インフルエンザとカチコミと
1927(大正12)年1月26日水曜日午後1時、東京市麻布区盛岡町にある有栖川宮家盛岡町邸。
「ああ、よかったわ」
紺色の無地の和服を着た私は、16歳になったばかりの長女の寝室で、机の上に置かれた小さな土鍋を見て微笑んだ。私が作った玉子粥が入っていた土鍋は、綺麗に空になっていた。
「母上は万智子ほど料理が得意じゃないから、お粥がちゃんとできているか、不安だったのよ」
私の自嘲気味の言葉に、
「そんなことありません、おいしかったです」
ベッドの上に身体を起こした寝間着姿の万智子は、小さく首を横に振ると、軽い咳をした。
「盛りつけは、私の方が上手くできると思いますけれど……でも、私が作る玉子粥と同じくらい、おいしかったです」
「ありがとう。……だいぶ元気になってきたようで、何よりだわ」
私は娘に応じると、「そろそろ時間だから、脇に挟んだ体温計を出してちょうだい」と彼女にお願いした。
最低気温が氷点下5℃を下回る日が続いている東京では、インフルエンザが大流行している。万智子もその流行に巻き込まれてしまい。3日前の日曜日の夕方から、高熱を出して寝込んでいた。ただ、昨日までは経口補水液を飲むのがやっとで、食欲がほとんどなかった彼女が、お昼ご飯の玉子粥を完食できたということから考えると、体調は回復してきたと捉えていいだろう。
「体温は37度1分、血圧は116の68、脈拍は80、呼吸数は16……咽頭が少し赤い以外の身体所見はない。うん、順調によくなっているわ」
聴診器の耳管を耳から外し、私がノートに万智子の診察所見を書いていると、
「母上……私、あとどのくらいで外に出る許可が出ますか?」
万智子が不安そうに私に尋ねた。
「熱が平熱に下がって丸2日経ったらね。でも、昨日は解熱剤の効果が切れたら38度を超えていた熱が、今は解熱剤なしで37度前半だから、確実によくなっているわ。あと3、4日の辛抱だと思うから、早く許可を出すためにも、しっかり養生してちょうだい」
私は娘に答えると、
「そうだ、万智子。何か食べたいものはある?すぐには用意できないと思うけれど、なるべく早く準備するわよ」
彼女に笑顔で尋ねてみた。もっとも、私はマスクをつけているから、私が笑っているのは、娘に分からなかったかもしれない。
すると、
「じゃあ……味噌煮込みうどんが食べたいです」
万智子は私にこう申し出た。私が料理人さんたちにレシピを伝えたので、私の前世の故郷の味・味噌煮込みうどんは、冬場の盛岡町邸の定番メニューの1つになっているのだ。
「分かった。料理人さんたちに伝えておくわ」
私は娘のリクエストをノートに書きつけると、診察道具を持って部屋を出た。次に向かうのは、長男・謙仁の寝室である。
「謙仁、入るわよ」
ノックをしてから、もうすぐ15歳になる長男の寝室に入ると、彼はベッドに横たわって眠っていた。もう一度声を掛けると、「あ、母上……」と言いながら、私に虚ろな目を向ける。机の上の玉子粥の土鍋の中身は、余り減っていない。おととい、24日の月曜日からインフルエンザで寝込んでいる謙仁の身体は、まだ高熱に蝕まれているようだ。
「……血圧は正常だけど、熱が38度6分あるわね。解熱剤は、そろそろ飲んでもらうわよ」
一通りの診察を終え、ノートに所見をまとめた私がこう言うと、
「……薬を飲まなければいけませんか?」
謙仁は私に質問する。その声には力がなかった。
「そうよ、体力を消耗してしまうから」
私はなるべく優しい声を作って長男に答えた。「辛い時は、薬を使って休まないと。大体の人は、熱がこれほど高いと、自分から解熱剤を使いたいと申し出るけれど、謙仁は我慢強いから、なかなか言ってくれないわね。でも、所見から総合的に判断すると、今、謙仁は解熱剤を飲むべきだわ。これは、母上が医者として判断したことよ」
病気の長男相手に、理屈っぽいことは言いたくないのだけれど、こういう風に言わないと薬を飲んでくれないから仕方がない。
「うん、分かりました。薬は飲みます……」
私の説得の言葉に謙仁が頷いたのを確認すると、
「後で千夏さんに、お薬を持ってきてもらうわね」
私は彼に優しく告げた。
「あの……母上?」
診察道具を片付けていると、謙仁が私に声を掛ける。「どうしたの?」と応じると、
「伯父上の御用は、大丈夫なのですか?昨日も今日も平日なのに、母上、出勤なさっていないですが……」
長男はこう言って、熱で潤んだ目で私をじっと見つめる。
「介護休暇を取ったのよ。あなたも万智子も禎仁も、インフルエンザになったしね」
私は謙仁を心配させないように、言葉を選びながら説明を始めた。
「それに、私がインフルエンザにかかっているのに、症状が出ていないだけで、あなたたちにインフルエンザをうつしてしまった可能性があるからね。同じように、母上が伯父上にインフルエンザをうつしてしまったら、大変なことになってしまうわ。それもあって、介護休暇を取ったの。今頃、伯父上の御用は、大山の爺がやってくれているはずよ」
本当は、発症の順番から考えると、万智子がインフルエンザのウイルスをもらってきてしまって、それが謙仁と禎仁に感染したと考えるのが自然だ。ただ、そのまま言ってしまうと、“自分たちのインフルエンザが、母上を経由して伯父上にうつってしまう”と、謙仁が心配してしまう。だからわざとこう言ったのだけれど、熱で判断力が下がっているのか、謙仁は私の言葉に疑問を呈することはなく、「そうなんだ」と素直に頷いた。
「心配してくれてありがとう、謙仁」
私は真面目な長男にお礼を言うと、彼の寝室を後にした。
(さて、禎仁の方はどうかしらね)
謙仁と同じく、2日前の朝から熱を出している次男・禎仁の寝室のドアを叩くと、「ふぁーい」と気だるげな声が返って来る。普段なら、“もう少しシャキッとしなさい”と注意するけれど、今は病気だから仕方ない。ドアを開けると、ベッドの上で本を読んでいた次男坊は顔を上げ、
「ああ、母上……」
と言いながら本を閉じた。
「ごめんね、読書中に。診察しに来たわ」
私がこう言って、診察道具を机の上に置くと、
「大丈夫だよ。退屈してたところだから」
学習院中等科2年の禎仁は、私に微笑みを向ける。10時ごろに解熱剤を飲んだからか、謙仁よりは余裕があるようだ。お粥の入った土鍋が8割がた空になっているのを確認すると、私は次男の診察を始めた。
「熱が37度4分あるのと、のどが少し赤いこと以外は、特に変わったことはないわね」
私に診察されている間おとなしくしていた禎仁に、私は微笑した。
「ただ、熱はまた上がって来る可能性があるから、辛いと思ったらベルを鳴らして誰かを呼んで、熱を測ってもらうのよ。余りに熱が高かったら、解熱剤を飲んでもらうからね」
「ん、分かった」
素直に首を縦に振った禎仁は、
「あのさ、母上、お願いがあるんだけど」
次の瞬間、縋るような目で私を見た。
「シャーロック・ホームズの本を1冊、貸して欲しいんだ」
「あれ?確か、お正月に1冊貸したわよね。それは読み終わったの?」
私が尋ねると、「うん」と頷いた禎仁は、手にした本を私に差し出す。それは私がお正月に彼に貸した、シャーロック・ホームズの短編集だった。
「さっき、読み終わっちゃったんだ。だから、退屈で仕方なくて」
「……分かったわ。後で、別のを持ってきてあげる。でも禎仁、無理しちゃダメよ。辛い時は読書をお休みして、しっかり寝なさい」
私の注意に、次男坊が「はぁい」と返事したのを確認すると、私は彼の寝室を出て、そっとため息をついた。調子がいいからと言って無理をして、かえって後で病気の治りが悪くなるのはよくあることだ。禎仁は“将来のために”と言って、英語を一生懸命勉強しているけれど、インフルエンザに感染している今、勉強をし過ぎると身体に負担がかかってしまう。後で金子さんとも相談して、禎仁の読書量に上限を設ける方がいいだろうか……と私が考えた時、その金子さんが私の前に不意に現れた。
「ああ、内府殿下、こちらにおいででしたか」
金子さんは、少し慌てているように見える。「どうしました?」と私が問うと、
「はい、赤坂から連絡がありまして……」
金子さんはそう言って、顔に困惑の色を浮かべた。
「ロシアのガッチナにある拠点が、イタリアのマフィアに襲撃を受けました。襲撃者は全員拘束したのですが、尋問したところ、イタリア国王の命令で、先日、表の方で雇ったトリノ伯とアブルッツィ公かもしれないイタリア人を殺すために襲撃を企てたことが判明しました。更に、マフィアの標的になった2人のイタリア人も、自分たちは実はイタリア王族であると言い出しまして……」
「…………………………は?」
金子さんが何を言っているのか理解できない。正確に言うと、言葉の1つ1つの意味は分かるけれど、言葉同士がつながった瞬間に、常識が文章の理解を拒んでしまうのだ。底なし沼のような困惑の中で、私はしばし動くことができなかった。
1927(大正12)年1月24日月曜日午後11時50分、ロシア帝国の首都・サンクトペテルブルク近郊にある都市、ガッチナ。
「あの建物で、間違いないんやな?」
表通りから1歩入ったところにある4階建ての石造りの建物。その前の道路に、暗がりに身を隠しながら、10人余りの男が佇んでいた。彼らは、今日のために、はるばるイタリアからやってきたマフィアの構成員だ。
イタリア国王、ヴィットーリオ・エマヌエーレ3世は、軟禁中に逃亡した従弟たち……ヴィットーリオ・エマヌエーレ・トリノ・ジョヴァンニ・マリーア・ディ・サヴォイア=アオスタと、ルイージ・アメデーオ・ジュゼッペ・マリーア・フェルディナンド・フランチェスコ・ディ・サヴォイア=アオスタ……“トリノ伯”と“アブルッツィ公”という儀礼称号を有していたけしからん従弟たちを、この世から亡き者にするために、反社会組織であるマフィアと手を組んだ。そして、国王の命を受けたマフィアは、イタリアを出て放浪していると思われるトリノ伯とアブルッツィ公を捜索した。一度、ワルシャワでの襲撃には失敗してしまったが、マフィアたちは、彼らの手から逃れてしまった国王の従弟たちを、ついにこのガッチナで発見し、住まいを突き止めたのである。
「へぇ」
手に拳銃を持った男が頷く。彼はワルシャワでトリノ伯とアブルッツィ公を襲撃したが、逃げられてしまって任務を果たせなかった。今度こそは逃すまいという闘志に燃え、彼は執念深く標的の行方を追ったのである。
「兄貴とも確かめました。間違いなく、トリノ伯とアブルッツィ公でさぁ!今は小学校の用務員をやってるんで、子供に囲まれて雰囲気が変わっちまってましたが、写真は誤魔化せません」
「よし、ようやった。……カルロ、レオポルド、ニコロ、ウゴリーノ、お前らは裏に回れ。3分経ったら、わしらが表から入るからな」
この日のためにイタリアのシチリア島から出てきた頭目は、シチリア訛りの強いイタリア語で後ろに控えている面々に命じると顎をしゃくる。指名された4人の手下が立ち去ると、頭目は腕時計を睨み、指定した時間になるまで無言で待った。
そして、午後11時55分。
「……ほな、行こか」
頭目が唸るように言うと、暗がりにいた7人の男たちが無言で動く。彼らはトリノ伯とアブルッツィ公が眠っている、小学校の職員寮の玄関の観音開きの扉の取っ手に手を掛けた。しかし、鍵がかかった扉は、ピクリとも動かない。
「早よ開けんかいゴラァ!」
マフィアの1人が取っ手を激しく揺らし、シチリア訛りの強いイタリア語で叫ぶ。別の男も「早よ開けいオイ出て来いコラァ!」と怒鳴りながら、扉を激しく叩いた。「早よ開けんかいコラァ!」と大声を上げ、扉を蹴る男もいる。職員寮の前は、一気に剣呑な雰囲気に包まれた。
「おい、ドア蹴破るぞ。それであかんかったら、ノコギリでも大槌でも爆弾でも持ってきて、このドア壊せ。……拳銃見せつけたら、堅気の者はビビッてわしらを通しよるやろ。ほんで、あいつらの生命取ったらええ」
一向に開かない扉に痺れを切らした頭目が低い声で命じた時、周囲から苦痛に呻く男の声が複数上がる。
「な、何や?!」
状況を把握しようとした頭目も、2方向から突然殴られ、あっさりと意識を手放した――。
「……以上が、ガッチナの保典から打電された、マフィアによるガッチナの拠点襲撃の経過になります」
1927(大正12)年1月31日月曜日午後2時10分、皇居・表御殿にある牡丹の間。臨時に開催された梨花会で大山さんが淡々と読み上げる報告を、私はぼんやりと聞いていた。何度聞いても、理解が追い付かない、と言うより、脳が理解するのを拒んでいる。
「そして、騒動の発端となった、表の方で小学校の用務員として働いていた2人のイタリア人は、本人たちの供述、そして、イタリアにいる院の手の者の調査により、4年前の関東大震災の発生直後、梨花さまが薨去なさったという誤報を信じて後追い自殺したと思われていたイタリアの王族、トリノ伯とアブルッツィ公であることが確定しました」
「軟禁されていた館の窓を破って脱出し、トリノ伯の流行作家としての名声を利用して出版社から原稿料を前借りし、その金で偽造旅券を手に入れてイタリアを出た、か……。学ぶべき点の多い、鮮やかな脱出劇だな。しかし、トリノ伯とアブルッツィ公は、なぜイタリアを出たのだ?」
報告を続ける大山さんに兄が質問すると、
「当初は、我が国に行って、土木工事を人夫として手伝い、震災からの復興に力を貸したいと考えていたとのこと」
大山さんではなく、児玉自動車学校の校長として日本の諜報に関わっている児玉さんが笑顔で言った。
「しかし、日本に向かっている途中で考えが変わり、東京にイタリアの料理を出す食堂を作り、内府殿下に自分たちの料理を振る舞いたい……今はそのように考えているようです。現在、あの2人はガッチナの拠点に軟禁されていますが、院のことを知った途端、監視の者たちに“日本に連れて行け”と再三要求しております。時には暴力で言うことを聞かせようと試みるので、保典が手を焼いているようです」
児玉さんがここまで説明した時、
「あ、あの、梨花叔母さま……」
私の向かいに座っている迪宮さまが、私に心配そうに呼び掛けた。
「その……大丈夫ですか?会が始まった時から、お顔色がよろしくないですし、話が進むにつれて、心ここにあらずといったご様子になっておられますし……もしや、今流行しているインフルエンザに感染なさったのではないですか?」
「い、いや、そうじゃなくて……」
私は首を左右に振ると、
「何と言うか、その……ツッコミが追い付かないというか……」
大きなため息をついて迪宮さまに答えた。
「は?」
キョトンとした迪宮さまに、
「だって、マフィアがロシアの小学校の職員寮にカチコミするなんて、常識的にあり得ないし、マフィアがイタリア国王の命令を受けて動いていたのも、訳が分からないし……」
私は指を折りながら、今回の事件の理解し難い点を列挙し始めた。
「それで、私が死んだって誤報を信じて自殺したトリノ伯とアブルッツィ公が、実は生きていたっていうのも理解できないし、おまけに、自分の料理を私に食べさせたいから日本に行こうと考えてるなんて、もう、それ、理解をはるかに超えてるっていうか……」
「ご自身がこの時代の常識をはるかに超えた存在であることを棚に上げて、面白いことをおっしゃっておられますね」
原さんの隣に座っている陸奥さんが、私にピシャリと言った。「起こってしまったものは仕方ありません。受け入れるしかないでしょう」
「内府殿下のご心中はお察し申し上げます。しかし、陸奥閣下のおっしゃることは正しいです」
外務大臣の幣原さんが、苦り切った顔で陸奥さんに同調する。「さしあたっては、トリノ伯とアブルッツィ公の処遇をどうするか、それを考えなければ……」
「シベリアの永久凍土に埋めてください」
私が幣原さんに即答すると、
「こら、梨花」
「何ともったいないことをおっしゃるのですか、内府殿下」
「それはいかがなものかと」
「恐れながら、それは我が国が取るべき方策ではないと愚考致します」
兄、伊藤さん、牧野さん、そして末席にいる山下さんまでもが、同時に私にツッコミを入れた。他の皆も、一様に渋い顔を私に向けている。
「えー……」
一同の思わぬ反応に、私が顔をしかめると、
「あのな、梨花。これは日本にとって好機だぞ」
兄が私に向かって身を乗り出した。
「まず、国王の従弟という、かなり王位継承順位が上にある王族が、2人も死亡を偽装された。これだけでも問題だが、その王族が外国に逃げ出した。更に、その王族を殺害するために、政府が反社会組織と結託し、その反社会組織が第三国で小学校の職員寮という民間の施設を襲撃した……どれを取っても、前代未聞の事件だ。その当事者であるトリノ伯とアブルッツィ公の身柄を我が国で押さえておけば、イタリアに対する切り札として使えるぞ」
妙に真剣な表情で、兄は私を説得しようとする。その横から、
「陛下のおっしゃる通りですね」
陸奥さんが微笑みながら言った。「トリノ伯とアブルッツィ公の身柄を押さえるとともに、一連の事件を全世界に公表すると脅せば、イタリアは我が国の要求を受け入れるでしょう。何しろ、1つ1つの情報が、それだけでイタリア王室に大打撃を与えかねない内容ですからねぇ」
「その意味では、トリノ伯とアブルッツィ公が、院の拠点に入り込んでくれたのは僥倖でしたな」
枢密院議長の黒田さんが、そう言って顎を撫でる。「奴らの身柄は、他国に奪われないよう、我が国に移してしまうべきでしょうね」
「奪われないように、ということは……あのバカたちを島流しにすればいいのね。じゃあ、宇喜多秀家が流された八丈島とか……」
私が反射的に呟いたところ、
「だからなぜそうなるのですか、嫁御寮どの」
「そんな、時代に逆行するようなことを……」
「正直、八丈島のような離島に行かれてしまいますと、船舶の発展した現代では、かえって身柄を奪われやすくなってしまいますのう」
私の義父の有栖川宮威仁親王殿下、貴族院議員の西園寺公望さん、そして兄の末子・倫宮興仁さまの輔導主任である西郷従道さんが、次々に私に反論する。
「内府殿下にはお辛いことにはなりましょうが、あの2人は、外敵から保護できる場所……例えば、院の管理下にある施設に置くのが最善でしょう」
私へのツッコミの嵐が収まると、児玉さんが私に優しく言う。その顔はなぜかニヤついていた。
「……まさか、盛岡町に置いておこう、なんて言いませんよね?」
「それはちゃんと配慮致しますから」
睨んだ私に、大山さんはなだめるように言うと一礼する。……とりあえず、今はその言葉を信じるしかない。
「頼むから、あのバカたちを盛岡町には入れないでよ……」
私は隣に座っている我が臣下に懇願するしかなかった。




