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魔闘少女ハーツ・ラバーズ!  作者: ハリエンジュ
第五話『恋せよ乙女! ロマンスラバー誕生!』
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その2 恋文

★魔闘少女ハーツ・ラバーズ! 

第五話『恋せよ乙女! ロマンスラバー誕生!』

その2 恋文



teller:河本(こうもと) 詩織(しおり)



 ばくん、ばくん、と心臓が激しく高鳴っている。

 昇降口に立ち尽くし、何度も何度も推敲して書いた手紙を、胸の前でぎゅっと抱き締める。


 落ち着け、落ち着け、河本詩織。


 ミッションは至って単純だ。

 この手紙をあの人のロッカーに入れて、後は昼休みに私が一方的に指定した場所で待っていればいい。


 そして、あの人が、もしも来てくれたら、たった二文字の想いを伝えられればいい。


 それだけでいい。

 それだけでいいはずなのに、それができない。


 シミュレーションなら何度もした。

 フラれる覚悟もできてる、と思う。

 いや、できてないかな。

 何度想像しても、胸が張り裂けそうになるんだもの。


 でも。


 中一の頃から目で追いかけ続けて、密かにときめき続けて恋心を募らせてきたあの人。

 まともに話せたことなんて片手で数えるくらいしかないと思う。


 そもそも、彼はとても無口だし。

 私だって彼のことが好きすぎて、彼の前ではどう接すればいいのかわからずにいつもパニックを起こしてしまう。

 それこそまるで、自分が自分じゃなくなったかのようにポンコツになってしまうのだ。


 どうしていつもああなっちゃうんだろう。

 彼の前でも、他の人にそうするようにしゃんと背筋を伸ばして、視線を合わせて、はっきりと自分の考えていることを伝えられれば。

 そうすれば、不審がられないかもしれないのに。


 ……そうすれば、少しは人としての好意なんてものも抱いてもらえるかもしれないのに。


 心臓の鼓動は、まだ治まらない。

 今の私の顔、絶対トマトみたいに真っ赤だ。

 炙られているように熱い気がするから。


 こんな状態で、彼に私は自分の気持ちを伝えられるのだろうか。


 『好き』、だと。

 好きですと、ずっと好きでしたと。


 告白、できるのだろうか。

 告白なんてしたことがない。


 男の子を好きになったのだって、彼が初めてだ。

 だからこそ、こんなにもどうすればいいのかわからなくなってしまうのだ。


 やっぱり言えないのだろうか。

 彼を呼び出せたとして、挙動不審になってそれでおしまいなのだろうか。


 いや、と首をぶんぶんと横に振る。

 ここで弱気になっちゃ駄目。

 いい加減、覚悟を決めなきゃ。


 奇跡的に、二年生になっても同じクラスになれたんだ。

 その事実を初めて知った時、嬉しくて嬉しくて泣きそうになった。


 これはチャンスだ。

 恋の神様が、私にさっさと告白をしろと言っているようなものだ。


 好き、好き、大好き。

 彼を困らせてしまうことが怖い。

 彼との関係が壊れてしまうことが怖い。

 でも、私は彼がどうしようもなく好きで――。


「こ……河本さん……おはようございます……」


「おはようさん! 委員長っ!」


「ひゃああああっ!?」


 不意打ちで誰かに声をかけられて、思いっ切り変な声が出た。

 びっくりして、バランスを崩して、ロッカーに強かに背中を打ち付けてしまう。


 心臓が、ますますうるさくなる。


 な、何で?

 誰にも見つからないよう、かなり朝早くに来たつもりだったのに。


 壊れかけのロボットのようにギギ、とぎこちなく首を動かすと、そこにいたのはちっちゃいコンビ。

 クラスメイトの、小枝こずえさんと鈴原一希くんだ。


 二人とも、きょとんとして私を見ている。

 当たり前だ。

 挨拶をしたらいきなり私が素っ頓狂な反応を返したのだから。


 早く取り繕わなきゃいけないのに、どうすればいいのかわからない。

 っていうかほんとに何でこんな朝早くにこの二人がいるの。


 ああ、そういえば鈴原くんは野球部だっけ。

 うちの学校の野球部、朝練早いのよね。

 でも小枝さんはどうして?

 どうして二人で登校しているんだろう。

 やっぱりこの二人、付き合ってるのかな。

 なんて、思考が逃避に逃避を重ねた頃。


「あ……あの……落としましたよ……」


 小枝さんが、しゃがんで何かを手に取った。

 それは、紙。


 紙?

 それって、私がさっきまで大事に握っていた手紙なんじゃ。


 気付いた時にはもう遅かった。


 幸い、鈴原くんには見られていないみたいだったけれど、小枝さんの瞳にはばっちり映っている。

 小枝さんが、手紙のある文字列を見て目を丸くしている。


 ――『芹沢昴くんへ』、と書かれたその手紙を、小枝さんがばっちり見ていて――。



「……っ、きゃーーーーっ!?」



 もう駄目だった。

 あまりのことに私は半分涙声で叫んで、ぽかんとしている小枝さんの腕を衝動的に引っ掴んで、彼女を引きずったまんま廊下を駆け抜けて行った。


 無理。

 むりむりむりむり。

 恥ずかしくて、死にそう。


 頭の中を占めるのは、ただそれだけで。

 後先なんて、考えていられなかった。


 ぽつり、とロッカーの前に取り残された鈴原くんが。


「……誘拐や……」


 そんなことを呟いたなんて、私は知らない。

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