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転生内親王は上医を目指す  作者: 佐藤庵
第26章 1900(明治33)年穀雨~1900(明治33)年大雪
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“夢”の続きは

 1900(明治33)年7月14日土曜日午後2時、皇居。

「ええと、こうして話すのは初めてですね、斎藤さん」

 月例の梨花会の席で、私は初めて参加するメンバーにあいさつをしていた。この5月から国軍の参謀本部長に就任した、斎藤(さいとう)(まこと)さんである。西郷さんが胃がんの手術後、国軍大臣を退任したこともあり、

――ちょうどよい機会かもしれん。斎藤君を“梨花会”に加えよう。

伊藤さんがこう言い始めた。全員の賛同も得られたので、今月から斎藤さんに、梨花会に参加してもらうことにした。後藤さんが加わって以来、久しぶりの新メンバーの加入である。

「確か、一昨年、西郷隆盛さんの銅像の除幕式の時、会場にいらっしゃいましたよね。児玉さんが、あなたのことを“よくできる”といつも褒めているので、印象に残っていました」

「は……光栄に存じます」

 海兵大佐の軍服に身を包んだ斎藤さんは、最敬礼して頭を上げると、私の顔をまじまじと見つめた。

「あ、あの、私の顔に何かついてます?」

 こんなにジロジロと見られてしまうと、少し恥ずかしい。斎藤さんの視線から顔を背けながら尋ねると、「失礼いたしました」と、斎藤さんは恰幅の良い身体を折り曲げた。

「世上の評判通り……こんなお美しい方が世にいらっしゃるのだと、実感した次第でありまして」

「だから言っただろう、実」

 厚生次官の後藤さんが、なぜか胸を反らしながら言った。「増宮殿下ほど愛らしくて美しい方は、世に2人といらっしゃらないと」

「あー……」

 後藤さんも斎藤さんも、訳の分からないことを言っている。どうして私のことを美しく思ってしまうのか、と尋ねようとした言葉を、私は慌てて飲み込んだ。隣に座った大山さんが、私に視線を注いでいるのを感じたからだ。口にしてしまったら最後、またあの“教育”とやらを受ける羽目になってしまう。

 と、

「梨花」

兄が私を呼んだ。「またお前、自分を傷つけようとしたな」

「……さぁ、何のことやら」

 私はわざと、時代劇の悪役のようなセリフを吐いてみた。

「とぼけるな。“自分は美しくない”などと思っただろう。自らを不必要に貶める言葉を、口にさえしなければいいと思ったら大間違いだぞ」

 兄がムスッとした表情で言うと、

「皇太子殿下のおっしゃる通りでございます、梨花さま」

我が有能な臣下が微笑した。「いつか、申し上げましたでしょう。梨花さまは(おい)の大切な、守るべき淑女(レディ)ですから、傷付けたくはありません。それが、ご自身で自らを傷つけるという形であっても、でございますよ」

(うー……)

 大山さんの微笑から逃れるように、私は会議室の中に視線をさまよわせる。原さんはため息をつき、その他の面々は生暖かい微笑を顔に浮かべ……いや、違う。斎藤さんが、両眼を見開いたまま、その場に固まってしまっていた。

「あの、斎藤さん、どうしました?」

 呼びかけると、斎藤さんは私に向かって慌てて頭を下げた。

「申し訳ありません。この短時間で、衝撃的な事項が立て続けに発生してしまいまして」

「ですよねー……」

 私は顔に苦笑いを浮かべた。「兄上も大山さんも、私のことを“章子”じゃなくて“梨花”って呼んだら……」

「はい、それも衝撃だったのですが……」

(それ“も”?)

 私が首を傾げると、

「衝撃的な事項が、これから更に起こるのだが……」

私の輔導主任がニヤリと笑った。「耐えられるかね、斎藤君?耐えられないなら、わしの見込み違いだったということになるが」

「それはないでしょう、伊藤さん。“史実”で総理大臣になって、内大臣にもなったんだから。それに、伊藤さんが“史実”で暗殺された時も、斎藤さんは海軍大臣だったんですよね?」

 すると、

「い、伊藤公が暗殺……?!」

斎藤さんがぎょっとしたような声を出した。

「しかも、その時に、俺が海軍大臣で、……最終的に総理大臣を拝命して、内大臣……?!一致している……そんなバカな……」

「いや、馬鹿なって言われても、私は日本史の参考書で、そう勉強したんです、斎藤さん。海軍大臣を長くやって、ジーメンス事件で辞職して、朝鮮総督に任命された後、総理大臣になって、内大臣をやっている時に、陸軍に殺されたって……」

 私が立て続けに、前世で学習した事項を挙げると、斎藤さんの顔から、生気がどんどん失われて行った。

「なぜだ……なぜ私のあの“夢”を、そこまでご存じなのだ?!増宮殿下、あなた様は……、世間の噂通り、天眼(てんげん)をお持ちなのですか?!」

「はぁ?!」

 今度は、私が目を見開く番だった。「ちょっと待ってください、そんなんじゃないです、斎藤さん!私、単に前世の記憶があるだけなんです!」

「前世の……記憶?」

 おうむ返しのように呟いた斎藤さんに、

「はい、私、今から約120年後の世界で、女性の医者として働いたという記憶があるんです。そして、伊藤さんにも、“史実”の世界で生きたという記憶があって……」

私はこう告げた。

「前世の、記憶……。“史実”の世界の、記憶……。“夢”ではなく……」

(大丈夫かな、斎藤さん……)

 私と伊藤さんを交互に見ながら呟く斎藤さんは、今にも倒れてしまいそうだ。今日は私の前世の話をするのは止める方がいいのではないか、その考えが頭をかすめた瞬間、

「少しいいかな、斎藤」

総理大臣の山縣さんが言った。

「はっ……」

 自分に向かって一礼する斎藤さんに、

「どうも、君の言っていることがよくわからん」

山縣さんは静かな声で言った。「俊輔は伯爵から陞爵(しょうしゃく)していない。従って、伊藤“公”ではなく、伊藤“伯”と言うべきだが……」

「ええ、それに、“一致している”とは、何が一致しているのでしょうねぇ」

 立憲自由党総裁の陸奥さんも、斎藤さんに視線を向ける。口元には微かに笑みがあるけれど、眼の奥にちらついているのはあの鬼火だ。

「なるほど」

「確かに」

 内務大臣の黒田さんや大蔵大臣の松方さん、その他、会議室に集まった一同の視線が、一斉に斎藤さんに注がれる。その殆どが、一筋の冷たい殺気を帯びていて、私は思わず背筋が寒くなった。

「大山さん、ドクターストップを掛けさせてもらっていい?殺気がちょっとひどすぎるから」

「梨花さま、なりません。油断は禁物ですよ」

「そりゃあ、油断がならない理由は、私にもわかるけどさ。この殺気で斎藤さんが倒れたら、“史実”の話が聞けなくなっちゃうよ?」

 そう言いながら、私は、伊藤さんが交通事故に遭った日のことを思い出していた。あの時、気を失った伊藤さんに、“史実”の記憶が流れこんだ。そして、“梨花会”でもごく限られた人しか知らないけれど、原さんにも“史実”の記憶が流れ込んでいる。そして……。

「斎藤君」

 伊藤さんが、いつもと違う重い声で斎藤さんに呼びかけた。「君も、わしや増宮さまと同じように、“史実”の記憶を持っているのかね?日清戦争が起こり、日露戦争が起こり、そして、わしがハルビンで暗殺される……その世界の記憶を」

「俺は“夢”だと思っていましたが……恐らくそれが、伊藤閣下のおっしゃる、“史実”の世界で生きていた記憶、なのだと思います」

 参謀本部長の斎藤さんは……いや、“史実”の二・二六事件で暗殺された内大臣・斎藤実さんは、額に脂汗を浮かべながら伊藤さんに答えた。


「一つ確認させてもらおうか、斎藤君」

 伊藤さんが再び口を開いた。滅多に聞かない伊藤さんの厳しい声に、私は背筋を正した。

「君はいつ、“史実”の記憶を……君の言葉で言う“夢”を得たのかね?」

 冷たい視線が、斎藤さんに一斉に集中する。その視線の中にもちろん、私のそれも含まれていた。

「……今から、約16年前のことです」

 覚悟を決めたのか、斎藤さんは伊藤さんの方を真っ直ぐ向くと、全員の視線を受けながら、堂々とした口調で答えた。

「駐米武官を仰せ付けられ、アメリカ西海岸から列車でワシントンに移動していた最中、列車の事故に巻き込まれました。その時に、老齢になった自分が、陸軍の軍人たちに殺される光景が入り込んで来たのです。そして、俺が列車事故に巻き込まれてから、海軍大臣、朝鮮総督、総理大臣を経て内大臣となり、殺されるまでの記憶も……」

「ふむ、伊藤と同じか」

 上座でお父様(おもうさま)が呟く。それを聞いた斎藤さんは、お父様(おもうさま)に向かって弾かれたように最敬礼した。

「しかし、君はその流れ込んだ記憶を使おうとはしなかった。増宮さまとわしらのようには、な。それは、一体何故かね?」

「あの、伊藤さん」

 私は恐る恐る右手を挙げながら、厳しい口調の伊藤さんに声を掛けた。

「増宮さま、止めないでください」

 伊藤さんは微笑をこちらに向けたけれど、口調は変えずにこう言った。「斎藤君が、この国と増宮さまに害をなす存在であるならば、この伊藤、この手で斎藤君を斬る覚悟でおります」

「その通りだ、俊輔」

 山縣さんが、刀の切っ先のような視線を斎藤さんから離さずに言った。「わしも、俊輔と同じ気持ちだ。斎藤がこの国と増宮さまに仇なす存在であるならば、斎藤を斬る」

「それ、枢密院議長と総理大臣が言っていいセリフなんですか?」

 ため息をつきながら突っ込んでみたけれど、私の言葉に反応する人はいなかった。大山さんも、私の隣で、私の気分が悪くなってしまうレベルの殺気を発している。他の梨花会の面々も、似たり寄ったりだ。

(斎藤さん、気の毒だなぁ……)

 そう思った時、

「一つは俺が未熟な故。そして、もう一つは、本当のことなのか、俺自身も信じられなかった故でございます」

斎藤さんは怖じ気付くことなく答えた。「記憶が流れ込んでからの最初の数年は、流れ込んだ記憶と、寸分違わず情勢が進んでいきました。それが余りにも不気味に思え、誰にも相談できずにおりました。頭がおかしくなった、と片付けられてしまうと思いまして」

「確かに……増宮殿下と“史実”のことを知った今なら、実の身に起こったことも理解できるが……」

 斎藤さんの言葉を聞いた後藤さんが、苦虫を噛み潰したような表情になる。

「そりゃそうですよ。修業を積んでない時期に流れ込んだ“史実”なんて、普通の人なら活用出来ません。平然と活用出来ている伊藤さんが異常なんです」

「これは異なことをおっしゃる、増宮さま。わしも、事故から目覚めた時に増宮さまが目の前にいらっしゃらなければ、今も訳が分からないままだったでしょう」

「こんな私を、本気で口説こうとしていましたからね」

 私はムスッとした伊藤さんに向かってため息をついた。自分の輔導主任に口説かれるなどという経験は、もう2度としたくない。

「ごめんなさい、話がそれたけれど……斎藤さんに流れ込んだ“夢”と、実際に起こった出来事が食い違い始めたのは、憲法発布のころからですか?」

 私が尋ねると、「梨花さま」と我が臣下が横からたしなめた。

「情報を出し過ぎておられます」

「相当警戒してるわね、大山さん」

「梨花さまのおっしゃるように、“史実”の五・一五事件の後で総理大臣を務める度胸があるならば、相当の傑物と見なければなりません」

「だからって、最初から敵対的に接していたら、相手が情報を出し渋るとは思わない?……ま、お父様(おもうさま)と兄上に仇なす存在だったら、彼を引退に追い込んで、政治的な生命を断つまでだけど」

 気が付くと、斎藤さんは、私と大山さんを交互に見ながら、呆気に取られたような表情になっていた。

「信じられん、あの、大山閣下が……。まさか、増宮殿下は大山閣下を、ご寵愛されて……」

「なっ、なんてこと言うんですか、斎藤さん!」

 私は斎藤さんを睨み付けた。「大山さんはね、私の臣下です!そりゃ、総理や内大臣を務めたあなたの目から見たら、私の力量なんて、大山さんには遥かに及ばないでしょうし、実際そうですけれど、そこのスケベな輔導主任と違って、大山さんは捨松さん一筋だし、私だって、清く正しく生きてるんです!前世の分を足したら、彼氏いない歴41年のこの私を、なめないでくださいよ!同年代の男とは、兄上以外、手を握ったこともないし、握ろうとしたら、私に投げ飛ばされるって思って、向こうが逃げていくだろうし……」

(うっ……事実だけど、言ってて辛くなってきた……)

 私の口の動きが止まった。

(なんか、思いっきり負けた気がする……)

 激しく落ち込んだところに、私の身体に、横から急に力が掛かった。

「先程から、御自身を傷付け過ぎておられます、梨花さま」

 大山さんが、私の身体を抱き締めて囁いた。「なりませんよ、梨花さま。このようでは、またご教育しなければいけません」

「大山さん、それだけはやめて。自分を甘やかしちゃうから……」

「ご自身に厳しいのは、成長を促す要素ではありますが、厳しすぎれば、己を徒に傷付けることになります。梨花さまは、どうしてもご自身に厳しくなりがちでございますから、適度なところで止めなければなりません。それに、斎藤さんが“ご寵愛”と言った意味を、梨花さまは少し勘違いされていらっしゃいますよ」

「うー……」

 私は顔を真っ赤にしてうつむいた。

「くっ、羨ましい……しかし、仕方ないんである……」

 文部大臣の大隈さんが言うと、

「羨ましいのは俺も同じだ、大隈さん。くっ、俺の手料理を増宮さまに召し上がっていただきながら、心をお慰めしたいのに……」

井上さんが意味不明、かつ恐ろしい言葉を口にする。

「いや、それなら、我が家にご招待申し上げて、僕の眼鏡にかなった料理を、増宮さまに召し上がっていただかねば……」

 なぜか井上さんに対抗する西園寺さんに、

(多分それ、八郎さんが怖がるから、やめといた方がいいと思うけどなぁ)

と私は心の中でツッコミを入れた。

「げ、元老の方々が、増宮殿下に夢中なのは知っていたが、まさかこれほどとは……。訳が分からない」

 場の様子を目の当たりにした斎藤さんが、呆然としながら呟く。

「訳が分からないという点には、私も激しく同意します、斎藤さん」

 ため息をつきながら斎藤さんに声を掛けると、大山さんが「梨花さま」とたしなめるように囁いて、私を抱き締める腕に更に力を込めた。

「ええと……話が滅茶苦茶逸れて本当に申し訳なかったんですけれど、斎藤さん。一つ、聞きたいことがあります」

 私はそう言うと、「立ちたいから、抱き締めるのをやめて」と小声で大山さんに頼んだ。

「何でしょうか、増宮殿下」

 立ち上がった私に、斎藤さんは視線を合わせた。

「私と伊藤さんの持っている“史実”の記憶。その“史実”と同じ轍を踏みたくないから、私たちは心を(いつ)にして、出来ることをやってきました。あなたに“史実”の記憶があると知った今、あなたを仲間に加えることは、私たちにとっても、この国にとっても有益なことであると私は思っています。……斎藤さん、単刀直入に聞きます。“史実”を繰り返さないために、私たちに、この梨花会に協力していただけますか?」

「“史実”を、“夢”を、繰り返さないため、ですか……」

 斎藤さんは一瞬だけ苦笑いを浮かべると、私の目を真正面から見た。穏やかな、しかし切れ味の鋭い大剣を思わせるような視線が、私の視線と交錯する。

(そうだよな、“朕が最も信頼せる老臣”の一人だもんね、斎藤さん……)

 “史実”の二・二六事件で斎藤さんたちが殺されたと知った時、昭和天皇が言ったとされる言葉を私は思い出していた。目の前にいる斎藤さんは、この“梨花会”の面々と同じように、数々の経験を積み重ねているはずなのだ。彼の中で私の株は完全に下がっているだろうけれど、だからこそ、ここは小細工など考えず、真正面から彼と向き合ってお願いするべきだ。私はそう思った。

「“夢”で俺が殺された時、既に満州事変は始まってしまっていました。恐らく、あのまま“夢”の世界が続いていれば、中国での戦線は拡大し、イギリスやアメリカの介入を招いていたでしょう。そして、それに反発した日本が、ヒトラーやムッソリーニと手を結び、更なる戦争に……世界大戦に突入していたかもしれません。増宮殿下、あの“夢”の続きは、一体どうなったのですか?」

「……ほぼ、あなたの言う通りです」

 斎藤さんの言葉に、私は頷いた。「あなたが殺された翌年、1937年に日中戦争が起こって、1941年には、日本はアメリカとイギリスにも宣戦布告しました。そして、1945年、あなたが殺されてから9年後に、日本は敗北しました。沖縄がアメリカ軍の手に落ち、日本中が空襲や艦砲射撃で破壊されて、広島と長崎に原子爆弾が落とされて……。全文を覚えていなくて、本当に申し訳ないんだけれど、“耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、もって万世のために太平を開かんと欲す”……これは、終戦の詔勅の一部です」

 すると、斎藤さんの両眼から、大粒の涙がこぼれ落ちた。

「陛下……俺が不甲斐ないばかりに、そんなお辛い目に……。陛下のことだ、日本国民を助けるためなら、御自らが処刑されてもよいと言い出されかねんが……どうなのですか、増宮殿下、あの後、我が皇室は!」

「大丈夫です、斎藤さん。私が2018年に死んだときも、皇室は存続していましたし、あなたの言う陛下も、アメリカやイギリスに処刑されたり、退位に追い込まれたりはしてません」

 震える声で尋ねる斎藤さんに、私は慎重に答えた。原さんと伊藤さんの強い要望で、兄には、“史実”で年号がどのタイミングで移り変わったか、特に、大正から昭和に移り変わったのがいつか、というのはぼかして伝えているのだ。

「そうでしたか……」

 斎藤さんは、あふれる涙を軍服の袖で拭うと、

「増宮殿下」

と呼びかけて、私を見据えた。

「殿下のご要望には、“Yes”とお答え申し上げます。俺に流れ込んだ“夢”の、いや、“史実”の続きは、2度と繰り返したくはありません。軍人らしからぬとお叱りを受けそうですが、俺は、末代までの平和を作りたいと思うのです。同じ夢を見るならば、下らなくても平和な夢の方が、遥かによい……」

「私もあなたと同意見です。戦争なんて起こったら、医者の仕事が増えます。私、前世では、過労が遠因になって死んだので、仕事が増えるのは嫌なんです。ただでさえ、やらないといけないことがたくさんあるのに」

「医師免許も、取ってもらわねぇといけねぇし、色々、ご修業も積んでもらわねぇとな」

 兄の隣に座っている勝先生が、ニヤリと笑う。「ま、お(めぇ)の目から見たら、増宮さまには、足りない所はまだまだあるだろうけどさ。そこは大目に見てくれねぇか、斎藤よ」

 勝先生の言葉に、斎藤さんは「承知いたしました」と、頭を深々と下げたのだった。

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