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魔闘少女ハーツ・ラバーズ!  作者: ハリエンジュ
第九話『愛歌トキメキ! 千雪にアコガレ熱視線!』
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その2 母さん

★魔闘少女ハーツ・ラバーズ! 

第九話『愛歌トキメキ! 千雪にアコガレ熱視線!』

その2 母さん



teller:秋風(あきかぜ) 千雪(ちゆき)



 私の母さん――teller:秋風(あきかぜ) 万雪(まゆき)は、かつてモデルだった。


 母さんは幼い頃からファッション雑誌が大好きで、その中で輝くモデルさん達に憧れて、モデルの世界を純粋に夢見て。

 世界に通用するモデルを目指していたらしい。

 体型維持の為の過酷な減量、美容への気遣い、センス磨き。

 とにかく自分の夢に、母さんは真摯に取り組んでいたんだそうだ。


 だけど、努力だけじゃどうにもならないものもこの世界にはあって。

 母さんがモデル業に取り組んでいた頃、母さんと同世代で活躍していた人たちのスター性は凄まじかった。


 母さんがいくら努力して仕事を手に入れようと、そんな努力を嘲笑うかのように彼女たちは、もっともっと大きな舞台で輝いた。

 母さんの存在は日に日に埋もれていった。

 神経を擦り減らして、母さんはそれでも頑張ろうとしたけどやっぱり駄目だった。


 どれだけ頑張っても、世界にとってはその他大勢の一人にしかなれなかった母さんは、自分を取り巻く全てに絶望した。

 世の中の理不尽さに嘆き悲しみ、自分『が』夢を叶えることを諦めてしまった。


 代わりに母さんは、生まれてくる自分の子供に、自分が叶えられなかった夢を託そうとした。


 それが私。

 秋風千雪と言う名前の、母さんにとっての着せ替え人形。


 幼い頃から母さんは私の美容に気を遣い、服装にも拘りを持った。

 女の子女の子した趣味を強制し、理想的なモデルの卵に仕上げようとした。


 でも、私はそんな日々の窮屈さに、堅苦しさに思いっ切り反発した。


 だって、私の人生は他でもない私のものだ。

 私は母さんの所有物じゃない、お人形でもない。

 自分の意思をはっきり持って生まれてきた、確かな人間だ。


 服くらい、自分の好きな物が着たい。

 まだ子供なんだから、自分の好きなことをして遊びたい。


 私が興味を惹かれたのは、昆虫採集とか、釣りとか、泥んこになる外遊びとか、至って男の子男の子した趣味嗜好。

 母さんの理想とはまるで正反対の世界。


 母さんは何度も私に苦言を呈した。

 もっと女の子らしく生きなさいと何度も私を叱りつけてきた。


 でも、女の子らしくって、何?

 男の子みたいな遊びに焦がれる女の子がいちゃいけないの?


 私はおかしいの? 

 間違ってるの?

 好きな物を好きだと言って何が悪いの?


 私と母さんの間にある溝は、私が歳を重ねるにつれ段々と深まっていったのだけれど。


 小学校高学年頃、私が男子に避けられて孤独を感じ始めた頃、母さんは私をモデルの世界に引っ張り込んだ。


 母さんの思惑通り、私はモデルとしてそこそこの人気と知名度を得た。

 母さんがかつて目指していた夢に、私は近付けているらしかった。


 でも、それは私が望む世界じゃない、私が欲しい世界じゃない。

 私はもっと、自由に『私』として生きたい。


 だから、『私』を見てくれる拓海くんやこずえちゃんが、私は好き、大好き。


 結局のところ。

 私と母さんは、いつになっても分かり合えないんだ。

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