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転生内親王は上医を目指す  作者: 佐藤庵
第26章 1900(明治33)年穀雨~1900(明治33)年大雪
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洗礼と教育

 1900(明治33)年7月14日土曜日午後3時、皇居。

(はー……終わったぁ……)

 “梨花会”が終わり、お父様(おもうさま)お母様(おたたさま)が奥に戻ったのを見届けた私は、大きく伸びをした。

 今日は、色々あり過ぎた。“梨花会”に新しく斎藤実さんが加わったのだけれど、彼は“史実”の記憶を持っていた。伊藤さんや原さんと同じように、だ。

(一度、斎藤さんには詳しく、二・二六事件までの“史実”を聞かないと……)

 そう思って、斎藤さんに声を掛けようとした瞬間、会議室の中で素早く動く影があった。

「なっ……児玉閣下、山本閣下、一体何を……!」

 会議室の一番末席にいた斎藤さんは、あっという間に、左右から腕を掴まれていた。

「何を、とは……決まっているだろう。お前の“史実”の記憶の中にある戦争の記憶を、洗いざらい吐き出してもらうのだよ」

 右側から斎藤さんの腕を掴んだ、東宮武官長の児玉さんが、ニヤニヤ笑いながら答える。

「ああ。“国軍の麒麟児”の原動力が、“史実”の記憶にあるとは思っていなかったが……今まで、“史実”の記憶を持っているのが明るみに出るのを恐れて、(おい)たちに話せなかったこともあろう。これで遠慮なしに、“史実”の戦争の話を吐かせることが出来るわけだ」

 斎藤さんの左腕を両腕で絡めとった国軍大臣の山本さんも、本当に楽しそうにこう言った。

「い、いや、児玉さんも山本さんも、“吐かせる”って、拷問にかけるつもりじゃ……」

 私のツッコミに、

「何、大丈夫ですよ、増宮殿下」

国軍次官に就任したばかりの桂さんが、ニッコリ笑った。「我々、加減は知っておりますから」

「加減って……え、何、本当に拷問する気?!」

 慌てる私を無視して、桂さんは、

「さて、斎藤を、目黒の西郷閣下の別邸に連れて行くか。静養中のお慰みにもなろう。“史実”の軍事に関するありとあらゆる事項を、西郷閣下の前で、全部吐かせるとしよう」

と、児玉さんと山本さんに向かって言った。

「「承知!」」

 児玉さんと山本さんは、嬉しそうに同時に頷くと、斎藤さんの恰幅の良い身体を引きずるようにして、会議室を出て行った。

「今夜は寝かさぬぞ、斎藤!」

「ね、寝かさぬとは……酒は出るんでしょうね、児玉閣下?!」

「酒?!そんなもの、出る訳がなかろう!“梨花会”に入ったからには、煙草と酒は禁止だ!」

「や、山本閣下、それはないでしょう……」

 叫ぶような話し声と共に、斎藤さんたちの足音が遠ざかっていく。

「わしも、三羽烏と麒麟児に付き合うか」

 一呼吸おいて、山縣さんが会議室を出て行くと、

「私も行きましょう。今後の参考にもなりましょうから」

山田さんも会議室から去っていく。それに続いて黒田さんと威仁(たけひと)親王殿下と勝先生が、ニヤニヤ笑いながら部屋を出て行った。恐らく、全員、目的地は一緒だろう。

「あの、西郷さんを疲れさせちゃダメですからね!あと、斎藤さんを殺しちゃダメですからね!」

 勝先生の背中に慌てて呼びかけると、「分かってるよ、増宮さま」と勝先生は挙げた右手をひらひらさせながら去っていった。

「む……先を越されたか。斎藤くんに、“史実”の1936年までの、我が国の経済状況と国家財政について問いただしたかったのだが……」

 松方さんが重々しい口調でこう言うと、珍しくため息をついた。

「はい、松方閣下。それは私も、是非聞きたいです」

 農商務省次官の高橋さんも、つぶらな瞳を輝かせながら何度も頷いた。

「それは俺も聞きたいぜ。あと、医学はともかく、他の産業の発展具合とかな。斎藤を寝かさないと言いたいのは俺の方だよ、全く」

 農商務相の井上さんも、両腕を組んで苦笑すると、三条さん、原さん、大隈さん、西園寺さんが頻りに頷いた。確かに、“史実”の1936年までの経済や産業、財政の知識は、総理大臣や内大臣を務めている斎藤さんの方が、私よりはるかに持っているに違いない。

「やれやれ、この人気ぶりでは、斎藤君とは当分話せないな」

 伊藤さんがため息をついた。

「大山さん」

 私は傍らにいる、私の臣下を見た。「斎藤さんの話を聞きたかったら、西郷さんの所に今すぐ行ってきていいよ。あなただって、“史実”の軍隊のことは聞きたいでしょ?」

 すると、

「お気遣いありがとうございます、梨花さま」

と大山さんは微笑んだ。「もちろん、それは聞きたいと思います。ですがまず、梨花さまと一緒に青山御殿に戻らねばなりません。皇太子殿下の御陪乗の役目を放棄してしまった児玉さんの代わりも、務めなければなりませんからね」

「え……」

 戸惑う私をよそに、大山さんは兄に向き直り、

「皇太子殿下、陪乗の役目、(おい)が果たさせていただきます。よろしいでしょうか?」

と言って一礼する。

「うん、梨花と共にか。構わない。久しぶりに、大山大将と梨花と共に馬車に乗るのもよいだろう」

 兄は大山さんに頷いて、一瞬ニヤッと笑った。

「……おや、増宮殿下。お顔がひきつったように思いましたが、気のせいでしょうか?」

 いつの間にか私の近くに来ていた陸奥さんが、私の顔を覗き込みながらこう言った。「先ほど、斎藤君への方針をとっさに決められた時には、ご成長されたと感心致しましたが……。無駄ですよ。大山殿を相手に、小細工を弄するなど」

「確かに。大山さんが相手では、その程度の小細工など、小指の先でつつかれて壊されてしまいますなぁ」

 三条さんまで微笑みながら、のんびりとした口調でこう指摘する。

「くっ……」

 私はみんなから視線をそらした。今だけは、大山さんから離れたい。山縣さんたち、軍籍を持っている梨花会の面々が、斎藤さんたちについて行ったので、とっさに思い付いた策だったけれど……。

「梨花さま」

 大山さんが、私の右手を握った。「斎藤さんのことで動揺されたのを考慮しても、どうも本日は、ご自身を傷つけがちのように思います。残念ながら、この大山のご教育が足りなかったようです」

「い、いや、あの、大山さんの教育とやらは、十分に足りているように愚考……いや、思いますです、はい……」

 焦って大山さんに返事をすると、

「なるほど、確かに不十分な上に、……文法もおかしいぞ、梨花」

兄が私に苦笑いを向けた。「大山大将、俺も手伝う。節子も梨花に会いたがっていたし……大将さえよければの話だが、日が暮れるまで、花御殿(うち)で一緒に梨花を“教育”しようか」

「ありがたき思し召し……」

(私がちっともありがたくないんですが?!)

 何とかして、逃げる手段はないものか。頭をフル回転させようとした私の身体は、大山さんにきつく抱き締められてしまった。

「梨花さま。お美しくてお優しい梨花さまならば、この大山の教育を受けてくださると信じております」

「うー……」

 反論したいところは多々あれど、実行してしまえば、間違いなく、もっと耐え難い“教育”が待っているだろう。顔を真っ赤にした私は、渋々頷くしかなかった。

「頼みますよ、大山閣下!」

 なぜか熱を帯びている後藤さんの声に送られながら、私は兄に付き添われ、大山さんに抱きかかえられるようにして会議室を後にした。


 結局、私が斎藤さんとゆっくり話ができたのは、梨花会の日から2週間が経過した、7月28日のことだった。

 もちろん、もっと早く、斎藤さんと話がしたかったのだけれど、斎藤さんが梨花会の面々に引っ張りだこになっていて、なかなか彼の予定の調整がつかなかった。そして、“史実”の記憶を持つ伊藤さんと原さん、そして大山さんと陸奥さんの予定を調整して、私が葉山御用邸の別邸で避暑に入った日に、別邸で話し合いをする、ということになったのだ。待たせられた代わり、昼食をはさんで数時間、“史実”の記憶を持つ人間同士でたっぷりと情報交換ができたのは、非常に有意義だった。

 原さんが、実は“史実”の記憶を持っていることも、原さん自身が斎藤さんに告げたから、数年前に陸奥さんを相手にした時のように、斎藤さんに変に怯える必要もなくなった。それから、兄に年号の変遷についてはぼかして伝えることも、斎藤さんに了承してもらった。

「皇太子殿下は“史実”と違って非常にお元気ですし、陸奥閣下の結核を治された増宮殿下がいらっしゃいますし、“史実”の寿命のことが皇太子殿下に知られても大丈夫ではないか、と思うのですが……」

と、斎藤さん自身は言ったのだけれど、伊藤さんと原さんが決死の形相で脅し……いや、頼み込んで了承させたのだ。まぁ、兄は勘が鋭いし、優しい人だから、もうとっくに年号の変遷時期は知っていて、何も言わないだけではないか、と私は思っているのだけれど。

「そう言えば、言おうと思っていて、言う機会が無かったんですけれど、斎藤さん……」

 情報交換をし、斎藤さんから新たに聞いた“史実”に対して出席者で検討を加えた後、私は正面に座った斎藤さんに向き直った。

「“迅雷”の件、斎藤さんにご迷惑を掛けたようで、本当に申し訳ありませんでした」

 昨年10月、トリノ伯が私に無理やり求婚したことに端を発した騒動の結果、イタリアから“詫びの印”として日本に駆逐艦が1隻贈られたけれど、それがつい先日、横須賀に回航された。その駆逐艦――私が“迅雷(じんらい)”と名付けたけれど――の回航の手続きについて、斎藤さんが奔走してくれたと山本さんから聞いたので、謝らなければならないと思ったのだ。“詫び駆逐艦”なんてもの、ゲームの上ならともかく、“史実”でもこの時の流れでも、まさか現実にあるとは誰も思わなかっただろうから……。

「あ、いえ……外国からの軍艦の回航は、“夢”、ではない、“史実”でも、この時分にはよくやったことですから、手続き自体は全く問題なく終わったのですが……回航が決定した経緯が、その……」

 私に頭を下げられた斎藤さんは、困ったような表情になった。

「ですよねぇ……」

 私は盛大にため息をついた。「話を聞いた時は、本当に訳が分からなくて。オーストリアのフランツ殿下が“イタリアとオーストリアの同盟を破棄しろ”って唱えた原因が、トリノ伯が私にセクハラしたからだって聞いたので、もうそこで、“お前は何を言っているんだ”って思ってしまって……」

「いや、そこは納得できるだろう、主治医どの」

 斎藤さんの左隣に座った原さんが、あきれ顔で私にツッコミを入れる。

「あー、なんでもいいから、オーストリアがイタリアとの同盟を破棄する理由を作りたかった、っていうことですか?」

 私が答えると、

「違う。自覚なしか、全く……」

原さんはため息をついた。

「もっと大山閣下に教育してもらえ、主治医どの」

「原さんって、やっぱり意地悪ですね。私にまたあの拷問を受けろと言うなんて……いえ、何でもありません」

 慌てて言い直したのは、我が臣下の視線を首筋に感じたからだ。これ以上大山さんを変に刺激してしまったら、またあの“教育”が待っている。それだけは勘弁してほしい。

「しかし、羨ましいね。“史実”の記憶を持っているということは。嫉妬してしまうよ」

 斎藤さんの右隣の椅子に座っている陸奥さんが、そう言って麦湯の入った湯呑を机に置いた。「もちろん、“史実”は一つの実戦例にしか過ぎないし、縛られ過ぎるのも考え物だけれど、実戦を一つ研究するのでも、相当利益が得られる。斎藤君は、それを僕らに出会う前から、既にやっていたようだけれどね」

「飛行器と自動車の技術を、“史実”より多少進歩させられた程度……。俺が出来たことは、殿下がなさったことよりも小さいこと」

 斎藤さんは陸奥さんに向かって頭を下げた。

「わたしが“史実”で最後に会った時よりも、今の斎藤さんの力量は遥かに増しているのだがな。今なら、朝鮮総督と言わずに、総理大臣も立派に務められるだろう」

「いやいや、“史実”で朝鮮総督を引き受けたのも、原さんが熱心に頼んで、断り切れなくなったからです。総理大臣の大命が降下したのも、思わぬことでしたし……」

 原さんのセリフを、斎藤さんは謙遜しながらやんわりと受ける。“史実”の1919(大正8)年、朝鮮総督に就任するように斎藤さんを説得したのは、時の総理大臣の原さんだったそうだ。

 と、

「ところで、僕は少し、疑問に思っていることがあるのですよ」

原さんと斎藤さんのやり取りを微笑しながら聞いていた陸奥さんが、こう言った。

「何かね、陸奥君」

 陸奥さんと私の間に座った伊藤さんが、静かに陸奥さんに視線を向ける。

「高橋君や犬養君も、“史実”の記憶を持っているのでしょうか?それから、我が立憲自由党の星君も該当するでしょうが……」

「高橋さんと……犬養君って、立憲改進党の犬養さん、ですか?」

 私が首を傾げると、

「殿下は別として……“史実”の記憶を人生の途中で得た者には、共通点があります」

陸奥さんはこう言って、一同に視線を投げた。

「“史実”で殺されていること、ですか……」

 私の右側に座った大山さんが指摘すると、陸奥さんは「流石です」と頷いた。

(あ……)

 そうだ。伊藤さんも原さんも斎藤さんも、暗殺されている。そして、陸奥さんが名前を挙げた高橋さんは二・二六事件で、斎藤さんと同時に暗殺された。犬養さんも、五・一五事件で暗殺されている。そして、立憲自由党の衆議院議員として、党内を仕切っている一人である星(とおる)さんも、“史実”で暗殺されたと伊藤さんと原さんから聞いた。

「だが陸奥君、高橋君が“史実”の記憶を持っているようには、どうも思えない。高橋君の性格を考えれば、彼が“史実”の記憶を持っているなら、わしらと既に共有しているだろう。犬養君も然りじゃ」

「ええ、僕も、この着想にたどり着いた後、星君の言動を改めて吟味しましたが……やはり星君も“史実”の記憶は持っていないように思います」

 伊藤さんの反論に、陸奥さんはこう答えた。

「つまり、“史実”の記憶を得るためには、更に別の条件が重なる必要がある。“史実”で死ぬより前に、“史実”とこの時の流れにおいて、同じタイミングで、突発的に意識を失っていること……ですか?」

 私が横から陸奥さんに確認すると、

「ほう、主治医どのにしては良く出来たな」

原さんが偉そうに褒めてくれた。

「そりゃあ、目を覚ました輔導主任に口説かれた身としては、あの時の衝撃が忘れられなくてですね……自然に考えも浮かぶんです」

 私はそう答えて、麦湯の入った湯呑を手に取った。伊藤さんは交通事故、原さんは天然痘、そして斎藤さんは列車事故……意識を失うと、この時の流れと、“史実”とが交じり合うのだろうか。

「nが……いや、実例が少ないから、まだ何とも言えないですね。慌てて結論に飛びつかない方がいいかもしれませんよ、陸奥さん。もっとも、実例がこれ以上、増えて欲しくはないですけれど」

 私がため息をついて、麦湯を一口飲むと、

「梨花さまのおっしゃる通りです」

と、私の非常に有能な臣下が言った。

「万が一、“史実”の記憶を持つ者が、外国に、特にロシアに出現し、その者が政権の中枢にいた場合……」

「日露戦が、“史実”以上に大変なものとなりますな」

 斎藤さんが、大山さんの言葉に眉を顰める。

「そう考えると、ニコライ陛下が大津事件で負傷しなかったのは、幸いだったのかな、大山さん?ニコライ陛下、“史実”で処刑されてるから……」

 私が大山さんに確認すると、

「なるほど、“史実”では、大津事件で皇帝(ツァーリ)が負傷していたからな。もしこの時の流れでも皇帝(ツァーリ)が負傷して、一瞬でも気を失っていたら、“史実”以上に大変な事態になっていたかもしれない訳だ」

横から原さんが補足した。もしニコライ陛下が、大津事件の時に、“史実”と同じように負傷し、“史実”の記憶を得てしまっていたら、彼は日露で戦争が起こった場合、“史実”の記憶を活用して、必死に日本に勝利しようとするに違いない。そうすれば、日本が敗北する確率が、“史実”以上に上がるだろう。

「ただ、増宮さま。もし、“史実”で殺されている、という条件を、処刑や戦死まで含めると考えると、該当する者が大変多くなる可能性があります」

 両腕を組んだ伊藤さんが言った。

「そうですよね。でも伊藤さん、それで考えやすいパターンって、例えば、日清戦争や日露戦争で負傷して、太平洋戦争や日中戦争で戦死する、という形になると思いますけど、日清戦争も米西戦争も起こっていません。それに、日露戦争がもし起こったとしても、“史実”と同じタイミングや同じ規模で起こるかわからないし……。“史実”の記憶を持った人が増える可能性って、すごく低いと思います」

「確かにその通りですな……」

 私が指摘すると、伊藤さんは考え込んでしまった。

「そう、日清戦争が起こらなかった。それは大きいことです。あれで極東の情勢は、“史実”と大きく変化しています。清が列強に蚕食されなくなった結果、義和団事件が起こる気配すらありませんから」

 斎藤さんはそう言って、湯呑の麦湯を一気に飲み干すと、

「……増宮殿下、麦湯も大変美味しいのですが、麦湯ではなくて麦酒(ビール)はないのですか」

と私に真剣な表情で尋ねた。

「ありません」

 私は冷たく答えると、斎藤さんを軽く睨み付けた。「大体何なんですか、身体を鍛えるために、ビールを瓶で毎日1ダース飲んでたって。そんな身体の鍛え方がありますか!」

「その体力があったからこそ、海相・朝鮮総督・総理大臣の職を全う出来たようなものだと自負しておりますが……ダメでしょうか?」

「ダメに決まってるでしょうが!」

 私は思わず立ち上がった。「酒は飲みすぎると体に毒なんです。肝硬変の原因になるし、がんのリスクにもなるし……。斎藤さん、どうやら、あなたには、アルコールの害について、たっぷり教えないといけないようですね」

「え……」

 顔を強張らせる斎藤さんに、

「ふふ、殿下に剣を抜かれてしまったね」

陸奥さんが悪戯っぽく笑いかける。「諦めたまえ、斎藤君。医師としての本気を出された殿下には、誰も敵わないよ」

「陸奥さんは黙っててください。……斎藤さん、逃げ出したら怒りますよ。今から、たっぷりと講義してあげますから」

 もう一度斎藤さんを睨み付けると、私は夏の陽射しが大きく傾くまで、アルコールの害について斎藤さんにみっちりと教え込んだのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 若い頃、昼から夜まで中生10杯が限界だった。当時の瓶は750ミリだったか500ミリだったか、いずれにせよダースは無謀だなあ。
[一言] さいとーさーん(ホロリ)
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