力! 氷の戦士・ロマンスラバー!」


「全部ぶっ飛ばす無敵の拳! 魂の戦士・シャウトラバー!」


 それぞれが名乗りを上げて、クレープ型アニマと対峙する。

 緊張感が高まる中。


「……で、今日はどうしよっか?」


 へにゃっと笑いながら気に抜けたことを言うカーニバルに、一瞬ずっこけそうになった。

 本当、この子は真剣な空気とは無縁なんだから。


「えっと……とりあえず、アニマを弱らせる、とか……?」


 ブレイブが悩んだ末にそんなことを言う。

 それ、いつもやっていることなんだけどね。


「とりあえず、みんなで攻撃してぶっ飛ばせばいいんだろ? 全員同時に、ぶん殴ろう!」


 加えてシャウトさんのとんでもない脳筋発言。

 ああもう、みんなして行き当たりばったりなんだから。

 ……別に、それが嫌だとかそういうわけじゃないんだけどね。


 一番最初に動いたのは、シャウトさんだった。

 切り込み隊長の如く、シャウトさんはアニマの胴体に全力の拳を最速で叩き込む。

 続いてカーニバルが、揺らいだアニマに飛び蹴りを食らわせる。

 ブレイブも、それを追いかけるようにアニマに攻撃をした。


 私も遅れてはいられない、と思った頃。

 アニマの上部から、とろりとクリーム状の液体が零れて。


 嫌な、予感がした。


「……っ、みんな! 避けて!!」


 咄嗟に叫ぶ。

 反応が速かったのは、シャウトさん。

 私が立ち尽くしている後方まで一気に飛び退いてくれた。


 でも、ブレイブとカーニバルは反応が遅れて液体を直に浴びてしまう。


「……っあ……!!」


「うひゃあ!?」


 ブレイブとカーニバルの苦しむ声。

 ぱちぱちと、液体から弾けるような音が聞こえる。

 二人が力が抜けたようにその場に倒れ込んでしまう。


 もしかしたら。

 あのクリーム状の液体は――毒、というか、痺れ薬のような効果を持っているんじゃないだろうか。


「ブレイブ! カーニバル! 大丈夫!?」


「うへー……なんかばちばちして、動けないよー……! 力抜けるしー……!」


 カーニバルの返事に、私の疑念は確信に変わる。

 この分じゃ、しばらく二人は戦闘ができないだろう。


「シャウトさん、あの――」


「ロマンスちゃん、どうす――」


 私とシャウトさんの台詞が被る。

 声が重なる。

 同じタイミングで、あ、と言葉を止めてしまう。


 そういえば、シャウトさんとは気まずいままだった。

 ぎこちない空気が漂ってしまう。

 こんな時だって言うのに。

 ブレイブたちがピンチなのに。


 シャウトさんから目を逸らして、アニマを観察する。

 クリーム状の液体はアニマの全身を覆っていて、下手に触れればブレイブとカーニバルの二の舞になりそうだ。

 どうしよう、どうすれば――。


「ひゃ……!!」


 ブレイブの苦しむ声。

 アニマから伸びた手が、ブレイブの身体に纏わりついてぎゅうぎゅうと彼女を絞めつけていた。


「ブレイブちゃん!」


「ブレイブ!」


 シャウトさんと私の声が再び重なり、目が、合う。

 どうすれば、なんて考えている暇なんてない。

 ぎこちなさとか気まずさとか、気にしてちゃいられない。


 今、ブレイブとカーニバルを傷付けられて怒っている気持ちは――きっと私もシャウトさんも同じだから。

 あの二人は、私たちにとって、とても大切な子達だから。


「……シャウトさん」


「……何?」


「私があいつの動きを止めます。その隙に、できるだけ攻撃してください」


「できるの?」


「できます。……その為の、力です!」


 言い終わった途端に私は駆け出し、クリームに触れない程度に近付き飛び上がる。

 そのまま手をかざし、私は叫んだ。


「ハーツ・ラバー! アイス・ストリングス!」


 両手から無数の氷の糸が放たれ、アニマをぐるぐる巻きにしていく。

 余すことなくアニマに絡みついたその糸は、溢れ出るクリーム状の液体を凍り付かせて。

 これなら行ける、はず。


「シャウトさん! 思いっ切りやっちゃってください!」


「オッケー!」


 シャウトさんが、凍り付いたアニマに殴りかかる。

 どかどかと、パンチを繰り出し続ける。

 次々にシャウトさんの拳はヒットし、アニマの身体がばたんと倒れる。

 それを踏みつけながら、黒い靄が溢れた頃、最後にシャウトさんが叫んだ。


「還れ、エモーション! ハーツ・ラバー! スピリット・ウェーブ!」


 シャウトさんの声の衝撃波が、アニマを覆い尽くす。

 アニマは叫び声に掻き消されるように、その輪郭を失い――エモーションは、空気に溶けて行った。


 けれど、安心してもいられない。

 私はこのアニマを生み出したであろうネスかナハトを探して辺りを見回す。


 けれど、どこにも誰もいない。

 既に撤退したのだろうか。

 これで、終わったと思ってもいいのだろうか。


 そう思うと、気が抜けたのか変身が解けて。

 同じく秋風さんもこずえも愛歌も、いつの間にやら変身が解けていた。


「しぃちゃん、ちー姉、息ピッタリじゃーん!」


「……わっ」


 愛歌が、私と秋風さんに同時に抱きつく。

 自然と秋風さんとの距離が近くなって、少し緊張した。


「……ねえ、詩織ちゃん」


 秋風さんが、ぎこちなく声を発する。


「なんか、こないだ無神経なこと言ったみたいで、ごめんね。私、そういうの良くわかんなくて……だから、ごめん」


 ああ、この前のこと、秋風さんも気にしてくれていたんだ。


 謝るのはこちらの方だ。

 だけど、このままただ謝り返すのも、何だか違う気がした。


 もっと、この人の心に触れるやり方が他にあるんじゃないのか。

 そう思って、わざと顔を逸らす。


「……まあ、確かに貴方のそういう鈍感さは罪に価しますね」


「うっ……」


 多分この人は、私の発言の本当の意味を理解していない。

 秋風さんが鈍いって言うのは、小枝くんの気持ちに対して、っていうのもあるんだけど――ここは黙っておいてあげよう。


「何だか秋風さんって年上って感じがしないんですよね。無神経だし、ガサツだし、子どもっぽいし……だから、私も遠慮しません」


「えっと……?」


 戸惑ったような声を洩らす秋風さんとようやく視線を合わす。

 今日も、彼女の瞳は変わらず綺麗だ。


 ふと、大好きな芹沢くんの言葉が脳裏を過ぎる。

 そのままでいても罰は当たらないんじゃないかってこと。

 彼が、肯定してくれると言うのなら、私は――。


 すう、はあ、と深呼吸。

 それから、私は秋風さんに。


「というわけで……これから、よろしくね。千雪ちゃん。女の子の難しい所、私がこれから教えてあげる。……友達として」


 私のちょっとの勇気が必要だった声に、秋風さんは――ううん、千雪ちゃんは、一瞬目を丸くした。


 生意気だって思われるかもしれない。

 何様だって思われるかもしれない。

 だけど、この人と本当の意味で心を許し合う為には、一度対等な立場に立つのが大事なんじゃないかと思ったんだ。


 芹沢くんがいいと言ってくれた私のままでぶつかってみるのもいいと思ったんだ。

 堅苦しい私なんて、元々壊したかったんだから。


 やがて、千雪ちゃんが僅かに瞳を潤ませて。

 ぎゅう、と愛歌に負けず劣らずの勢いで私に抱きついてきた。


 わたわたと見守るこずえ、にこにこと見守る愛歌。


そんな大事な二人の視線を受けながら、千雪ちゃんは噛み締めるように。


「……ありがと……詩織ちゃん」


「……私こそ、ありがと、千雪ちゃん」


 こうして、私と秋風千雪ちゃんは――他の二人より少し遅れて、友達になったんだ。

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