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転生内親王は上医を目指す  作者: 佐藤庵
第40章 1905(明治38)年芒種〜1905(明治38)年秋分
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口頭試問

 1905(明治38)年6月10日土曜日午前10時、皇居内の会議室。

「あの……一通り話し終わったから、お茶を飲んでもいいですか?」

 急遽開かれた梨花会の冒頭から、“史実”の記憶を持つ高野さんのこと、引き続いて、沿海州と樺太の売却によるロシアとの講和案についてしゃべり続けた私は、司会の伊藤さんに休憩を求めた。

「どうぞどうぞ」

 内閣総理大臣の伊藤さんが、何度も首を縦に振ったのを確認すると、私は椅子に座って、湯呑に手を伸ばした。すっかり冷めてしまった緑茶を一気に飲み干して、乾いた口を潤す。小さいころから親しんでいる人が大半だし、有栖川宮(ありすがわのみや)威仁(たけひと)親王殿下と大蔵次官の高橋さんはこの場にいないから、梨花会の全員がここに集合しているわけではないけれど、やはり、この国を代表する一流の人物たちに1人でプレゼンするのは、とても疲れる作業だった。

「しかし、驚いたわぁ」

 上座の方で、三条さんがのんびりと言った。「伊藤さん・斎藤君と同じように、“史実”の記憶を持つ者が現れるとは……」

「斎藤も意地悪じゃなぁ。そんな大物を隠し持っていたとは」

「“隠し持っていた”などとおっしゃらないでください、西郷閣下」

 国軍大臣の西郷さんに、参謀本部長の斎藤さんが複雑な表情で答えた。「ここ数年起こっている事件、“史実”と違うことがほとんどになっているのに、まさか対馬沖海戦が、“史実”の日本海海戦と同じ場所で、同じ時間に発生するとは思ってもおりませんでしたから」

「分かっているよ、斎藤。しかし、鍛え甲斐のありそうな奴が出てきたな」

 国軍次官の山本さんの明るい声に、「ああ」と国軍大臣官房長兼軍務局長の桂さんが嬉しそうに応じた。

「斎藤、“史実”のお前が殺された時、高野は何の役職についていた?」

「確か、海軍の航空本部長だったはずです」

 斎藤さんが少し眉をしかめながら、桂さんの問いに応じた。恐らく、持っている“史実”の記憶を手繰り寄せているのだろう。

「第1次のロンドン軍縮会議に代表随員として参加したことがありましたが、軍縮に強硬に反対して、全権の若槻(わかつき)どのを困らせたとか。ただ、その時俺は朝鮮総督をしていたので、直接話を聞いたわけではありません。あとは空母の艦長をしていたこともありましたし、アメリカ駐在武官をしていたこともありました」

「ふん……やはり、単なる猪武者か、バクチ打ちかな」

 斎藤さんの答えを聞いた枢密院議長の山縣さんが、珍しく鋭い目つきになった。

「増宮さまから伺った“史実”の太平洋戦争の経過……アメリカを何としてでも講和会議に引きずり出すためか、派手な勝利にこだわり、物資輸送や守備・諜報をおろそかにし過ぎているように思える。実際行った戦術を奴から詳しく聞いて吟味する必要があるが、鍛えるにしても、戦の何たるかを一から叩き込まねばならん」

「山縣閣下のおっしゃる通り。まぁ、元が猪武者にしろバクチ打ちにしろ、我々の手で鍛え上げて、この日本の役に立つ男にしましょう」

 児玉さんがそう言って笑顔になっている。黒田さんや山田さん、そして大山さんなど、軍籍を持っている梨花会の面々も、嬉しそうに頷いた。どうやら、怪我が治った後、高野さんには“史実”以上のシゴキが待っていそうである。

「出来るだけ早いうちに、“負傷者たちの激励”という名目で横須賀の国軍病院に行き、山本、ではない、高野と話してきます」

「そうだな。頼むぞ、斎藤君」

 伊藤さんが斎藤さんに声を掛けた。どうやら、これで私のプレゼンの前半に関する全体討議は終わったらしい。

「さて、問題は講和の話だな」

 上座でお父様(おもうさま)が呟くように言う。お父様(おもうさま)の視線が注がれているのを感じた私は、慌てて湯呑を茶托の上に置き、頭を垂れた。

「そう身構えなくてもよいだろう、章子」

 上から降って来るお父様(おもうさま)の声に、苦笑が混じる。

「面白い方法を考え付いたな」

「思い付いてはみましたが、実現するかどうか、正直分かりません。細かく検討もしていませんし……」

「心配せずとも、総理大臣たちがこれからお前を質問攻めにするよ、梨花」

 私の正面に座っている兄も、そう言って苦笑する。「総理大臣や陸奥大臣が、お前を問い詰めたくてウズウズしているぞ」

「“問い詰めたい”とは、ちと、お言葉が過ぎませんかな、皇太子殿下。わしはただ、増宮さまのお話の不明点を確認したいだけです」

 それを詰問とか拷問とか言うんだけどな、と思ったけれど、覚悟はしていたことだ。私は顔を上げると、伊藤さんの方を向いて、「じゃあ、どうぞ」と質問を促した。

「沿海州と樺太を売りつけるユダヤ人の銀行家というのは、アメリカのシフどのや欧州のロスチャイルド家などを想定されておられますかな?」

「はい、そうですね」

 素直に答えると、

「そうなりますと、“ユダヤ人の国”と(うた)っていても、国の運営に、どうしてもアメリカやイギリス、フランスなどの意向が混じってきそうです。そのあたりについては、いかがお考えでしょうか?」

伊藤さんはなかなか厳しい質問を投げてきた。

「ええと、スイスみたいに永世中立国にすることを、国家を作る要件に加えればいいと思います」

 上京する列車の中で考えた答えをそのまま口に出すと、

「なるほど。そうすれば、新国家に別の国にすり寄る動きが出て来ても、“貴国は永世中立国ではないのか?”と牽制することができますね」

立憲改進党に所属する貴族院議員の山田さんが、そう言って微笑した。

市之允(いちのじょう)!」

 伊藤さんが抗議の声を上げた。「そこまで、増宮さまに答えていただくつもりだったのに!」

「ああ、そうでしたか、すみません。伊藤さんの顔が、“増宮さまに助け舟を出せ”と言っていたので、つい」

 山田さんが穏やかな口調で答えると、伊藤さんが眉をしかめた。その両頬は、なぜか紅く染まっている。それを見て、

「ったく、甘いなぁ、俊輔(しゅんすけ)は」

山田さんと同じく、立憲改進党所属の貴族院議員である井上さんが立ち上がり、私の方を向いた。

「ユダヤ人の新国家、大いに結構だと思います。しかし、ユダヤ人の資金力は馬鹿になりません。増宮さまが東北の日本海側に作りたいっておっしゃる石油化学の工場だって、彼らが沿海州や樺太に作ってしまうかもしれませんよ?」

(うっ……)

 井上さんがニヤニヤしながら質問したところは、実は余り深く検討していないところだ。となると、ここで考えるしかない。

「あの、井上さん、……樺太や沿海州に石油化学の工場を作るのは、寒すぎて無理だと思います」

 私は極東の地図を思い浮かべながら、頭をフル回転させ始めた。

「もちろん、北海道や東北だって寒いですけれど、沿海州や樺太の寒さって、冬は海が凍るレベルですよ。この時代の技術で、そんな寒いところでも1年中稼働できる石油化学の工場って作れるんでしょうか?寒さで機械が誤作動を起こすことだってあるでしょうし、それならまだ、東北に工場を作る方がマシじゃないかなって思います。もちろん、雪対策はしっかりしないといけないですけれど」

 何とか答えをひねり出すと、

「確かに、理にかなっていますね」

井上さんの表情が、緊張したものに変化した。

「だが、もう一押し足りないですね、実際に石油化学の工場を東北に作らせるには。まだ何かありませんか?」

「ええと……産技研の分室か、東北帝国大学を、石油化学の工場を建てる都市に併設して、産学連携して技術と商品の開発をするというのはどうでしょうか」

「ふーん。仙台にすでに、東京帝国大学第2医科大学がありますが……そちらはどうしましょうかね?」

 井上さんに対する答えに、文部大臣の西園寺さんがすかさずツッコミを入れる。本当にこの人たちは、私に対して容赦がない。

「第2医科大学を発展させて、東北帝国大学にすればいいと思います」

 私は西園寺さんの方を向いた。「ただし、医科大学・文科大学・法科大学は仙台に、理科大学と工科大学は東北の日本海側に置くんです」

「へ?」

「私の時代では、大学のキャンパス……この時代だと“校地”って言うのかな、それが他の都道府県にあることは珍しくなかったですよ。流石に、ここまで離れているのはそんなにないかもしれないですけれど……」

 呆気にとられたような顔をした西園寺さんの横から、

「おそれながら、理科大学・工科大学の候補地はどこになりましょうか?」

厚生次官の後藤さんが私に真剣な表情で尋ねた。

「候補地……酒田はどうですか?」

 私は、とっさに古い記憶を引っ張りだした。

「“史実”で起こった庄内地震による火災も、ほとんど起こらなかったから、地元の豪商たちの資金力が十分にある。それに、材料の搬入や商品の搬出に使える港もある。石油化学の工場も一緒に作ると言えば、お金を払ってもいいから、帝国大学を招致すると言ってくれるかも……」

「なるほど、よくわかりました」

 私の舌の回転を途中で止めたのは、意外にも、松方大蔵大臣の重々しい声だった。

「増宮殿下のおっしゃる方法なら、確かに東北帝国大学を設置できるでしょう。しかし、問題が一つあるのです」

 松方さんの鋭い眼光に、私は一瞬たじろいだ。間違いなく、財政に関する厳しい質問が浴びせられるだろう。私は最大級の警戒を払いながら、松方さんに向き直った。

「日本海側には、秋田や新潟に、石油を産出するところがあります。樺太から石油が輸入されれば、そちらの産油が止まってしまうかもしれません。それは止めてもよろしいのですか?」

「それは止めたくないんですけど……石油の輸入が世界大戦なんかでストップした時の命綱になりますし、冬場は樺太の海が凍って、船で石油を運ぶのが難しくなるでしょうから、国産の石油を使うことが多くなるかも……」

 質問の内容に面食らった私は、そこまで答えて口の動きを止めてしまった。松方さんなら、財政絡みの質問で私をいじめるだろうと思っていたからだ。それが日本国内の産油保護をどうするかという、別の方向からの問いになって……。

(あれ、待てよ。戦費調達のためにやった増税の中に、石油の消費税があったな……ということは……)

「あ、国内産の石油だけ、石油消費税を値下げするか撤廃するのはどうでしょうか?本当は、輸入する石油に関税を掛けられればいいですけれど、日本に関税自主権が無い今、それはできません。だから、国内産の石油の消費税を値下げして、工場が日本産の石油を材料として購入しやすくすれば……」

 と、

「お見事です!」

注意を全くしていなかった方向からこんなセリフが飛んできて、私は身体をぴくっと震わせた。伊藤さんが、満面の笑みを湛えながら、私に向かって拍手をしている。

「あ、あの、伊藤さん?私が話していること、穴だらけだと思いますよ?第一、こんな話を持って行って、ユダヤ人の銀行家たちが本当に納得するかわからないですし、講和会議が始まるまでに、この話をまとめられる人材が欧米にいるのかもわからなくて……」

 恐る恐る言った私に、

「もちろん、細かく検討すれば、増宮さまの話には、穴がいくつも見つかるでしょう」

伊藤さんは笑顔を崩さずに答えた。「しかしわしは、聞多(もんた)や松方さんの質問に、増宮さまがきちんと答えることが出来たということを評価したいと思うのです」

「ええ。以前の増宮さまなら、政治や外交の話をご自身がなさり、わしらの問いに答えるということはできませんでした」

 こう言った山縣さんは、なぜか目を潤ませている。

「その通りなんである。しかし、今は見事に、吾輩たちと対等に渡り合っているんである!流石、吾輩の命の恩人なんである!」

 立憲改進党党首の大隈さんが私の方を見て、嬉しそうに何度も頷いた。

(え、ええと、これ、褒められてるのかな……?)

 どう答えていいか分からなくて、隣にいる大山さんを見つめる。すると、

「自信をお持ちになってよろしゅうございますのに」

大山さんは優しくて暖かい瞳で、私の目を見つめ返した。

「梨花さまはご成長されておられます。そばで拝見させていただいていると、それが良く分かりますよ」

「ありがとう。あなたがそう言うなら間違いない。間違いはないんだけど……」

 ここで油断してはいけない。梨花会の面々なら、次に口にする言葉は、“増宮さまをますます鍛えたくなってしまう”である。それにまだ……。

「では、“ここで油断すると大変なことになる”と気を引き締めていらっしゃる殿下にお伺いしましょう」

 やはり、である。陸奥さんが立ち上がって、こちらに微笑を向けた。大体、議論で私をいつもイジメる原さんと陸奥さんが、私を責め立てられる絶好の機会を逃すわけがない。そして、全体の梨花会で動くのは、猫を被っていなければならない原さんではなく、彼の先生である陸奥さんなのだ。

 そして、

「ユダヤ人銀行家たちに、沿海州と樺太の買取の話をするのは、誰が適任でしょうか?」

陸奥さんの質問は、私の論理の一番弱いところを突いてきた。本当に、この人は容赦がない。

「ええと、今ロンドンにいる高橋さんだと、ちょっと荷が重いのかなぁ、というのは分かります」

 大蔵次官の高橋さんは、ヨーロッパへの留学中に、欧米の銀行家たちと人脈を作っている。だから、公債の引き受け交渉などはできるだろうけれど、領土問題が絡むような交渉までできるだろうか。

「可能なら、アメリカやヨーロッパにいる公使に手伝ってもらえたらいいんですけれど、牧野さん……って、ああ、ここにいるじゃないですか。牧野さんがイタリアにいたままだったら、牧野さんに頼んでおしまい、なんですけれど」

「私の名前を真っ先に挙げていただいたのは非常に光栄ですが、講和会議が始まるまでにイギリスで話をまとめるのは難しいですね」

 前イタリア公使、今は農商務次官の牧野さんが末席の方で苦笑した。もし彼がヨーロッパにいたならば、彼が今回の交渉役として最適だと思うのだけれど……。

 と、

「皇太子殿下は、わかっていらっしゃるようですねぇ」

三条さんがのんびりした声で言い、お茶を一口飲んだ。

「ああ、やはり、わたしも油断しないで正解でした」

 兄が三条さんに苦笑を向ける。「イギリス公使の加藤高明(たかあき)。彼なら、難しい交渉でもまとめられるだろう……そう考えましたが」

(あ、そっか!)

 “史実”では、後に総理大臣になっている。原さんとは“史実”ではライバルのような関係だったらしいけれど、私と大山さんしかいない席で、原さんも、彼の力量を認めてはいた。

「それしかないでしょう」

 陸奥さんが兄に恭しく頭を下げた。「彼にとって、良き修業になりましょう。高橋君とともに沿海州と樺太の買い取り交渉に当たるよう、僕から指示します。それから、ロシアとの予備交渉は、小村君にしてもらいますか。前代未聞の講和条約、面食らって動けないかもしれないが、このくらい乗り越えてもらわなければ、これから控えている条約改正交渉などできませんからね」

「ってことは……!」

「ええ、増宮さまの案が可能かどうか、まず交渉してみることとします」

 伊藤さんが私に向かって頷いた。「我が国の国民にも、そして清・ロシアの国民にも負担がかからない。そして、ユダヤ人たちに新天地を与え、極東の平和を保つことができる。さらには、未来の戦争の種も取り除くことができるかもしれない……。未来を生きた増宮さまだからこそ、考え付くことのできた案でございます」

「あ、……ありがとうございます!」

 私は伊藤さんに深く頭を下げた。

「これからも励めよ、章子」

「はい!」

 最初はほんの思いつき……単なる思いつきだったけれど、どうやら、梨花会のみんなの役に、少しは立てたようだ。私はお父様(おもうさま)に最敬礼したのだった。


 1905(明治38)年6月11日日曜日午後3時、横須賀国軍病院。

「……というわけで、明日斎藤さんがここに来るから、よろしくお願いしますね」

 新島さんにはついてきてもらわず、私は1人で高野さんの病室にいた。もちろん、昨日梨花会で話した講和条件のことは、彼にまだ話してはいない。

「内府……じゃない、今は参謀本部長か。“史実”ではこの時期、海軍次官だったはずだが」

 3日前、昨日、そして今日と、こうして会うのは3回目だからか、高野さんは混乱することなく、落ち着いた低い声で私に言った。

「斎藤閣下が二・二六事件で陸軍の連中に殺されなかったら、また違った未来があったんだろうが……」

 そう呟いた高野さんは、ハッとしたように私を見ると、

「おっといけない。丁寧な言葉遣いをしないといけないのに、つい忘れてしまう。増宮殿下、お許しください」

と慌てて頭を下げた。

「別に構わないですよ、私は特殊だから。ただ、大山さんや新島さんが怒ってしまうから、2人きりの時だけにする方がいいですね」

「確かに。以後、気を付けます。……それにしても、増宮殿下は、ちっとも偉ぶるところがないですね。俺が“史実”で見聞きした皇族の方々とは全く違う」

「前世が平民だからですかね」

 どうやら高野さんは、私と2人きりの時には、多少砕けた口調でしゃべることに決めたらしい。私もその方が楽なので、私は特にとがめることもなく高野さんに答えた。

「もちろん、医者として、内親王として、威厳ある言動をしないといけない場面があるというのはわかっているつもりです。でも、今はその時じゃありません」

「なるほど」

 高野さんは頷いた。「こういう気さくな殿下だったら、ずっと話していたい……とは思いますが、殿下が余りに俺の病室に出入りし過ぎると、不審に思う人間も出てくるかもしれない。さて、どうしたものか……」

「あの、高野さんは、将棋は指せますか?」

 考え込む素振りを見せた高野さんに、私はこう尋ねてみた。

「大の得意ですが……」

「じゃあ、私が高野さんに、将棋を教わっていることにしましょう。私、“日進”に乗っていた時、士官の皆さんと将棋を指すこともあったんです」

 そう提案すると、「では、そういたしましょう」と高野さんは頷いた。

「ただし、手加減はしませんよ」

「望むところです。私に将棋を教えてくれたのは、原さんと兄上ですけれど、2人とも、私に手加減なんてしてくれません。いつものことです」

 私も微笑みながら返すと、

「“いつものこと”……か。本当に、俺の知ってる皇族とはだいぶ違う。だが、いいな、そういうのは」

高野さんは一瞬口元を緩めた。少し愛嬌があるなぁ、とその顔を見た私は感じた。この人が“史実”で後年、連合艦隊司令長官になるなんて、ちょっと想像がつかないけれど、今の司令長官の東郷さんにだって、高野さんと同い年だった頃があるはずだから、不思議なことではないのかもしれない。

(それに……最終的にどうなるかわからないけれど、ひとかどの人物にしちゃうんだろうな、梨花会の面々が)

 それを達成しようとして、梨花会の面々が、高野さんに様々な無理難題を押し付けそうではある。あまりに過酷なものだったら、ドクターストップをかけないといけないぞ、と思ったのは隠しながら、

「じゃあ、高野さん、私、将棋盤と駒を持ってきますね」

私は笑顔で答えたのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 酒田の名前が出てきて、この作品といわゆる拓銀令嬢のクロスというトンデモ発想が浮かんだなど なお創作力などない、助けて千夏さん
[一言] 現実の軍事には疎い人間ですので、個人的にわかりやすく解釈した感想を。 つまり銀英伝で言うところのオーベルシュタイン(キャゼルヌ)的才能と立場の人間に、メルカッツ(アッテンボロー)の役どころ…
[一言] 吉田章さんの感想の通りだと思います。従来の作戦通りだと、物量で押し潰されても可笑しくありません。 それだと、本土決戦が早まるだけかと思います。 山本五十六は、軍政家であるので、連合艦隊司令長…
2021/01/13 22:11 退会済み
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