手紙
1896(明治29)年1月26日日曜日、午後10時。
ドイツを構成する連邦国家の一つである、メクレンブルク・シュヴェリーン大公国。その現当主の異母弟、フリードリヒ・ヴィルヘルム殿下から、誕生日プレゼントとして贈られたジュエリーボックスに隠された手紙を翻訳し終えた私は、その文面の意味がよく分からず、呆然としていた。
「貴女の聡明さに甘えて、このような形で手紙を送ることをお許しください。御息災でいらっしゃいますか?私は長い遠洋航海を終え、本国に戻りました。辛くも楽しかった航海、その中で貴女と出会えたことは、私には一際美しい情景として思い出されます。
お会いしてから一年が過ぎようとしていますが、この1年の間に、貴女はまた、たくさんの城郭を巡られたのでしょうね。貴女がいつか我が国で医学を修められ、我が国の城に訪れてくださることを願っています」
……日本語に訳してみるとこんな感じだ。ドイツ語の医学論文を読み慣れてきたから、ドイツ語の文章を読むのには、ほぼ不安を感じなくなってきた。ただし、話すのは簡単な挨拶ぐらいしかできない。
(というか、これ、一体どういうことなんだ?)
文面は分かる。ただ、なぜ殿下の言う“このような形”……ジュエリーボックスの底に手紙を隠す、というやり方で、殿下は私に手紙を送らないといけないのだろうか。しかも、去年私と会ったことを、“美しい情景”と呼んでしまうあたり、殿下自体の感覚にも問題があるのではないかと言わざるを得ない。あの時は、兄がものすごい目で殿下を睨んだから、それなりに修羅場だったような気がするのだけれど。
(訳が分からない。一体どうすれば……)
両腕を組んだ瞬間、「増宮さま」と廊下から声がかかった。花松さんだ。
「は、はい」
慌てて手紙をジュエリーボックスのクッションの下に隠し、辞書を本棚に戻した時、花松さんが居間に入ってきた。
「増宮さま、そろそろご入浴の時間です」
「あ、そ、そうですね。ごめんなさい。本を読むのに夢中になっていて。直ちに入ります、直ちに」
私は慌てて返答すると、入浴の支度をして部屋を出た。
(フリードリヒ殿下、何で、正面から堂々と手紙を送らないのかな……)
寝床に入ってからも、翌朝になってからも、疑問に対する答えは見つからなかった。もちろん、華族女学校で授業を受けているときも考えてみたけれど、適切な回答が得られない。
花御殿に戻ってからも考えていたら、つい考える方に熱心になってしまい、剣道の稽古で、兄に散々に打ち負かされてしまった。普段は兄と立ち会って、ほぼ互角の成績なので、物凄く調子を悪くしてしまったことになる。
「どうした、今日は、まるで気が抜けているが……何か悩み事でもあるのか?」
という兄の質問は、
「ああ、大丈夫、何でもない、何でも、うん」
首を横に振って全力で否定しておいた。
「そうか。いや、もし、お前が誰かに惚れたと言うのなら、相手を見極めなくてはいけないと思ったが……」
「それは100%無いから安心して、兄上」
私は即座に返答した。もし、兄がフリードリヒ殿下の手紙のことを知ったら、間違いなく怒りそうだ。何せ、初対面で彼を睨み付けたのだから。
夕食の後、自分の居間に戻ってからも、なぜ彼がこんな形で手紙をくれたのか、最新のドイツ医事週報を読む合間に、文面を見ながら考えてみたけれど、結論が出なかった。
(結構、感じのいい人だったなぁ……)
背が高かったのは覚えている。それに、よく日に焼けた笑顔が素敵だった。
(軍服の着こなしもカッコよかったし、顔立ちも結構整ってたなぁ……)
と思った瞬間、
「梨花さま?」
私のすぐ後ろで、私の非常に有能な臣下の声がした。
「うにゃぁ?!」
反射的に大山さんから身体を遠ざけようとして、バランスを大きく崩してしまった。椅子から落ちそうになったところを、大山さんに後ろ襟を掴まれて、何とか落ちずに済んだ。
「あ、ありがとう……なんだけど、何で大山さん、ここにいるの?」
「今日は泊まりの勤務ですが」
「じゃなくって!なんで、私の部屋に黙って入って来てるの?!」
「声は掛けましたよ?ですが、お部屋にいらっしゃる気配があるのに、返答がありませんから、もし、万が一のことがあれば……と思い、入らせていただいた次第です」
「そ、そうだったのね」
答えながら、私は左手を袖口の中に入れた。さっき、とっさに左の拳の中に握りしめて隠した手紙を、袂の中へとそっと放す。
「どうも、医学のことを考えていると、夢中になってしまってしょうがないわ。大山さん、心配させてごめんなさいね。さて、私、ドイツ医事週報を読むから、大山さんは勤務に戻って大丈夫だよ」
「梨花さま、……本当に大丈夫ですか?」
「だ、い、じょ、う、ぶ、よ」
私はニッコリ笑って強調した。
「はぁ……」
顔に不審の色がありありと浮かぶ大山さんを何とか追い出すと、私は大きなため息をついた。このフリードリヒ殿下の手紙が見つかったら、少しややこしいことになりそうだ。まず、どこから私がこの手紙を入手したかということが問題になってしまいそうだし、送り主がフリードリヒ殿下だと知ったら、兄の怒りを買ってしまうだろう。
(ジュエリーボックスの中に隠すのも、発見された瞬間に送り主がバレそうだからなぁ……あ、そうだ)
私は袂から手紙を取り出すと、丁寧に広げ、手元に置いてあった独和辞典のページに挟んだ。木を隠すなら森の中。ならば紙を隠すのは、紙の中か本の中が最適だろう。兄はドイツ語を読まないから、独和辞典に触れることは絶対にない。
(これでよし、と)
私は独和辞典を本棚に立てながら、ホッと息をついた。
それからは、何故フリードリヒ殿下が手紙をあんな風に送ったかは、誰の気配もないことを慎重に確認してから考えることにした。特に、大山さんの勤務日程は把握して、彼が当直勤務の時には絶対に考えないことにした。彼の気配は何となく察知できるけれど、考えるのに夢中になってしまったら、また気が付かない間に、私のすぐ後ろに立っているかもしれない。もちろん、普段の言動にも、細心の注意を払うことにした。
(なるべく、大山さんや兄上には接触したくないなぁ……)
そう思うのだけれど、兄は一日おきぐらいに私の部屋にやってくる。そして、何故か大山さんも、勤務の暇を見つけては私の居間に顔を出すようになった。こんなことは、今までになかったことだ。
「な、何であなた、私の居間に入り浸ってるの?」
2月初めのある日、私の居間で紅茶を飲む大山さんに聞いてみると、
「いえ、バラの花の砂糖漬けを消費する手伝いをしようと思いまして」
大山さんは微笑しながら答えた。「毎年の贈り物ではありますが……、ロマンティックな物事にも慣れていただくのがよろしいですから」
「そ、そ、そうですね」
私は動揺を必死に隠しながら頷いた。
「最近、医学論文をお読みになるのが、少なくなったようですが」
「だ、だって、あなたが最近、私の部屋に入り浸ってるから、読む暇がないのよ、うん」
大山さんの質問は頑張って誤魔化し、必死に話題を関係ない物事に誘導して、彼が居間から出るのをじっと待つ日々が続いた。
ところが、2月7日の夕方、
「辛くも楽しかった航海、その中で美しく可憐な貴女と出会えたことは、私には一際美しく、ダイヤモンドのように輝く情景として思い出されます、ですか……」
と紅茶を一口飲んだ大山さんが言い始め、私は飲み掛けの紅茶で噎せた。
「大丈夫ですか、梨花さま?」
「だ、大丈夫、落ち着いてる、私は落ち着いてる」
私は必死に呼吸を落ち着けながら言った。聞いたことがあるような言葉が出て来た気がするけれど……気のせいだよね?
「お会いしてから一年が過ぎようとしていますが、今でもあの日のことを夢に見ることがあります。そして、こう思うのです。美しく可憐な笑顔で、あなたが私の傍らに佇んでいてくれたら、どんなに私は幸せだろうか、と……」
「そ、そんなこと、絶対書いてなかった!」
続いた大山さんのセリフに、私は思わず立ち上がってしまった。
「ほう」
大山さんの目が、一瞬鋭くなった。
「なぜそれをご存じなのでしょう。しかも、こんなに顔を紅くされて」
「あ、いや、あの、その」
パニックに陥った私は、大山さんに適切な返答が出来なかった。
「梨花さま、メクレンブルク公のことを、好いておられるのですか?」
「い、いや、好きとか嫌いとか、そういうことじゃなくて、ていうか、何であなたが、フリードリヒ殿下の手紙のことを知っているのよ?!」
「こちらですか?」
大山さんがポケットから紙片を取り出して私に見せる。それは紛れもなく、フリードリヒ殿下が私に送った手紙だった。
「え?!ちょっ……」
慌てて本棚に駆け寄り、独和辞典のページの間から、殿下が私に宛てた手紙を取り出す。筆跡も紙質も、私がとっさに拳の中に隠した時の皺も、全く同じに見えるけれど……。
「そちらは模造品ですよ」
大山さんが微笑した。「梨花さまがお考えになられることは、大体分かりますので、隠し場所もすぐに分かりました」
「ぐぬぬ……」
私は歯を食い縛った。そう言えば、この非常に有能で経験豊富な臣下は、中央情報院の総裁なのだった。彼の手に掛かれば、私が手紙を隠しそうな場所など、すぐにわかってしまうのだろう。
「で、いかがなのですか、梨花さま。フリードリヒ殿下のことは、憎からず思われているのですか?」
大山さんがニヤニヤしながら私に問いかける。
「だ、だから、す、好きとか、嫌いとか、そんな、分かんないってば……」
(だ、誰か、助けて……)
進退窮まった私は、その場にしゃがみこんだ。
「それで、私に相談したいということだったのですね」
1896(明治29)年2月8日土曜日、午後4時半。
私は今月の梨花会が終わった直後、お母様に、今までの経緯を聞いて貰っていた。兄が、“梨花の様子がおかしいから付き添う”と言ったのだけど、それは全力で拒否して、先に花御殿に戻ってもらっている。
「はい、そうなんです……」
お母様の座った長椅子に腰かけ、私は真っ赤になった顔をうつむかせていた。
「手紙を貰った段階から訳が分からないし、手紙の深い意味も分からないし、大山さんは、私をおちょくる気満々みたいだし……わ、私、もう、いっぱいいっぱいで……」
「そうだったのですね。苦手なことだったでしょうに、よく頑張りましたね、増宮さん」
「うう……ありがとうございます、お母様」
私が頭を下げると、お母様がその頭を優しく撫でてくれた。
「まず、最初から考えてみましょう、増宮さん。メクレンブルク公は、なぜ、ジュエリーボックスに隠すという形で、手紙を送られたと思いますか?」
「うーん……そこからしてよく分からないんですけど、……兄上が怖かった?」
「一つの理由としては、そうだと思いますよ」
お母様は微笑んだ。「明宮さんは、増宮さんのことを、とても大事に考えています。公にお会いになった時も、増宮さんが、“ドイツの城にも機会があれば行ってみたい”と言ったので、増宮さんがドイツに行ったまま、日本に帰って来なければ……と考えてしまって、公を睨んだのではないかしら」
「そ、それ、私としては社交辞令のつもりだったんです。大体、日本の城郭を見るので忙しいし、私だって、兄上の側を離れたくありません。侵襲的な治療も、兄上を政治的に助けることもできないですから」
私が顔を上げてお母様に力説すると、「わかっておりますよ」と言いながら、お母様がまた頭を撫でてくれた。
「ですが、私はもう一つ、理由があるのではないかと思うのです、増宮さん」
「もう一つ、ですか?」
「公ご自身に、増宮さんと、秘密を分かち合いたい、というお気持ちがあったのではないかしら」
「秘密を、分かち合う?」
私が首を傾げると、お母様は「ふふ」と小さな声で笑った。
「秘密を持ち合えば、持ち合った者の心の距離は、縮まりやすいですからね。増宮さんも、あなたの前世のことを知っていらっしゃる方々とは、打ち解けているではないですか。例え相手が、政府高官や著名な医学者であっても」
「確かにそうです」
私は頷いた。梨花会の面々なんて、地位も実力も凄い人たちばかりだし、医科分科会のメンバーも、一流の医学者たちが揃っている。確かに、いくら私が今生では内親王であると言っても、私の前世のことを相手が知っていなければ、今のように気軽に話したり、大切だと思ったりすることもなかっただろう。
「じゃ、じゃあ、お母様、フリードリヒ殿下は、私と……仲良くしたい、のでしょうか……?」
「そうだと私は思いますよ」
私はまた、顔を下に向けた。身体が熱い。風邪でも引いてしまったのだろうか。
「な、仲良く、って言っても、色々、種類がありますよね?そ、その、文通したい、とか、友達になりたい、とか、こ、恋人同士に、なりたい、とか……」
頭の中まで熱くなって、口を動かすのもやっとだ。そんなところに、
「増宮さんは、フリードリヒ殿下と、どういう御関係になりたいのですか?」
お母様は優しい声で、容赦なく質問をぶつけてきた。
「う、うーん……」
沸騰しそうな頭の中を、ゆっくりゆっくり深呼吸をして冷ましながら、私は口を開いた。
「もし、私が、内親王でなかったら、お父様も兄上も、守らなくていいなら、その……恋人になれたら、いいな、って、ちょっと、思いますけれど、私の今生の立場と、やりたいことを考えると、それは無理だな、って……。でも、どちらにしても、私、殿下に一回しか会ってないから、人となりを知る時間と、機会が、たくさん欲しいんです。私のありのままを、受け止められる人なのかどうか、今のままじゃ、全然、分からないから……」
ここまで話すのが限界だった。すっかり火照ってしまった身体を、後ろからお母様が抱き締めてくれた。
「ご、ごめんなさい、お母様……私、お母様より、背丈が大きくなったのに、こんな、小さい子みたいに……」
「身体がどう成長しようと、親にとって、子供は子供で変わりないのですよ」
お母様は、私を抱き締めたままこう言った。「私は嬉しいのです、増宮さん。あなたの傷が、少しずつ癒えているようですから」
「え……?」
「昔の増宮さんのままでしたら、殿方のことを考えて、自分は恋をしているのだろうか、相手は自分が恋するにふさわしい方なのだろうか、そう思い悩むことはなかったはずですよ。それは、増宮さんの心の傷が癒えてきて、少しずつ成長している証拠です」
「は、はぁ……」
うきうきしたお母様の声に、私は気圧されたように頷いた。
「そ、それで私、どうしたらいいでしょうか、お母様?」
行動の指針が見えず、私はこう尋ねたのだけれど、
「増宮さんは、どうなさりたいのですか?」
また同じような質問が返ってきてしまった。
「え、ええと……」
お母様の腕の中、私は再び、熱い思考の迷路に陥った。
「それで、お書きになったのですか?」
2月末のある日の夕方。私の居間に紅茶を飲みに来た私の有能な臣下は、紅茶を一口飲むと私に尋ねた。
「何を?」
「メクレンブルク公へのお返事ですよ」
大山さんの言葉に、私は思わず、手にしたカップを取り落としそうになった。カップの中身が、盛大にテーブルにぶちまけられる。
「大丈夫ですか、梨花さま?」
「あ、うん、服は濡れてないし、身体にも掛かってない……」
私はカップをソーサーに置き、紅茶がこぼれたテーブルの上を、布巾で慌てて拭きながら、
「……書いた」
と短く答えた。
「はい?」
「だから、返事は書いた!日本語で書いてから、お母様に添削して貰って、それを忠実にドイツ語に訳した!」
私は顔を真っ赤にしながら、大山さんに叫ぶように答えた。
「まぁ、それなら問題無いでしょう」
大山さんが微笑した。「最初の文面は、ご自分を卑下し過ぎていましたから」
「ちょっ……よ、読んだの?!」
「清書なさる前の下書きを」
(あう……)
私はガクリと頭を垂れた。流石大山さんだ。彼には、絶対に隠し事はできない。
「あのままでは、メクレンブルク公がご気分を害されるかと思い、ハラハラしておりましたが、皇后陛下が添削されているのであれば安心です。……最終的には、どのような文面にされたのですか?」
「あなたが読んだ添削前の文章と、大筋は変わらないわよ。言葉がかなり減っただけで……」
ため息をつくと、
「それは是非、梨花さまの口から全文をお聞きしたいものです」
私の非常に有能で経験豊富な臣下は、満面の笑みを顔に湛えながら言った。
「な、なによ、その罰ゲームは!嫌よ!ぜーったい嫌っ!」
唇を尖らすと、
「お手紙を拝読いたしました。貴方が我が国で過ごされたことを大切に思っておられることを知り、とても嬉しく思います……」
大山さんの口から、ここ数日、私が真剣に向き合って書き上げ、お母様に添削してもらった文章が飛び出た。
「ちょっ……やっぱり知ってるんじゃないの!そこ、添削前は“さして美しくもない私と会ったことを大切に思っておられることを知り、とても驚いております”だったんだから!」
私は大山さんに飛びついた。
「どこに隠してるのよ、文面を!出して!」
私が大山さんの軍服のポケットに向かって伸ばした手は、指先が布地に触れるより早く、手首を掴まれてしまった。
「動きが丸わかりですよ、梨花さま。これではまだまだ、毛利君には勝てないでしょう」
「いや、先月、いいところまで攻め込めたのよ?!っていうか、話を逸らすな!文面を出しなさい!」
「ほう。……ということは、俺の口を動かす他にありませんな」
突然、大山さんの口調が変わった。
「へ?」
「……頭の中にありますから、文面は」
そう言って大山さんはニヤリと笑った。
「……!」
私は目を見開いた。頭の中にある文面を、口を動かして出すということは……。
「待った。前言を撤回する。出さなくていい」
私は真剣な口調で、我が有能な臣下にこう告げた。
しかし、
「さて、一度命じられたことゆえ、やはり従わなければなりますまい」
彼は非常に楽しそうな声で言い、私に微笑みを向けるばかりだ。
「い、いや、だから、撤回すると……」
「御学問所で出しますか?」
「ちょ……っ?!」
「それとも、信吾どんの家で出しますか?」
「い、嫌っ、どっちもダメ!お、大山さんの馬鹿っ!」
激しく動揺した余り、思わず名古屋弁で叫んでしまった私の頭を、
「ふふ、冗談ですよ。しかし、本当にお可愛らしいことで……」
我が有能な臣下は、優しくて暖かい瞳で私の目を覗き込みながらそっと撫でたので、私は口を閉じざるを得なかったのだった。
△△△
お手紙を拝読いたしました。貴方が我が国で過ごされたことを大切に思っておられることを知り、とても嬉しく思います。
貴方のご推測通り、私は昨年の春に、名古屋、二条、大阪と、我が国でも広大で有名な城郭を巡ることができました。その他にも伏見、淀、忍といった城の跡も巡りました。名古屋や忍は、既に何度か訪れていますが、訪れる度に新しい発見があり飽きません。
私は昨年の秋から女学校に上がりました。法律が改正されれば、高等学校に進学して医師免許を得ようと考えていますが、現在我が国では女子の高等学校への進学が認められていないので、医術開業試験を受けて医師になるか、女子が医学教育を受けられる国に留学して医師になることになるでしょう。進学まではまだ時間がありますから、動向を見守ろうと思います。
さて、この手紙を、どうやって貴方の手元に届けるか考えたのですが、私には、兄を欺いて手紙を出す手段が、いくら考えても見つけられませんでした。そこで、母に協力を依頼しました。もし、貴方がまた私にお手紙をくださるならば、母に宛てて出していただければ、私の手元に届くように致します。
今、日本では冬の最中です。冷たい海風で風邪を召されませんように。貴方のご健康とご多幸をお祈り致します。
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