前
「ダキア王国を討伐することにする!」
戦争が始まる。
理由は隣国のボイムラー公爵家のレイシア嬢が国外追放処分になり落ち延びて来たのだ。
隣国の王太子の婚約者だったが、レイシア嬢の腹違いの妹を寵愛するようになって遂に婚約破棄、国外追放処分になったのだ。
良くある話だ。
「相手は馬鹿王子ですぞ。簡単だ」
「ダキア国王は病弱で摂政についたばかり」
「腹違いの妹もまるで酌婦と評判です」
「「「年内には王都攻略可能でしょう」」」
廷臣達は楽観的だな。
だが、当のレイシア嬢は・・・
「陛下、お待ち下さい。私のために兵を挙げては民が貧窮しますわ。貴国の温情感謝いたしております。このままこの国に滞在させて頂くだけで満足しております」
反対を表明した。レイシア嬢は優しいな。
「ほお、さすが、近隣諸国に賢妃になると名を轟かせたレイシア嬢よ。だが、全て任せなさい。ダキア王国の女王にして差し上げよう。何、ダキア王国の民を必要以上に戦火に巻き込まないと約束しよう」
「陛下、困窮するのはノースリア王国の民でございます・・」
「な、何!」
父上は眉毛を上げた。まるで、我が王国が苦戦するような物言い。その真意、馬鹿王子は馬鹿故に強いと言う事か?
水を差されたようだ。
私も意見しようと手をあげたら、兄上に先を越された。
「父上、レイシア嬢は慈悲の令嬢と名高いです。きっと万が一の可能性、我が王国が不覚をとって攻められることを心配されているのでしょう。
私に任せて下さい。常備軍だけでダキア王都を攻略し城下の盟約を結ばせます。私に任せて頂ければ万が一もございません」
「ほお、さすが軍略で一番の成績のオリビスよ。頼もしいな。しかし、我が王国には王子が三人いる。
王太子のディビスは動けないとして、もう一人いたか?」
俺だ。催促されている。手をあげて意見をした。
「陛下、私は反対です。そもそも落とし所が王都攻略は難易度が高いです。兵站の問題があります。
そもそも令嬢一人のために国軍を動かす事は反対です。話合いで解決しましょう」
「「「「はあ?」」」」
王宮内に呆れたため息が響いた。
「何とレオポルド殿下は臆病なことよ・・・」
「心配王子とは言い当て妙だな」
「さすがにそれは無慈悲だ」
「国益を求めてなら、国家総動員をして全軍でダキア王国を攻略するべきです」
ただ、可哀想なだけで戦争を起すのは如何なものか?と言いたかった。
「もうよい。オリビスよ。軍を率いてダキア王国を攻略せよ。レイシア嬢はダキア王室の血を引いている。女王に推戴し王配になれ」
「はい!父上喜んで」
「レイシア嬢よ。未来の婚約者の活躍を王宮で聞くが良い」
「陛下がお決めになったのなら是非もありません。畏まりましたわ」
レイシア嬢の意見は無視か。
これで俺は更に立場が弱くなった。
俺はレイシア嬢に話を聞きに行った。
既にオリビスの取り巻き達が手配をして厳重な警備が施されている。
「・・・レオパルド殿下が何用でレイシア様にお会いになるので?」
「話を聞こうと思って」
「オリビス殿下の婚約者候補ですよ」
「あの、兄上には他に婚約者候補いたよね」
「ええ、オリビス殿下が負ける事はあり得ませんので断りました」
もう勝ったで動いている。会うのは難しいか?
しかし。
「お兄様はお茶会でいつも令嬢たちから不評だから、レイシア様からご教授受けたいのよ」
「ニーナ王女殿下」
妹に助けられた。
妹とのお茶会に俺も交ぜてもらって令嬢との会話術をならう名目で会うことになった。
「お兄様はいつも不作にならないかとかそんな話ばかりしているからまだ婚約者いないのです」
「まあ、大事な話ですわ」
お茶を飲む前にお聞きした。
「レイシア嬢、隣国のダキア王太子はどのような方でしたか?」
「お兄様、不作法ですわ」
過去の男をこと聞くのは不作法かもしれないが、心配で仕方ない。
「いえ、ニーナ様、良いのです・・・・殿下は馬鹿です。悋気が強いくせに自分は他の令嬢に現を抜かして、私の腹違いの妹と恋に落ちました。いつも政務はまる投げ。私がチェックをしていましたわ」
「なるほど、怠け者ですね」
「しかし、たった一つ優れた点がありますわ・・・それは・・」
「それは・・」
「一端、部下に仕事を任せたら口出しをしないのです。ええ、それ故にゲルド殿下を支持する者が少なからずおりましたわ。
私は進捗を管理しますから私の方が疎まれましたの。口うるさい女だと・・・グスン」
「なるほど・・・はっ!もしかして」
「ええ、馬鹿な怠け者ですわ」
「これは、手強い・・・」
馬鹿な働き者だったら引っかき回して敵の中の味方になるが、馬鹿な怠け者で部下に恵まれたら・・・組織は攻撃されたスライムのように自己修復するだろう。
心配で仕方ない。兄上の勝利を願わざるを得なかった。
☆☆☆ダキア王都王宮庭園
「ゲルド殿下!ご報告、ノースリア王国が国境侵犯しました。その規模数万です!」
「ああ?何でだよ」
「それがレイシア嬢を正当な地位に戻せとか・・・言いにくいのですが・・・」
「言えよ」
「馬鹿王子討伐・・・を旗頭にしております」
【な、何だと!】
「ヒィ、私が申したのではありません」
「い、如何いたしましょうか?」
「阿呆、やっつけろよ!」
「「御意!」」
「我はこれからデイジーと王都で炊き出しがあるからな。支度を急がせろ」
「畏まりました・・・」
☆☆☆ダキア王宮内会議室
ここにはゲルド側近が集まっていた。学生時代からの側近候補の繰り上げである。
古老達を集めて会議などしない。
ゲルド以前なら会議は数日かかることもあった。
まず。宰相の息子、トーマスにお伺いが立てられた。
殿下の言葉、『やっつけろよ』は全権委任と受け取られた。これは彼らの中では暗黙の了解だった。
「トーマス様、摂政殿下は迎撃命令を下されました。如何されますか?」
「辺境伯殿に増援と物資を送れ。規模が数万ならば王都までいけまい。で、騎士団長のご子息ウェーバー殿は如何する?行くか?」
「まさか、軍閥が違う。数万なら辺境伯の親父が負けても王都東部までがせいぜいじゃねえ?そこで防衛線を引くよ。で、オスカーはどうする?」
「そうさね。国庫に備えて国債を発行するか。防衛戦だから新領地は望めないから商人から投資はないと思った方がいいか。やりくりして戦費を調達するよ。で、王宮魔道師団長の息子としてはどうする?」
「さあな。ウェーバーと同じで東部での防衛線に参加するよ。でも辺境伯殿、嫌がらないかな。負ける事前提ぽっくない?」
「いいや。あの親父は狡猾だ。面倒な敵は防衛線に追いやって戦うだろう?逆に何にもしなかったら、怒らないか?」
「「「言えてる!」」」
「しかしな・・・」
「殿下は俺たちがいなければ本当にダメだな」
「「「違いない!」」」
歪んでいるが確かにゲルド殿下に求心力があり組織として機能していた。
会議は一時間かからなかった。
これは国家として迷いが寸分もないことの現れであった。
☆☆☆ノースリア王国
数ヶ月後、ノースリア王宮に凶報が持たされた。
「陛下・・・大変でございます!オリビス殿下・・・敗・・いえ、転進して王国に帰還しました」
「ほお、凱旋の準備をしなければな。しかし、早いな」
「・・・敗北でございます」
「はあ?卿は間違えていないか?オリビスは古今東西の戦術を空で言える秀才ぞ。それに先月の戦果報告では勝っていたではないか?」
「帰って来た兵は数千人でございます。その目でお確かめ下さい」
敗北は事実であった。
陛下はまだ信じられなかった。
「相手は馬鹿王子だぞ!」
・・・信じられない。こちらは正義の軍だ。民は歓喜の声で迎え。諸候も歓迎するのではないか?
それが定石だ。
「オリビスよ!何故、負けた!」
「それが、ダキアの辺境伯は逃げてばかり・・・気がついていたら包囲されました」
「それなら軍を分け王都に向かえば良かったではないか?」
「それが、別働隊を送ろうにも中央部に入る前に軍が備えておりました・・・」
「馬鹿王子だぞ!ええい。謹慎だ!」
オリビスは白馬に乗った王子様になれなかった。陛下は考えた。
・・・そうだ。国家総動員だ。魔王軍が来た時の手はずに準じれば勝てるかも知れない。
もう、引くに引けない。
「レポルドを呼べ!」
国王はレイシアの助言、戦争になれば、ノースリア王国の民が貧窮するとの助言があたっていることをすっかり忘れていた。
かくして、第二次ダキア王国討伐は第三王子レオポルドに委ねられることになった。




