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転生内親王は上医を目指す  作者: 佐藤庵
第40章 1905(明治38)年芒種〜1905(明治38)年秋分
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新人事

「あはははは……!」

 1905(明治38)年8月28日月曜日午後3時、葉山御用邸別邸。応接間の椅子に身を預け、私と高野さんの話に大爆笑しているのは、昨日から御用邸の北側にある岩倉具定(ともさだ)公爵の別邸に滞在している兄だ。

「い、いや、笑い事ではありません!天皇陛下が、“朕の顔を見忘れたか”と仰せになりながら付け髭と眼鏡を顔に当てられたとき、俺がどれだけ驚いたと……!」

 全力で兄に反論しようとした高野五十六さんが、兄の顔を見て目を見開き、

「も、申し訳ありません!」

座った椅子から立ち上がって最敬礼した。

「お許しください、皇太子殿下!」

「いや、こちらこそすまなかった。お父様(おもうさま)は楽しくても、高野にとっては驚天動地の出来事だったのだからな」

 笑い声を収めた兄は、頭を下げたままの高野さんに軽く頭を下げる。

「高野、話しにくいから、椅子に座ってくれ」

「ですが……」

「構わん。最初にも言っただろう。わたしと高野とは、梨花会の一員であるという立場は同じだ。高野がわたしと梨花に怖気づいてしまう気持ちもわかるが、わたしたちと高野とはほとんど同じ年なのだから……」

 高野さんに語り掛けていた兄が、そこまで来て、「いや、違うのか?」と首を傾げた。

「高野の中には、60歳近くまで生きたという記憶があるのか。……うん、それを考えれば、わたしと梨花の振る舞いの足りぬところが、余計に見えてしまうだろうな」

「あ、いや、その……」

「高野、わたしと梨花に対して、遠慮は無用だぞ。わたしたちに足りぬところがあれば、いつでも指摘してほしい。そういう人間こそ、そばにいて欲しいとわたしは思っている」

「は……」

「もし怖気づいてしまうなら、自分は“史実”と同じ、連合艦隊司令長官なのだと思えばいい。そうすれば、多少は物が言いやすくなるだろう」

「勿体ないご配慮、まことにかたじけなく思います。それでは、そうさせていただきます」

 高野さんはもう一度兄に一礼すると、椅子に腰かけ、ふうっと息を吐いた。

「ね、だから言ったでしょう。兄上にはそんなに気を遣う必要はないって」

「確かに、殿下がおっしゃった通りでした。どうも、“史実”で接した皇族方とは感じが違うので、この時の流れでの皇族方には、度肝を抜かれてばかりです」

 私に答えていた高野さんに、

「安心しろ、高野。飛び切り変わっているのはわたしと梨花だけだ」

兄がニヤッと笑った。

「この妹など、東京女医学校に、身分と名前を偽って通っていたからな」

「は?!」

「……人の命を預かる職業に就くのに、皇族特権で試験を免除されるのはおかしいと思ったからですよ」

 驚く高野さんに素っ気なく返した私は、

「兄上も、私の婚約者だとか言って、女医学校に来たじゃない」

と兄にやり返す。

「あれは、勝先生が危篤だと聞いたから、一刻も早くお前と一緒に勝先生の家に行かないと、別れの言葉も言えなくなってしまうと思ったからだ」

 目を丸くしたまま黙り込んでしまった高野さんに、

「あ、安心してください、高野さん。私と兄上が飛びっきりの不良なだけですから」

私は微笑しながら言い放った。

「まぁ、余り言うと高野が失望することばかり出てきそうだから、少し真面目な話をしようか、梨花」

 顔に苦笑いを浮かべた兄は、

「来週の衆議院選挙、梨花はどう見る?」

と私に尋ねた。

 任期満了に伴う衆議院議員選挙が、来月の3日に行われる。外務大臣の陸奥さん率いる与党・立憲自由党と、大隈さんの率いる野党・立憲改進党の戦いである。そして、今度の選挙の争点になっているのは、今後の国家財政の方針だった。

 昨年8月からのロシアとの戦争――日本では、“極東戦争”と呼ぶことになったけれど――には、“史実”の日露戦争ほどではないにしても、多額の金が必要になった。すべての省庁合わせての戦費が1億7500万円というのは、“史実”の日露戦争でかかったお金の10分の1ほどだけれど、1年の国家予算以上のお金が必要になった。もちろん、これから外債も支払っていかなければならないので、どうしても国家財政は赤字になってしまう。その赤字分のお金をどうやって補うか……それについて、与党と野党は建設的な議論を繰り広げていた。

 与党・立憲自由党は、“増税を行って、赤字分を地道に補填していくしかない”と主張していた。“史実”より上げ幅は小さいけれど、地租と所得税の税率を上げ、1年で約1200万円の国家歳入増加を見込んでいる。

――もちろん、ただ増税をするだけではいけないのは承知している。その代わり、選挙権を与える直接国税の納税額を、現行の10円から8円50銭に引き下げ、より多くの納税者に、国政に参加する機会を持ってもらう。

 立憲自由党きっての議論上手である厚生大臣の原さんは、梨花会の席でこう主張していた。

 一方、野党の立憲改進党は、“日本の経済発展を促し、その結果、最終的な税収入の増加を促せば、国家予算の赤字分は補填されていく”という立場だった。

――経済が発展して国民の所得が増えれば、国庫に納める税額は、増税をしなくても自然に増えていく。まぁ、景気が悪くなったらその当てが外れるから、不確実な方法ではあるんだが……国民に負担を強いるよりはいいだろ?

 立憲改進党所属の貴族院議員でもある井上さんの主張はこうだった。

 実は、今年の春ごろから、梨花会の間では、増税するのとしないのとどちらがいいのか、何度か議論が重ねられていたけれど、結論が出なかった。大蔵大臣の松方さんや、やっとヨーロッパから帰ってきた大蔵次官の高橋さん、そして高橋さんの不在中、松方さんに鍛えられまくった阪谷(さかたに)芳郎(よしろう)さん、若槻わかつき禮次郎(れいじろう)さん、浜口(はまぐち)雄幸(おさち)さんなどの大蔵省の若手官僚たちも、さんざん検討を繰り返したけれど、どちらの論が確実なのか結論が出せなかったのだ。そこで、

――それでは、増税して選挙権を与える条件を緩和するか、増税しないで選挙権を与える条件も緩和しないのか、次の衆議院選挙の結果で与党になった側の意見を採ることにする。

お父様(おもうさま)がこう裁定を下し、財政と選挙権についての方針は、有権者の判断にゆだねられることになった。

「……私の時代なら、間違いなく野党が勝つと思うよ」

 いろいろなことを思い出しながら、私は兄に答えた。「ただ、選挙権拡大の是非も絡んでくるから、それを有権者がどう判断するかだな。私の時代、男女ともに税金での縛り無しに選挙権が認められてたから、前世の感覚のままで考えてしまうと、“さっさと選挙権を与える対象を拡大すべき”と思うけれど……」

「うーん、俺は、女性にも選挙権があるというのが、いまだに違和感がありまして……」

 “史実”の記憶を持つ高野さんは、そう言って両腕を組む。“史実”で男女ともに選挙権が税金の縛りなしに与えられたのは、彼が死んだあと、GHQの改革を受けてからだ。

「そんなことを言うと、新島さんに怒られますよ、高野さん。新島さんは退役したら、選挙権がもらえるんですから」

 私が注意すると、高野さんは一瞬身体を震わせた。

 実は、今回の衆議院議員選挙は、日本で女性に選挙権が与えられた初の国政選挙でもある。私が貴族院令の改正により、軍医少尉に任官されたと同時に貴族院議員になったので、“条件を満たした女性にも参政権がなければおかしくなってしまう”という論が衆議院・貴族院ともに多数となり、関連法令が改正されたのだ。ただし、女性の場合、“直接国税を10円以上納め、軍人として国軍に在籍したことがある満25歳以上の女子”と、男子よりは厳しい条件になっている。また、現役軍人は男女ともに選挙権が与えられないので、現在のところ、国政選挙に投票できる女子は誰もいない。まぁ、9月から、国軍看護学校に女子が2人入学すると聞いたし、数年たてば選挙権を持つ女性も増えてくるだろう。もちろん、条件が緩和される可能性もあるのだし。

「そうだな、本当にこの選挙の予測は難しい」

 兄が苦笑しながら頷く。「しかし、どちらの党が勝つ結果になっても、梨花会の皆で心を(いつ)にして国のかじ取りを行っていくのは変わらない。……わたしも梨花も、まだまだ未熟だ。高野の力を借りることがこれから多くなるだろう。よろしく頼むぞ、高野」

「しかと承りました。この国のために、全力を尽くさせていただきます」

 兄に向って頭を下げた高野さんに、私は兄と一緒に一礼した。


 1905(明治38)年9月26日火曜日午後6時。

「おお、帰っていらしたっ!」

 横須賀国軍病院での最後の勤務を終えた私を、葉山御用邸別邸の玄関で出迎えたのは井上さんだった。

「あのー、井上さん、総理大臣就任おめでとうございます。……なんですけど、あいさつに来るのが早すぎませんか?私、明後日には東京に戻るんですから、その後でもよかったのに」

 井上さんが今日来ると知った時から抱いていた疑問を私がぶつけると、

「善は急げって言うじゃありませんか」

彼は得意げな表情でこう答えた。

「それに、俊輔(しゅんすけ)と陸奥と、大隈さんの都合もよかったですし。早く済ませちまった方がいいでしょう?」

「まぁ、みんながそれでいいならいいですけどね……」

 私の言葉を聞き終わらないうちに、井上さんはさっさと別邸の中に入り、応接間に向かって歩いていく。私はため息を一つつくと、馬車に陪乗してくれていた大山さんと一緒に井上さんの後ろをついていった。

 順を追って説明しよう。9月3日に行われた衆議院議員選挙で、陸奥さん率いる与党・立憲自由党は300議席のうち147議席を獲得した。一方、大隈さんが党首を務める野党・立憲改進党の獲得議席数は152議席。つまり、与野党の勢力の多寡が逆転したのである。

 これを受けて、伊藤さんは内閣総理大臣を辞職することになった。そして、次の総理大臣候補には、立憲改進党党首の大隈さん、そして立憲改進党に所属する貴族院議員である井上さんと山田さんの名前が挙がった。

 このうち、山田さんは“高血圧があるし、自分は総理の器ではない”と言って総理大臣になるのを固辞した。となると、党首の大隈さんが総理大臣になるだろう……と梨花会の誰もが思っていたのだけれど、

――今回の選挙は井上さんの論で勝ったようなものであるし、それに吾輩、総理大臣よりは文部大臣がやりたいんである!

と、大隈さんは梨花会の席で謎の理論を展開した。そこで、最後の候補、井上さんに総理大臣就任を打診したところ、

――渋沢が農商務相をやってくれるんなら引き受けるぜ。

と井上さんは回答した。渋沢栄一さん……私は実業家として覚えていたけれど、明治初年に政府に出仕して、井上さんと一緒に仕事をしていた時期があったそうだ。梨花会の面々は、農商務大臣就任を渋沢さんに強要……じゃない、渋沢さんに再三にわたって説得し、とうとう就任を受け入れさせた。そしてめでたく、昨日付で井上さんは総理大臣に就任したのだった。

 別邸の応接間には、井上さんの言葉通り、伊藤さんと陸奥さん、そして大隈さんが顔をそろえていた。一番下座には、高野さんがいる。その額には脂汗が光っていた。

「まったく、聞多(もんた)は相変わらず気が早いのう。増宮さまが戻られるのは6時ごろだという話だったのに、5時に到着したのだから」

 前内閣総理大臣の伊藤さんが、そう言ってお茶をすする。伊藤さんは昨日付で、前職の枢密院議長に返り咲いていた。ちなみに、枢密院議長だった山縣さんは宮内大臣に就任している。

「そんなに待ってたんですか?!」

 私が驚いて尋ねると、

「なに、ちょうど手ごろな玩具がありましたからね。退屈しませんでしたよ」

外務大臣を辞任した陸奥さんが、高野さんの方をチラッと見た。……この様子だと、どうやらここにいる面々に、高野さんは議論を吹っかけられてコテンパンにされてしまったようだ。高野さんをねぎらってあげたかったけれど、余計なことをしゃべると、私の方にも議論の刃が飛んできそうだったので、私は高野さんに「お疲れさまでした」と声をかけるだけにとどめた。

「で、私に挨拶をするためだけに、1時間も私の帰宅を待ってたって……本当に、挨拶だけなんですか?」

 警戒しながら来客たちに尋ねると、

「ほう、さすが吾輩の命の恩人。察しがいいんである」

自分の要望通りに文部大臣に就任した大隈さんが、満足そうに頷いた。

「実は、ここにいる若人2人に、10月からの予定を伝えにきた」

 そう言いながら、井上さんがフロックコートの内ポケットから白い紙を取り出す。

「10月からの辞令……築地の国軍病院勤務、というのは聞いていますけれど」

 ロシアとの講和が成ったので、私を対象とした警備も、多少緩めてよくなった。このため、10月からは勤務先が横須賀から築地にある国軍病院に変更になるのだ。井上さんが持ってきたのは、その正式な辞令だろうか。

 すると、

「いや、それだけじゃないんですね」

井上さんはニヤッと笑った。

「増宮さまには、10月から、有栖川宮(ありすがわみや)殿下の跡を継いで、医科学研究所の総裁をやっていただきます」

(……!)

 私は目を見開いた。私が医師免許を取った直後にも、医科研の総裁に就くという話はあった。けれど、その頃は、ロシアに私が医師免許を取ったことを秘匿しなければならない時期だった。しかも、私がその時未成年だったので、もし総裁職に就いたら、医師免許を取ったことを公表しなければならないだろう、そうすればロシアに医師免許を取ったことが露見してしまう……というわけで、医科研の総裁職はあきらめざるを得なかった。

(けど、もうロシアには医師免許を取ったことはバレてるし、私に求婚するニコライ(バカ)も隠棲した。しかも、私も成人しているし、行く手を阻むものは何もない……いや、あるか?)

「わかりました、井上さん。たとえ大山さんが止めても、このお話、受けさせていただきます」

 まじめな表情を作ってこう言うと、

「たとえ(おい)が止めても、とは穏やかではありませんね」

隣に立った我が臣下が苦笑する気配がした。

「だって、あなたのことだから、“医科研に夢中になり過ぎては困りますよ”って釘を刺すかなって」

「お分かりになっていらっしゃるなら結構です。梨花さまは皇族の一員でもあらせられます。医学ばかりではなく、和歌や華道など、皇族が身につけておくべき教養にも目を向けていただかなければなりません」

「はい、わかってます。そっちも忘れずに、でも精一杯、医科研総裁、務めさせていただきます」

 井上さんに最敬礼すると、「期待してますよ、増宮さま」と井上さんは深く頷いた。

「で、小僧の方だが……」

(こ、小僧?!)

 もちろん、高野さんのことを指しているのだろう。まぁ、60歳近くで死んだ記憶があっても、今の高野さんは21歳だ。もう70歳近い井上さんから見たら、当然“小僧”である。

 そんな私の戸惑いをよそに、

「兵科を変えてもらう。航空をやれ」

井上さんは高野さんに申し渡した。

「え?!」

 目を丸くした高野さんに、

「何を驚いているのかね、高野君」

陸奥さんがクスクス笑いながら言った。「君は“史実”で、海軍の航空本部長をしていたのだろう?」

「た、確かにその通りですが、今の飛行器は、“史実”より発展しているとは言え、戦闘では使い物にはならないですよ」

 反論に掛かる高野さんに、

「だからじゃよ、高野君」

伊藤さんが珍しく重々しい声で言った。

「これからの国軍の柱の一つは航空じゃ。だから、お前が一から作るんじゃよ」

「い、一から作れって、伊藤さん……それ、下手すると、全省庁を巻き込む話になるんじゃ……」

 さすがに、今は一介の少尉でしかない高野さんに、この役目は重すぎるのではないだろうか。そう思った私は伊藤さんたちに抗議しようとしたのだけれど、

「ほう、ではどう大変か、説明していただきましょうか」

すかさず、大山さんが横からこんなことを言う。本当に、梨花会の面々は私を鍛えることに関して手を抜かない。けれど、ここは頑張って説明しないと、高野さんが過労死してしまう。私は必死に頭を回転させた。

「ええと、まず、飛行器の研究開発は軍主導でやるにしても、飛行器が発着する飛行場や、空母をどのタイミングで作っていくのかって問題が発生するよね。飛行器が発展すれば、もちろん民間の飛行器も出てくるから、軍用と民間の飛行器をどうすみ分けるか、逓信省も絡んでのルール作りが必要になる。それから、医者的に言わせてもらえば、飛行器を使った物資や人員の輸送が出てきたら、飛行場での検疫の仕組みを整えないといけない。外国まで飛行器が飛べるようになったら、入国手続きをどうするかを外務省と決めないといけないし、飛行場の位置の選定だって、内務省だけじゃなくて農商務省も絡んでの話し合いをしないといけないし、それからパイロットの教育機関を国で作る方がいいのかって議論もしないといけない……。これ、下手すると、日本だけじゃなくて、世界の航空の命運が、高野さんに掛かってるって言っていいのかなって……」

 指を折りながら、考えられる難題を片っ端から挙げていくと、高野さんの顔が真っ青になった。

「で、殿下、そこまでになりますか?!」

「最悪の場合、ですけどね。ただ、日本が世界のトップを切って、飛行器を曲がりなりにも作っちゃった以上、世界は日本のやり方に注目すると思います」

 高野さんに私が答えていると、

「その通りなんである!」

大隈さんが私の横で叫んだ。

「増宮さまの時代には、飛行器で日本とアメリカを往復することも行われていたとか。100年後、いいや、増宮さまが“史実”で亡くなった西暦2018年まで通用するような仕組みを、ぜひ、高野君の手で作り上げて欲しいんである!」

「わ、わかりました!」

 大隈さんの迫力に押されたのか、高野さんは慌てて首を縦に振った。

「あの……一つ疑問があるんですけれど」

 私が軽く右手を挙げると、

「おや、どうしましたか、殿下?」

陸奥さんが私に鋭い視線を投げた。

「高野さん、兵科を変えるって言っても、階級は少尉ですよね?梨花会の面々が助けるにしても、高野さんが前面に立って国軍や各省庁の関係者にいろんなことを説明して回ると、説明の説得力がなくなっちゃうんじゃないかな、と……」

 すると、

「ああ、児玉さんが国軍の航空局長になりますから」

大山さんがこんなことを言った。

「へ?」

「10月から、国軍に新設されます。もちろん、児玉さんの兵科も航空に変わります。高野君のほかには、世界初のパイロットである二宮忠八(ちゅうはち)中尉だけという、たった3人だけの兵科になりますが……」

 つまり、高野さんの上司は児玉さんになるわけだ。児玉さんの階級は中将だから、確かに各省庁との折衝役には最適だけれども……。

(つまり、高野さん、児玉さんのパシリにされるってこと?!)

 高野さんも、大山さんの言葉の意味を悟ったらしい。顔が再び青ざめている。そんな彼の肩を、

「安心しろ。児玉はちゃんと加減を知ってるから、死にゃあしないさ」

近づいた井上さんが優しくたたいた。

「た、高野さん、頑張ってくださいね……」

 恐る恐る高野さんに声をかけると、彼は悲壮な表情で頷いたのだった。

※二宮忠八さんの階級がこれでいいのかはちゃんと検討していません(退役の期限的な意味で)。ご了承ください。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] そろそろ小泉又次郎衆院議長・普通選挙運動の鬼が現れそうですね。初代小泉・野人小泉・普選運動の鬼。 四世議員とかだと、もう初代が出てくるんですよね。他にも初代の大久保利通は既になく、3世…
[一言] 経過時間の割にパイロットが少すぎない? それと技術者も。 開発者、整備士、特にエンジン技術者。
[一言] 飛行器ですか・・・飛行機の方で慣れているので違和感が有りますが、当時はこれで合っているんですね。 航空機の発達と航空母艦の建造。戦艦組と衝突しなければいいですが・・・。
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